PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days   作:花極四季

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せめて区切りの良いところまではこの勢いを続けたい。
ペルソナ3のクロス設定関係で説明しないといけないことが多すぎる。
そんなんだからエタるんだよ反省しろ。


3話

 

 あれからの日々は、淡々としながらも目まぐるしいものであった。

 指示された通り、リハビリや勉強で日々は過ぎていくことになる。

 基本的には勉強のために部屋にこもり、折を見てトレーニングルームで運動。

 リハビリの介助役として選ばれたのはあの鉄面皮のナース、氷室セナだった。

 流石に二度目の出会いでは挨拶を交わしたが、相変わらず事務的に対応され、トレーニングルームは終始静かなものであった。

 とはいえ、記憶もなければ常識の異なる環境で生きた相手と談笑できるわけもなし、妙に力強い視線に晒されるもどかしさを除けばむしろ気楽な時間でさえあった。

 

 勉強に関しては、幅広い難易度のテストを提供されたのは面食らったが、結果はそこそこだった。

 リン曰く、ミレニアム学園の入学テストらしく、知識レベルを測る名目のものなのでかなり甘めに作られているらしい。

 ……自分の常識では、絶対に嘘だと言いたくなる難易度だった気がしたが、具体例が思い出せなかったので、結局それは胸の内に留めるに終わった。

 それよりも、ここキヴォトスという学園都市について知る度に、自分の中の常識との乖離っぷりに面食らうばかりであった。

 

 一言でいえば、どんな無法地帯だ、と。

 コンビニでは当たり前に銃が販売されており、キヴォトスの学生に限らず武装している者が跳梁跋扈。

 そして、何かにつけて銃撃戦による諍い、酷いときはテロ行為にまで発展するなんてこともあるらしく、そして何故か当事者である生徒は実弾を受けても生半可なことでは傷つかない肉体を持っているとか。

 他にもロボットや獣人が生活しているという常識外れなことも書かれていたが、正直先の情報が規格外過ぎて割とどうでもいいレベルに落ち着いている。

 とはいえ、自分の中の常識が音を立てて崩れるよりも先に、ありえないと思考停止しそうなぐらい自分の知る常識と乖離しているのは事実で。

 幸か不幸か、そんな光景を目の当たりにするような事態には直面していないので真偽は確定していないが、それこそ簡単にバレるような嘘を吐く理由がないので、つまりそういうことなのだろう。

 ただ、その規格外が当て嵌まるのはあくまで生徒のみであり、ロボットや獣人は程度の差こそあれど普通に怪我をするらしい。

 彼女たちと明確に異なる点があるとすれば、やはりあの光輪――ヘイローこそが、彼女たちを人外足らしめている要因であると考えられる。

 

 一見して、ヘイロー以外は性別以外自分と大きく変化のない外見。

 寝起きで会った人畜無害そうな少女も、自分では到底叶わない強さを持っていると言われても、いまいち実感が沸かない。

 そう思わせるのは、その規格外に不釣り合いな普通な反応にある。

 肉体は超人でありながら、精神は超然としていない。

 それはきっと、彼女たちが社会に一般人として順応しているからこそなのだろう。

 明らかに隔絶した存在であるにも関わらず、崇められることもなければ排斥されることもなく、当然のように日常に溶け込んでいる。

 しかも、人畜無害に生きているならいざ知らず、度々騒動を巻き起こす地盤ができており、その原因の大半が彼女たちにあるはずなのに、だ。

 一歩間違えれば選民思想教育で都合の良い兵隊が作られていても不思議ではない。

 

 歪な社会構造ではある。しかし、これがキヴォトスにとっての普通なのだろう。理解はできないが、そういうものだと納得するしかない。

 少なくとも、なんの因果でここに自分がいるのかは知らないが、今後ここで生きていくならば、無理やりにでも納得しないと身を守ることさえままならない。

 正直、まともに外を歩けるかどうかさえ怪しいが、なら引き籠るのかと言われればそれも違う。

 ヘイロー持ち以外も社会で生活できているのなら、きっとどうにかなるだろう。

 

 なってくれないなら――その時は死ぬだけだ。

 

「結城さん、起きていますか?」

 

「起きてるよ」

 

 ここ数日で聞きなれた七神リンの声が、ノックの音に遅れて聞こえてくる。

 いつもより早いモーニングコールに、日常の変化を予感させる。

 普段から時間に淀みなく行動する彼女が、今日はそうではない。果たして、安易に偶然と片付けるものではないと、そう思わせる雰囲気が部屋の外から感じられたのだ。

ともあれ、部屋の外で待機しているリンを出迎えるべくドアを開く。

 

「おはようございます。早速ですが、今日の10時頃、生徒会会議室に集合となります。例の件でスケジュールの都合が合いましたので」

 

「随分と急だね」

 

「以前申し上げた通り、皆が多忙なもので……。これでも全員集合とはいかず片手落ちではありますが、それこそ全員集まる機会を待っていたらいつまで経っても始まりませんので、こればかりは妥協が最善かと」

 

「こっちはなんでもいいよ。それで、他には?」

 

「そうですね……。少々の心構えをしていただければ、と」

 

「心構え?」 

 

「……今回の会合は、貴方という存在の情報を共有するためのものであると同時に、貴方の処遇を決める場でもあります。理不尽と思われますが、数日間貴方を監視した結果、我々としても貴方を測りかねているのが現状です」

 

「それはこっちも同じだけどね」

 

「はい。というわけで、相互理解を深めると同時に、貴方には敢えて説明していなかった、数年前からキヴォトスを蝕んでいるある現象について話すことになります。率直に申し上げますと、その現象と貴方の存在が何らかの関係があると踏んでいるのです。だからこそ、貴方を監視し警戒していた」

 

「そういうことだったんだ」

 

「私自身の見解ではありますが、数日間の接点ではありますが、貴方に悪意も隔意もないことは理解しました。記憶喪失というのも嘘ではないのでしょう。しかし、そうであると私が説明したところで、確実に諸手を挙げて受け入れられると断言はできません。むしろ謂れのない悪意で対応される可能性もあるでしょう、そのための心構えです」

 

「了解。こっちは嘘吐く理由もないし、まぁなんとかなると思うよ」

 

「ありがとうございます。30分前になりましたら案内を送りますので、それまでは待機ということで」

 

 この会話を最後にリンと別れを告げると、途端に手持ち無沙汰になる。

 一応娯楽用品として渡されたゲームはあるけど、ゲーム開発部という部活が作ったゲームらしく実質テスター扱いらしく、内容は……娯楽というよりもむしろ苦行のそれだ。

 とはいえ、貴重な暇つぶしの手段に変わりはない、が――あの難易度と理不尽さは一朝一夕でクリア出来るものでもないし、半端な気持ちでやると精神がすり減るだけに終わる。

 それこそ、肉体精神ともに変調をきたすことを前提で臨む覚悟が必要になる。

 だが、それを乗り越えていけば自然と【勇気】が養われることだろう。進んでやりたいとはあまり思えないが。

 そうなると何もせずに時間を潰すぐらいしかないのだが、せっかくなので軽く疑問を整理しようと思う。

 

 先のリンとの会話で気になった点は、やはりキヴォトスで起こっている現象と自分との因果関係を疑っているという部分。

 記憶喪失でキヴォトスにとっては異質の存在である存在を目にすれば、警戒するしないに関わらず注目の的になるのは確かで、その段階で因果関係に結び付けるには些か暴論に過ぎるだろう。

 だが、そう思わせる何か(・・)を自分の与り知らぬところで彼女たちが認識していたとしたら?

 把握しているのは、こちらの個人情報が何故か【I.F.I.C.】とやらの所属として登録されているという点。

 秘密裡な組織で立ち上げて間もない組織でありながら、そのデータベースに知らない内に見知らぬ人物のデータが登録されている。

 しかもハッキングの形跡もないとなれば、疑われて当然どころか、内通者の疑いの種として相応の扱いをされていても不思議ではなかった。

 しかし結果として、不自由さこそあれども不便さもなければ不条理な扱いもされていない。

 生徒会長権限で穏健な流れに運んだのかもしれないが、キヴォトスという広大な都市全体で起こっている現象との関りを疑われているならば、彼女ひとりの権限で強行すれば角が立ちかねない。ましてや、発足して間もない【I.F.I.C.】の運営に支障をきたすような真似は避けたいだろう。

 ということは、良くて五分五分の割合で彼女の意見に賛同する人物がいるか、結城理という爆弾を抱えるリスクよりもリターンが勝るという何かしらの根拠を得ているからか、あるいは両方か。

 なんにせよ自分のやるべきことは、その残りの半分を納得させることであるのだが、しかしこちらは記憶喪失。最適な回答がわからない以上、どうしても出たとこ勝負になってしまう。

 不安がないと言えば噓になるが、身構えていたところでどうにかなる問題でもない。

 さっきも言った通り、なんとかなるという展開に期待するのが関の山だろう。

 

 そうして物思いに耽っているうち、案内役と思わしき人物の来訪を告げるノック音が響く。

 

「あ、あの!連邦生徒会長さんからの指示で案内に来ました!」

 

「了解、今行くから待ってて」

 

 ふと、その声が聞き覚えのあるものだと思い出す。

 ドア越しで多少くぐもってはいるが、その溌溂とした声色はこれまで出会った内の中で唯一無二であり、それ故に該当者も自然と限られる。

 答え合わせも兼ねての来訪者の出迎えは、果たして予想通りの光景をもたらした。

 

「君は――」

 

「あはは……先日はどうも……」

 

 そう気まずそうに笑みをこぼすベージュ髪の少女。

 その理由はやはり、色々あったとはいえ痴態を見せた末に名乗ることもせず、結局今まで会えず仕舞いだったからだろうか。

 連続した記憶の中で、初めて出会った人物でありながら、互いに名前を知らない関係。

 いや、相手は知っている可能性はあるが、何にせよ不都合であることに変わりはない。

 

「俺は結城理、君は?」

 

「え――あっ、私は阿慈谷ヒフミといいます!」

 

「よろしく、ヒフミ」

 

「よろしくお願いします。思えば、名乗ることもせずなんて無礼なことを……」

 

「別にその程度、気にする必要はないよ。それより、案内はいいの?」

 

「そ、そうでした。案内しますね!」

 

 軽く跳ねるように踵を返したヒフミの後に続く形で歩き出す。

 ヒフミの背中を眺める形になり、そうして目に付いたのは、何かのキャラクターだろうか。長い舌を垂らしたずんぐりむっくりとした白鳥をデフォルメしたようなリュックサックだった。

 個性的なキャラクターだが、キヴォトスではこれが流行っているのだろうか。

 

「それ、好きなの?」

 

「それって、何がです?」

 

「リュックサックのキャラクター」

 

 そう疑問を投げかけた瞬間、ヒフミは足を止めたかと思うと目も止まらぬ速さで振り返り、こちらに詰め寄ってくる。

 どこか消極的で弱々しい雰囲気とは一転、目を見開いて興奮する様子に軽く気圧される。

 

「ペロロ様をご存じでないですか!?」

 

「うん。俺、記憶喪失だから」

 

 記憶がある以前に知っていたかはともかく、事実を盾にすれば角は立たないはず。

 この興奮具合から察するに、ペロロ様というあのキャラクターに深い思い入れがあるのは間違いない。

 この手の好意を語る相手に、何も知らない癖に下手に感想を言うのは逆に地雷を踏みかねないと直感が告げていた。

 デリケートな話題だったからだろうか。冷静さを取り戻したヒフミの雰囲気も元に戻り、一歩後退する。

 

「ご、ごめんなさい。つい興奮してしまって……」

 

「いいよ、気にしてないから」

 

「え、えっと、あの……そ、そう!忘れてしまったということは、また新しい出会いや経験ができるってことです!私はペロロ様が大好きですが、ペロロ様に出逢った瞬間の筆舌に尽くしがたい感情は二度と味わえるものではないですから、あの、その……!」

 

 こちらを慰めようとしているのだろうか、全身を使って伝えたいことを表現しようとしているがどうにもから回っている、そんな印象を受ける。

 やはり、彼女は優しい人間なのだろう。僅かな付き合いしかないが、そう思わせるには十分すぎるやり取りだった。

 

「それより、行かなくていいの?」

 

「あっ、そうでした!」

 

 ヒフミに指摘すると、慌てながら気持ち早めな足取りで再び歩き出す。

 丁度良い話題逸らしのネタがあったのが幸いした。あのままだといつまでも気に病みそうだったし、こちらが否定しても勝手に苦しまれるのは非常に面倒だったから助かった。

 一転して静かになった道中、規則的に鳴る靴音ばかりが響くのみで彼我の距離感も些か遠い。

 あまり健全とは言い難い空気を纏わせながら、遂に目的の場所に辿り着く。

 今までの部屋とは違う観音開きのドアの造りからも、この部屋が特別なものであることを告げている。

 ヒフミがドアの前に立ち、数度の深呼吸をする。意を決したようにノックをする。

 

「阿慈谷ヒフミです」

 

「どうぞ、お入りください」

 

 ヒフミの声に返すようにリンの声が聞こえる。

 気のせいか、それを切っ掛けに部屋の中から圧力のようなものが発せられる。

 ヒフミもそれに中てられたのか、プッシュプルに手をかけたが開く様子がない。

 

「失礼します」

 

「あ、あわわっ!!」

 

 仕方ないので、独断で自分が開くことにした。

 必然、プッシュプルを握っていたヒフミはそれに引っ張られる形で一緒に部屋に入ることになる。

 

「な――」

 

 ドアを開いた先では、等しくヘイローを冠した十人ほどの人物が中心が空洞となっている横長のテーブルに座って待ち構えていた。

 しかし、ヒフミが先陣を切ると予想していたのだろう、問題の人物が我先に入ってきたことが予想外だったらしく、中にいた大半の人物が面食らった様子でこちらを観察している。

 

「キキッーーなるほど、随分と豪胆な気質のようだ。いいぞ、そうでなくてはな」

 

 口火を切ったのは、軍将校が被るような黒を基調とした鍔付きの帽子にマントを羽織ったロングアッシュグレーの少女だった。

 

「ヒフミさん、案内ご苦労さまです。貴方の席は私の隣です」

 

 次に声を出したのは、対して白を基調とした制服に白い巨大な白翼を生やしたロングアッシュブロンドの少女。

 先の軍服の少女の歓迎する様子とは逆に、彼女からは密かにこちらを睨みつける視線が強く感じられる。

 思えば、ヒフミの着ている制服と意匠が似ている気がする。ということは、同じ学校の生徒なのかもしれない。

 付け加えるなら、ヒフミを案内役に派遣したのは彼女の声によるものだろうという当たりもついた。

 如何にも警戒していますという態度を取られれば、ヒフミを監視役に置いたと宣言しているようなもの。

 すなわち、彼女が説得する相手の一人であるということだ。

 

「ナギサ様、ですが私はただの案内人で……」

 

「遠慮する必要はありませんよ。確かに代表として私が選ばれはしましたが、当事者であるヒフミさんも関係者――いえ、重要参考人なのです。接点のない私からでは出せない意見もあるでしょう。ならば貴方もまたこの場に居るに相応しい、私はそう考えて席を設けたまでです」

 

 そう柔和な笑みとともにヒフミを諭す、ナギサと呼ばれた白翼の少女。

 ヒフミは一瞬こちらに視線を向け、軽く会釈をしてナギサに指定された椅子へと遠慮しがちに向かう。

 その動きを視線でなぞると、見知った顔が視界に入る。氷室セナだった。

 リハビリの度に顔を合わせはしたが、寡黙な性分なのか必要最低限の会話しかせず、彼女の名前も一度自己紹介したきりでこちらから言葉にした記憶はない。

 接触した時間は一番長いが心の距離感は最も遠い、そんな関係。

 

 セナと視線が交差する。

 彼女は軽く会釈をし、すぐに目線をそらす。

 相変わらずな態度だが、同時に安心感がある。

 恐らく彼女はこの場において敵ではない、と思う。

 態度こそ淡泊で淡々としたものだが、悪感情を抱かれている感じはしない。

 どちらかと言えば仕事熱心なだけで中立だと思う。

 

「さて、そろそろよろしいでしょうか」

 

 巨大なプロジェクターを背景に神妙な面持ちで座るリンの一声で、場が静まり返り空気が引き締まる。

 

「皆さん、本日は多忙な中お集まり頂きありがとうございます。事前にお伝えしていた通り、彼――結城理さんに関する件で話し合いの場を設けさせていただきました。結城さん、私の近くへ」

 

 リンの指示に従い歩き出すと、一斉に視線がこちらへと集中する。

 まさに針の筵。しかし、そうなることはわかりきっていたことだ。

 

「――ご存じの通り、ここ数年前からキヴォトスを蝕んでいる奇病――我々が【無気力症】と呼んでいる症状ですが、近ごろ発症数の傾向が高まりつつあります」

 

 リンの説明が始まると共に、その視線が一瞬こちらに向けられ、軽く頷く。

 恐らくだが、このタイミングで例の問題を伝えるつもりなのだろう。

 恐らくはこちらが記憶喪失かどうかを疑った誰かの提案で、事前に伝えないことでこちらの発言から整合性を整える機会を奪い、ボロが出ないかを誘っているのだろう。

 強かというか賢しいというか、一筋縄ではいかない相手なのは間違いない。

 

「それが起因しているかは不明ですが、今度は夜中0時に特定の人間のみが干渉できる時空間の出現を確認しました。我々はその隔絶された世界を【影時間】と呼称し、この事象の解析と解決を目的とした組織【I.F.I.C】を結成しました」

 

「影、時間……」

 

 瞬間、脳裏によぎる既視感。

 ノイズのようにちらつく、歪な形状の巨大な塔を見上げる光景。

 天高く伸びる塔は文字通り雲間を裂き、露になった空は薄緑色で満たされており、その巨大な塔さえも見下ろす満月。

 見た目はただの満月である筈なのに、決定的に違うと本能が告げている。

 魅入られてはならない魔性の具現。その先に待つのは破滅であると必死に警鐘を鳴らす。

 ――そんな恐ろしい光景のはずなのに、自分は恐怖ではなく望郷の念のようなものに駆られていることに気づいてしまう。

 

「I.F.I.C.は影時間に生息する怪物――【シャドウ】に立ち向かう特殊部隊であるものの、影時間において例外を除き銃火器を始めとした機械類は機能停止状態となり、単純な機構の近接武器による戦闘を余儀なくされています。それ以上に問題になったのは、影時間内におけるヘイローの消失する現象。それに起因するであろう身体性能の著しい低下という現象です」

 

 そこまでリンが言い切ると、おもむろにセナが挙手をする。

 

「発言の許可を」

 

「どうぞ」

 

 瀟洒な佇まいでセナは椅子から立ち上がると、自分以外の全員に用意されていたデジタルタブレット操作し、説明を始める。

 すると、プロジェクターの方に彼女が送信したであろう複数のデータが表示される。

 

「ゲヘナ学園所属、救急医学部の氷室セナです。タブレットに送った資料ですが、私の方で結城理さんの身体能力を測定したデータと、影時間における主戦メンバーたちの身体能力のデータを比較したものです」

 

 各々がタブレットの内容に噛り付く中、リンの手招きで誘われると彼女のタブレットを覗く格好となる。

 記載されているグラフを漠然と眺めると、個人差はあれど自分のデータとそれほど差があるようには感じられず、それどころか贔屓目抜きに単純なスペックだけ言えば一番上まであるように見えた。

 

「御覧の通り、この中で身体能力が最も高いのは結城さんでした。無論、技術面を加味すれば幾らでも覆すことのできる程度の差ではありますが、単純な性差による優劣を語るレベルにまで能力が低下しているということが、如何に異常かつ危機的問題であるかが再認識できたかと思います」

 

 プロジェクターの画面が移り変わる。

 そこに映るのは四人の人物。その内の三人はこの場にも居る顔ぶれだった。

 

「彼と身体能力で比肩するのは、砂狼シロコ、空崎ヒナ、美甘ネル、剣先ツルギの四名ですね。共通するのは影時間外でも総合的に優れた戦闘能力を有しいる点であり、鑑みるに影時間による弱体化は一律のものではなく、経験に付随した筋力等によって個人差は出ていると解釈できます。以上です」

 

 名指しされた四名の顔写真を一瞥し、現実の三人に視線を移す。

 砂狼シロコと呼ばれた獣耳を生やしたアッシュセミロングヘア―の少女と目が合うと、無表情なまま胸元で小さく手を振ってくる。

 空埼ヒナと呼ばれた禍々しいヘイローを冠したロングホワイトウェーブの少女は、真剣な表情でタブレットを観察している。

 美甘ネルと呼ばれたショートのオレンジへアーを片結びし、メイド服の上にスカジャンを羽織るという奇抜な格好をした少女は、タブレットをテーブルに投げ出し、退屈そうに椅子に背を預けている。

 そして、唯一不在である剣先ツルギだが、写真からは血で浸したようなヘイローに鋭い目つきぐらいしか読み取れる情報はない。しかし、名指しで指摘される程度には戦闘力が高いようで、気性も外見相応なものであると思っていいだろう。

 

「ありがとうございます。我々の戦力レベルが把握できたところで、本題になります。この状況を打破するための一手になりうる事象を生み出した結城理さんの処遇について、みなさんと意見を交わしたいと思います」

 

 リンがポケットから取り出したコントローラーのスイッチを押すと、部屋中心の天井の開いた個所から降りてきたドローンが荷物を載せて彼女の下へと近づく。

 荷物の正体は、スーツケース大のアタッシュケースだった。

 大の大人でも持ち上げるのに難儀するであろうそれを、反動を使うことすらなく片手で持ち上げる姿を見て、身体能力の差の片鱗を見せつけられることになる。

 何重にも掛けられたロックを解除し開いた中には――音楽プレーヤー一式、一丁の拳銃、一台のデジタルタブレットが整列されて保管されていた。

 

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