PERSONA3×Blue Archive~Re:Tales Of Our Youth Days 作:花極四季
アロナーーーーッッッッッッ!!!!
作品の書き貯め無ぇぞ!!!!!!!!!
しかも説明回なのに今までで一番文字数多いぞ!!!!!!!!
でも今回で説明回はひとまず終わりだぞアロナーーーーッッッッッッ!!!!
会議室から自室へと戻り、ベッドに腰掛けて一息つく。
無機質で殺風景な光景も今や慣れたもので、僅かばかりにも愛着が湧く程度にはこの部屋とも付き合いが出てきた。
しかし、このまま自分はここに住み続けるのだろうか。
部屋自体に不満はないが、隔離目的で選ばれた立地だからだろうか。他の施設とのアクセスが不便で仕方ない。
今はトレーニングルームぐらいしか往復していないが、これが日常生活を送ることになれば、心にゆとりある生活は望めないだろう。
などと皮算用を弾いているが、別に無罪放免になったわけではない。
それを証明するために、今夜影時間とやらに向かうのだから。
ふと、ベッドの上に投げ出されたタブレットに意識が向く。
手に取り画面を眺めるも、黒に反射した自分の顔が写るのみ。
今でこそこの顔が自分であると受け入れたが、記憶喪失というのはそんな当たり前すら信用できないのだ。
自分を定義する要素が欠けているというのは、言葉以上の重みがある。
何せ、自分で自分を信用できない。
自分を定義する記憶が欠けているということは、残りの記憶している情報は正しいものなのか、それさえ信用できなくなるということでもある。
人生とは、連綿と続き積み重なった記憶の集合体であり、決して継ぎ接ぎだったり一足飛びで作られることはない。
繋がっていてこそ価値が生まれるのであって、少しでも欠落すれば価値を保証する要素も失われてしまう。
形が同じでも絵柄の異なるピースが嵌め込まれたパズルは、決して完成したとはいえない。
それどころか異なるピースは次第に違和感を生み、いつしかどちらのピースが本来正しい絵柄であったかを疑うようになる。
すべての言葉の最後が「らしい」「かもしれない」で終わるようになり、曖昧な認識はいずれ現実すら歪めるようになる。
それでも、自分の記憶を担保する第三者や記憶媒体などがあれば少し違ってくる。
自分が信用できなくても、証拠があれば納得することはできる。
しかし、自分にはそのどちらも無い。キヴォトスにおいて、自分は文字通りの天涯孤独の身なのだ。
もし記憶が戻らない場合の行きつく先は、精神崩壊か思考停止による妥協の人生か。何にせよまともなものではない。
「――もしかしたら」
記憶喪失以前から手元にあったらしいタブレット。
もしかしたら、この中に自分の記憶を補強する何かがあるかもしれない。
しかし、ウタハ曰く何をしても機動しないという。
キヴォトスの技術レベルが高いことを踏まえた上で【I.F.I.C】の関係者として抜擢されたとなれば、彼女自身の機械技術や知識も想像に難くない。
そんな彼女が言うのだから動かないことに嘘はないのだろう。
では何故自分はそんなものを所有していたのか?
着の身着のままキヴォトスに訪れ、数少ない所有物のひとつが何の価値もないガラクタとは到底思えない。
何かあるはずだ。これを起動するための、特別な手段が。
それはきっと、自分しか知らない手段で。だから、思い出さなくてならない。
瞬間、脳裏をよぎる映像。
透き通るような薄明を背景に薄く笑みを浮かべる少女の姿が、泡沫の如く去来する。
その痛々しい笑顔を見て、どうしようもなく胸が締めつけられる。
罪人のような扱いを受けても心が凪いでいた自分が、自罰的な知らない少女の笑みを見ただけで心乱されている。
あれが自分の記憶の残滓であると確信できるほどに鮮烈で鮮明な情景を前にし、新たに浮かび上がる文字列。
それが意味することを何を思うでもなく理解し、気付けばそれを呟いていた。
「――『メメント・モリ カルペ・ディエム(死は救済に非ず 故に今際まで生を謳歌せよ)』」
果たしてそれは正解だったのか。音声認識の如くタブレットが反応を示し、画面が光り出す。
世界が白むほどの極光がタブレットから発せられ、反射的に目を瞑る。
数秒の間を置き、光で目が眩まないように慎重に開く。
「――――」
目の前に広がる光景に言葉を失う。
無機質な白で覆われた閉鎖的な空間から一転、所々が崩壊した懐古的な雰囲気の教室の中心に自分は立っていた。
崩れた壁の先には澄み渡る空と水平線、その手前側には不規則かつ乱雑に積みあがった勉強机といった、芸術を想起させる荒唐無稽かつ幻想的な光景が広がっている。
興味深げに視線を動かしていくと、眼前に透き通る青髪を持つ少女が、机に座った状態で腕枕で顔を埋めていることに気付く。
彼女自身があまりにも小さかったことと、周囲の光景に圧倒されたことで視界から外れたことで、今の今まで気づけなかった。
「んぅえへへぇ~……いちごミルクにミルクプリン~……」
おもむろに歩み寄ると、涎を垂らしながら子供らしい俗な寝言を呟いている。
いや、それは果たして寝言なのか。
何せ、彼女の頭上にはシンプルな水色のヘイローが浮かんでいる。
知る限りではヘイローは意識がある状態において発現する代物であり、睡眠時等は消失しているのが自然であるとされている。
ならば狸寝入りかと訝しむも、私見では熟睡しているようにしか見えない。
改めて少女の姿を観察する。
服装はセーラー服に白いプリーツスカートと、この青で満たされた風景と調和した着こなしを見せている。
自分もそうだが、彼女も何故このような場所にいるのか。
見渡す限り、この世界には二人しか存在しない。
切り取られた絶海の孤島。前後の記憶を繋げても、連続性の欠片もない場面転換。
その謎を解き明かすためには、唯一の手掛かりである彼女と対話を試みるほかない。
ここまで気持ちよさそうに眠っている子供を起こすのは流石に忍びないと理性が働くが、さりとてこのまま待ち惚けというわけにもいかない。
硝子細工に触れるように丁寧かつ繊細に少女の肩を揺らすと、頭上のヘイローがテレビの砂嵐のように一瞬ブレる。
未知の現象を前に面食らう中、少女がおもむろに顔を上げ始める。
「んぅ~……?――ハッ!?」
口は半開きかつ寝ぼけ眼の表情と対面する。
少女の脳が状況を理解したのか、慌てて立ち上がり袖で涎を乱暴に拭く。
似たような光景を数日前に見た気がするが、誰かと違って転んだりしていない辺りまだ彼女の方が冷静かもしれない。
「あ、貴方は?一体どうしてここにいるんですか?」
「それはこっちが知りたいんだけど」
タブレットが光ったと思ったらここにいつの間にか立ってただけで、望んで来たわけじゃない。
予想外の展開の連続に、唯一の手掛かりは些か頼りなさそうな子供ひとり。
■■辺りなら、頭抱えて一人喚いてそうな状況だ。というかそうする確信がある。
「――あっ、そういうことですね。納得しました!」
目の色を変えて喜色を浮かべる少女に呼応するように、シンプルな水色のヘイローが力強く点滅する。
ヘイローに形状変化するという情報はなかったはずだが、ただの知識不足の可能性もあるので深く追及はしないでおこう。
「初めまして、私はアロナと言います!【シッテムの箱】のシステム管理者でメインOSでもあり、そして貴方の旅路をサポートするために生まれた存在でもあります」
「シッテムの箱?」
「あれ?タブレットみたいな奴を持ってませんでした?それの名前ですよ」
「生憎と記憶がないから、そういうのも忘れてる」
「そうでしたか……。いえ、問題はありません。如何なる状態であろうとも、私の役割は変わりませんから。なのでどんどん頼ってください!」
そういって鼻孔を膨らませながら胸を張るアロナ。
はっきり言って、彼女の説明だけではあまりにも理解が追い付かない要素ばかりで、それならばと遠慮なく質問攻めにさせてもらうことに決めた。
「まず、ここはどこ?」
「ここはシッテムの箱の内部です。正確には肉体は現実に残したまま、精神のみが入り込んだ状態ですね」
「なんでこんな荒れ果てた場所なの?」
「うーん、それを説明する前に、前提として話さないといけないことがあります。あ、そっちの机運んでもらえますか?ふたつくっつけて対面にしてもらえると色々都合がよいので」
言われるがままに指定されたとおりに机を並べて着席する。
木製の簡素な椅子の感触に懐かしさと不便さを噛み締める。
ここが精神だけの世界などと言われても、実感がまるでない。
何せ、五感が現実と同様に作用しているのだ。
その境界を明確に区別できないほどに現実とテクスチャが同一に再現されているならば、自分にとってはこちらもまた現実のひとつとしか言いようがない。
古典的ではあるが、試しに手の甲をつねってみるも、ただ痛いだけに終わる。
2
「えっと、まずこの世界はシッテムの箱の前所有者の心象風景をプログラムで疑似再現したものです。でも、それはあくまで副次的効果であって、本質はそこにありません」
「つまり?」
「そのプログラム名は――【ベルベットルーム】。前所有者が体験した事象をシッテムの箱内で再現するためのプログラムで、はっきり言ってメインOSである私でもブラックボックス過ぎてまともに解析ができない代物です」
前所有者、と聞いて浮かんだのは記憶から泡沫に消えた少女。
輪郭も朧げにしか存在を認識できないほどに薄れてしまってはいるが、決して消えたわけではない。
確かに彼女は存在した。それだけは疑いようがないのだ。
記憶喪失の分際が吐く言葉に信憑性などありはしない。
それでも、彼女を知覚した瞬間に感じた熱は僅かばかりでも確かに残っている。
この熱さえも嘘だと言うなら、一体何を信じれば良いのか。
これさえも否定してしまえば、今度こそ自分を見失ってしまう。
不確かでも、信じることに意味があるのだ。
「その前所有者というのは?」
「……申し訳ありません。それは管理者権限によって答えられないようにセーフティが掛けられています」
愁いを帯びた表情で項垂れるアロナ。
しかし、正直そんな予感はしていたのでこちらとしては問題ではない。
メインOSを名乗る彼女ですら手が付けられないブラックボックスなプログラムを仕込める相手だ。セキュリティ対策にも余念がないのは想定内だ。
「それで、ベルベットルームとは何をするところなの?」
「ベルベットルームは……と、その前に。前提として貴方は【ペルソナ】について覚えていますか?」
「ペル、ソナ……」
その言葉を呟いた瞬間、再び脳裏に映像が過ぎる。
それは連続性のない断続的なもので、更には瞬時に切り替わるせいで具体的な描写は掴めない。
しかし、その映像のどれにも共通するのが、誰かの背後に立つ巨人の姿。
否、巨人だけに非ず。
人型でも機械人形のような造形、上半身だけ人型だったりと多種多様な形の巨人がいるどころか、人型でさえない姿のも存在していた。
それらは等しく強大な力を秘めており、物理的な攻撃に始まり、魔法のような力を行使したりと、とにかく圧倒的な力を秘めていることは一目瞭然だった。
あれがリン達の言っていた巨人の正体だと言うならば、あの警戒具合も納得どころか慈悲深いまであるだろう。
「どうですか?」
「……ほんの少しだけ、思い出した気がする」
映像の断片がパズルの一片として組み合わさり、記憶を少しずつ復元していく。
アロナへ思い出した内容を簡潔に述べると、彼女は納得の表情で軽く頷き返す。
「では、詳しく説明させていただきますね。ペルソナとは、誤解を恐れずに言えばもうひとりの人格が具現化した存在です。そしてペルソナを召喚するためには、基本的に専用の道具である【召喚器】を用いる必要があります」
「もう一人の、人格……。多重人格ってこと?それに、召喚器で自決行為を再現するのはどうして?」
「人格に関しては正解でもあり、間違いでもあります。目上の方には丁寧に接するけど、友達が相手だと遠慮なく接したりするように、人は生きる上で色んな【仮面】を被って生活しています。好きな人と嫌いな人とでは当然接する態度が変わるわけで、そういう環境に適応するために人は無自覚に【ペルソナ】を作るんです」
アロナから説明されたそれは、心理学用語におけるペルソナの考えとまさしく同一なものだった。
外的側面を使い分けた処世術こそがペルソナの本質であり、人間という複雑怪奇な心理を持つ種族ならではの概念ともいえる。
そして、心理学のペルソナを語るうえで話題に上がる概念に【シャドウ】という抑圧された感情を示す用語がある。
それは、ペルソナを被ることで抑圧される負の感情。
本来ならば怒りに任せて殴り飛ばしたい相手でも、社会規範に則ればそれは許されないからと、穏便な手段で収めようと努めるなんて例は枚挙に暇がない。
結果にそれが最善手だったとして、しかし感情の部分で納得できるかは別問題。
心に残ったわだかまり、疑念、後悔――そういった裡にへばり付いた負の感情を指すのが、シャドウ。
ペルソナがプラスなら、シャドウはマイナス。ペルソナという概念を知ってか知らずか、影の化け物をシャドウと呼んだ人物は先見の明があるか、ただの偶然か。
何にせよ、わかりやすいことは良いことである。
「ペルソナはそんな人間の側面を戦う力として【召喚】する能力なんですが、【召喚器】はペルソナ召喚を安定させる手段であり、必需品ではありません。自決行為は言うなれば主人格の【死】を擬似再現することで、別人格であるペルソナを表に出すという儀式のための触媒ですね。儀式なので工程を省けば当然安定はしません。漫画とかでも、呪文の詠唱をするのと詠唱破棄するのとでは難易度が違うとか、そういう感じです!」
いきなり俗な例えを出され虚を突かれた気分になるも、アロナの幼い容姿からすればむしろそれが正常なまであると気を取り直す。
でも言いたいことは理解できる。
シャドウとの戦いを対話と置き換えるなら、ペルソナはシャドウと対話するための手段であり、そのために適応した結果なのだと。
手段や状況が特殊なだけに分離して考えがちだが、やっていることは悪漢対策に護身術を習うのと同じ。
逃げるのではなく立ち向かうと決めた意思そのものが、ペルソナの本質なのだろう。
「それで、人格を押し留める器として、神話を始めとした伝承に出てきた人物や生物、時には神のような高次元存在さえもが器となるんですけど、器はあくまで器。人格に付随するものであり、必ずしも神の器がペルソナとして具現されたとしてもそれが強さに直結するわけではありません。似た性格だったり精神性の存在が自然と器になるだけなので」
「じゃあ、どこで差がつくの?」
「ペルソナ使いとしての熟練度などは当然として、一番はやはり人間的に成長することですね。ペルソナは異なる人格であり、戦うための力でもあり、そうして見るとあくまでも別の存在と捉えがちですが、間違いなく貴方自身です。楽しいこと、苦しいこと、悲しいこと、嬉しいこと――それら全部が貴方を人間的に成長させる糧となり、心の形でもあるペルソナもまた成長する。つまり、精神的に【大人】になることが大事なんです」
「大人、か……」
言葉にすれば簡単だが、それは非常に難しい問題だ。
精神的な成長なんてものは、主観客観問わず判断できるものではない。
成長しているように見えて何も変わっていなかったり、その逆もしかり。
年齢を重ねれば自然と大人と定義されるようにはなるが、その背景に深遠さや真の成熟があるとは限らない。
人間的な成長なんてものは決して目に見えないもので、それ故に境界がどこにあるのかも判然としない。
とても身近な概念でありながら、哲学的で明確な回答がない問題。
この命題に真摯に向かい合い、決して漫然と日々を過ごすことなく試行錯誤しながら歩いていくしか答えは出せないだろう。
「それで、ベルベッドルームでしたね。ここでは貴方のペルソナ能力に関する事柄を管理するのですが……貴方はペルソナ能力者としては特別で、本来ペルソナとはひとりにつきひとりしか持ちえないのですが、【ワイルド】である貴方は別です。ここは、ワイルドである貴方のための空間なんです」
「【ワイルド】って?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!」
そう言うが否や、机の下から取り出したのはカードの束。
それを得意げにシャッフルし、机上に置いて扇状にスライドして並べていく。
そのうちの一枚を抜き取り、身を乗り出す形でこちらに見せる。
中心には旅人らしき風体の人物とと犬が描かれ、その下には0と刻まれている。
「【ワイルド】とは、複数のペルソナを扱える素質を持つ者を指す言葉で、ワイルドカードが由来となっています。そしてそれは無限の可能性を象徴するものであり、【絆】を力へと変えることで真価を発揮します。この【愚者】のタロットカードが示すのは【自由】【旅のはじまり】【未知なる可能性】。記憶を失い、0からのスタートとなってしまった貴方ですが、同時に無限の可能性が未来に待っています。待ち受ける困難を仲間と共に乗り越え、絆を育み、来るべき日に備えること。貴方自身を取り戻すには、これが一番の近道だと思います」
「――来るべき日?」
「……ハッ!な、なんでもありませんよ~」
アロナはしまったと言わんばかりに動揺を見せ、こちらの質問から露骨に話を逸らしたいのか慌ててタロットカードを回収してカードを忙しなくシャッフルしだす。
しかし、その危なっかしい手つきも相まって、シャッフルを失敗させ軽く水浸しになっている床にばらけさせてしまう。
この空間の常識が現実と同様かは不明だが、濡れさせるのを眺めたままというのも忍びないので、拾うのを手伝うことにする。
何気なしに拾った一枚のカードの絵柄が目に入る。
掌に炎を掲げそれを見つめる瞳という構図は、パーツを総括するとまるで顔のようにも見える。
そして、下に刻まれる1の数字。
「それは【魔術師】のアルカナですね。正位置が示すのは、物事の始まりや無限の可能性。自己啓発や成長、そして目的の追求に必要な資質を象徴しています。今の貴方は記憶を失くして右も左も分からないと思いますが、それでも恐れずに前へと進むことで必ず未来は切り拓かれると、そう告げています」
「それって、タロット占いって奴?」
「はい、そうです。本来なら正式な手順に則ってカードを展開するんですが、これもある意味運命的とも言えますし、いいんじゃないですかね」
その適当さに少し呆れるも、そもそも占い自体が根拠薄弱な眉唾ものである以上、結果に固執したところで自己満足に過ぎない。
占いの結果が全て確定した未来となるなら、人は運命の奴隷として生きるしかないということになる。
だが実際はそんなことはなく、分かれ道のどちらに進んだかひとつで運命など容易く変化する。
それさえも定められたものだった、なんて言われるパターンもあるが、そんなもの所詮後付けの戯言でしかない。
大事なのは占いによって出力された内容をどう捉え、向き合うか。
良い結果ひとつにしても、現実にするためにひたむきに努力するか、占いを妄信し努力を怠り夢物語に逃避するかは人それぞれ。
この結果をただの偶然か、それとも運命と捉えるかも然り。
少なくとも自分にとってこの結果は、継ぎ接ぎとなった記憶よりは信ずるに値するものだと思っている。
「――って、忘れてたぁ!!」
タロットカードをすべて回収し、机の中にしまい終わった瞬間、アロナが頭を抱えて叫び出す。
ヘイローも明らかに明滅を繰り返しており、彼女の動揺がこれでもかと窺い知れる。
「シッテムの箱の所有者登録のため、生体認証をしないといけないんでした。これをしないと正式な所有者として認められず、私の権限もかなり制限されてしまうんです」
「それならすぐ終わらせよう。どうしたらいい?」
「あ、はい。では、私の人差し指の先に同様に触れてみてください」
言われた通り、アロナの人差し指の先を自分の人差し指で触れると、認証したことを示すように触れた箇所がさながらクリック表現のように一瞬だけ光る。
そしてアロナの方から人差し指を離したかと思うと、突き合せた自分の人差し指の腹をまじまじと眺めだす。
「――はい、これで完了です。結城理様のマスター登録を完了致しましたので、これからはシッテムの箱および私【A.L.O.N.A】の管理者権限を貸与が行われました。改めてよろしくお願いしますね、
「貸与?譲渡じゃなくて?それにマスターって、俺のこと?」
「正式に権限が移行されたにあたって、折角なので呼び方も変えようかなって。譲渡ではなく貸与なのは、権限の優先度は前所有者の方が高いままで残っており、前所有者の権限のもと間借りしている立場だからですね。ですが、使用権限の制限はありませんので、形骸化したものと思っていただいて構いません」
「……まぁ、利用に問題ないならどうでもいいけど」
その後、アロナと他愛のない会話をし、都合が良いタイミングで切り上げてシッテムの箱とのアクセスを切る。
気付けば元の部屋に戻っており、窓から射し込む光が太陽も陰りを見せ始めている時間であると告げている。
事前にシッテムの箱内の時間軸は現実と異なり、ある程度引き延ばしたり遅らせたりできるとは言っていたが、今回に関しては恐らくそういったことはしていないだろう。
つまり、景色が一切変化していなかったことを考慮しても、時間感覚を忘れるぐらいアロナとの対話に夢中になっていたということ。
しがらみを完全に排した無垢な瞳と向かい合って行われる対話は、自分が思っている以上に心地よかったのかもしれない。
思えば、記憶の始まりから今に至るまで、まともな対人関係を築いていたとは言い難いものだった。
唯一可能性があったヒフミは、先程まで再会するに至れず、リンを始めとした相手とは事務的、義務感、猜疑心といった、おおよそ心休まるコミュニケーションとは程遠いやり取りしかしてこなかった。
だからこそ、掛け値なしに味方であるアロナはとても貴重な存在で、無意識に安らいでいたのだろうか。
「……少し、寝よう」
夜になれば、また面倒ごとに巻き込まれるのは確定している。
少しでも余計なことを考えないようにと、アロナと過ごした時間に思いを馳せながらしばらくの眠りについた。