推しの子『日本国民からの認知度50%』トロフィー獲得RTA 作:朝日と夕陽
今日、ワシは劇団ララライのワークショップの様子を覗いていた。普段はわざわざこんなチンケな所に顔を出さんのだが、たまたまそういう気分だったのだ。
「10000円とか無理よ。私、ジュース買ってもう80円しかないから」
だが、それは正解だった。
そこで会ったのはまだ小学生くらいの子供。ワークショップに参加させろとしつこくゴネておった。
「だからな、嬢ちゃん。金がないんじゃどうにも……」
「いいから参加させなさい。そこで私の才能を披露してあげる。それからこの劇団に所属して、私の手で有名劇団にしてあげるって言ってるの。光栄でしょう?」
「あのなあ……」
世間知らずの我儘な少女よ。確かに顔は非常に整っているが、芸能界に入ればこれに匹敵する人間は数多くおる。顔が良いだけの世の中を舐めた小娘など、この芸能界で成功する由もない。無視してやってもよかった。
「参加費は10000円だな?ではこれで参加させてやりなさい。残りは君の今晩の酒代に使うといい」
「
「構わん。若い才能の後押しをしてやるのが楽しくてこの業界に関わっているのだよ、ワシは」
だが、ワシはそうしなかった。それどころか万札を五枚出して受付の男に渡し、少女を建物の中に入れてやった。
「ありがとう、おじさん」
「例には及ばんよ。ところで、君の名前は────」
「それで、お金を出してもらっておいて悪いんだけど、私にはもう近づかないでくれる?おじさん、デブでハゲで臭いから。それじゃ」
にも関わらず、この態度。大人と社会を舐め切ったこの態度。今思い返しても腹が立ってくるほどの生意気な小娘だったわ。
とはいえ、
「どうだ、目ぼしい奴はいたか?」
「太田さん。あの少女、本当にすごいですよ。まだ荒削りですが、凄まじい才能を感じます」
「そうか。あの大言壮語は的外れなものではなかったか」
ワークショップの講師をやっている男がそう答えよった。劇団ララライの中でも実力派と周囲から評価されている男だと聞いておる。ワシには分からんことだが、この男が言うのならばきっとそうなのだろう。
「ではワシは書類の用意をする。お前は活動が終わり次第、あの小娘を応接室へ連れてこい。いいな?」
「はい」
それから契約書を用意して応接室で待った。まあ、あの小娘が才能を持っているかなど、どうでも良いことよ。
ワシは一目見た時から、あの小娘をこの劇団に入れるつもりでいたのだからな。
「あれ?さっきのキモい太っ腹おじさん?」
「こ、コラっ!太田さんに何てことを言っているんだ!」
「ハッハッハッ。元気があって良いではないか。さあ、君は外に出ていなさい」
邪魔な男を追い払い、ワシは小娘に問いかけた。小娘は退屈そうに髪を弄りながら答えよる。
「では改めて聞かせてもらおうか。君の名前は?」
「本元あやか」
「年齢は?」
「10歳」
「10歳……」
緊張でつい、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。小学生かもしれないと思ってはいたが、まさか本当に……
「それがどうかした?」
小娘はワシの何もかもを見透かしたようにクスリと笑う。その態度が気に入らない。大人を見下しおって。
「どこかの劇団に所属しているのか?」
「無所属。いちいち答えるのも面倒になってきたし、おじさんが聞きたそうなことを全部言うわ。私に両親はいない。現在施設育ち。その施設の方針で未成年の労働が禁止されてる。だから────」
「問題ない。部下の弁護士に手配して全て片付けさせる。君はただここに名前を書き、判子を押せばいい」
「話が早くて助かるわ、おじさん」
小娘はサラサラと自分の名前を書き、判子を押した。内容をろくに見ることもせずに契約を結ぶ。やはりただのガキか。
こんなガキにワシは舐められておるのか……!
「はい。これで私も劇団員?」
「そうだ。劇団ララライの一員だ、おめでとう」
「私からもおめでとうと言わせてもらうわ。これで劇団ララライは、この私を劇団員にすることができたのだから。それじゃ」
そう言って席を立って部屋を出ようとする小娘を呼び止めて尋ねた。
このガキはもうすでに劇団ララライ所属。つまりワシの支配下にあるのも同然。ワシの偉大さをもうすぐ分からせてやれるのかと思うと、辛抱たまらんかったものよ。
「待て。これから泊まる場所はあるのか?」
「ああ、そういえば施設から抜け出してきたから帰る場所もお金もないんだったっけ。おじさん、何処か部屋貸してよ」
「それは構わんが今日は無理だ。時間が足りん。その代わり────」
ワシは小娘の肩に手を置き、耳元で囁く。興奮して思わず声色が震えてしまったわ。
「今晩はワシの部屋で酒を注いでくれんか?」
小娘はワシの言葉にピクリと反応した。先ほどの契約書へは何も考えずにサインした。だが、今回は返事をするのに時間を要しておる。
どうやらワシの言っていることが分かっているらしい。やはり気に入らんわ。
「ろくに金を持っていないと言っていたな?一晩少し手伝いをすれば小遣いをくれてやるぞ。ワシが金払いの良い男だということはもう知っておろう?そうだ、良さそうな仕事の案件があれば優先的に君に回してやろう。悪い話ではあるまい?」
小娘がどのような表情をしているのかはよく見えん。だが、今が攻め時なのは分かっておった。ワシは言葉を続けた。
「安心せい、断ったとしてもワシがしばらく不機嫌になるだけよ。ただし、これだけは知っておけ。ワシは劇団ララライの大口スポンサーだということを。この施設を劇団に貸し出しているのはワシだということを。お前たち役者に仕事を振る上の者らは皆、ワシには逆らえんということを」
ああ、たまらん。そうだ、これよ。
「キャスティング権はワシにあるのだ。この意味が、分かるか?」
小娘はこくりと頷いた。とうとうワシに屈した!
「分かった。いいよ」
何にも分かっとらん世間知らずのガキにワシの偉大さを教えてやる。
これが楽しくて、ワシはこの業界に関わっておるのよ!
「うっ、おおお……ふふふ。ようやく立場を思い知ったか、社会の厳しさを知らない小娘め」
ベッドに座るワシの足元に跪いた小娘。その舌使いを味わって欲望を吐き出しながら、今日ここに至るまでの経緯を振り返り終えた。思えば、この小娘には何とも生意気な口を利かれたものよ。
だが、最後はワシにひれ伏した。それで十分。
「キャスティング権をちらつかせれば、女はたちまちにワシにひれ伏す。当然の道理よ。役者をやっている以上、誰だって作品に出たい。作品に出なければ金にならん。生きていけん。そのためなら誰にだって尻尾を振るというもの。この芸能界で機能する最も強力な権力よ」
キャスティング権。作品に誰を出演させるかを選ぶ権利。
役者たちの生殺与奪の権利と言っても過言ではない代物。
これがあれば誰だってワシの言いなりだ。絶世の美人女優も、世間を騒がせるアイドルも、生意気なメスガキ小学生も例外ではない。
権力とは、甘い蜜よな。一度味わうとクセになる。
「これだから芸能界はたまらんな。しかし、まだまだ上には上がある。こんなチンケな劇団で終わる気は毛頭ないぞ。ワシはこんなところでは終わらん。もっともっと上へのし上がり、巨大な存在になってやるわ!」
「フフフ……」
ワシの声と粘ついた水の音。部屋に響いていたのはそれだけだった。ついさっきまでは。
「……小娘、何がおかしい?」
「この程度のことで有頂天になってるおじさんのことが、に決まってるじゃない」
小娘の顔には、権力に屈服させられて屈辱的なことをさせられている女に見られる嫌悪や絶望の色はなかった。
ただ情事の前と同様、ワシを小馬鹿にした表情で見下すのみ。
「まだ虚勢を張れるその根性には驚くばかりだが、身の程が分かっていないのか?ワシがこの劇団を支配しているのだぞ?」
「キャスティング権ってやつ?それ、今度から私のために使ってもらうからよろしくね」
小娘は口内に溜まった液体を見せつけるように口を開けてから、こくんと飲み込んだ。
「おじさん、一つ良いことを教えてあげる。この芸能界で最も強力な力はキャスティング権なんて見窄らしい代物ではないわ」
「無知な小娘が何をほざく」
「だってキャスティング権なんて、結局は売れない役者にしか効かないじゃない。本当に力のある存在には大して意味がないでしょ?」
「だがお主には効いておるではないか」
「私にはまだ芸能界での認知度がない。しかし、私が少し世間に姿を見せればたちまちに有名になるでしょう。そのためにおじさんの力を借りるわ。それが手っ取り早いから。尤も、すぐ用済みになるでしょうけど」
……やはりただの世間知らずではないな、このガキめ。自分に足りないものをよく分かっておる。
それは露出だ。
いくら才能があろうとも、それが日の目を見なくてはただの宝の持ち腐れよ。そして自分にスポットライトを当てる為にワシの力を利用する、芸能界の上下関係と秩序に大人しく従うと言っておる。
この幼さにして肝が据わっておるわ。ただの世間知らずのガキではない。
「おじさん。
「輝き?何を言い出すかと思えば、馬鹿馬鹿しいことよ。この芸能界は真っ当に実力が評価される世界ではない」
「そうでもないわ。おじさん自身がそれを証明してるじゃない」
「何?」
小娘はワシの隣に座り、嘲笑と共に話を続けた。
「だって私は小学生よ?成人女性じゃないわ。法律で厳重に守られている、いわば最強の存在。そしてそんな私におじさんは性交渉を持ち掛けた」
「………………」
「それはどうして?リスクを分かっていなかったわけではないでしょう?自由恋愛なんて言い訳は小学生の私には通じないわよ」
「……そんなこと、決まっておろう」
ワシは吼えた。己の心の内に潜む獣性を思い切り解放した。
「お主を抱きたくなったからよ!法律など構うものか!お主を抱けないのであればワシは男に生まれた意味がない、一目見てそう思ったからよ!!」
清々しかった。
そうだ。ワシは一目見てこのガキを抱きたくなった。理由など分からん。そうなったのだ。そういえば今まで抱いてきた女は全て成人の女だったな。未成年の女子供など怖くて抱けるか。事が明らかになれば一発で刑務所行きだ。割に合わんわ。
そこまで考えて、ワシはようやく小娘の言っていたことを理解できた。
(そうか。ワシは一目見た瞬間にこの娘の輝きとやらにあてられていたのか)
損得などどうでも良くなった。法律などどうでも良くなった。ただ己の欲望にしか頭になくなった。突き動かされるかのように身体が動いた。
これが輝きか。
「フフフ。やれば出来るじゃない。今のおじさん、間違いなくこれまでの人生で一番輝いてるわよ」
……本当に生意気よ、この小娘は。
「この芸能界で最も強力な力は輝きよ。
ワシは芸能には詳しくはない。しかし、
「私よりも演技が上手い奴は芸能界にそれなりにいるでしょう。私よりも顔の良い奴も芸能界に少しはいるでしょう」
このクソッタレな世界で成功する者が持つ共通点。それは覚悟があることだ。
「でも、私よりも
何をしてでも上へ登る、その覚悟。
「おじさん。貴方には手伝いをさせてあげる。私を芸能界の頂点に立つための手伝いを。私の輝きを証明するための手伝いを」
ワシには分かる。この小娘にはそれがある。
「芸能界の頂点か、大きく出たな」
「そうでもないわ。私の輝きは芸能界の頂点程度で収まるとも思えないから」
「本当に、本当に生意気な小娘よ」
ワシは小娘を押し倒した。しかし、身体の下で小娘は相も変わらず何もかもを見透かすような笑みを浮かべておるわ。ワシに犯されることなど気にも止めていない、憎たらしい顔よ!
「だったら証明してみい!お主の輝きとやらが、どこまでこの世界で通用するのかを!」
とりあえず主人公最強系のタグをつけておきました。本当に最強なので。
こんな感じの主人公がただひたすら上を目指す小説です。