武装探偵、通称『武偵』。年々凶悪化する犯罪に対抗して新設された国家資格で、武装を許可され、武偵法の許す範囲であれば有償で請け負う便利屋だ。
それを育成するための総合教育機関・東京武偵高校はレインボーブリッジ南に位置する南北2km・東西500mの長方形の
この武偵高校では一般の高等学校教育以外に、捜査・鑑定・戦闘等、その名の通り武偵の活動に関わる専門科目が履修できる。
そのため武偵高の生徒は、当然のように武装して登下校をしている。
挨拶をしている同級生が懐やスカートの下から拳銃をチラつかせても、誰も気にかけることはない。
そんな生徒の行き交う一般校区の全体を見下ろすことができる屋上で、
「くらえっ!」
ーー声変わり手前のハスキー声と共に銃声が、あかりのすぐ前から数回響く。
その声の主は
銃の扱いに不慣れなのか両手で構えた拳銃の狙いが定まらず、放った弾丸は全弾、あかりではなく、見当違いな方向に着弾した。
「ムダ弾は使っちゃダメだよ」
ひびの入った壁、弾頭が砕けて転がる弾丸ーーそれらを一瞥して告げた後、あかりは人差し指を立てて振る。
その行動は上級生が下級生を嗜めるものだった。
だがその体格は男子高校生の一周り下の小ささ。小学生高学年と言われても疑われないような、マイクロ女子高校生だ。
「舐めんな!」
男子高校生は激昂する。
慣れない拳銃では不利とみたのか、体格差では有利とみたのか対峙する彼は、拳銃をホルスターにねじ込むとズボンのポケットに手を突っ込みーー隠していたバタフライナイフに切り替えて、弾けるようにして、あかりに襲いかかった。
がむしゃらに、バタフライナイフを振り回すがーー
「!?」
最小限の動きで躱され、バタフライナイフを持つ右手があかりの左手に掴まれる。
男子高校生が簡単に掴まれたことに驚いていると、あかりはスカートの中から、マイクロUZIを右手で抜く。
掴んだ左手はそのまま、あかりは流れるように右手のマイクロUZIで、バババッ!
男子高校生の左脇腹に撃ち込む。
「い"っ……!!」
防弾制服の上からの着弾はプロレスラーの本気の殴打に喩えられる。
それを至近距離で3発も脇腹にくらった男子高校生は堪らず右手から得物を離し、両手で撃たれた箇所を抑えてその場で蹲った。
「武器は、何があっても離しちゃダメだよ」
そう言うとあかりはマイクロUZIを右太腿のホルスターに差し込む。
そのまましゃがみこむとーー
「あたしの勝ちっ!」
笑みを浮かべながら、彼の目の前に左手に持っていた2つの得物を差し出した。
「え……」
バタフライナイフ、そしてホルスターに入れたはずの拳銃を見せられて、彼は痛みと驚きで次の言葉が出てこない。
「あたしはきみに1発でも攻撃を入れられたら負けで、きみはあたしに携帯している武器を全て取られたら負け。そういうルールだったよね」
あかりはそう言うと、唖然としている彼のポケットにバタフライナイフ、ホルスターに拳銃を入れると立ち上がって数歩下がる。
「でもね、実際の戦場では武器を奪われてもすぐに切り替えないとダメっ!もし、あたしが敵だったらーー」
あかりはそう言うと、ビシッ!
と彼に人差し指を向けて、
「頭に風穴開いてたよ!」
したり顔でそう告げたのだった。
「あっ……」
あかりは短く声を発すると左手でスカートのポケットを探り出す。
突き出した右手はそのまま、急いで携帯を開く。
そして携帯の画面を見たあかりは慌てだし、ワタワタと鞄を担いで扉に走り出す。
扉の前で止まり彼に振り返ると、
「あっ……友達を待たせているから後片付けは、えと、勝者権限であなたに任せます!それじゃっ!」
彼に言い残してさっさと屋上から出ていく。
あかりが去った屋上に残ったのは男子高校生と、彼を中心に散らばった空薬莢と弾丸。
敗北者は黙して耐えるのみ。
彼は周辺を見ると、1人寂しく掃除を開始した。