本日の用事を終えたあかりは
あかりが想定していた時間よりも早く終わったので、さほど急ぐ必要はないのだが。
とはいえ、他の専門の校舎より奥に位置する
なにより今日も友人を待たせている。
速度はそのまま、
「あかりさーん、こっちですよー」
「おー、やっぱり早く終わったな」
校門前であかりの友人である火野ライカと佐々木志乃が待っていた。
志乃は笑顔、ライカは悪戯な表情を浮かべている。
あかりは2人にそのまま近づくとホッ……
と息を整えた。
「それでどうだったんだよ。聞かなくてもわかるけど、一応聞いてやるぜ」
悪戯な表情はそのままにさらに近づいたライカはあかりに追及した。
(悪そうな笑顔だ……)
あかりとライカは1年前からの付き合いで、軽口を叩き合える間柄だ。
そのため、いつもはその軽口に言い返せたが、今のあかりにとっては目の上のたんこぶだ。
心做しか笑みを深めたライカにあかりは渋い顔を浮かべた。
そして数秒唸ると、観念したのかため息と共に答えた。
「……今回は、上勝ち狙いの決闘。わたしが勝ったよ」
あかりの言う『上勝ち』とは下級生が上級生に私闘で勝つ事を意味する武偵の隠語だ。
本来であれば、武偵同士の
しかし、武偵高ではーー『生徒同士の決闘は、
つまり、してもいいのだ。
非推奨行為ではあるが、黙認されている。むしろ、上勝ちは教師に高く評価される。
なので、武偵高では武偵同士の私闘、決闘はよくあることなのだが……通常、下級生が上級生に勝つことは起きえない。
それも入学したばかりの1年生が実践的な訓練を受けた上級生に勝てるなどと思う訳もなく、1年の上勝ち狙いの決闘はそもそも何度も起こることではなかった。
「今回"も"だろ」
そう、あかりが上勝ちを狙われたのは今回だけではなかった。
あかりは2学期に入ってからというもの、毎日のように1年生、とりわけ一般中学校出身の男子生徒に呼び出され、私闘を申し込まれていた。
あかりは1年生に侮られている。
それは小学生にも見える身長が故、そんなあかりに負けた1年生があかりとの私闘を接戦のように伝えたが故とも言える。
とはいえ、毎日呼び出されるためあかりは1年の男子生徒に懲り懲りしていた。
嫌ならば断ればいい、けれどあかりが上勝ちを断らないのには理由がある。
それは同じ一般中学校出身の生徒だから応援したいとか、戦姉弟契約や『もしかしたら告白かもしれない』という気持ちを踏みにじられたストレスを解消してやろうという気持ちもあるが、1番は断った際に発生するあかりの戦姉妹に対するデメリットの懸念だ。
『間宮あかりは
断れば
一般校より喧嘩早い武偵高だから、下手をすれば自分が考えることよりも酷い噂が流れるかもしれない。
それは今の戦姉、そしてこれから迎えるはずの戦妹にとってデメリットになる。
あかりはそう考えていた。
だから元戦姉のように来るもの全てに受けて立ち、返り討ちにしてきたのだ。
ライカの言葉に言い返せず、あかりがムスッとした顔で歩き出すと志乃とライカはその両隣について歩いた。
食べ終わったアメリカンドッグの棒を所在なさげに咥えたライカは
「でもよー、アリア先輩の真似をする必要はないと思うぜ。似合ってねー」
横から、ぶっきらぼうにそんな事を言ってくる。
そんなライカの言葉に思うところがあったあかりは、ムスッとした顔をさらにムスッとした顔にして否定する。
「それはっ……あたしにも考えがあるんだよ」
『あなたの有名な戦姉さんのキャリアに、傷がつきますよ?』
あかりの脳裏に過ったのは半年前、ランク考査の際に言われた言葉。
戦姉は戦妹のランクをあげる義務がある。
成長させなければ、その戦姉は育成を充分に出来ない不出来な戦姉とされる。
ありたいていに言うとランクを下げられるのだ。
そのため去年のあかりは、その時の戦姉妹----アリアの協力の下、武偵ランクを着々と上げていった。
ランクーー武偵ランクは単純な強さだけでは上げることが出来ない。
専門とする科目の成績、運動能力、言動等、総合して決められている。
一例として、
特にコミュニケーション能力が乏しく、他人との会話をする際に言動がおかしくなるためBランクにされている。
対してあかりはどうだろうか。
武偵高での戦闘経験、週1の叔母の稽古、イギリスでのホームズ姉妹の扱きによってあかりは戦闘能力、戦闘技術、知識を身につけ、敢闘賞を受賞する実力になった。
今や
では、普段の言動を後輩からどう思われているのだろうか。
試しに後輩代表乾桜に聞いてみた。
桜からは
『あかりさんはピーポレッドなんです。普段の姿をどう思われていてもいいじゃないですか』
と慰められた。
(桜ちゃーーん!?それって普段はズボラな人に言うセリフだよっ!!)
ガビーンッ!!……
とあかりはショックを受けた。
なんなら自身が目のカタキにしている
そして考えた。
元戦妹としてどうあるべきかについて検討に検討を重ねて、遂に考えついた。
そうだ、アリア先輩になろう。
そう決断した次の日、あかりは知恵熱で寝込んだ。
「あたしはアリア先輩の横に立つに相応しい武偵になれたと胸を張って言いたい。みんなに頼ってばかりじゃない……アリア先輩と肩を並べられる武偵になりたいんだ」
あかりは自身の考えを述べていくが、そんなあかりの主張に対して志乃は
「相応しいなどとそういった考えはいりません。心·技·体が磨かれ、それらを踏まえて武偵ランクは上がっていくもの……武偵として認められるものなのです。あかりちゃんの身体はとても健康的ですし、技術も週に1度、義叔母様にお稽古をつけてもらっているので向上しています。心は最初から整っていました。ですから、アリアのようになる必要はありません。それに今では、アリアはあかりちゃんの戦姉妹ではないじゃないですか。あかりちゃんは普段のあかりちゃんでいいんです」
横から、まくし立てるようにそんなの事を言ってくる。
普段なら優しい言葉をかけてくれる志乃なのだが、あかりがアリアに関する話をする時はなんかちょっと怖い。
それに、教えた覚えのない叔母--間宮もえぎとの稽古の事をなぜ知っているのかもあかりは気になる。
しかし、なんだか危ない雰囲気を感じるため、聞きたいような聞きたくないような気持ちをあかりは抱いた。
そんな志乃を横目にライカは
「それでも新入生に舐められているのは他に理由があんだろ」
あかりの後ろに回り込み
「たとえば」
スカートの端を掴んで、バサッ!
「このガキっぽい『ぱんちゅ』とかな!」
とそのままあかりのスカートを大胆にめくり上げた。
「火野家秘伝スカート捲りっ!!なんつってー」
唖然。
あかりは突然の出来事に立ち止まった。
ライカの抜けた声と共に、あかりの白木綿のパンツが白昼堂々惜しげもなく晒される。
幸い、あかり達以外に周りに人はいなかったため人目に着くことはなかった。
「な、あか……ぱ、あかぱん、しろぱんっ……ぱぱぱん……!?」
それに志乃はなぜか片目で過剰に瞬きを繰り返し、その間にライカは両手を翼のように広げて逃げ出している。
めくり上げられたスカートが元の位置に戻る頃には、ライカはあかりとの距離を50m先まであけていた。
普段はライカのセクハラを嗜める志乃だが、こういったセクハラ(ぱんちゅ)には頼りなかった。
「おーい、あかりーー!!」
あかりとの距離を十分にあけた場所でライカは1度立ち止まって両手を口に添えつつ、
「ぱんちゅー、丸見えー♪ キィーン」
などとあかりを大声で囃してて、逃走を再開した。
スカートをめくり上げられたあかりは、数秒呆れたような、どこか懐かしそうな顔する。
2年になってからというもの、2人のこういった恒例イベントは久しいものだった。
あかりは物懐かしさを感じつつアスファルトをその小さなあんよで踏みしめる。
そして、
「こらー!バカライカ!スカートアッパー!お金払え!」
笑顔でライカを追いかけた。