「……で、何があったんだよ」
その日の朝の会話はライカのその一言から始まった。
「えぇっ!?ラ、ラララライカ、急にどうしたのさ!!」
問い掛けられたあかりは泡を食って両手を振り回す。
あかりはスカート捲りの1件から日が経つにつれてボロが出る様になっていた。もはや、新入生に対しての先輩然とした姿は保たれていない。
あかりの前の椅子、その背もたれを太ももで挟むように腰掛けたライカは、分かりやすい動揺をするあかりに対して深いため息を吐く。
「どうしたもなにも、会って早々にそのやけ顔を見せられたら何かあったと思うだろ」
ライカに何事もないように言われてしまい、あかりは赤面してしまう。
「……そんなに表情に出てないつもりだったんだけど。クロメーテルちゃんにもそう見えた?」
実は鎌をかけられたんじゃないかと思ったあかりは、隣の生徒に聞いてみると、声は出さないが小さく頷かれる。
あかりは喜びを隠せていなかった。
隠す気がなかったとも言える。
事実、登校中のあかりを1目見た生徒が
「あっ、何か良いことがあったんだな」
と思うほど全面に出ていた。
「お前なー、仮にも武偵なら相手に何を考えているのか悟られない努力をしろよな。それで、何があったんだよ。もったいぶらずにアタシにも教えろよーー」
ライカはあえて『武偵』と強調して嗜めると、再度何事か尋ねた。
そのライカの態度で、これはからかっているな? と判断したあかりは、
「ふんっ、ライカはすぐに揶揄うから教えてあげない。仮にも武偵なんだから情報を集めて推理しなよ」
同じ様にわざと『武偵』と強調して答えた。
口の端は、思わずまた上がる。
しかし、余裕は数秒も経たないうちに崩れ去った。
そんなあかりの様子に焦らされたのか、ライカは両手であかりの両頬を掴むと
むにむにー!!
と、あかりの頬を揉みしだいたのだ。
上がりきっていた頬は縦横無尽に変形する。
変顔のオンパレードだ。
「あははっ、早く言わないからこうなるんだぞ!!お次はどうしてやろうかーー」
「ぼうりょふはいはーいっ!!わかっはっ!!わかっはからそへやめへっ!!らいはっ!!らいはーー!!」
あかりはライカの猛攻に堪らず音を上げた。
頬を少し赤らめらたあかりは
「アタシには
なんて言っているライカに呆れつつ、少々騒いだため周りに謝ってから声を潜めて会話を続ける。
「あのね、あたしに
あかりの発言に驚いたライカは、どういう経緯で戦姉妹になったのか次の言葉を待つ。
「……ただ、正式に
「戦妹見習い……?」
期待とは違い、聞いた事のない単語を聞いたライカは疑問符をうかべる。その疑問符に対して、あかりは左太腿のホルスターから一挺の拳銃を取り出した。
『コルト・ガバメント』----19世紀当時のストッピングパワーを重視するアメリカ軍の標準装備だ。
今でもアメリカの1部の部隊やあかりの元戦姉が愛用したり、競技用に用いられたりなど根深い人気を誇っている。
「この銃はその子から預かっている物なんだけど、これをあたしから奪い取れたら1人前の戦妹として認めてあげる約束でね、それまでは見習い扱いなの」
「書類上は戦妹だけどね」と付け加えて言うと、あかりはその拳銃を元の位置に戻した。
強襲科推薦の戦姉妹試験勝負『エンブレム』、その強奪対象を銃にして無期限にしたのかとライカは納得する。
「相当入れ込んでいるな。その銃を取っても取らなくても書類上とはいえ、戦妹なんだろ。確保しておきたいのが丸わかりだぜ。そんなにその子が気に入ったのか、あかり」
「うん、そうだけど……」
ライカの言葉にあかりは賛同するが、登校時と打って変わってその表情は優れない。
ライカの予想ではデレデレしながら戦妹の自慢をするものだと思っていたが、少し不安そうなあかりを見てライカは考えを改めた。
「ちょっと思うことがあってね……志乃ちゃんには話さないでね」
「……?どういう----」
気になることを言い出したあかりに、ライカは情報を聞き出そうとするが、
ガラガラッ……
と教室の扉が開かれる。
慎ましく入室するのは佐々木志乃。
ライカは口から出そうになった声を喉へと戻した。
「あ、志乃ちゃん。おはようっ!!」
「……はい。あかりさん、おはようございます。その……なにか真剣な顔で話されていたようですが、どのようなお話をしていたんですか」
さっそく志乃に聞かれてしまった。
ライカは喉へ戻った声が、また口から出そうになる。
「あー、気にしなくていいぜ。だべってただけだよ。そんなことより、珍しい時間に登校してきたな。なんかあったのか」
「……いえ、ちょっとした家庭内事情です。こちらも大した内容ではないですよ」
志乃はライカを一瞥して軽く瞬きをすると、陰のある笑みを浮かべて答える。
(こ、こわ……おい、あかり!!何とかしろよ!!)
その志乃の様子に怯え、ライカはあかりに対し思念を送るが、
「あは。そっかー」
志乃の様子にもライカ思念にもあかりは窺い知ることが出来ず、笑顔で会話する。
あかりの戦闘時の観察眼は日常では役に立たなかった。
「そういえば、昨日の放課後にエステーラでリーフパイを買ったから、お昼になったら半分こして食べよっ」
「……!!はい!!」
あかりの誘いに志乃はすっかり上機嫌になり、頬杖をして身体をクネクネと踊らせる。
丁度、担任の
(上手く誤魔化せたけど……ちゃんと説明してくれるんだよな、あかり!!)
身構えている時には、死神は来ないものだ。
ならば、辿り着けなくなるほど備えればいい。
ライカは自分に被害が行きそうだったら、見捨てようと決意した。