ロアナプラより愛をこめて   作:ヤン・デ・レェ

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Revenge is mine*R15

 

 

 

 

 

観光客としてフェリーに分乗してシチリア島に渡り、パレルモ港から反時計回りに細い経路を迂回、国道113号線を抜けて辿り着いたトマーゾ・ナターレ辺りでE90号線に乗り、そこから南下した。行先は特になし。あくまでも初日は観光だったが、行きたい場所も特になく…兎に角さっさと終わらせて彼の元に帰りたかった。一同の想いは一つになっていた。彼がいれば、思う存分観光もしたのだろうが。

 

パレルモ県をぐるりと回り、国道624号線に分かれる十字路を左折してエルネスト・バジーレ通りへ入った。経路景観を確認、写真に納めたら、時間と距離を逆算しつつその日の昼間は何もせずに、港から最寄りのホテルへと帰還した。

 

数日以内に哀れな羊が担架で運ばれてくる。奴を乗せた車を追いかけて、羊の群れの元まで辿り着くだけだ。後はいつも通りの仕事だ。

 

夜には予定が入っていたが、私とイディスの担当だった。ロザリタとレヴィにはホテルで寛いでもらい、昼間に横目で見流したヴィットリオ・エマヌエレ通りにあるパレルモ大聖堂に、次いでオルレアンス公園へと向かった。

 

大聖堂で待っていたのは一人の男だった。イディスからは事前にカラビニエリの将校だと聞いていた。

 

政治家への伝手は使わないのかと問えば、イディスは顔を横に振った。

 

「あの島の政治家はマフィアと一緒だ。使うなら地元に顔が利く現場組の下級将校になる」とは昨夜のエダの言葉だ。

 

見た所、私服姿の一般市民にしか見えなかった。私とイディスは開館時間ギリギリに入った。お陰で我々三人は誰にも見られてはいない。

 

「本当はマズいんだが…上からもよろしくやれと言われてるんでね」

 

「物は用意できたのか?」

 

「ああ…そこは問題ない。ほら、これだ…」

 

渡された茶封筒の中には、ターゲットの顔写真や直近の行動記録が記された資料が入っていた。

 

「OK、確かに受け取ったわ。上にはしっかり伝えておくから。貴方みたいな真面目な人が長生きできるようにしなくちゃね?」

 

薄く笑ってジョークを飛ばしたイディスを一瞥すると、周囲に視線を配りながらカラビニエリの男が言った。

 

「…道具は持ち込めたのか?」

 

道具…つまりは武器のことだが。この質問についてイディスは曖昧な笑みで応えた。余計なことは知らぬに限る。

 

「そこは競合他社の力をお借りしてね」

 

「今週はやけにロシア語を話す観光客が多い…屈強な男ばかりでね」

 

「不思議なこともあるものね」

 

「…OK。地元のマフィアを駆逐したと思ったら、他所のマフィアが入り込むなんて冗談は止してくれよ?」

 

「そこは心配ご無用。彼らには帰る場所があるんですもの。貴方の帰る場所はここでしょう?」

 

「仕事が終われば長居はしない。そう受け取るぞ?」

 

「構わないわ。数日の辛抱よ」

 

「…当日は電話をくれ。()()()()()()()()()()()()()()()()()だからな」

 

「ええ、よろしく」

 

閉館と同時に公園に移った。公園が既に閉まっていることに落胆する観光客が数人いる中で、特にガタイの好い数人の男と接触した。今度は私の仕事だった。私は初対面の観光客同士で世間話でもするかのように、ぴちぴちのシャツに身を包んだポランスキー曹長に声を掛けた。

 

「状況報告を」

 

「十分程度なら、周囲は安全です。狙撃可能な部屋も含めて、既に我々とエキストラで固めております」

 

道具の受け渡しの為にと、アメリカの大手演劇スクールから数日限定でアルバイトを雇い入れてから来た甲斐があった。彼らは自分の役割を理解しているのか事前説明の通り観光客として熱演しているが、実際の役割には当然の様に気づいていなかった。知らないこと。それは互いの為にも必要なことだ。

 

「ふむ。ハラショー(結構)…物はあるか?受け取ろう」

 

「はい。こちらに」

 

同一規格の大型スーツケースをさり気なく交換してから、私は中身の内訳をポランスキーに確認した。レヴィのカトラスは勿論。ロザリタの鞄に、私とイディス用の防具と得物まで。スーツケースに詰め込めるものは粗方詰めたようね。

 

「一通りそろっているな。お前たちの分の首尾はどうだった?」

 

私が問うと、曹長は頼もしい笑みを浮かべた。

 

「上々です。潜水艦で沖合からボートに移し替え、地元漁師から借り上げた漁師の小屋で寝かせております。明後日にはもぬけの殻です。道中は楽なもんです。ほとんど素通りでしたから。ただ一度だけ、ロシアの原潜にアメリカ海軍が道を譲った瞬間。あの興奮と言ったらありませんでした」

 

ポランスキー以外の同志たちも、一様に頻りに頷いていた。

 

「ふふふ…ご苦労だったな。双子はどうしてる?」

 

「メニショフ伍長とサハロフ上等兵に子守りを押し付けてまいりました」

 

私が問えば、ポランスキーが口元に手を添えて声を潜めて言った。

 

「手を掛けてないといいのだけれど」

 

「二人ともいい子にしてるとついさっき連絡が」

 

私もポランスキーも、顔を見合わせて苦笑を漏らした。

 

「そう…今日はゆっくり休め。私から一報を入れる。同時刻より作戦開始。以後は無制限の通信を許可する」

 

「はッ!」

 

声のみで姿勢を正したポランスキーに、私も目礼で応えた。ついさっきカラビニエリから受け取った情報をもとに、作戦開始予定日の修正を伝えねばな。

 

「漁の日程だが…ついさっき新鮮なものが入ってな。網を引くのは数日後になりそうだ」

 

私の示唆にポランスキーも力強く頷いた。

 

大尉殿(カピターン)、では我々もこれにて」

 

「うむ。以上だ。待機に戻れ」

 

了解(ダー)

 

我々は赤の他人に戻り、他所の観光名所で会えると好いな…などと、他愛ない話をして別れた。

 

「どうだった?」

 

車内に戻るとイディスではなくエダが私に訊ねた。

 

「順調だったわ」

 

私の答えにエダは満足した様子で鼻を鳴らした。

 

「当然さね…それでこそ共犯者様だ」

 

「ふん…安全過ぎて色々と鈍りそうだ」

 

あらゆる制約から解き放たれた東西の覇者が手を組めば、成せぬことなどあまりない。我々は、かつてないほどの安全を享受している。

 

「ククク…安全に越したこたあないさ。採算度外視はあたしらのモットー、だろ?」

 

「ええ、確かにそうね」

 

イディスの言葉に私は素直に頷いた。軍人としての性も、思えばあの双子の殺しと同じで、脱ぎ着のできない肉体そのものから、いつの間にやら肉体に染みついた臭いへと、そして今では着脱可能な代物に変わっていた。彼の私に対する影響力が如何に強いのか思い知らされる気分だった。なんとも心地好い限りだ。

 

道具の詰まったスーツケースを土産にホテルに戻れば、すぐさまレヴィとロザリタが自分の得物を傍に寄せた。やはり慣れた道具があるのと無いのでは話が違う。

 

「姐御、ヴェロッキオの奴は予定通りに来るってことでいいんだな?」

 

ホルスターにカトラスを仕舞い込んだレヴィがふとそんなことを私に訊ねた。

 

「そこなのよね…」

 

「何か問題でも?」

 

私が眉根を寄せると、イディスが代弁した。

 

「考えてもみろ。奴は全治三か月の予定を無理やり縮められてドナドナを食らったんだよ。ストレッチャーごと税関で止められるか、奴の容体次第で前後するのも仕方ねえだろ?」

 

「ま、イディスの言う通りね」

 

イディスの言う通り、肝心のヴェロッキオが来なくてはお話にならないのよ。確実性の確保の為にもね。

 

「なるほどなあ…」

 

「委細承知いたしました」

 

レヴィとロザリタも納得してくれたみたいでよかったわ。

 

「ま、そういうことだから。私たちも気楽にいきましょ」

 

私は一つ手を打ちまとめた。レヴィ、ロザリタ、イディスにも文句はなかった。折角だから、今晩は本場のイタリアンでも楽しもうかしら…。懇親会も必要なことよね。一番の年長者として、私が彼のハーレムを円滑に運営しなくてはな…。

 

…今頃、彼はシェンホアと二人きりでディナーでも楽しんでいる頃かしら。行先は何処でもいいけれど、私も、なんていうか、そういうベタなシチュエーションに期待してるのかしら。憧れてるのか、確かめたいのか…。陳腐なことでさえ、貴方と一緒なら楽しく感じられるって。

 

…この面倒が片付いたら、思い切って彼を誘う。そうしよう。勇気を出せ、私。ソーフィヤ、貴様になら可能だ。先陣を切るよりも安全だ。だから怖くなどない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観光立国で成り立つイタリアは何かと観光地価格なのでお財布には優しくない。貧乏性な彼は一々気後れしていたけれど、私にはそういう所も含めて魅力的に見えた。彼の腕に私の腕を絡めれば、視線を集めるのもあっという間だった。そうでしょう?私達、とってもお似合いのカップルなの。だから、近寄らないで遠目に見るだけで満足してね。

 

レヴィたちには少し悪い気もしたけれど、折角貰えた二人きりの時間だ。ましてや純粋な旅行だなんて、彼にとっても、私にとっても初めての経験だった。素敵な時間にしましょうね。そう思って、私はすぐさま彼の為にオーダーで作らせたスーツをプレゼントした。久しぶりに見た凛々しい彼の姿はやはり様になっている。貴公子然とした、彼の本当の魅力が私の胸を打った。清貧な格好も嫌いじゃないけれど、これはこれで素敵だった。

 

靴からハンカチーフまで、とことんまで選び抜いて着せ替え人形にしちゃったけれど、彼は文句ひとつも言わずに付き合ってくれた。終始ニコニコしていて、いえ…あれはどちらかといえば、ニヤケ顔ね。嬉しくって仕方ないのが隠せてない。自分のことをこんなにも考えてくれているんだって、そう思うと顔面の筋肉が緩んじゃうのよね。単純で、ホントに可愛いんだから…。もしかして誘ってるの?

 

…冗談はさておき。機能性度外視の、美しいだけの服で身を包んだ私たちは、ぴったりくっついた磁石みたいに離れなかった。食事も、入浴も、寝る時だって一緒で。文字通り独り占め。レストランも個室を選んだわ。彼は狭い場所の方が落ち着くから。ホテルのベッドは二つだったけれど、片方で遊んでから、汚れてない方で一緒に寝る為に二つ必要だったのよ。ローマと言えばテルマエだったけれど、赤の他人に裸を見せるだなんて以ての外だったから、結局ホテルの浴室で済ませてしまったのよね。

 

レヴィに教えられたジェラートとか、スイーツにしたって…彼、兎に角人酔いと胸焼けが酷くて。可愛そうで可哀そうで…それどころじゃなかったわ。折角教えてくれたのに、ごめんなさいねレヴィ。

 

でも、私は楽しいの。楽しんでるわ。だって彼が私しか見ていないし、私も彼のコトしか見ていないんですもの。はっきりと彼の視線を感じて、彼の視線をこんなにも長く独り占めできたことは無かったから。だから私、今とっても楽しいの。

 

数日の予定が伸びると聞いた時も、私は幸せを噛み締めていた。初日しかマトモに観光なんかできなくって、喧騒から逃げ出した彼を追いかけてヒールとドレスで走り回った記憶が鮮明に思い出されて…にゅふ…ニャハハハ!あはははッ…可笑しい!可笑しいわ!シンデレラを追いかけるのは王子様の方なのに、ね?

 

ふふ…うふふ…でもね、好いの。貴方はそれで好いのよ。私の可愛い可愛い王子様。私の臆病で可愛いペットなんですもの。隅でプルプル震えていたって怒らないわ。ごめんなさい。ごめんなさいね。そうよね、怖かったわよね。付き合ってくれてありがとう。優しい人。可愛い人。可愛そうな人。でも赦してね。一回やってみたかったの。貴方と腕を絡ませて、視線を感じて歩いてみたかったの。素敵な王子様を、この世界に見せびらかしてやりたかったの。だから、お願い。赦してね。

 

人は多いし、物乞いもスリも、押し売りも横行するような場所だものね。キラキラなだけの世界だなんて、やっぱりどこにもなかったわ。貴方みたいな敏感さんは、キラキラも眩しすぎて辛いし、暗い場所は怖くて不安で苦手だから。だから、ダメダメでも仕方がないことなのよ。何も悔やむ必要なんてないの。謝らないで。泣かないで。ほら、私が慰めてあげるから。怒ってないよ。不満なんてないよ。だって、ご主人がいるじゃない。

 

行く場所を変えればなんてことは無いの。明日は貴方の好きな腕時計でも見に行きましょうか?いっそのことスイスにまで行きましょうか。そろそろ薬だって切れる頃だものね。

 

ホテルに籠りっきりのイタリア旅行も、私は悪くないと思った。ここでしか食べられない物や、ここでしか見れない物や、ここでしか体験できないものだってあるけれど。日常の延長線上で右往左往しながらも、最後は私の腕の中に逃げ込んでしまう情けない貴方の姿が見れたから。臆病で卑屈な。そんな貴方がちっとも変っていないことを確認できたから。だから、何にも不満なんてないの。不安も何もないわ。寧ろ、まともに観光できていたら、きっと味わえなかった愉悦ばかりで。この快楽の右に出るものがこの世にどれだけあると言うのかしら。

 

貴方が私の全てを満たしてくれても尚、貴方のことだけは欲しくて堪らないまま。ずっとずっと飢えてるの。私の飢えを満たせるのは貴方だけ。

 

そうであるならば…折角の非日常を塗りつぶすように、日常を繰り返すことほど贅沢なこともないと思わない?

 

うふふ…私はね、思うわ。そう思うの。だから、楽しみましょうね。いつも通りに過ごしましょうね。いつも通りに起きて。いつも通りにご飯を食べて。いつも通りに私を抱いて。私が貴方を乗りこなしてあげる。楽しみね。代り映えのしない日常が。楽しみましょうね。短い間だけど、私が貴方を独り占めしちゃうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シェンホアと彼が二人きりで、観光そっちのけでホテルに缶詰めになっていた頃、今回の面倒のキーパーソンがようやくシシリーの土を踏んだ。

 

「クソ!クソ!もうおしまいだ!終わりだ!クソ!クソ!どうしろってんだ!まだ怪我も治ってねえってのにッ!ああぁッ!?メイドに撃たれた傷が痛むぜぇッ…ぐぅうぅっ…」

 

フルスモークのバンで運ばれて、フェリーから降ろされたのはストレッチャーに縛り付けられたヴェロッキオだった。ロアナプラでヴェロッキオファミリーを率いていたボスであり、ロアナプラの欧州勢力の利益を代弁する議員の一人だった。だが、それも今や過去のもの。水死体として海面に浮かぶ前に、熱々のコーヒーを淹れられるくらいカンカンになって怒っているパレルモの大物たちの留飲を下げるための生贄が、今の彼に与えられた最後の役割だった。

 

今日まで殺されることもなく、こうして無様を晒して生かされていたのは一重にその為だった。元部下は殆どが土の下。本国のヒットマンに殺られた者もいれば、例のメイドに殺されたものも多かった。同情する者もいたが、自分の親分の命運を握る様な、正しく神の如き存在には太刀打ちできなかった。パレルモの親分衆が一堂に会して、ヴェロッキオの弁明を聞くのも、結局はけじめと感情の整理のための出来レースでしかない。ヴェロッキオに無残な死が待っていることは誰の目から見ても明らかだった。

 

トカゲの尻尾切りのために選ばれたのがヴェロッキオだっただけで、彼自身もまた、これまでに数多の尻尾を切り離して生き残って来たのである。因果応報と言う言葉の好むと好まざるとは別として、同情するにも後味が悪いものだった。

 

パレルモ港からヴェロッキオを載せた車が移動を始めると、衛星の監視と共に、尾行車両が一定の距離を保ちつつ、ランダムに入れ代わり立ち代わりこれを追跡した。向かった先は郊外に程近いオリーブ畑、その隣の寂れた民家だった。一度も止まることなく、小路を幾つも経由しつつも辿り着いた先で、ヴェロッキオは護衛兼監視者たちに囲まれて、緑のカーテンが周囲からの視界を遮る家屋の中へと運ばれていった。

 

今朝方一報が入り、この地に大物が集っていることは確認済みである。あとは如何に徹底的に彼らに地獄を見せるか、それだけだった。

 

ヴェロッキオの降車を確認した監視班は即刻バラライカへと通信を発した。

 

「突入準備を」

 

わかった(ダー)

 

短い会話だったが、その一言で全てが一斉に動き出した。

 

家屋を全包囲するように防弾仕様のバンが敷地内に乗り付け武装した要員を吐き出した。他の軽車両が家屋に通じる通路という通路を塞ぎ、同時に工事の業者を装った偽装攪乱班が電話線を切断し、家屋に設置された野外アンテナを破壊した。

 

これでこの家屋周辺地域は完全に隔離されたことになる。隠し通路の有無は確認されていなかったが、どのみち昨晩から展開されている要人略取作戦で大物の親族から友人まで、片っ端から拘束する腹積もりだった。ここで仕留められなければ、後で仕留めるだけ。容赦も油断もありはしない。

 

「狙撃開始」

 

ポランスキー曹長の命令で狙撃が開始され、家屋の周辺に展開していた歩哨は数分とかからず地に伏せた。駐車してあった車両は全てを走行不能とし、全ての障害を取り除いたことを確認した後で、ポランスキーはカラビニエリに()()()()()()()()()()()()()()ことを報告した。これで下準備は整った。

 

大尉殿(カピターン)、ご下命を」

 

曹長からの熱望にバラライカは受話器越しに肯じた。

 

「…現時刻を以て作戦を開始する。抵抗する者には容赦するな」

 

了解(ダー)!回線開け!突入!突入!」

 

インカム越しに聞こえてきた命令に従い、周囲のオリーブの畑や生垣、塀越しに待機していた武装要員が一斉に突入を開始した。戸を蹴り破る音が響き、間髪入れずに投げ込まれた手榴弾により阿鼻叫喚の声が上がった。

 

「ポランスキー、メイドが出るぞ」

 

真後ろから聞こえてきた声に振り返れば、軍装に身を固めたバラライカが立っていた。

 

二挺拳銃(トゥー・ハンド)とはご一緒ではないので?」

 

ポランスキーが問えば、バラライカは肩を竦めた。

 

「レヴィなら飛び込んでったわよ。イディスは外部との調整中で忙しいの」

 

「では、メイド単独ですか?」

 

「ええ。臭いを辿って隠し通路を見つけたみたいね」

 

常識外れの返答に流石のポランスキーも息を呑んだ。軍用犬じゃあるまいし…。

 

「それは、また…驚異的な…」

 

「同感だわ。敵じゃなくて大変結構…さっさと終わらせて彼を迎えに行きましょうか」

 

「はッ!」

 

背筋に鉄の芯が入った見事な敬礼に、バラライカは満足げに答礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラライカが指揮所に詰める中、前線では室内戦が展開されていた。先頭を走るのは遊撃隊(ヴィソトニキ)だったが、真っ先に地下室に通じる隠し階段を発見したのは、入り組んだ室内で近道を見つけては敵に喰らいついていたレヴィだった。

 

「姐御!見つけたぜ!地下室だ!」

 

「部隊を下ろすわ。待てるかしら?」

 

「待てねえな!」

 

「だと思った。怪我だけしないでね」

 

「ったりめえよ!」

 

バラライカと無線でのやり取りを終えたレヴィは、小さく開けた隙間に、バラライカから餞別代わりに受け取った手榴弾を投げ込んだ。

 

「ぎゃああああああ!?」

 

破裂音から一拍置いて、階下からの悲鳴に遊撃隊(ヴィソトニキ)も駆けつけたが、それより早くレヴィが突っ込んだ。

 

「お先!」

 

悲鳴に集まったのは下でも同じだった。手榴弾で手足や目を負傷したマフィアの構成員たちがのた打ち回って叫んでいた。レヴィの獲物は、そんな負傷者を助けようと駆けつけた兵隊アリだった。

 

「女だぞ!」

 

「ぐぁ!?なんて身軽さだ!弾が当たらねえ」

 

遮蔽物を見つけては隠れて撃ちまくり、後から後から追いついてくる遊撃隊(ヴィソトニキ)の側面からの援護射撃を恃みに、命知らずに飛び出して踊るように攪乱する。レヴィの姿は生き生きとしていて、動きに淀みと言うものが無かった。殺しに掛けても磨き抜かれた天性のものがあり、銃を使えばそれは研ぎ澄まされていき、弾丸がまるで敵に吸い込まれていくようだった。

 

カトラスをぶん回すの言葉通りに、レヴィは背中や側面にも目がついているかのように、両手に握られた銃を自由自在に扱った。彼を守るために殺しを磨いた成果を、こうして達成感と共に実感する瞬間は、同時に自分と言うものがやはりマトモではないことをも実感する。改めて、狂っていることを知らしめながらも、そのことに愉快な気分にさえなって来るのだからレヴィは正しく無敵だった。

 

血塗れの足跡を通路に点々と残しながら進めば、ようやく突き当りに辿り着いた。

 

「一足お先に失礼しておりました」

 

「流石だぜ、眼鏡メイド」

 

「今は兵隊(サルダート)ですのよ」

 

そこには椅子と巨大な卓を囲む様に、マフィアの重鎮たちが勢揃いしていたが、既に護衛に息はなく。蜂の巣にされた死体や頭が弾け飛んでいる死体が無造作に転がされていた。部屋の中をぐるりと見渡せば、壁には派手な血糊と弾痕が横一線にまき散らされ、床には無数の空薬莢と機関銃を搭載した鞄が役目を終えて転がっていた。血潮を浴びて黒く変色したメイド服に身を包んだロザリタが、愛用のガバメントを両手に握り、静かに佇んでいた。

 

「イイもん食ってんな…旨かったか?え?」

 

卓の上で振る舞われていた親分衆お手製の家庭料理の数々は、血に塗れて酷い匂いを放っていた。料理の匂い。オリーブの香り。血の臭い。蝿が悠々と飛び回っていた。レヴィが床に唾を吐き捨てた。口の中が埃っぽかった。

 

二挺拳銃(トゥー・ハンド)!?どうしてここに居やがる!?」

 

驚いたのはヴェロッキオだった。彼の声に幹部の厳しい視線が集まるが、責任の押し付け合いをしている場合ではなかった。それどころではなかった。

 

「おうヴェロッキオ、なんだ手前まだ生きてやがったのか…」

 

「う、うるせえ!俺の質問に答えやがッ!?もご、もごご、むぐぅ~~……」

 

「ご主人様は仰いました。もしも誰かを傷つける必要がある時は、出来る限り自分の心が傷つかないように、一方的に語り、一方的に殺しなさいと。無用な痛みを与えずに、淡々と殺しなさいと。憎しみも恨みも籠めずに…と。まあ、逆を言えば心が傷つくことさえ無ければ、痛めつけても構わないのだけれど…」

 

ロザリタはそう言って、手始めにヴェロッキオの口にタオルを詰めた上からガムテープで塞ぐと、次から次へと大物たちの口を物理的に塞いでしまった。レヴィはその様子を、空いた椅子に逆座りしながら太々しく煙草をふかして、退屈そうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙が支配する頃、複数の足音と共に軍のコートを羽織ったバラライカが現れ、続いてPMCエージェント然としたラフな格好の上から防弾チョッキを胴に巻いた姿で、関係各所への調整を終えたイディスも入室した。

 

「…」

 

「皆さまお揃いのご様子ですわね。大変結構。さて…入ってらっしゃい」

 

居並ぶ面々を見渡してから、バラライカは廊下に向けて声を掛けた。

 

「…~~~ッ!?」

 

「こいつらのこと、知ってるわよね?」

 

続々と室内に運び込まれていく人。人。人。念入りに手足口を拘束されているせいで、呻き声さえ静かなものだ。

 

室内に入りきらない程の人数が、運び込まれた。無理矢理に詰め込むために、篝火の為の薪の様に積んでいくと、いよいよ大物たちの顔が真っ青を通り越して白くなり始めた。

 

「おい!エダ、こんだけの人質どうやったんだ?今日の今日だろ?」

 

「昨日の内にとっ捕まえて、大型ヘリで運んできた。飛行許可も貰ってて山火事の防災出動訓練って体だよ。出来立てほやほやの人質をお届けだ。これでも全部じゃねえからな。本土の方はまだ手つかずだ」

 

「やるじゃねえか…」

 

壁を背にタバコをふかしながら、レヴィとエダが世間話がてらそんなことを話していた。

 

だが、そこでは終わらなかった。バラライカはこの静寂が支配する部屋に、絶望さえも持ち込んだ。

 

「お二人さん、貴方たちの出番よ」

 

「なあに、おばさん」

 

「なにかしら、おばさん」

 

「おばさんは余計ね…まあ、いいわ」

 

バラライカは言葉を切ると、人質を一瞥した。目は半目で、なんとも無関心な色をしていた。

 

「ヘンゼル。グレーテル。この部屋にいる人間に、見覚えはあるかしら?」

 

屈みこんで、双子と目線を合わせたバラライカがそう訊ねた。

 

「そこの部屋の隅にいる人たちは知ってるよ。でもそれがどうしたの?」

 

「あそこの人も知ってるわ。でも…おじ様たちがどうしてここに居るのかしら?」

 

彼女の質問に、双子は素直に答えた。きょとんとしていて、とても酷いことをされたことも、辛い目に遭ってきたことも、根に持っているようには思えない。

 

人間は信じたいものを信じる。見たいものを見て、聴きたいことを聴く。そう言う生き物だ。

 

だから、ちらりと横目で見た時に、双子がおじ様と呼んだ男たちが、安堵の表情と侮蔑を込めてほくそ笑んだことに、バラライカは虫唾が走るような思いがした。吹っ切れたとも言える。お陰で、心穏やかに彼の元に帰る事が出来そうだ。

 

「ふふふ…ねえお二人さん。聴いて頂戴。大事なお話があるの」

 

「「なあに、おばさん」」

 

バラライカは、年相応の包容力に満ちた声で双子に語り掛けた。

 

「ここに居る人たちはね、とってもとっても悪い人たちなのよ」

 

「どうして?何か悪いコトでもしたのかな?」

 

ヘンゼルが問うた。

 

「ええ、とってもとっても悪いことを仕出かしたのよ」

 

「どんなことをしたのかしら?私とっても気になるわ」

 

グレーテルがニコニコしながら無邪気に訊ねた。

 

バラライカはにっこり笑って吐き捨てた。

 

「この人たちのお陰でね、貴方たちの大切なお兄さんは、貴方たちの見えないところで毎日毎日泣いているのよ」

 

「「……えッ…ぁ…ぇ…え?」」

 

双子の動きがぴたりと止まった。バラライカは二人の肩に手を置いて、言い聞かせるように、ありったけの私情を籠めて二人に言った。

 

「この人たちが貴方たちに不愉快な、赦しがたいことをしてきたせいであの人は辛くて辛くて仕方がないの。貴方たちが酷い目に遭って、痛い思いをして、無理矢理に犯されてしまって…大切な貴方たちを壊した人が、壊れずに、何も壊されずに、優雅に楽しく幸せに、家族まで作って、子供まで抱いて、そうやってのうのうと生きていることに堪えられないのね。貴方たちのことが大切であればあるほど。貴方たちのことが愛おしいと思えば思うほどに。あの人は、貴方たちの過去に縛られてしまうの。貴方たちの過去に苦しめられて生きて行かなくちゃならないの。それって、とっても可哀そうだと思わない?可愛いあの人が、そんなにも苦しい思いをするだなんて…赦しがたいことよね。不愉快で赦しがたいことだッ……って、心底そう思うわ。あくまでも、私の意見だけれど」

 

「「…………」」

 

双子は見たことのない表情をしていた。彼を救おうとした時が思い起こされる、あの必死な表情にも似ている。涙を一杯に溜めていて、子供らしく震えていた。きつく握り締めた手もわなわなと震えていた。ヘンゼルもグレーテルも、今すぐにでも髪を掻き毟り、耳を塞いで、部屋の隅に体を押し込んでしまいたかった。

 

言葉が喉をせり上がって、使ったことも無い、何と言えばいいのかよくわからない感情ばかりで、胸が苦しくて、息がつまって吐きそうだった。

 

無理矢理に引き絞られた言葉は二人とも同じだった。

 

「お、にい、さん」

 

「お、にい、さん」

 

「おにい、さん」

 

「おにいさん」

 

「お兄さん」

 

「お兄さん」

 

「お兄さん」

 

「お兄さん」

 

「お兄さん」

 

「お兄さん」

 

「お兄さん」

 

「お兄さん」

 

「お兄さん」

 

 お兄さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラライカは立ち上がった。ハンドサインで部下を下がらせた。撤収の合図だ。世話役のロザリタだけを残して、バラライカとレヴィとイディスも引き上げる。

 

この部屋には双子とイタリアン・マフィアの重鎮たち、ヴェロッキオたち今回の件に関わった幹部連中、そしてルーマニアに本拠地を構えていた裏ビデオの販売元の構成員たち、元締めのおじ様方。そして彼らの妻子、両親、叔父、叔母、いとこ、はとこ、飼い犬、飼い猫に至るまで…。

 

つまりは、双子と、()()()()だけが残された。ロザリタが部屋から出てドアの前に立つと、双子はようやく顔を上げた。俯き、床に見つめられていたその瓜二つの相貌が、()()()を上げる者たちへと向けられた。

 

「ねえ、姉様…僕ね、変なんだ…」

 

ヘンゼルが言った。

 

「ここに居るおじ様たちのことが、とってもとっても憎いんだ」

 

ヘンゼルの瞳は憎悪に歪んでいた。泣いているような、怒っているような、子供らしい表情だった。

 

「兄様、私もよ。私も同じなの。お兄さんのことを考えるとね、胸がきゅうって締め付けられて、とっても痛いの」

 

胸を抑えて、息が詰まるのを隠し切れないグレーテルが言った。

 

「ふふふ…姉様、それはきっと恋ってやつだよ」

 

「あら、兄様は違うのかしら?」

 

「ううん。一緒さ。一緒。一緒だよ」

 

双子は、ふとこの場にはいない彼に思いを馳せた。無邪気な表情は愛らしかった。手を重ねて、見つめ合って、双子は鏡合わせの自分に笑いかけた。

 

二人の脳裏には、全く同じ彼の姿が思い出されていた。優しくて、壊れていて、狂っていて、愛おしい三人目にして唯一の人。

 

「姉様、お兄さんは教えてくれたでしょ?悪いコトは嫌いなコトで、正しいコトは好きなコトだって」

 

「ええ、教えてくれたわ。私と兄様が好きなコト。全部全部、受け入れてくれるって言ってくれたの」

 

頬を寄せて、二人は囁き合った。内緒話だった。誰にも教えたくない、二人だけのトクベツだから。

 

「そうさ、お兄さんはそう言ってくれた。なら…僕も、お兄さんの好きなコト、嫌いなコト。全部全部受け入れたいな」

 

「私も同じことを考えていたわ。私、お兄さんのことが好きなの。だからお兄さんは正しいコト」

 

「僕もお兄さんが大好きだよ。だからお兄さんが好きなコトは正しいコト。じゃあ、お兄さんが嫌いなコトは?」

 

はたと、二人は現実に引き戻されたように、きょとんとした表情を浮かべた。ついで、美しい顔が恐ろしいほどに歪んだ。

 

「兄様、そんなの決まってるわ!お兄さんが嫌いなコトが悪いコトだわ」

 

「そうだね。そうに決まってるね。絶対絶対そうなのさ…じゃあ、これまでのコトは全部全部悪いコトだったんだね…」

 

再び頬を寄せ合うと、手を握り合い、強く強く確かめ合った。目には、煌煌としたものが宿っている。人はそれを意志の光と呼ぶ。

 

「ええ、そうね…お兄さんを傷つけるもの、苦しめるものは、私も大嫌いだもの」

 

「じゃあ、ここに居るおじ様たちは、みんなみんな悪い人たちなんだね」

 

ヘンゼルがギロリと、路傍の石でも見るような無機質で冷たい視線を向けた。人質たちはいよいよ、この双子の非常なるを理解し始めた。己の運命が、決して芳しいものではない事さえも。

 

「そうだったのね!知らなかったわ…じゃあ、兄様、私ね、考えたのだけれど…」

 

「姉様、実は僕も考えてたんだ…」

 

双子は手を離し、部屋の隅のトランクと大型の楽器ケースから、それぞれ得物を取りだした。

 

「悪い人も悪いコトも、全部全部お兄さんが嫌いなコト」

 

「嫌いなコトは、不愉快で赦しがたいコト」

 

コツコツと音を立てながら、焦らし、恐怖で顔が引きつるように、凶器を見せびらかしながら二人は部屋の中を歩き回った。どれもこれも、おじ様たちが自分たちにしたことだ。おんなじことを返してあげる。ただそれだけ。

 

あの場所にいた、たくさんの無垢な子供たち。全部全部、自分の中に抱えて生きてきた。生き残ってしまった。何度も何度も何度も。そして生き残った二人は、彼と出会った。そろそろ、その身に抱え込むには重すぎる荷を、降ろしたって好い頃だろう。

 

「ねえ、姉様…覚えてる?あの日、お兄さんが僕たちに言ってくれたこと」

 

「兄様、勿論よ。忘れる訳が無いわ」

 

「「君たちに、この世界がした仕打ちと同じことを、全部この身に教えてくれ」」

 

輝くような笑い声を上げた。無邪気な、鈴を転がすような大笑いだった。可愛くて、可愛くて。きっとこの場に彼がいれば、二人のことを腕の中に閉じ込めてしまって、抱き締めて離さなかっただろう。悪いヤツには勿体ないから見せたくないんだと言って。

 

「「アハハハハハハ!!!」」

 

だが、生憎と彼はこの場にいなかった。

 

「おっかしいんだ!なんで言えちゃうんだい、姉様ったら、お兄さんのことが好き過ぎだよ!」

 

ヘンゼルが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()笑った。

 

「うふふふふ…兄様だって!あの時のお兄さんに見惚れてたクセに!」

 

グレーテルが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()笑った。

 

「あははは!あははは!うふふ…ふふふ…ね、ねえ、()()?」

 

「ウふふふ…うふうふふ…あっははははは!あはははは!なあに、()()?」

 

二人の笑いは突然止み、首がグリンっとおじ様たちの方を向いた。視線は不躾に、品定めするフクロウの様に部屋の中を巡った。二人は冷たい息を吐いた。

 

「邪魔だね」

 

「うん。邪魔だね」

 

顔を見合わせて頷いた双子はそう言って、自分の得物を握りしめた。

 

「嫌いだわ。憎いの。ゆるせない」

 

「お兄さんに、あんなことを言わせたことも。あんな目に遭わせてしまったことも」

 

ヘンゼルとグレーテルが、互いの目元から涙を掬いとった。

 

「私たちは生まれ変わったのよ、兄様」

 

「そうだね、姉様。じゃあ、要らないね」

 

双子はニコニコと笑った。日向でぽかぽかと微睡んでいる猫の様に。

 

「お兄さんがもう二度と苦しまないように」

 

ヘンゼルが徐にフランキスカと銃を捨て、代わりにネイルガンと電動ドリルを手に取った。

 

「お兄さんがもう二度と悲しまないように」

 

グレーテルもBARを壁に立てかけると、手袋をはめてから電動サンダーとバッテリー液を手に取った。

 

「「全部全部殺さなくちゃ」」

 

「「()たちに、この世界がした仕打ちと同じことを、全部その身に教えてあげる」」

 

二人はもう、互いのことも、おじ様たちのことも視えていなかった。そこにいたのはあの日の自分だった。双子は必死に思い出していた。あの日から続いて来た苦痛の日々を。もう二度と魘されなくて好いように。もう二度と繰り返さなくて済む様に。もう二度と恐れることが無いように。もう二度と、彼以外に縛られないように。もう二度と、彼のことを縛らないように。

 

もう二度と、もう二度と思い出さなくて済む様に。

 

「お兄さんを苦しめる私も」

 

「お兄さんを悲しませる僕も」

 

「「ここに置いて行かなくちゃ」」

 

「「覚悟(準備)は出来てる?」」

 

「「()は出来てる」」

 

目の前に立ち塞がる運命は驚くほどに残酷で、運命の導き手は信じられないくらい幼い子供だった。人質たちは今更になって神に祈り、憤慨し、悲しみ…あー…面倒臭いので割愛する。死ぬんだよ。諦めろ。お前ら全員死ぬんだよ。無様に死んでくれ。痛がって苦しんで、生まれてきたことを後悔してから死んでくれ。

 

そうすれば、彼の心も穏やかだ。彼の心が穏やかになれば、双子の心も穏やかだ。

 

なら、それでいいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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