ロアナプラより愛をこめて   作:ヤン・デ・レェ

25 / 36
Jihad for whom

 

 

 

 

 

「おいロック!レヴィ!聞いたかよ、あの話」

 

この日のイエローフラッグはやけに空いていた。カウンターの席に思い思いに腰かけた、仕事終わりのラグーンの面々に酒を配ると、マスターのバオがロックとレヴィに興奮気味に話を振った。

 

「バオ、あの話って…?」

 

「どうしたバオ、悪いもんでも食ったか?朝から顔が青いぜ?」

 

ロックがグラスを置いてバオの方を見ると、足を組んで優雅にラムを啜っていたレヴィが片眉を上げて言った。

 

「そりゃブルーにもなるぜ…てめえらも、新しく来たロニーを知ってんだろ?」

 

バオが疲れたような表情でグラスを磨きながら言った。

 

「ああ、そりゃな。ヴェロッキオの後継だろ?」

 

レヴィの言葉にバオは頷く。

 

「そいつだ。そのロニーがロアナプラに尻拭いに呼ばれた矢先に、肝心の本国の親分衆が消えちまったのさ!」

 

バオの脅かすような声に、一拍置いてレヴィが反応した。

 

「はぇ~…そいつぁ物騒だな」

 

「消えたって…どこで?まさかここじゃないだろ?」

 

淡白なレヴィに対して、ロックは驚愕で言葉が出なかった。カウンターの上で、ロックがバオに顔を寄せた。

 

「ロアナプラじゃねえ!ヨーロッパでだ!シチリアの大物が皆まとめて綺麗さっぱり消えちまったのさ!家族ともども、煙みてえにな…」

 

「…不気味な話だ」

 

バオが器用に小声で叫ぶと、ロックは口元に手を遣った。

 

「そんで?海に浮いてやがったのか?それともバミューダトライアングルにクルーズにでも向かったってのか?」

 

真剣なロックとは反対に、レヴィはそんなふうに茶化したが、当のバオは顔が青いままでぼそぼそと続けた。

 

「ああ…話はこっからだ。なんでも、シチリアの外にゃロニーも含めてボスの椅子に腰を据えられるだけの幹部が数人残っていやがったんだが、案の定ドンパチを始めるかと思いきや…どうにも内部の犯行じゃねえってことで、コーザ・ノストラの存続の為にも、一致団結したそうだ」

 

寝耳に水である。狂暴なマフィアが一致団結など、それこそ合衆国の共和党と民主党が和解するのと同じくらいあり得ない。

 

「イタリア野郎が殊勝じゃねえか」

 

「抗争する余裕すらないってことか?」

 

感心したようにレヴィが言うと、ロックは的の得た推測を立てた。ロックの考えに、バオは神妙に頷いた。

 

「ああ…ま、実際のところは身内で椅子の取り合いすら出来なかったのさ。んな余裕は吹き飛んじまったんだ…」

 

手元で磨いていたグラスに視線を落したバオは言いにくそうだった。

 

「へえ…何があったってんだ?スーツを着たパスタ野郎共がこぞって団結を叫ばなくちゃならねえ事情ってのぁよ?」

 

レヴィが先を促すと、バオは店内を小さく見回してから、ロックとレヴィの耳元に口を寄せた。

 

「…見つかっちまったんだよ」

 

「何が?」

 

「変わり果てた親分連中とその家族だよ…」

 

「…ッ!?」

 

バオは目を細めてぼそぼそと呟いた。ロックが息を呑み、目を見開いた。

 

「へぇ…変わり果てたってのは、カタギにジョブチェンジでもしてたのか?エプロンを着てスーパーマーケットでレジ打ちでもしてたってんならお笑い草だぜ?」

 

「ははは…確かに、落ちぶれ方がハンパじゃないね」

 

レヴィが手振りを交えておどけると、合わせるように笑ったロックだが、不覚にも想像したら可笑しかった。あまり深刻に考えていない二人にジト目を送りつつも、バオは続けた。

 

「はぁ~レヴィ、こんにゃろう、わかってねえなあ?…そうだったら幾分っかマシだったのさ。なんでも…郊外の民家の地下室にすし詰めにされてたそうだ」

 

呆れたようにため息と共に吐き出された情報は想像通りだった。どっちみち、海の上か山の中だと想像がついていた。

 

「ほぉ~…イタリアン・マフィアの大物を塵取りでまとめて浚ったクソ度胸の持ち主がいるってこった…」

 

「なんて命知らずなんだ…でも、どう考えても一人じゃできっこない…」

 

出来るできないはともかく、それは困難に違いなかった。ロックの思考は急速に下手人側へと傾いて行った。自分ならどんな計画を立てるだろう?そのための必要条件は?

 

「あぁ…そんでな、ロニーたちが汚職警官からタレコミを受けて向かった時にはよ、地下室全体が血の海だったそうだ…散らばってたのは拷問器具や電動工具に薬莢が色々と…」

 

「デスゲームの後みたいだ…」

 

ロックの表現は言い得て妙だった。バオは頻りに頷いたが、レヴィは軽く息を抜くと酒瓶に手を伸ばした。

 

「血の海なんざよくある事さ。この業界じゃあ珍しくもねえ」

 

レヴィが手酌でラムをグラスに注ぎながら言った。興味を失ったのか、投げやりな言い方だった。だが、バオの話には続きがあった。

 

「それがよ、今回は手口が違うのさ。子供が遊んだ後みてえな…その…散らかりようだったのさ。細かいことは知らねえが、バラバラにされた挙句、バーベキューで焼き過ぎた焦げた肉みてえに真っ黒なのがゴロゴロしてたってよ…お陰で死体の半分以上が身元不明扱いだ…とにかく、酷い有様だったそうだぜ。女子供も犬猫もだぜ?きっと、イカレポンチのジェイソンがやりやがったに違いねえ…せめてもの救いは、これが別の組織絡みでも、戦場になるのはヨーロッパの連中のシマだってことだけだ」

 

「そいつは酷いな…」

 

惨劇の跡を想像することはお勧めできなかった。ロックは想像して直ぐに、ここまで詰め込んだ酒を戻しそうだったが、同時に怖いもの見たさのような気持ちが湧いた。もしも自分が現場にいて、そこでは何を見たのか。何を見ることが出来たのか。何が起こったのか。見ればわかるかもしれない、と。

 

「へッ!拷問なんざ連中だって得意分野だろ?身内の裏切りじゃねえなら、他所の連中がナワバリ欲しさに見せしめにしたのさ」

 

レヴィは何処か遠くを見つめて固まったロックを脇目に一瞥すると、アウトローの世間一般のこの事件の背後関係への見解を述べた。それは正しく、否定される為の意見だった。

 

「ああ、全くそうだったなら話が早いぜ。だがな…現に、コーザ・ノストラに戦争を仕掛けてきた連中は誰もいねえのさ」

 

「そいつは妙な話だ。ナワバリを広げるのも奪うのも、新興勢力なら今を逃す手はない」

 

案の定乗ってきたバオとロックに、レヴィはニヤリと笑い、言った。

 

「なら、ビジネスじゃねえってワケだ…」

 

剥かれた白い犬歯が口角から覗けば、噛み合う歯列がエロティックに軋んだ。

 

「それだ…でも、だとすれば何のために?」

 

レヴィの言葉に、まるで自分の言葉の様に納得したロックとバオが顔を上げた。

 

「その通り…そんで、こりゃ仕事じゃねえ、怨恨だってんで…ロニーたちは報復と、組織の立て直しの為にピリピリしてやがるのさ。下手人探しも上手くいってねえらしい。片っ端から手を付けちゃいるが、その所為で本国でもここ(ロアナプラ)でもかえって身動きが取れなくなってる」

 

バオは迷惑だとでも言うような口調だった。実際客入りが突然遠のいてから既に一週間にもなる。

 

「スーツなんか着るからだ。オリーブ・ジャンキーの連中にゃいざって時、血流が悪くって頭脳労働なんか向かねえのさ。アウグストゥスとシラクサの数学者を見習って、襟の緩いトーガでも着るのが身のためだ」

 

レヴィは退屈そうな表情を緩めると、半開きの眼で鋭利な瞳を誤魔化しつつ、楽し気に語った。

 

「レヴィ、誰がどこで聞き耳を立ててるかわからない…その、笑えない冗談だよ…」

 

ロックがそう言って窘めたが、当のレヴィはこの特殊な土地の道理を説いた。

 

「知るかよ。本国の命令ならともかく、本国での問題をこっちに持ち込むのは話が違うってだけさ。ロアナプラは生煮えがベストなのさ、理解したか?OK?ロック」

 

無用な抗争も、壊滅的な諍いも望んではいない。安全な刺激が必要なのであり、過度のスリルは健康に悪い。それは望まない。少なくとも彼も彼女たちも望んでいない。つまりはそれが、この街の陰の支配者たちの総意だった。

 

「お、オーケー…オーケー」

 

「珍しくレヴィが正しいぜ、一本取られたなロック?」

 

レヴィに道理を説かれてたじろいだロックを、三人の会話を横で聞き流していたダッチが茶化した。

 

「あぁ~…続けるぞ?…人も物もコネも金も足りないってんで、連中はロアナプラでもかなり際どい動きを見せてんだ。煽りを食らってどこもかしこも沸騰寸前だ。俺の店もガラガラなのは連中がはしゃいだお陰でな。全くありがたいね」

 

「だったらあたしら大事なお客様にサービスの一つもしたらどうだ?」

 

ぼやくバオにそう言うレヴィだが、バオは悪びれもせずに言った。

 

「イエローフラッグは常連にもサービスしないのが伝統でな」

 

「客が来ねえのはなにもコーザ・ノストラの連中の所為だけじゃねえってことがはっきりしたぜ」

 

バオの答えにレヴィが詰めるが、かくいうバオからすればこの土地で愛想を振りまくなんざ、愛と正義を説くのと同じくらいに考えていた。

 

「俺が愛想を振りまいたって、まともな客が来るかよ」

 

「言われて見りゃあそうだな」

 

レヴィの辛辣な肯定にバオはため息をついた。

 

「はあ…どこもかしこも景気の悪い話ばっかだぜ…」

 

客入りが悪いだけならまだしも、近頃はアラブ人も多く見るようになっていた。各国の諜報員に加えて、ヒズボラなどの武装勢力の構成員も自由に行き交っていた。CIAの庭でこのような状況が長く続くことは、あまりいい傾向ではないことなど言うまでも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!レヴィ!電話だ!」

 

ロックとレヴィが元の席に腰を落ち着けて酒を飲んでいると、ついさっき席を立ったダッチが受話器を掲げてレヴィを呼んでいた。

 

「ダッチ!誰からだ?」

 

「三合会からだ!張の旦那がお前に話があるとよ!」

 

「あたしにぃ?」

 

「ご指名だ」というダッチに首を傾げるレヴィ。ダッチは視線をレヴィの横のロックに向けると、店の外を指して言った。

 

「ああ。ついでにロックも連れていけ」

 

「ええ!?なんでだよ、めんどくせえ」

 

交渉事(ネゴシエーション)の場数を踏ませなくちゃあな。従業員の技能習得を促すのも雇用主の役目だぜ?アットホームな職場は嫌いか?」

 

レヴィの気怠い反駁にも、ダッチはクールに対応した。雇用主としての顔を出す時は決まってる。こういう時、ダッチは譲らない。

 

「しゃあねえーなー…ロック!車を回してくれ」

 

「え?あ、わかったよ!」

 

諦めたのか納得したのか。レヴィはグラスに残った酒を飲み干すとグラスを叩きつけ、反動任せに立ち上がった。

 

ベニーから車のキーを渡されたロックは急いで立ち上がると、キリキリと先を行くレヴィの後を追って小走りで彼女に続いた。

 

「…張の旦那から話、ねぇ…」

 

二人の乗る車がタイヤでアスファルトを削る音と共に走り去ってからしばらくすると、ダッチが徐にそう呟いた。

 

「ダッチ…何だと思う?」

 

ベニーがダッチの懸念に応えるように問いかけた。

 

「さあなぁ…最近はトラブルもなく商売が回ってたんだが…」

 

「きな臭いね」

 

ベニーの言葉を肯定するように、ダッチは酒の入ったグラスを呷った。

 

「ああ…俺じゃなくて、レヴィを名指しだ」

 

「ロックを行かせて良かったのかい?」

 

「後でお話を聞かなくちゃだからな…少なくとも、ロックは正直に教えてくれるだろうぜ」

 

「レヴィが嘘を吐くって言うのかい?」

 

ダッチの疑わしい物言いにベニーは思わず高い声を上げた。ダッチの手が制するようにベニーの前に突き出された。静かに、と。

 

「いいや。ただ…レヴィはここにゃ根っこを張ってねえ。ロックとの違いはそこさ」

 

「…じゃあ、嘘はつかないけど、何か隠し事が?」

 

ベニーの言う隠し事について、ダッチもいまいちわかっていなかった。見当もつかないと言うのが正直なところだ。

 

「隠し事が悪いって訳じゃねえ。ただ、なんとなくな…。レヴィは腕も確かだ。仕事のときゃ見事な海賊っぷりだが、無闇矢鱈と得物を振り回すことも、脅しをかけることもねえ…変なのさ。歪と言ってもいい」

 

「アウトローにしちゃあ、確かにお行儀が好すぎるね…」

 

ロックが何時ぞやに感じた違和感と同じものを、ベニーとダッチもこの時、共有していた。ダッチは片手で顔を覆うようにサングラスの両端を抑えると、ぐいと押し上げた。

 

「ベニー・ボーイ、俺は何もアイツを疑ってる訳じゃねえ。ただ、アレは紐付きなのさ。どっかにリードが繋がってる。俺はそのリードの先にいる()()の勘気に触れちまうのが怖いのさ」

 

「驚いた…ダッチにも怖いものがあるとはね」

 

「俺はスーパーマンでもキリストでもねえのさ。怖いものくらいある」

 

ダッチがはっきりと怖いと言ったのを、ベニーは初めて聞いたかもしれない。だが、そういう瞬間は今までだってなかったわけじゃない。ナードなベニーが特別に憶病なわけではない。ダッチとて、恐怖を抱くのだ。

 

「…僕たちは、仲間だと思っていてもいいんだよね?」

 

ベニーが、ふとそんなことを口にした。それも仕方がないコトだった。信頼できない相手とは組むことなどできないから。

 

「ああ、そこは今まで通りだ。悩む必要なんざねえ。俺と、お前と、レヴィとロックの四人で楽しい海賊稼業に励んでいられるさ…巧妙に隠された地雷を踏み抜きさえしなけりゃあな…」

 

だが、生憎とレヴィとの付き合いも一年や二年ではなかった。時間は偉大だ。多少の違和感など塗りつぶしてしまう。それだけに、思い込みさえも強めてしまうのだが。

 

「脅すようなことをいうのは止してくれ…にしても、そうだったのか…でも、あのレヴィのリードは()()に?」

 

幾分か気が楽になったベニーが問うた。純粋な疑問だった。あのレヴィを、誰が御せると言うのだろうか。

 

「ホテル・モスクワ、か?或いは…」

 

「…ゴクリ」

 

ダッチは推測を並べる寸前で、自分がアウトローであることを思いだした。暇を持て余した男子校のノリを許される仕事ではないのだ。首を振り、ダッチはベニーを嗜めた。

 

「いや、止そう。こういうのは考えたら負けだ。気づいちゃならねえことは、そもそも考えることでさえ命取りだ」

 

「はぁ…そうか。そうだね。うん。もう考えるのは止そう!」

 

素直に受け止めたベニーに、ダッチも頷いた。両者ともに、鋭敏な嗅覚が生存本能に訴えかけていた。「余計なことは考えるな」と。二人は本能に忠実だった。

 

「賢明だぜベニー。バオ!俺と賢明なベニー・ボーイにボトルを追加だ!」

 

「おめでたい連中だぜ、ったくよお…『Early Times』でよかったか?」

 

バオから瓶を受け取ると、二人は今のグラスを空にした。危機管理の躾がなった者同士、ベニーとダッチは飲み直すことに決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先導の護送車と合流後、三合会の事務所に向かったレヴィとロックを待っていたのは、戦争前夜を思わせる厳戒態勢下での商談だった。

 

「張の旦那、出迎えが物騒だぜ。どいつもこいつもマシンガンを見せびらかしてやがる」

 

廊下にも、張が座るソファの後ろにも、壁際にも、ずらりとスーツ姿の兵隊が並べられていた。黒光りする軽機関銃を肌身離さず抱えていることからも、非常事態だということは一目でわかった。

 

「こっちにも已むに已まれぬ事情があるんだ。…よく来たな。二挺拳銃(トゥー・ハンド)、それとロックも。立ち話もあれだ、先ずは座ったらどうだ?ラグーンにはいつも世話になってる。茶くらい出すぞ?」

 

レヴィのご挨拶に、サングラス越しに笑って見せた張維新は、ロックとレヴィに革張りのソファを勧めた。

 

「あ、いえいえ、お構いなく…」

 

「ロック。お前のそういう日本人らしさは何時になったら治るんだ?」

 

ロックは銃を抱えた男たちに囲まれての商談に緊張感を以て望んでいたが、レヴィはそのガチガチの動きが、日本政府謹製のロボットの様に洗練されていて無機質に見えて、つい苦言を呈した。

 

「そう邪険にするなよ、謙虚なことは美徳だよ。この業界でも同じことさ」

 

「そうかい…ま、いいさ。んで?なんだい張の旦那。あたしをご指名とは、SMショーならお断りだよ?」

 

「俺が用があるのはガンマンの方だから安心してくれ。さて…前置きは無しだ。教えられることには答えよう」

 

張がロックのフォローに回り、争うでもなく大人しく話を進めることを選んだレヴィ。軽口を交えつつ、やはり物分かりが好すぎる彼女の姿が、ロックにはちぐはぐに感じられた。

 

「…じゃあお聞かせ願おうか…と、行きてえところだが。生憎自分が指名される理由にゃ興味が無いんでね。仕事の内容と報酬の話だけで構わねえよ」

 

「ならいいが…ネゴシエーションはそこの彼の仕事じゃないのか?」

 

張に指摘されてレヴィがロックに目を向けた。

 

「だってよロック?頼めるか?」

 

「え?ああ、任せてくれ…それでは、ミスター・張。本日は宜しくお願いします。早速ですが仕事内容と報酬に関してご説明をいただければと存じますが…」

 

レヴィが何の気負いもなく、自分のことを頼りにしてくれたことにロックは不思議と高揚を感じていた。自分の能力を必要とされていることに、戸惑いつつも、期待と達成感のようなものを抱いていることに、ロックはなんとなく照れくさくなった。

 

「えらい丁寧じゃないか、次からは略式で頼むよ。早ければ早いほどいいんでね…それはさておき、君は珍しいタイプだな」

 

ロックの口上を聴いて、張は薄く笑った。素直に感心しているのか、口調は隔意を感じさせないものだった。

 

「ここに来てからはよく言われます」

 

「だろう?…さて、仕事内容だが…コイツを見てくれ」

 

ロックの返答に満足したのか、張はそれ以上深堀せずにあっさりと切り上げた。

 

ドンと音を立ててテーブルの上に置かれたのは、一つの黒いアタッシェケースだった。張は紙巻のジタンを一本取り出し咥えると、腹心の(ビウ)が手早くライターで煙草の先を炙った

 

「つい先日のことだ。俺の忠告を無視して武器を売ってたバカを一人見つけたんで締め上げてやったんだが…ソイツが某国の諜報員でな…それ自体は問題なかったんだが、問題はコイツだ。書類を数枚、駄賃代わりに取り上げたんだ。だが、その数枚がとんだ厄介の種だったのさ」

 

アメリカ合衆国(アンクル・サム)のシフト表かなんかか?」

 

「もしもそうだったら、俺経由でとっくの昔に持ち主の元に返してたよ。そうでないとすれば…」

 

レヴィの問いに、張は落ち着いた声で、わざとらしく神妙な顔で応えた。張は深く吸い、ゆっくりと一度煙を吐くと、指に挟んだ煙草の先でアタッシェケースの中身を指しながら。

 

「その敵対者(ヒズボラ)のハイキング表だったのさ」

 

ロックの目が細くなった。レヴィは真顔のままだ。

 

「そんで?張の旦那は、なんだってそんな厄介の種を後生大事に抱えていらっしゃるんで?連中だって麻薬を売りさばいて金をこさえてんだ。払えるもんはあっただろ?売らなかった理由を聞きてえ所だ」

 

レヴィが両手の掌を天井に向けて、大仰な身振りで疑問を挙げた。ととん、と指先で軽く叩いてやり、張は灰皿に煙草の灰を落した。視線を集めてから、張はレヴィの疑問に答えた。

 

「焦るなよレヴィ。俺だって一刻も早く手放したかったんでな、持ち主に落とし物を教えてやったさ。良心的な値段設定だと思ったんだが…親切な俺に対して連中はぬかしやがった。『尻をローストされる前に失せろ』とな。だから俺も言った『なら()()を当たるよ』とな」

 

そして、背景を語った上で続けた。今度は、自分たちが置かれた状況についてだ。

 

「ラグーンのお二人さん…ロアナプラはエクストラオーダーとお宅らが殺り合って以来、ロシアの税関さながらに物と人の出入りに目を光らせてきた。武器と麻薬と、余所者には特にな。組織の別なく、これだけは協力してきたのさ…」

 

「だが」と前置きして張は続けた。煙草の煙がくるくると回り、視界の端で靄を張るように薄く伸びては消えていく。

 

「さっきの諜報員が武器を売っていたこと然り、この街に絶対はないんだよ。遅かれ早かれ連中はこの街に潜り込む。()()と言ったら他所(アメリカ)しかないのは必然だろ?金も支払わず、神の理屈にしか納得しない連中だ。持ち込めないならと、この街で武器を買い集めた挙句、派手にぶっ放すのは目に見えてる。俺はこの街を気に入っていてね…そこで頼みなんだが、コイツを買い手のCIA(カンパニー)の係官に届けて貰いたい。経費別で支度金は用意してある。()()()()()()()。レヴィにお任せ、と言いたいところだったんだが…今回は君たちにお任せと言うことになるな」

 

張の言葉は想定よりも遥かに深刻なものだった。だが、レヴィは動じていない。ラグーンでの行動ですらなく、アルバイトの域を越えているにもかかわらず、である。ロックは、そんなレヴィを横目に見つつ、今はネゴシエーターとしての自分の役割を果たすべく、努めて冷静に詳細を探った。

 

「…届け先の住所は?」

 

「…バシラン島のフィリピン軍基地だ。現地はアブ・サヤフと軍が挨拶代わりに鉛弾を投げつけ合う程度にはカッカしてるからな。もう何年も前からだが…お陰で彼ら(CIA)は限られた範囲でなら自由に動ける。現地に着いたら陸路で配達屋に合流してくれ。運転手と用心棒の二人組を用意してある。基地に辿り着けば後はこっちのものだ」

 

「期限はいつまでに?」

 

「今晩の深夜零時から二日以内だ。(海路)か、航空機(空路)か、(陸路)か…何でもいい、ピザが冷める前に届けてくれれば構わない。報酬は二人合わせて5万ドルだ。日給1万ドルの仕事になる。あくまでも成功報酬としてだが。経費は別に計上する。俺からは以上だ」

 

「…」

 

張はそれきり口を閉ざした。時間は有限だ。特に、この業界では。ロックはこの仕事を受けていいものなのか、果たして判断できそうになかった。だが、相棒のレヴィは受けることにも、受けない事にも心を向けていない。その内心が読めず、ロックは焦ってさえいる。だが、その上で、今の彼の中には大きな疑問があった。その疑問を解消できれば、或いはこの決断を下す為の納得が得られるかもしれない。ロックはそう考えた。

 

「ミスター・張、一つだけよろしいでしょうか?」

 

「構わないよ、ロック」

 

ロックが切り出したことに、張は驚かなかった。その童顔をサングラス越しに、温度のないものに換えただけだ。薄い笑いが張り付けられた表情に、レヴィは気付いて眉を僅かに寄せた。

 

「…どうしてラグーンではなかったんですか?」

 

ロックの疑問に、張はわざとらしく頭を掻いた。そして、話の流れをロックに戻さずに、レヴィへと投げた。

 

「レヴィ、指名の理由に興味はないんじゃなかったのか?」

 

張の言葉にレヴィは薄く笑ったが、内心では既に、目の前の男が何某かの暗い意図を以て自分を…ロックではなく、自分を招き寄せたのではないかと、動物的な嗅覚で感じ取っていた。具体的なことは何も分からないが、きな臭い。レヴィは、その違和感を感じた上で、敢えて乗ることにした。ただし、今ここではあくまでも抑制的に振舞うべきだろう。彼女はそう考えて、ロックに気付けとばかりに不躾な視線を送った。

 

「指名の理由は、な…だがまぁロック、知らなくていいコトは聞かない方がいいコトなのさ」

 

しかし、ロックは止まらなかった。レヴィの視線に気づかずに、否、気付いていたとしても前のめりに張に食って掛かっただろう。

 

「…ミスター・張、確実な仕事は確実な情報の上でこそ成り立ちます。どうか、教えていただくことは出来ませんか?」

 

「…いいだろう。バラライカも言ってたが、度胸があるというのは本当だったか」

 

「…」

 

張は意外にも、すんなりとロックの希望を受け入れた。レヴィはただ、黒々として平坦な瞳で見つめ、また冷めた思考で張の言葉に耳を傾けた。

 

「理由はシンプルだ。CIAのブラックリストに載っていないのが…ロック。君とレヴィの二人だけだからだよ。君は理解できる。日本人で、ホワイトカラーで、新入りアウトローだからな。ベニーはフロリダの大学時代にFBI経由でCIAにも認識されている。ダッチはロアナプラでの稼業からCIAの台頭とほぼ同時期からマークされている。俺だって例外じゃない。その点、レヴィは不思議だが…俺が知ってることが全てじゃない。それでも、パイプ役の担当官からは何も…つまりフリーでクリーンってわけだ。よかったじゃないか、なぁ?レヴィ」

 

張のレヴィに向ける視線は、試すような視線だった。それはロックにとっても何か、不安を喚起し、殊更に不愉快なことのように思えたが、顔には出さなかった。レヴィはぼんやりと浮き輪で水に漂うかのような表情で、張にもロックにも、まるで感情を読み取らせなかった。張に意趣返しをするように、薄く笑ってさえいただろうか。

 

「マークされていても、フツウの仕事をする分には問題はない。だが、現物を手渡す仕事となると話は別だ。フィリピン軍基地には目撃者(ウィットネス)が山ほどいるんだからな。いずれはジャーナリストの目に留まるかも分からない。アメリカは文民統制(シビリアンコントロール)の国だ。国民は自分の権利を守るために、銃を持つ権利を守るような連中だ。熱しやすく冷めやすい上に、正義が大好物のな」

 

レヴィの得体の知れない怖気のするような表情から、視線を先に切ったのは張だった。視線を切ると同時に、話の続きへと線路を接いだ。

 

「そんな連中が、CIAの係官とブラックリストに載る様な大悪党が仲良くブツのやり取りをしている所を見ればどんなことを感じる?どんなバカを考える?NYタイムズやBBCにすっぱ抜かれてみろ。写真が無くとも、国家には疑念だけで人を殺せる力がある。この場にいない奴も含めて、関わった全員の尻に火がつくことくらいは、麻薬をキメたムジャヒディーンでも理解できる。だから、後々追及された時に言い訳が出来るようにしなくちゃならない…CIAからもそう言う注文が来てる。本命に限って、ね」

 

ここにきて、張は冷たい眼でロックとレヴィを見つめた。彼の言いたいことは一つだ。しくじるな。そして、最早断ることは出来ない、ということだ。本命…その役目を放棄することは許さないと言う張の警句だった。彼は、ある意味で、暴力を背景に、ここぞとばかりに権力を行使した。三合会と言う巨大な組織の利益の為にと、この一件の規模をほんの一瞬で拡充してしまった。張個人の問題ではなく、である以上、断ったところで累が及ぶことは想像に難くない。そうなれば、張は笑顔でレヴィとロックを刺すだろう。

 

「つまり、俺たちが本命だと…」

 

自分の置かれた状況を理解した瞬間、ロックの脳みそは不可解にも興奮を覚えた。逃げられない、命懸けのギャンブルに、否応なく臨まされるというのに。だというのに、彼は今や生唾を呑み込んで、これからの展開に期待してさえいたのだ。そして、その彼の興奮を、張は目敏く嗅ぎ取った。ある意味で似ており、ある意味で決して交わらない両者の関係性が、この時ようやく地続きとなったのである。

 

「隠したところで意味はないな。そうだ。信じるも信じないも自由だが」

 

「俺たちはCIAが後々、言い訳をするにも都合が好いグレーゾーンにいるわけですね」

 

「ご名答。その通りだ。…まだ質問はあるか?俺としては一刻も早く動き出して欲しいんだが…」

 

「いえ、もう十分です。理解しました。ありがとうございます」

 

ロックは頷き、ふと隣の彼女に視線を送った。レヴィは腕を組み、目を閉じてソファに背を預けていた。最後まで緊張感がないままで、ロックは自分が変なのだろうか、と渋い顔で首を傾げた。

 

「よし、話は終わりだ。君たちの出発と前後して他にも囮を放つ。全てダミーだが、肝心のものが届かなければ意味が無い。頼んだぞ?」

 

「任せときなよ、チーズがとろけてる内に届けてやるさ」

 

後ろ手に、ドアノブに手を掛けたレヴィは、閉める間際にそれだけ言うと、ロックを連れて退室した。

 

「そいつは結構だ。実に、結構だ」

 

二人がいなくなった後。部下も退出し、腹心の(ビウ)だけが残っていた室内で、張はソファに腰かけて、煙草をふかしながら呟いた。彼の顔には、その童顔に似合わない狂暴な月弧が描かれていた。白い歯が覗き、実に心地よさげに。彼は張り詰めるような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…張アニキ…ヒズボラにはなんと?」

 

商談から数時間後、レヴィとロックが水上機の貸し出しを予約し、そのためのパイロットを雇い入れたという情報が、三合会事務所は張の執務室にまで届けられた。張の最側近として情報の取次と裏を取った(ビウ)が張に指示を仰いだ。

 

「部隊司令官に渡りを付けろ。レヴィとロックの動きを逐一向こうに流してやれ。金はもう受け取った後だ」

 

張は冷たくそう言うと、バスローブを脱いで水着になるとプールで泳ぎ始めた。夜景が映えるまではまだまだ時間があった。レヴィとロックは明朝には飛び立つだろう。

 

「…結局、どっちが本命なんですか?」

 

疑問に思っていたことが、(ビウ)の口を衝いて出た。声の発生源に目を向けた張の目は、サングラス越しに隠れていて何を考えているのか分からなかった。

 

「…とっくのとうに、本命はCIA(カンパニー)の手に渡ってる」

 

「えぇ!?じゃあ、アイツらに渡したのは?」

 

張の気のない声に(ビウ)の素っ頓狂な声が上がった。張は真顔で口元だけが笑った。

 

「全部コピーさ。既に金も貰ってる。ロアナプラのCIA担当官は優秀だ。影も形も掴ませてもらえなかったがね…不気味だが実力は確かだ。本国とのパイプも盤石らしい。言い値で買って即日現金で入金してくれたよ」

 

張は滔々と語ったが、声自体は平坦で、少しも気に掛けてはいなかった。CIAとの距離感を間違えていない、と言う自負があったのかもしれない。この狭い世界での、自身の権力と三合会の権勢を守る上では、寧ろCIAを利用しているとさえ、どこかで考えていてもかしくはなかった。

 

共存共栄の名のもとに、ロアナプラは両者にとって居心地が好い場所であり、この場所を維持するためには勢力の均衡が不可欠であり、その為には三合会と張の存在が好都合である、という前提が、張の思考には強固に根付いていた。

 

「張アニキ…俺たちは何を?」

 

(ビウ)の言葉に、プールから上がった張はプールサイドチェアに体を横たえると、顎を小さくしゃくり上げた。

 

「何もしない。俺たちがすることは、二挺拳銃(トゥー・ハンド)と悪党見習がイスラム戦士どもに補足されて沈められるのを見届けるだけだ。墜落でも溺死でも、山に埋められるでも何でもいい。二挺拳銃(トゥー・ハンド)が本命だ。巻き込まれたロックには気の毒だが、何もせずとも一度動き出した歯車は回るのさ。そいつは誰にも止められない」

 

張の言葉に、(ビウ)は表情を引き締めた。

 

この二人に共通することは、何か巨大な権益を誇る、巨大な組織の、重要な機械部品であると言う自覚だった。張の上にも同じような人間がおり、(ビウ)の上には張がいる。

 

彼らは、手練手管を弄し、老練で狡猾な策士として、この巨大で狭い街を、自らの選択によって動かしていると言う強い自負があった。大局的に、街を動かしている、そういう自分の立場を、自分たちには立場があるのだと言うことを、微塵も疑っていなかった。ミッションを完璧にクリアできれば、この街を塗り替えることも可能であり、その為に必要な計画も、権利も、大義も、影響力も持ち合わせているのだと。

 

彼らは単に、疑うことを許可されていなかっただけに過ぎないというのに。

 

「…バレた後は如何なさるおつもりで?アブレーゴにも連絡を?」

 

「その必要はない。今回は三合会が中心で動く。あとバレやしないさ。あれはコピーであって偽物じゃない。もうアメリカの手の中にあることは向こうには未知のことだ。向こうは文書を取り返し、計画通りに実行する。しかし、結末は合衆国が間一髪で防ぐ。CIAとFBIと…公僕の面目躍如だ。そう言うシナリオなのさ。新しい計画を立てられるよりも、都合が好い。割を食うのはヒズボラと、こんな茶番に付き合わされるアウトローだけだ。生きてても死んでても誰も気にしない連中だけが泣きを見るんだ…文句なんてない。そうだろ?」

 

元警官と言う異色の経歴を持つ張が、三合会と言う巨大組織で存在感を放ち、また重用されていることに予てより疑念を抱いていた(ビウ)からの、試すような、矢継ぎ早の質問に対しても、張は冷笑的に答えていった。

 

最初から決まった道筋があり、歯車として、勝者の側に立つか、敗者の側に立つかだと、今の張は自分の振る舞いが謙虚でさえあると考えていた。自分は勝者の側の歯車として、必要十分な仕事を熟したと確信していた。最早この物語の結末は既成事実であり、彼の手を離れ、遠くどうでもいいものに変わっていたのだ。

 

投げやりでさえある張の回答に、(ビウ)はと言えば感嘆していた。全てを掌の上で転がし、アメリカと言う巨人とも渡り合う姿は驚異的に映ったのだ。正しく、策士であると。

 

「…ラグーンにはなんと?」

 

「慰労金くらいは出してやるか…いきなりクルーが二人も抜けるのはダッチも苦労するだろうしな」

 

張は鼻で笑うように言ったが、自分がダッチのことを心底気の毒だと思っているのだから可笑しかった。気の抜けた笑みを浮かべた張の表情は穏やかだった。

 

「…張アニキ、連絡会では何と説明をするおつもりで?バラライカに嗅ぎつけられると厄介です」

 

油断を戒めるように(ビウ)が言ったが、張は何も油断などしていなかった。ただ、全てが滑稽にさえ思えただけだ。軽く(ビウ)に向けて手を振り、ガミガミと言うのをやめさせた。

 

(ビウ)、こいつはビジネスだ。そしてビジネスは、利潤の追求の為に剛力を振るう為の根拠に足る。バラライカだって同じマフィアには違いない。この道理に逆らえるものなど、柵から解放された連中だけだ。そんなものは、生きることすら道楽の大富豪か、理屈にすら抗う邪神の崇拝者しかいない。そして、そんなのはユニコーンと一緒だ。柵のない大富豪なんざいないし、崇拝者だって食うためにはビジネスを起こす。片方だけでさえあり得ないんだ。両方を兼ね備えた存在がいたとすれば、それは化け物に違いない。だがな…そんなモンはこの世界には存在しないし、そもそも存在できないんだ」

 

一度言葉を切ると、張はガラステーブルの上から煙草を取ると、自分で火を点けて、胸いっぱいに吸い込んだ。

 

「バラライカは軍人で実用主義者だ。ましてや奴も、俺も、理性と立場に縛られた、大身な組織の歯車でしかない。ボスにだって上下がある。どれだけ腕が立とうが、それはロアナプラの中での話だ。俺のこの仕事にはな、国家権力と政治が関わってる。その二つが関わったが最後、日陰の人間は焼き尽くされないように身を縮めるしか出来ないのさ。弁明ならビジネスとアメリカからの要請、その二言で事足りる。いいな?」

 

鼻から抜ける煙を追い払うように手でかき混ぜながら、張はそう締めくくった。

 

「では…そのように」

 

「はあ…これがホテル・モスクワ一強の時代を切り崩す奇貨となれば、俺も言うことは無いんだが…」

 

(ビウ)が去っていくのを見届けることなく、張はロアナプラの空を見上げた。立ち込めるように黒い雲が、太いその身を捩り、空一杯に手を広げていた。

 

今夜は月が見えないかもしれないな、と張は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







*またしても何も知らない張維新。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。