「な、なんだここ!?」
目が覚めると赤紫に染まる空と漫画などで描かれるような合戦後のような場所にいた
所々にある立て札を確認する
『此は毒虫集う壺也、此は終わらぬ地獄也。最後の一匹になるまで出ること叶わず』
と書いてあった
「なるほどつまりバトロワってわけね」
辺りを見回し、落ちていた真っ黒な刀を持つ
ずっとこういう事件に巻き込まれないか憧れていたんだ
もしかしたら特別な祓魔師として覚醒するのではないかと思うと心が躍る
「俺がこの界異事件を終わらせてやるぜ!」
その声に釣られたのかゾンビみたいな奴が二体が近づいてきた
それを気合の声とともに切りつけるとあっさり倒れて動かなくなった
「この具合じゃだいぶ楽そうだな」
余りも呆気ない。これは俺が強すぎるって事か?
「ならこっちから全部潰してやるぜ!」
獲物を求め、しばらくして界異らしきものを斬り捨てた俺と同じ高校生くらいの女の子を発見した
髪などしばらくは手入れされてないひどい姿だが
「これは・・・もしかしたら協力を持ち掛ければ聞いてくれたり・・・?」
期待に胸を膨らます
もし敵対的でも女の子が俺に勝てるはずがない
「君!大丈夫か!」
女の子が振り向く
「こんにちわ」
その言葉とともに
俺の首は飛んでいた
日が落ち始め赤暗くなった林の中、男は鼻歌交じりに歩いている
だがその鼻歌に反比例するように足取りはおもたいものだ
認識阻害を施した結界を抜けると複数のテントが林の中に現れる
「やあ、調子はどうかな?」
テントに入った糸目の胡散臭い男は中にいた人々に声をかける
「どうもこうも変わりませんよ」
白い天蓋を被った女が答え
「大きな変化はおこっておらぬ」
黒い天蓋を被った女が付け加えた
「
ケタケタと男が笑う
「そんな君たちにいい報告と悪い報告があります。いい報告は十年かけたこの仕事を今日で終了です」
「数年前から用途が変わっていつ終わるかわからなかった作業がやっと終わるのですね。でも・・・」
「して、悪い報告は」
破苦僧を遮り来苦僧が尋ねる
「スポンサーが急遽今日のテロ活動の戦力分散のための囮として蟲毒の壺を指定されまして・・・」
「湾子店長、悪い冗談はその顔だけにしてくれぬか?」
「冗談みたいな顔って何だい!?」
咳払いをして男、湾子は申し訳なさそうに続ける
「壺に残ってる子を間引いて強制的に蟲毒を終わらせることになります。僕も大変不本意ですけどね」
「そんな・・・」
「既に陽動ははじめた様で急がねば僕らも危ないです」
「ふざけた連中と思ってたがここまでとは思ってなかったぞ」
テントの他の連中も動揺しはじめた
「で、どれを残すかってなるんですけど、僕としてはあの人間の女の子を残そうと思うんだよね」
「人間をか?」
「うん、残ってる界異も強いんだけどさ、彼女肉体はかなり変質してるみたいだし持ってる獲物も呪物化してるしで完成品になった時なかなかいいと思うんだよ」
「確かに、肉体が弱い故かほかの奴と違って戦術的な動きもしてたしな」
「じゃ、決まりで。破苦僧、辛いかもしれないけど任せたよ」
破苦僧の肩に手を置く
「・・・はい」
破苦僧はテーブルに並べられていた藁人形の首をナイフで削ぎ始めた
「じゃあみんなも撤収!」
手を鳴らし催促する
「僕は商品の状態とルートを確認しようかな」
呼び出されたカラス型の界異二匹がそれぞれの方向に飛び立った
林付近で境対の車両が停まる
車から大柄な男と異形な機械の右腕の女が降りる
「まさか開発部の私らまで駆り出されるなんてな松永」
異形の腕の女、
「まあ鎮圧可能な人材は僕らくらいしか居なかったんだからしょうがないぜナグリちゃん。大体の班は大規模多発テロでてんやわんやだし」
大柄の男、
「駄弁ってないで仕事にいけ、さっさと終わらせるぞ」
車の中の男はぶっきらぼうに命令する
「私も同意見だ。ちゃんとオペレートしろよ?橘」
「言われなくとも…なんだこれは」
橘と呼ばれた男が動揺の声を上げる
「結界のようなものが崩れていって・・・子供か?十代後半らしき子供が・・・」
「それが救助対象でも鎮圧対象でも急いで向かった方がよさそうだね」
松永は車から蛇神の加護を付与された御柱を取り出す
「ああ、遅れるなよ」
朝霧もナックル型の祭具を左腕に装着し、右腕の手首から上をスクエアカットされた黒不浄に使われる物と同じ物質が組み込まれている攻勢用の物と付け替えた
橘の道案内を受けながら現場へ向かう
辿り着いた先には白い半透明の界異や人の腕が纏わりついた禍々しい鉈を持ち、明らかに尋常ではない雰囲気を放つ少女がいた
「あれ、相当やばいね」
「あれを救助しようなんて思うなよ、既に人ではない!」
二人が構えると同時に相手も二人を認識する
ばんっ!という音がしたと思うと既に少女の間合いにまで朝霧は飛び込まれていた
「こんばんわ」
飛び込みざまに振るわれた鉈を右腕で辛うじて受け流す
それでも右腕に装着されていた穢装四等級の装甲が切り裂かれていた
「ちっ!まともに受けるなよ!真っ二つにされるぞ!」
ボクシングスタイルで朝霧が攻め立てる
少女は二発は回避していたが三発目の左ボディは躱し切れず鉈で防御する
だが破裂音と共に左腕の祭具が加速する
防御はできたがガードと体が浮いた隙を朝霧は見逃さない
「送るぞ!かっ飛ばせ!」
右フックが胴を捉え、スクエアカットされたインパクト部が肉を裂き骨を砕く
振り切る直前また破裂音と共に右腕が加速し殴り飛ばす
「おうよ!でりゃああああ!」
飛んでくる少女の背中にに大振り横薙ぎの御柱が直撃する
太い骨が折れる嫌な音とともに空高く遠くへ打ち上げられ、そのまま地面へ叩きつけられる
全身あらぬ方向を向き大量の血が流れ出ている。軟体の界異であったとしても確実に助かるものではない
「ちょっと嫌だねこういうの・・・」
「戦闘メインの班じゃなくてよかったな。でもこれで・・・」
動けるはずがない
そう思った少女が立ち上がろうとしている光景を目の当たりにする
「此は地獄也、我らの呪い尽きるまで終わらぬ地獄也。最後の一人になるまで終わらぬ蟲毒也!」
本人のものとは思えない重い怨嗟の言葉と共に、体の向きが戻り傷が塞がった
「ハッ、死ぬまで続けるきだな。付き合っ」
ごとり、と朝霧の右腕が落ちる
「・・・は?」
落ちた右腕の状態はまるで切断面から腐敗に蝕まれたようにぐずぐずと崩れて行っていた
それを見て残った上腕部を取り外す
そちらも同様の状態となっていた
「橘!応援を頼んでくれ!この際民間でも構わない、少なくとも一級一人分の戦力がないと止めきれない!」
「了解だ、来るまで持ちこたえれるか!?」
「持って見せるさ・・・!」
「松永何を!」
「この際プライドは抜きだナグリちゃん。君も撤退してくれ」
「・・・見くびってくれるなよ」
片腕でありながら朝霧は戦闘態勢をとる
「一人で抑えられるもんでもないだろうが。それに『そういう覚悟』ぐらいいつでもしてるっての」
「・・・すまん」
少女が迫りくる
「だが相手の動きは単純これならッ!」
飛び込んできたところを御柱を脇に抱え突きを放つが
「なにっ!?」
当たる直前御柱に手を掛け宙返りし、その上を駆けてきた
「させるかっての!」
松永にたどり着く前に朝霧が飛び込み左ストレートで落としにかかる
が鉈でナックルを弾き斬られてしまう
「おぎないするの、わかりやすい」
「ならこれはどうだ!」
松永は御柱を離し足へ組み付きそのまま投げ飛ばす
「あいつ確実に動きが良くなってやがる・・・」
「仕方ない、奥の手を使う」
「あれを使うのか、無茶を言ってくれる!」
松永は御柱を地に突き立て、朝霧はハンドガード付きの黒不浄短刀を抜く
松永が詠唱を始める
「加護あたえし蛇神よ、我さらなる力添え願う」
今度は朝霧が
ガードは不可、一撃も受けることは許されない
二人とも踊るように攻撃と回避を繰り返す
「加護にふさわしき姿となりて、かの不浄を縛り呑み込みたまえ!」
横振りを屈んで躱す流れで足払いをかけ、少女がバランスを崩す
「白大蛇降臨!」
御柱が白蛇に姿を変え、少女に巻き付く
朝霧は間一髪で飛び退いた
大蛇が少女を口で覆う
「やった!」
「いや、まだだ」
獲物を呑み込もうとした大蛇がそれを吐き出し、締め付けが緩む
自由となった鉈が振るわれ大蛇がばらばらに解体されてしまう
口の中、巻き付いて触れていた箇所が黒く抉れていた
「馬鹿な・・・神の加護ですら貫通する呪詛だと・・・」
「わたしは、もう、しばられない」
その様子を烏界異越しに覗いてた湾子店長は上機嫌でありながら悲しそうに
「いやあ!仕事が十分にできるいい子じゃないか!挨拶もしっかりできるし!なんでこんな捨て駒的なことに使われなきゃなんなかったかなぁ!」
そして怒りを滲ませていた
「そんなに言うなら今来ている奴ら潰して回収すればいいじゃないか」
「そうしたいのは山々なんだけど彼女連れてくのに時間もかかるし、ちょっとまずいことになっちゃった」
一息おいて湾子店長が口を開く
「軍隊みたいな民間が来る」
その場にいた全員の顔が凍り付く
「さすがにメインは多発テロの対応に駆り出されていそうだけどどんなネジ飛んでるやつが来るかわかんないしね。というわけで」
ぱんっ!と手を鳴らし
「皆さん急いで帰りましょう!ルートも確保できたので店長についてきてくださいね。遅れたら死にますからね~。帰るまでが出張ですよ」
早口でそのまま歩いて行ってしまう
「は、はやい・・・まってくださぃ」
あわあわと破苦僧が続き、来苦僧がため息をついて追いかけ、ほかの人員もぞろぞろ遠足の列の様に後に続いていった
「あっ、そうだ店長のおごりで打ち上げ行きたい奴は20時にイナリちゃんの祠に集合ね」
日が落ち、古びてはいるが手入れされる祠の前に逃げ果せた『界異ショップ喜々怪々』のメンバーが集まっていた
湾子店長は鈴を取り出し三度鳴らす
すると目の前の空間が歪み、ポータルが現れる
「じゃ、いこうか」
ポータルを抜けるとそこは中華街の看板のような装飾がされた大きな建物を中心とした街であった
そして入ってきたメンバーのそれぞれの姿が入る前とは違う姿となっていた
「やっぱ来苦僧ちゃんも破苦僧ちゃんもこっちの姿の様にあっちでも天蓋取ってればいいのに」
「そういうわけにもいかないんですよ・・・」
白髪黒目の気弱そうな少女がそう言い
「何度もいってるじゃないか痴呆か?」
黒髪灰目のきつそう少女が付け加える
「まだそんな年じゃないですよ~」
服装が派手となって胡散臭さが増した湾子店長が答える
ここは狐の神様が作り出した境界『稲荷中華』
中華料理店を中心に広がる境界であり、神様の意向でここに来る人は現実とは違う姿にされる
姿形は神様に対価を払うことである程度着飾ることができるオンラインゲームのような仕様だ
料理店では各テーブルに防諜の結界が張られており、何かを喋っていることはわかるが何を言っているかわからないといったものだ
そういった点から呪術師たちにとって都合のいい場所となってしまっている
「やっほーイナリちゃん、やってる?」
「ここは年中無休じゃぞ?それとワシは娘々だと言うとろうに」
娘々と名乗る九つのもふもふ尻尾をもつこの幼子がここの神様である
「だって娘って感じな人でも猫でもないじゃない?」
「童よ、大変不敬なこと言っとること自覚しとるか~?」
「ハハハハ、してるよ、うん。してるしてる」
娘々は呆れたようにため息をつき、受付の手続きをする
「そうだ、この前送った子ら元気にしてる?」
「おお!立派に働いてくれ取るぞ。おぬしが育てた子らは実にいい子らじゃ。あとで会ってこんかえ?」
「うん、そうするよ」
渡された札を受け取りテーブルへ向かう
メンバー全員がテーブルにつき各々注文し始める
「前々から思ってたのですが、娘々様とはどういったご関係なのですか?」
と破苦僧が質問する
「半分育ての親みたいなもんかな?」
「その顔は親譲りだったわけだ」
来苦僧が冗談めいて笑う
「そうだったら僕はもっとかわいらしい童顔でしたよ!」
食事が始まってしばらく経ち
「次の仕事はどうするんです?」
「今回のスポンサーからの報酬まだだし蟲毒の延滞、追加技法料金もあるからそれの回収かねぇ」
「つまりは襲撃ってとこだなぁ?」
来苦僧が歪んだ笑みを浮かべる
「人聞きが悪いなあ」
「だが今回の件、相当頭にきてるだろう?」
「・・・そうだね。僕は大切に扱ってもらうには大いに結構だけどあんな急な上捨て駒にされちゃ彼女がかわいそうだ」
「あの状況に置いたくせに可哀そうとかいう権利はないぞ」
「耳が痛いね!」
「まあ今回が異質な依頼で次々追加技法したからな、お前も今回のようなことは本位じゃないのは私らもわかってるから」
集まってる皆、湾子店長に笑いかける
「そうだぜ店長!」「あんたが一番心痛めてたの知ってんだからね!」「あいつらのケツの毛までむしりとってやりましょ!」
「みんな・・・なら腹いっぱい食べて英気養ってくれ!」
「しめて19万八千円なのじゃ」
「・・・ここってカード使えたっけ?」
「現ナマオンリーじゃぞ童よ」