私は朝倉宗景、日本の外務公務員だ。
官僚の一人で順調にキャリアを積み上げてきたエリートと言っていいだろう。
名前がまるで戦国武将みたいで子供の頃はその事で友人から弄られたこともあり、それが唯一の不満であったが、それ以外は何の問題なく生きてきた。
そんな私であるが今回の仕事は宇宙人との交渉を行うという難しいというか前例のない代物だった。
事の始まりは一年数ヶ月前にNASA(アメリカ航空宇宙局)が地球以外に文明が存在する惑星を発見したことだ。
当初はアメリカの国家機密とされていたが、発見から一年後にアメリカはそれを全世界に公表した為、地球全土で衝撃が走った。
そして、各国は各々に地球外文明のある星にメッセージを送ったが、まったく反応がなかった。
そして、2ヶ月が過ぎたころには惰性で定期的にメッセージを送るだけになっていたが、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)が地球外文明から返信があったと報告した為、日本政府に激震が走った。
マルデア星は官民問わず地球に無関心でこちらに関わる気がないらしく、政府間交渉はかなり難しいようだったが、それでも地球史上初の宇宙人との交渉なので本来なら政府高官の仕事だったが、相手がそれを嫌がった為に、外務公務員である自分にその役目が回ってきてしまった。
いや、あちらが外交大使ではなく親善大使だから格式を重視するなら政府高官ではなく外務公務員が対応するべきなのは筋が通っているが、そこは空気を読んでほしかった。
その所為で、私は外務公務員という立場でありながら異星人との交渉相手になるという前代未聞な仕事をやる羽目になってしまったのだ。
しかし、ぼやいていても仕方ないので、準備を進めてマルデア大使が訪問する当日を迎えたのだが、その日にマルデア大使が外務本省に来ることはなかった。
勿論、あちらから星間ワープの誤差を聞かされていたから転移座標がずれているのは分かるが、まったくこなかったために何かトラブルに巻き込まれてしまったのではないかと急いで日本中を調べる事になった。
その過程で千葉県でまるでアニメの様に生身で空を飛ぶ少女が現れて警察に連行されたという情報を掴んだ為、早速千葉県警に向かい確認した。
合言葉で確認されたマルデア大使はまるでファンタジーのエルフのような幻想的な姿であったが、その年齢は12歳程度にしか見えない小学生ぐらいの少女だった。
正直自分の息子と同年代に見える少女が親善大使だと言われても戸惑いを持ってしまうが、それでも彼女は日本が招待したマルデア国の親善大使である事には違いはないので国賓として扱うことにした。
ここで問題となったのが、日本の警察がマルデア大使を拘束して数日に渡って取り調べしていたという事だった。
これには私だけでなく、外務省の幹部たちは頭を抱える事になった。
いくらパスポートを持っていなかったとはいえ、こちらから招待した国賓にこれは外交的大失態と言うしかない。
ましてや、彼女がパスポート等を持つ事ができなかった事情も考えると、我々の方にその辺りの受け入れ態勢の不備があったのは明白であり、外務省の責任問題になるのは避けられなかった。
その事から外務本省でマルデア大使を迎えた幹部たちは内心を不安を抱いていたが、意外な事に彼女はこちらの不手際をあっさりと水に流してくれた。
これには私だけでなく幹部たちも安堵したが、彼女は流石に同じトラブルが起こるのは嫌がってパスポートの発行を求めてきた。
これは彼女の立場を考えれば当然のことであるから、私はそれを即座に受け入れてパスポートの発行に取り掛かった。
これで次はこんなことが起きないようにできたわけであるが、その後に彼女からお土産として提供された品に私は驚愕した。
誰でも魔法を使える魔石も凄いが、縮小ボックスは物流を根本から変えてしまえる物だった。
そんなものを貰ったわけであるが、彼女がこちらに求めた物は任〇堂の娯楽品という意外な物だった。
正直に言うと、私はこの時点でマルデアは地球に興味がないというのは理解できた。
技術や資源ではなく、珍しい遊び道具が欲しいと言われたのだ。
これで地球が重要視されていると思う方が可笑しいだろう。
しかし、わざわざ任〇堂の娯楽品と指定している点は気になった。
任〇堂は花札やトランプも販売しているが、やはり国内最大のゲーム企業として有名な会社だった。
そんな任〇堂を指名したという事は、マルデア側は地球の娯楽品をとりあえず確認しようとしているわけではなく、最低でもある程度地球の娯楽品に関する情報を得ており、任〇堂の製品を選んだということが分かるのだ。
勿論、マルデアが把握している情報はビデオゲームだけではない筈で、地球の情報はかなり把握されていると判断するべきだろう。
私だけではなく外務省は皆がそう思っていたが、それでも指定された以上は任〇堂の製品を用意しなければならなかった。
とりあえず、任〇堂の花札とトランプを五種類ずつと現行機のゲームハードを用意することにした。
現在の任〇堂は任〇堂スイ〇チという家庭用ゲーム機を発売していたが、このゲームハードは旧モデルと有機ELモデルがあった。
どちらがいいか分からなかったが、店員が言うには任〇堂スイ〇チを持っていないなら有機ELモデルを購入することをお勧めするらしい。
この有機ELモデルは様々な改良がされて遊びやすくなっているとの事だった。
その為、私は有機ELモデルを購入することにしたが、白とネオンの二つのバージョンがあったので、二つとも購入することにした。
そしてスイ〇チで発売されているマ〇オやゼ〇ダなどの任〇堂のパッケージソフトを買いあさって用意しておいた。
こうした事前の準備のおかげで彼女は我々の用意した娯楽品を気に入ってくれたようだ。
その後、彼女の要望でネットに繋がったパソコンを用意した。
パソコンはウイルス対策ソフトをいれておいて、ウイルスに感染しないようにしておいた。
こちらがパソコンを用意してもパソコンがウイルスに感染してトラブルが発生したら不評を買うだろうからウイルス対策は必要な処置だった。
彼女はそれを使ってパソコンの練習やネットサーフィンをやっていたが、我々もその間に関係各所に走り回っていた。
当初の予定ではマルデア大使の存在を国内外に一気に公表する予定だったが、彼女の要望でいくつかの手順を踏まなくてはいけなくなったからだ。
幸い総理は事の重要性を理解していた為、情報公開や縮小ボックスを使ったパフォーマンスをやってくれたので、宇宙人の存在を国内外に認めさせることができた。
そして、会見で彼女のお披露目が無事に終わり、これにて一件落着とはいかなかった。
会見後も日本政府には各国の激しい問い合わせが続き、国連では緊急特別総会が開かれて日本大使が各国から激しく追及されるという事態になった。
唯一の救いは国民が彼女に好意的な事だっただろう。
まるでファンタジーのエルフのような彼女の容姿は日本人にうけていたからだが、それでも国民が好意的なのは有難かった。
そんな大騒ぎの中で時間が流れて、再び彼女が日本に訪問する日になったのだった。