私はアラン・フローレス。
カカリ社の営業担当だ。
そう言うと割と偉いと思うかもしれないが、実はそうではない。
今年で24歳になる若手であるが、私の経歴には前科という傷がある。
懲役が終わり出所しても前科があるのは就職に不利だ。
勿論、仕事につけなければ生活保護に頼るか再犯する可能性が高いから法務省は刑務所出所者の雇用に協力してくれる協力雇用主を募集しているが、その集まりは非常に悪かった。
これには協力雇用主のメリットがまったくないという理由もあった。
別に出所者を優先的に雇用しても奨励金が出るわけでも、公共工事などの競争入札における優遇制度があるわけでもないのだ。
昔はそういう協力雇用主に対するメリットがあったらしいが、不平等だと抗議が出てからはそうした制度は廃止されてしまっていた。
現在では出所者を雇っても構わないという協力雇用主に人材を斡旋したり、出所者を雇用するときの相談に乗ったりするだけだ。
その結果、出所者が必要とする雇用に対して協力雇用主が少なすぎるという事態になってしまった。
これは法務省でも問題になっているらしく、協力雇用主を増やす為に企業側に要請しているが、相手の反応が悪く思うように進んでいなかった。
私もこれには困っていたが、出所ギリギリで求人が来たのだ。
求人は営業職で、国外から輸入した娯楽品を都内の玩具店に営業する仕事だった。
他に求人がないため私はそれを受ける事にしたが、その企業は今のご時世でわざわざ出所者を雇用するほど問題のある職場だった。
まず社長が小学院の女子生徒のように幼い外見で、実年齢は15歳の少女らしいが、それでも若すぎる経営者がかじ取りをしている企業だった。
確かに新興企業の経営者が若手が多いが、それでも社長は異常に若いのだ。
更に扱っている商品が問題だった。
カカリ社ではマルデアで野蛮認定されている地球の娯楽品を輸入販売する事業をやっていたのだ。
正直言うと、『地球の商品なんかが売れるのか?』と不安になっていた。
サンプルソフトで遊びその内容を確かめれば、これまでにない娯楽であることは理解できたが、それが本当にマルデアで受け入れられるかは分からない。
何もかもが未知数だったが、それを言うなら社長は地球に行って地球人と交渉して商品を輸入しているのだ。
その行動力はすさまじいと言えるだろう。
そんな社長の手前、『無理です』とは言えなかった。
それに営業に成功すれば会社が軌道に乗って事業を展開できるようになり、私も正社員としてこの会社で働く事ができるが、逆を言えば営業に失敗すれば社長は会社を廃業するらしい。
そうなれば当然だが私は解雇となり無職になってしまう。
前科持ちの自分を正社員として雇ってくれる会社など他にないから、自分の保身の為にはここが踏ん張りどころだった。
私は社内業務で2週間かけて社長が地球から持ち帰ってきたサンプルソフトを遊んだ。
こういうと『何でゲームで遊ぶのが業務なんだ?』と思うかもしれないが、それは営業する際に商品に対する知識が十分にないと質の高い営業ができないからだ。
ただでさえ地球の娯楽品という問題を抱えているのに営業担当が売り込む商品を熟知していないという状況は極めて拙い。
特にカカリ社にとって最初に首都圏で売り込む営業は社運を賭けた大事である為に念入りに準備しないといけない。
そうした事情から私は業務としてサンプルソフトを遊び倒した。
娯楽として楽しめたのもあるが、職務として必要だったのだ。
その後、私は社長の指示通り首都圏にある玩具店を検索してリストアップした。
そして、店舗に売り込みに向かった。
ビデオゲームを販売するためにはまずはお店に置いてもらわなければ始まらない
「ビデオゲームという商品があります。これまでにない魅力的な娯楽品なので、是非お店に置いてください」
そんな風にプレゼンして営業していくのだ。
最初の行先は、ワープステーションの近くにある玩具店だ。
店長は四十くらいの男性で、運がいいことにちょうど手が空いていたらしい。
私がお願いすると話を聞いてもらえる事になった。
「カカリ社? 聞いたことがない社名だね」
私の名刺データを受け取り、首をかしげる店長。
当然だが、この人はビデオゲームの事を何も知らないから一から説明していかないといけない。
カウンターの前で、私はスイ〇チを出して画面を見せながら説明する。
「これはビデオゲームといって、画面の中のキャラクターを操作して遊ぶものです。こうやって敵を倒しながら進んでステージをクリアしていきます」
今私がやっているのはフ〇ミリーコンピュータで最初に出たマ〇オの固定画面アクションゲームのリメイク作品だ。
これはシンプルだから分かりやすいだろう。
「これは珍しい遊び道具だな。これまでにない面白さだし、子供だけでなく大人も楽しめそうだ」
最初の営業だったが感触は悪くないようだ。
「全年齢向けの娯楽として作られておりますので、ご家族の皆さんで楽しんでいただけます。実はこれは二人でプレイすることができます」
「一緒に遊べるのかそれはいいね」
「はい、他にもゲームが収録されていて、これ一つで八本のソフトを遊べます」
他にもサンプルソフトに収録されたゲームを紹介していく。
店長はそれらのゲームを一通りプレイしていった。
「このパズルゲームというのはいいね」
収録されたタイトルの中でも店長は特にテト〇スを気に入ったようだ。
「最初はこのゲームソフトを発売しますが、今後は様々なソフトを発売する予定です。新作ソフトを買えば遊びが増えていく。魅力的な製品です」
「なるほど、娯楽専用のデバイスか。確かに内容は面白くて品質には問題ないが、やはり地球産だから、お客様が受け入れてくれるか分からないのが不安だな」
しかし、やはり地球の娯楽なのがネックだった。
「ご心配は分かりますが、試しに一ヶ月だけおいていただけませんか。勿論駄目だと判断したら即座に返品可能です」
返品可能のお試しという条件は事前に社長と取り決めていた。
こちらがかなり不利な条件であるが、それぐらい譲歩しないと試しに置いてくれる店すらないと判断したのだ。
「ふむ……。販売価格はゲーム機が300ベルで、ゲームソフトが40ベルか。玩具としては少し高いが魅力的な商品だとは思うから、試しに五セットほど発注しておくよ。足りないようなら追加で発注すればいいだろう」
「ありがとうございます」
店長は悩んでいたが、最終的には買ってくれる事になった。
それから私はリストにのった玩具屋を回ってスイ〇チを売り込んでいった
勿論、玩具店でも商品を見る前に門前払いを受けた所もあった。
新規の営業は鬱陶しがられるものだし、地球産の商品だと説明すると嫌がる人もいた。
それでも商品を面白がってくれる人も多かった。
これは営業努力というよりも真新しい娯楽で見ただけでも魅力が伝わりやすかったからだろう。
試しに発注してくれる店も多く、私は一週間ほどワープでマルデアの首都圏を飛び回りながら営業して回った結果、最終的には首都圏の玩具店の半数ほどがスイ〇チを発注してくれた。
初期出荷分の5000台の内、2500台分の受注が決まった。
逆を言えば半数が残ってしまったが、どこの小売店もお試しであった為に少数しか発注していないので、すぐに売り切れて追加発注する可能性が高いからそれに備えないといけない。
それに、初期不良の交換品も確保しておかないといけないので、それらを在庫として残すことにした。
「アランさん、よくやってくれました」
この営業結果に社長は大喜びだった。
社長が言うには営業に行った玩具店のうち一店舗か二店舗ぐらいしか受注してくれないだろうと思っていたらしい。
それは少し悲観的なのではと思ったが、私の営業成績はそんな社長の考えを覆すほどだったようだ。
社長は私の営業能力を高く評価してくれたようだが、私としては営業能力ではなく商品の魅力のおかげだと思っていた。
確かに新規の営業や地球の商品を嫌がりスイ〇チを見もせずにお断りする店も多かったが、試しにスイ〇チを確認してくれた人たちはすぐにその商品価値に気が付いてくれたから、この営業成績はそれだけの商品を作り上げた地球人の成果の賜物だ。
「アランさんも地球のビデオゲームの良さに気づいてくれて嬉しいです」
社長は私がビデオゲームを評価したのが嬉しいのか、そう喜んでくれた。
それはともかく、これでカカリ社は一息つけるし、私も無職になる瀬戸際から遠ざかったので一安心だ。
初期発注分のスイ〇チが、一台売れたら300ベルで全部売れたら75万ベルになる。
物価ベースで考えるとマルデアのベルはアメリカのドルと同じぐらいの価値になるから、75万ドル相当になる。
現在の米ドル対円相場は130円を超えているから、大ざっばに日本円で換算すると約一億円ぐらいの売り上げになる。
販売店が3割持っていくが、残りの7割が会社の稼ぎとなる。
そこから社員の人件費や事務所の家賃、光熱費などの経費を抜いた余剰金で魔石や縮小ボックスを買って、地球に送るという形になると社長は言っていた。
ちなみにマルデアには地球と違って消費税がないから、その辺りの計算が地球とは少々違うようだ。
私が営業をかけている間に地球では製品の製造が進んでいたようで、社長は意気揚々と地球に向かっていった。
平然と地球に行ける社長の行動力は本当に凄いと思う。
でも、一緒に行かないかと誘われた時には頑固としてお断りした。
私は魔術としては二流で自衛に不安があるから、地球に行くのは勘弁してほしいです。