「……というわけで、こちらの手違いで雷が直撃した為に貴方は死にました」
「手違いですか」
何もない真っ白な空間に女神だと主張する女性がいた。
普通なら変人だと思うだろうが、『女神ミリア』と名乗った彼女の人間離れした美貌と雰囲気は彼女が尋常な存在ではない事を嫌でも感じさせるほどのものだった。
長い金髪は絹のように滑らかで、肌も白く透き通っている。
そして何よりも特徴的なのが、彼女の瞳だ。
まるでサファイアのような深い蒼の瞳は見るもの全てを魅了する魔性を秘めているように感じた。
「はい。手違いです」
「そうですか」
手違いで死んだのか俺は。
まあ、別にどうでもいいけど。
……いや、どうでもよくはないか。
ゲームができないのは少し残念だし、何よりまだクリアしてないゲームも山ほどある。
それに何より、あのゲームをもう一度プレイしたかった。
「どうやら後悔があるようですね」
「まあ、後悔がないと言えば嘘になりますね」
「そこで貴方には元の世界の別の惑星に転生してもらいます」
「別の惑星?」
「貴方がたがいる宇宙は地球の他にも知的生命体がいて、該当する惑星は魔法文明ですが、文明レベルは地球よりも遥かに進んでいるので生活水準は日本以上です」
地球よりも文明が進んだ惑星というと、まるでSF映画のようだが、自分にそんな世界に転生する羽目になるとは思わなかった。
「それは分かりましたが、手違いで死なせてしまったというのであれば異星人として転生させるよりも、僕を元通りに生き返らせればいいのではないですか?」
でも、僕は別に日本の生活に不満があったわけではないし、教育、衛生面、治安、国内外の情勢などを考えれば日本は非常に恵まれていた。
生活水準が向上するから余所の惑星に転生すると安易に言えないのだ。
「貴方の火葬までしているのでそれは無理です。この状況で実は生きていましたなんて言ったらどうなると思いますか?」
「どうなるって……」
火葬されたという事は葬式が終わり遺骨が墓に埋葬されたということだろう。
仮に肉体を元通りに復元してもらって生き返ったとしても、この状況で『実は生きていました』と言っても受け入れられるだろうか?
……無理だな。
神話の時代なら神の奇跡とか主張できただろうが、現代でそれは通用しないから偽物扱いされてとんでもない面倒事になるだろう。
「……転生するしかないか」
僕は憂鬱な気持ちになりながらも転生という選択肢を選ぶことにした。
「分かって頂けたようなので話を続けますよ。貴方が転生するのはマルデア星のマルデア人です。このマルデア人は耳が多少長くて尖っている事と魔術が使える事を除くと外見は地球人と大差はありません」
耳が長くて魔術を使うか、まるでエルフだな。
タコみたいな異星人になったら困るから、地球人と外見にそこまで差がないのは有難い。
「ファンタジーのエルフみたいだと思ったでしょうが、寿命とかは地球人と大差はありませんよ。普通に成長して老いていきます。まあ、寿命とかは転生ガチャでどうにでもなりますが」
「転生ガチャ?」
「ええ、貴方には転生ガチャを2回引いてもらいます」
いつの間にか僕の前にカプセルトイがあるのに気付いた。
これを引けという事だろうか?
「それは転生ガチャ。転生後の特性や能力に因んだものがそれで引けます。運が良ければガチャによってはデメリットなしで転生先でかなりの能力を得られますが、ガチャによってはデメリットが発生する場合があります」
「ちょっと待って下さい。デメリットですか?」
おいおい、デメリットって何だよ。
「メリットばっかりだと面白みに欠けるじゃないですか。ここは多少のデメリットがあるガチャを混ぜるからいいんです。一応致命的なデメリットは無いので安心してください」
「致命的なデメリットがないと言われてもかなり不安なんですが…」
「それなら転生ガチャを引かずに転生するというプランもあります。これならガチャによるメリットを一切受けられないですが、デメリットはありません」
女神の言葉に僕は考え込む。
ここでデメリットに尻込みしてガチャを引かなかった場合、転生によって得られるメリットを放棄することになるだろう。
つまり、デメリットになる危険を覚悟でメリットを得るか、デメリットを避けるためにメリットを捨てるかの二択となる。
「……引きます」
デメリットは怖いが何のメリットもなしに転生するのは不安なのでガチャを引く事にした。
僕がカプセルトイのハンドルを回すと2つのカプセルが出た。
出たのは何だ?
「転生ガチャの一つ目は“魔術の天才”ですね」
魔術の天才?
「これは文字通り魔術の才能に優れている状態ですね。これは特に魔術があるマルデアではかなり有用ですし、デメリットがないので当たりですよ」
生前は凡人だったから才能に恵まれているのは有難い。
「そして、二つ目は“アリス”ですね」
アリス?
それは童話のアリスの事か?
「貴方はアリスと聞いて何をイメージしますか?」
「何って、アリスと言えば永遠の少女だな」
「その通りです。ピーター・パンが永遠の少年なら、アリスは永遠の少女です」
「……もしかして、転生後の性別は女性ですか?」
僕は嫌な予感がしつつも何とか疑問を口に出した。
「はい。アリスといえば少女ですから男性がアリスなのは駄目です。更に言えば永遠の少女なので少女のままで成長することがありませんよ。当然ですが初潮が来ないので妊娠しませんね」
「成長しないって、体に負担がかかって早死にしてしまうのでは?」
「それは大丈夫ですよ。転生してから12歳まで成長したら姿が固定しますが、不老なので運が良ければ何千年でも生きられますよ」
「妊娠しないという事は子供を作れないという事ですか?」
「確かにそのデメリットがありますが、貴方の場合問題にならないと思いますよ?」
「どういうことですか?」
彼女の言葉に疑問に思う?
確かに女性は子供を産むだけの存在ではないが、昔は子供が産めない女性は石女と呼ばれて冷遇されていた筈だ。
「だって子供を作る為には、貴方が男と性行為をしてお腹に赤ちゃんを宿して出産しないといけないですよ。それができますか?」
「無理です」
確かにそれは想像できない。
やろうとしても拒否反応が出るだろう。
「だったら問題ないでしょ?」
「いや、そもそも女性になることが問題なんですが?」
「転生ガチャの結果が出た以上変更はありません。貴方はこれで何とかやりくりするしかありませんが、偉業を成せば話は別です」
「偉業ですか?」
「ええ、そもそもこの転生システムは転生した者が活躍すれば、信仰という形で転生させた神も信仰を得られるというメリットがあります。その為、そうした転生者にはその都度臨時ボーナスみたいにアイテムやスキルなどを追加で与えています」
つまり英雄になればいいということだろうか?
「最もこれは人々に偉業を成したと認識させないといけないから非常に難しいことですよ。凡人が普通に生きていてもまず偉業なんて達成できませんからね。ですからこれはただのおまけでしょう」
「そうですね」
確かに凡人では偉業なんて達成できないなら無理だろうな。
「まあ、神様も色々大変なんですよ」
そういって女神は困った笑みを浮かべる。
どうやら神様も色々あるらしい。
「さて、そろそろ時間ですね。それでは良い転生ライフを」
女神がそう言うと僕の意識はまた暗転した。