そして、僕いや私はアリスティア・ハイベルという女としてマルデアという星に転生した。
女神が言った通りマルデア人は宇宙人とはいえ地球人と外見が多少異なる程度だったのですぐに馴染めたのは幸いだったが、やはり女の子になったのは戸惑った。
その辺りの葛藤やらの愚痴を言うとキリがないが、流石に十年以上も生活していればなれるものだ。
幸いこの星は発展しており不自由な生活を送る事はなかった。
この星に生まれて一番驚いたのは、やっぱり魔法がある事だ。
魔術に支えられたマルデア文明のレベルは凄い。
電車のかわりに、ワープステーションというのがある。
国内ならどの駅でも一瞬でワープできるのだ。
それにカバンには魔術がかかっていて、どんな大荷物も小さくして軽々運べる。
他にも、あらゆる日用品に至るまで便利な魔術品が溢れていた。
このように文明レベル生活水準は前世よりも向上していたが、マルデアは娯楽にはあまり力を入れていないのか、小説、音楽、映画、漫画、アニメはあったが、ビデオゲームはなかった。
また、漫画は社会を政治を1コマや4コマで掛かれた風刺漫画しかなく、アニメは子供向けのカートゥーンしかなく作画やストーリーがとにかくつまらない代物だった。
その事には不満を持ったが、別の惑星に転生したのだからそれは仕方がないだろう。
それに違う星とはいえ元の世界に転生しているから、ちゃんと地球があるはずだ。
それなら、地球から娯楽品を調達して楽しめばいいのだ。
問題はどうやって地球に行き来するかだが、これは星間ワープを使えば生身で瞬時に行き来できるらしい。
宇宙船ではなく生身で行けるというところにマルデア文明の凄さを感じられるが、問題はそれが誰でも使えるものではないということだ。
マルデアの権威である魔法省か首都の魔術研究所なら可能であるが、一般人が利用するのは容易ではないらしい。
更にマルデア人は地球人を野蛮人として見下して関わらないようにしているから尚更だろう。
魔法省に入ればチャンスはあるかもしれないが、魔法省はエリートの中のエリートであり、入るのは容易では無い上に上層部が地球と関わることを嫌がっている状態なのが問題だった。
仮に魔法省に入って『地球と交流を持ちたい』と言っても上層部から相手にされないだろうし、組織内ではみ出し者扱いを受けて冷遇されるのは目に見えている。
地球の娯楽品を調達したいが、流石にそれは嫌だから、魔法省に入るのではなく外部から利用できるようにしたいと考えていた。
そんな風に暮らしているとあっという間に15歳になった。
現在の私の容姿は白い肌、金髪碧眼、尖った耳と、まるでファンタジー小説のエルフのような容姿であった。
それだけにアリスに相応しい絶世の美少女と言えるかわいらしさで我ながら見ほれるほどであったが、問題なのは12歳になってから一切成長しなくなったことだろう。
流石に15歳になると周囲との差が目立つようになった。
また私が転生ガチャの恩恵で魔術に抜群の才能を発揮していたのも余計目立つ理由だったかもしれない。
娯楽が乏しすぎて魔術ぐらいしか楽しみがないから必死に魔術を練習して腕を磨いた事もあって才能と努力がかみ合った。
結果として飛び級ができて、私は15歳で学習を終えてしまい近日中に卒業することになった。
そんな中で一つのニュースが私の耳に入った。
一年前から地球がこのマルデア星を見つけて信号を送ってきているらしい。
マルデア政府は無視しているが、信号を送り続けていて迷惑しているという話だった。
これに私はひらめくものがあった。
もっとも、それを実行するには家族の協力が必要だったので相談しなければならないだろう。
実はハイベル家はマルデア有数の財閥で当然ながら実家が太い為、コネクションが凄いのだ。
「アリスティア、私たちに相談した事とはなんだ?」
そう私に話しかけた金髪の壮年の男性はブルーノ・ハイベル。
ハイベル財閥総帥にして私の父である。
「卒業が近いから、進路の事かしら?」
父の隣にいた20歳ほどの金髪碧眼の女性が私の姉のソフィア・ハイベル。
「私は起業しようと思うわ」
私は財閥令嬢といえば勝ち組と思うかもしれないが、次男次女などはあまりいいものではない。
そもそも資産家は万が一の為に複数の子供を持つが、子供が多すぎても財産分与でトラブルになるという問題があったから、子供は二人までにしぼる家が多かった。
そしてハイベル家は姉が後継者として問題なく成長しているからスペアの私は用済み状態だったのだ。
こういった場合、事業や資産を分散させたら弱体化するから用済みの子は最低限の金だけを渡して家から出すのが常識だった。
「起業、新興企業を経営したいみたいだけど、それは失敗することが多いと聞くけど大丈夫なの?」
マルデアは新興企業に厳しい所があるが、それは定番系の商品は老舗企業がシェアを牛耳っている為、新規参入が非常に難しいからだ。
よくいえば市場が安定していると言えるが、悪く言えば市場の流動性が低いのだ。
その為、新興企業は変わったコンセプトのこれまでにない商品を開発しようと躍起になっているが、それらの商品はニッチな代物になることが多く、事業として上手くいく可能性は低かったから姉がそう聞くのは当然だろう。
「扱う商品については考えがあります。自分で一から開発するのではなく地球から輸入販売すればいい」
ビデオゲームはマルデアには存在しない産業であり、既存の企業とぶつかることがない為新しく始めるには都合がよかった。
ゲームを愛するゲーマーとしても起業家としても魅力的な商品なのだ。
「地球と貿易をするのか!」
父は驚いていたが、それは姉も同様だった。
それはそうだ。
マルデアは地球人を野蛮人扱いして関わってこなかったのだ。
貿易など前代未聞だろう。
「しかし、地球とは……」
父は難色を示した。
マルデア人としてはそれは当然の反応だろう。
「確かに地球人は野蛮として扱われていますが、それ故に何の価値もないとうち捨てています。その為に価値のある物があっても気付いていない状態です」
大衆向けの娯楽が乏しいマルデアでは特に日本の娯楽はかなり受けるはずだ。
「価値のあるもの?」
父は怪訝そうな顔をする。
「ええ、地球にはマルデアにはない魅力的な商品があります。それを狙うつもりです。ただその為には魔法省の方と交渉して、地球親善大使の地位と星間ワープの使用許可が得ないといけません。父さんの方からアポイントは取れるでしょうか?」
魔法省の人間と会うとなるとやはりコネがあった方がいい。
「まあ、それは構わんが、魔法省が許可を出すとは思えんぞ」
父はこれには懐疑的だ。
地球と関わるのを嫌がっているのがマルデアの方針だからそう思うのは当然だ。
「そこは話の持っていき方次第で何とかなると思います」
上手くいくかは分からないが今が最大の好機だろう。