父と相談した数日後、私は魔法省のオフィスにいた。
今日は魔法省の部長と話をすることになった。
「地球の件で相談があると聞きましたが」
そう言ってくる部長は怪訝そうな顔をした。
恐らく財閥令嬢が地球の事でアポイントをとってくるなど思いもしなかったのだろう。
「はい。地球がしつこくメッセージを送りつけているせいで魔法省の方々が非常に迷惑しているとお聞きしています」
「ええ、本当に迷惑していますよ」
部長はうんざりした顔をした。
やはり相当迷惑に感じていたのだろう。
「野蛮な地球人如きがマルデアの権威である魔法省の方々を煩わせるなど、あってはいけない事だと思います。そこで問題の解決になる提案があります」
前世の件で私は不必要に地球人を見下してはいないが、それは私が特別なだけで一般的なマルデア人は違う。
下手に地球人を擁護して『地球と交流を持った方がいい』と主張しても魔法省から反発されるだけだ。
故にわざと地球人を見下している言い方をして魔法省をヨイショした方が相手の反応がいいはずだ。
「ほう、それはなんでしょうか?」
部長は興味を持ったみたいだ。
「地球親善大使の地位と星間ワープの使用許可さえ頂ければ、地球人に対する対応を私が引き受けます」
「ほう、貴女がですか?」
部長は意外そうな顔をする。
「勿論、地球人の対応に人員や予算を割く必要はありません。すべて私が自前で何とかしましょう」
私がそう言うと部長はニヤリと笑った。
「いいでしょう。そこまで言うのでしたら他の者にも話を通しておきます。許可が出るか否かの返答は後日でよろしいですかな?」
「はい。ご足労おかけいたしますがよろしくお願いします」
私は軽く一礼をする。
「いえ、我々の面倒事を引き受けてくれるなら有難い事です」
こうして、魔法省の部長との話し合いは和やかに終わった。
その二日後、魔法省から返答が来て私は地球と交流を持つ事ができるようになったが、地球人にマルデアの地を踏ませる事は衛生面や治安面でよくないので地球人をマルデアに連れてくることは禁止された。
それでも星間ワープの使用許可は下りて私が地球に行くのは可能になったし、私がこの星の映像を撮影して地球に送るのは許可された。
しかし、星間ワープの使用許可で問題があって、不良品で持て余していた星間ワープの使用許可しかおりなかったのだ。
星間ワープは指定した場所にちゃんとワープできると思っていたが、それすらできない不良品があるらしい。
一応、安全装置はちゃんと働くようで転移したら地面の中にいたという有様になることはないが、転移座標が大きくずれてしまう代物らしく、座標がずれる事を前提に注意して使用してほしいと言われた。
事前に注意事項をちゃんと伝えてくれたのはハイベル財閥令嬢の私に何も言わなかった場合、父を怒らせてしまい政府とハイベル財閥と関係が悪化する可能性があったからだろう。
面倒なことに、まともな星間ワープを使えないとなると地球との交流も座標が大きくずれてしまうことを織り込んでおかないといけないようだ。
それはともかく、その日から地球からの交信は魔法省を経由してすべて私の魔術デバイス宛に届くようになった。
その交信は不定期に日に何度も来る。
英語、中国語、ドイツ語、フランス語、日本語、モールス信号などの様々な形で言葉が届くが、これがうるさいのだ。
魔法省が私の提案をあっさりと飲んだのが分かるほどで、いくら無視してもこんなのが一年間も続いていたらうんざりするのは当然だろう。
送り先もアメリカ政府、フランス政府、ドイツ政府、イギリス政府、中国政府、日本政府など多彩だった。
私は日本政府が含まれている事に興味を引いたが、とりあえず最も多い英語で送られた文章をデバイスで解析して翻訳し、文字を読み取った。
『親愛なる遠き星の人々よ。我々は地球という星の代表であるアメリカ政府だ。我々にはそちらと交流をする用意がある。ぜひとも返事をもらいたい。できる限り、そちらの意見を尊重したい』
最初に呼んだメッセージはアメリカ政府のもので、他のメッセージも読み取ってみたがどれも似たり寄ったりのものだった。
いずれも割と下手に出て、友好的に話し合おうとしているようだが、差別化ができないのでは判断に困る。
私の前世は日本人だったが、日本人は外国語が話せない者が多く、当然私も地球人の言語は日本語しかまともに話せない。
こうなると私が会話ができる地域は日本国に限られるわけである。
「どう考えても消去法で日本国を選ぶしかないわね」
日本以外だと会話ができず現地で使用されている文字の読み書きができないなどの問題が出るのは分かりきっているし、今更英語などの言語を習得するつもりもない。
私は日本政府に日本語のメッセージを送ることにした。
『拝啓、日本の皆様。私はマルデア星のアリスティア・ハイベルと申します。私はマルデア国によってマルデア国地球親善大使に任命されており、地球の方々との対応を一任されております。残念ながら我がマルデア国は地球には無関心で政府間交渉をするつもりありませんが、私だけが交流するなら問題ないそうです。日本政府が私の入国を許可して頂けるなら私が星間ワープで直接日本本土に行こうと思います。日本の皆さんに有益な品をお持ちしますのでどうぞよろしくお願いいたします』
かなり一方的な返事になってしまったが、日本政府にマルデア政府との交渉を求められても対応できないので、先に事実は書いておかないとならない。
魔術通信を送って2時間ほど待っていたら日本政府から返事が来た。
『親愛なるアリスティア・ハイベルさん。我々日本人はあなたを歓迎したい。いつどこにどういう方法で来るのか教えてほしい。スケジュールを調整して歓迎会を行いたい』
まあ、そういう質問がくるのは予想がついていたけど、星間ワープに問題があるからいつどこでという質問は困る。
『我がマルデアでは星間ワープという生身一つで一瞬で違う星に移動できる技術がありますが、マルデアは地球には無関心である為、私は星間ワープの不良品しか使用できません。不良品であるので転移座標は大きくずれてしまいので、場所は指定できません。また私は外交大使ではなく親善大使である為、格式の関係で国を挙げての歓迎会は不要ですし、大臣や議員などの方々と会うには不適切です。私の立場を考えれば非公式に手の空いている外交官と会うのが妥当だと思います』
こちらの移動手段に問題があることはすぐにバレるから隠しても仕方ないのでちゃんと伝えておく。
それと、こっちはマルデアでは一般人と大差ないなんちゃって親善大使だから首相、大臣、議員とかと会うのはちょっと困るのでそう伝えておいた。
それから魔術通信のやり取りを行い、スケジュールを決めていった。