取り調べ
私は気が付けば木々に囲まれた見知らぬ場所にいた。
「ここは霞が関ではないみたいね。やはり転移座標が大きくズレたわね」
霞が関は東京の中心だからこんな木々に囲まれた場所ではないだろう。
ここがどこだか知らないけど人に道を尋ねるべきだろう。
マルデアではワープステーションで移動できるから徒歩でも問題なかったが、地球ではそうもいかないから飛行魔術で空を飛ぶことにする。
マルデアでは飛行禁止の区域が多くて、まともに飛べないが、地球だからその辺りの法規制はないだろう。
魔術で空を飛び暫く移動すると街に出た。
町並みは日本のようだ。
どうやら国外に転移してしまったという落ちはないようだ。
「おい、人が飛んでいるぞ!」
何やら下の方で騒ぎになっているようだ。
よく見ると手に長方形の機器(※スマートフォン)を持っている人がこちらにそれを向けている人もいるようだが、その場に降りた。
「すみません。ここはどこですか?」
私はその場の男性に話しかけてみた。
「えっ、ここは千葉県千葉市中央区だよ」
私の質問に男性は戸惑いながらも答えてくれた。
「ありがとうございました」
千葉県ということは東京都の隣でやはりずれていたが、日本国であるなら速やかにワープルームに戻って出直す必要はない。
そういった意味では国内だったのは幸運だった。
「待って、君はいったい何者? 人間じゃないよね?」
「私はアリスティア・ハイベルです。日本政府から許可を得て本日日本に来ています。詳しい事は日本政府にお問い合わせください」
私がそう答えると、男性はポカンとしていた。
「政府がらみ。これは拙いか」
男性は政府が絡んでいると知ると途端に引き気味になった。
まあ、政府が抱える問題などに一般人が関わりたくないのだろう。
好奇心は猫を殺すという言葉があるように自分に関わりのない事に無暗に関与してトラブルに巻き込まれたくないのだろう。
それは賢明な生き方だ。
周囲の人間の中には遠巻きに私に何かの機械(スマートフォン)を向けている者がいた。
あれは何だろうか?
1995年にはなかった道具だ。
私が死んでから何年たったかは知らないが、技術は進歩したという事だろう。
「じゃあ、私はこれで失礼します」
私がこの場を去ろうとすると、周囲の人間は安堵した雰囲気を見せた。
私は別に取って食ったりしないのだが。
「君、ちょっと署まで来てもらうよ」
そんな私を呼び止める声があった。
振り返ると警察官がいた。
どうやらたまたま近くにいて騒ぎを聞きつけて来たようだ。
「君、外国人だね。パスポートやビザは持っているかい?」
「いえ、パスポートやビザは持っていませんよ」
マルデア星から来たのだからパスポートなど持っているわけがない。
「それでは不法入国という事になるな」
それはそうだ。
端から見れば私は不法入国者にしか見えないだろう。
「確かに法的にはそうなりますね」
結局、私は警察署に連行されることになった。
その後の警察の取り調べでは様式美に合わせてカツ丼を食べられたので良しとしよう。
一回、取り調べでカツ丼を食べてみたかったんですよ。
様式美こそが大事です。
これはロマンですよ。
また、取り調べ自体は数日に渡って受けても私の話を信じてもらえず、精神異常者扱いされてしまい埒が明かない有様だった。
これは困ったと思っていたら、誰かがやってきた。
30代ぐらいのスーツ姿の日本人男性で警察という感じではなくどちらかというとエリートビジネスマンみたいな感じの人だった。
「私は朝倉宗景(あさくらむねかげ)です。日本国の外務公務員を務めています」
外務公務員ということは外交官なのだろう。
「そうですか。私はマルデアから来たアリスティア・ハイベルです」
「では、この問いに答えてください。〝我々の交流は?″」
「〝空の未来をつなぐ″、ですか」
私は事前に決めていた合言葉を答えた。
「どうやら間違いないようですな。このような場所に押し込めてしまい本当に申し訳ありません」
朝倉さんがその場で頭を下げた。
日本政府としてはこれから交流を持とうとする相手が警察で取り調べを受けていたなんて頭が痛い事なのだろう。
「いえ、パスポートも持っていませんでしたから警察の方の対応は当然です。お気になさらないで下さい」
放置しておくと警察官が責任追及されかねないから、ここはフォローしておく。
こんな事で処分されたとあっては後味が悪いからね。
警察署で没収されていたバッグも返してもらったし、特に問題はない。
ただ、バッグは縮小魔術ががかっていてバッグから荷物を出したはいいが、明らかに内容量以上の物体が入っていた事から警察でも扱いかねていたようで、私が荷物を全部バッグにしまっておいた。