次の瞬間、私は魔術研究所のワープルームにいた。
どうやら、ちゃんとマルデア星に戻ってきたようだ。
見上げれば、天井から白い霧のようなものが噴き出していた。
浄化魔術が私についた菌を落としているんだろう。
白衣の女性は、研究室でずっと仕事をしていたようだ。
私に気づくと、彼女は立ち上がって近づいて来た。
「やあ、帰ってきたのかね。どうだったね地球は」
「ええ。大変でしたけど、とても面白い星でした」
笑顔で答えると、彼女は驚いたように目を丸くした。
「ほう。野蛮な星に行ってけろりとした顔で戻ってくるとは。なかなかタフだな君は」
「は、はあ」
研究者と二、三言葉を交わした後、私は研究室を出た。
通路を歩くと、所員たちがこちらを振り返る。
「何あの子、見ない顔ね」
「アリスティア・ハイベルよ。一人で地球と交流してるらしいわ」
「はあ? なにそれ、変人?」
「野蛮な星に一人で行くなんて、考えられないわよねえ」
職員の女子たちは、私の噂をしているようだ。
この際、気にしないでおこう。
私は研究所を出て、ワープステーションから実家に帰る事にした。
「ただいまー」
玄関から普通に中に入ると姉が出てきた。
「アリスティア戻ってきたんだ。地球はどうだった?」
「かなり面白かったよ」
「そうなんだ」
私は姉と話をした後で自分の部屋に入りバックから取り出したゲームを設置していく。
日本から大量のバッテリーを貰ったからこれにつなげばゲームができる。
勿論、マルデアで販売するには、魔力で電気がつくようにしないといけないけど、今日のところはそれはおいておこう。
その後、家族に怒られるまでゲームに没頭したのはいうまでもないだろう。
2週間ぐらいゲームを堪能していたが、その間にマルデアの魔法省に通信を入れておいた。
名ばかりの親善大使とはいえ、業務なので、上には伝達しておかないといけない。
『地球に魔石と縮小ボックスをプレゼントしたら、お返しに娯楽品のゲームを貰いました。
地球の国の首相と一緒にメディアに露出して、交流をアピールしてきました』
という旨の報告だ。
魔法省の部長からは「あっそう。好きにやれば?」みたいな返事が返ってきた。
まあ、魔石を他所の星に輸出するなんて珍しい事でもない。
これくらいはどうでもいい話なんだろう。
放任主義と言うか無関心なのだろうが、地球関係は私の好きにできるというのは好都合だ。
地球からマルデアへの連絡は、相変わらず全て私宛に送られてくる。
日本の外務省とは毎日連絡を取り合う関係になっていた。
こうなるともう、相手が省庁の官僚だろうが何だろうが慣れてくるね。
なんでも魔石と収縮ボックスが死ぬほど好評だから、できる限り持ってきてほしいとの話だ。
とりあえずこちらの商品の価値はしっかりと地球に通用したらしい。
やるべき事は地球のゲームをマルデアに輸入する事だ。
その為に、地球の情勢を調べていたが、どうも最近ではポリティカル・コレクトネスという主張が欧米で幅を利かせていた。
このポリコレがエンタメに干渉しまくっているらしく、表現の自由が非常に制限されているようだ。
これは私としては面白くない。
現在の家庭用ゲーム機市場は任〇堂、S◎NY、マイク〇ソフトの三つ巴となっているが、任〇堂以外の二社は本社やゲーム部門がアメリカにあるので、ポリコレの影響をもろに受けているようだ。
どう考えても任〇堂以外の選択肢はないだろう。
輸出するゲームのキャラが黒人に変更されたり、トランスジェンダーに変更されたりしたら溜まったものではない。
そうしたトラブルを避ける上でも取引相手はポリコレの影響が少ない企業が望ましいのだ。
「父さん、明日からまた地球に出張するからね」
「また地球に行くのか。今度はどれくらいかかる?」
父に報告すると、問いかけてきた。
「本格的にやりたい作業があるから今回は長引くと思う」
ゲームを輸入するために次は本腰を入れるつもりだ。
翌朝、私は貯金を使って魔石100個と、縮小ボックス10個を購入してバッグに入れた。
仕入れをすませた私は魔術研究所に向かった。
ワープルームの前で待っていたのは、やはりこの間の研究者だ。
「やあ、君か。また地球へ向かうようだな。懲りない事だ」
白衣の女性は、すでに準備をしてくれていたらしい。
前回と同様、帰還ワープ用のリスト型デバイスを手渡してくれる。
「今回は少し長くかかると思いますので、帰るのは来月になるかもしれません」
「そうか。冒険好きなのはいいが、命を大切にするんだぞ。気が付いたら野蛮な地球人のディナーになっていた、なんて事もあるかもしれん」
「あはは、お気遣いありがとうございます」
まさか、そんなことはないと思う。よっぽど変な場所に落ちない限りは……。うん。
私は研究者と少し話した後、ワープルームに入った。
そして、再び地球へと向かって飛んだ。