眼鏡な後輩と氷の狙撃手   作:キラ

1 / 2
熱いバトル要素はおそらくないです。


ありふれた出会い/突然の出会い

『生きてる?』

 

 それは、一種の一目惚れ、というやつだったのかもしれない。

 

『ここ、結構強いモンスターが出るから。初心者は来ない方がいいよ』

 

 たまたまログインしたVRMMOゲーム≪ガンゲイル・オンライン≫――通称GGOの中で、俺はひとりの女性プレイヤーと出会った。

 銃と鋼鉄の世界であるGGOでは、そもそも異性のプレイヤーというだけで興味を惹く存在である。

 加えて、彼女の立ち居振る舞い、纏う空気が俺の心に強烈な印象を残した。

 髪は水色のショートヘア。瞳は藍色。濃い緑色のジャケットと、首に巻いたマフラーが特徴的だった。

 クールな外見そのままに、口調も戦いぶりも冷静そのもの。しかも相当な実力者ときたもんだ。後日開催されたGGO内でのトーナメント≪バレットオブバレッツ≫にも彼女は参加しており、俺もネット中継でその勇姿を見届けた。途中親に呼ばれて何度か席を外したために全部を見ていたわけじゃないが、素直にかっこよすぎるという感想を抱いたのは事実だ。同着とはいえ優勝しちゃうんだから本当にすごい。

 そういうことがあって、俺はその人――≪シノン≫というプレイヤーに惚れこんだ。

 惚れたと言っても、付き合いたいとか結婚したいとか、そういうアレではない。彼女はあくまでゲーム上でのキャラクターであり、現実世界でそれを動かしているのは見知らぬ女性なのだから。

 ただ、仮想世界に存在するシノンという人間に、憧れの感情を抱いたというだけだ。

 

 

 

 

 

 

「……出遅れた」

 

 すでに満席になっている学食のテーブルを眺めながら、俺――光原(みつはら)(まこと)は小さくため息をついた。

 日本史の授業が長引いたせいで、他のクラスの生徒よりもここに来るまでに時間がかかったのが原因だ。どーせ次昼休みだからちょっとくらい延長してもいいでしょ? という先生方の考えには断固反対したい。もともと3年の教室は学食から1番遠いんだから。

 

「おばちゃん。前から言ってるけど、そろそろ食堂の席増やしましょうよ」

「そんなこと下っ端のあたしに言われてもねえ。もっと偉い人に頼んでおくれ」

 

 味噌ラーメンの食券を渡すついでに食堂のおばちゃんに直訴してみるも、あっさり流されてしまった。

 

「冬の間だけでいいから、どうにかならないかなあ」

「寒いもんねえ、今の季節は」

 

 先ほど満席と言ったが、正確には食堂内部の席がいっぱいという意味である。

 屋外に用意されているテーブルについては、ここから見えるだけでもちらほらと空席が残っている。

 が、今は12月半ばの冬真っ盛りの時期。できれば外で食べるのは遠慮願いたい。

 

「ほら、寒い分はあったかいラーメンで我慢しなさい。汁多めにしといたから」

「汁じゃなくて麺を増やしてくれたらもっとうれしいです」

「だったら最初から大盛り頼みなよ」

 

 もっともな意見をもらいつつ、おばちゃんから味噌ラーメンを受け取る。

 

「今日は友達と一緒じゃないのかい?」

「2人とも休みです。同時に風邪ひいたみたいで」

「あら。それじゃ仲間外れだね」

「だからって体調崩したくはないですけどね」

「あはは、その通りだね」

 

 笑うおばちゃんに軽く礼をして、外に見える空いたテーブルへと足を進める。

 ……あの人、俺が入学した時からずっといるんだよな。もうすぐお別れかと思うとちょっと寂しい。

 

「さぶっ」

 

 思わず声に出てしまうくらいの寒さを耐え、白いテーブルにお盆を置いて白い椅子に腰を下ろす。早くラーメン食べて温まろう。

 

「いただきます」

 

 両手を合わせてから麺を一口。うん、熱さが身体の芯まで染みわたってくる。

 余裕ができたので、味噌ラーメンを味わいながら周囲の景色をぐるりと見まわしてみた。

 友達としゃべりながら食べている人もいれば、俺と同じくひとりで食事を楽しむ人もいる。

 こうして見ると、やっぱり単独で飯を食っている連中は男が多い。女子は誰かと一緒にいたがる人が多いというのは事実らしい。

 

「ごちそうさまっと」

 

 他のテーブルや中庭を眺めて口を動かしているうちに、いつの間にか器の中身が空になっていた。もう全部食べ終えてしまったようだ。

 ちょっと物足りないが、まあ夕飯まで持つだろう。

 

「あと20分か」

 

 昼休み終了まで何をしようかと考えていると、ふと近くの席の女子生徒の姿が目に留まった。

 先ほど見つけた、数少ない女子でひとり飯を食べていた人だが……いつの間にか、テーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。

 で、それを見ていた俺もなんだか眠くなってきた。

 相変わらず外は寒いっちゃ寒いが、ラーメンで温まった今の状態なら耐えられないほどではない。

 教室に戻る前に、一休みしよう。そう考えた俺は、その女子にならって顔を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 予鈴が鳴った。5時間目が始まるまで、あと5分。

 だというのに、いまだに件の女子は目を覚まさない。

 

「んー……」

 

 これ、声かけた方がいいのか? 後ろ姿に見覚えがないから、多分下級生には違いないんだが。

 眠りが深くて予鈴が聞こえなかったのか、それとも単純に授業をサボる気なのか。

 後者の場合、彼女はサボり常連の不良の可能性が出てくる。『ああん?』とか言われて睨まれたりしたら怖い。

 

「なんて、考え過ぎか」

 

 ただ寝過ごしてるだけなら声をかけないとかわいそうだし、さっさと起こしてあげよう。

 

「おーい」

 

 近づいて、呼びかけながらテーブルをトントンと軽く叩く。

 声か振動のどちらかが伝わったのか、彼女の体がぴくっと震えた。

 

「……ん、んん」

「寝起きのところ悪いんだけど、あと4分で授業始まるよ」

「ん? ………っ!?」

 

 状況を理解したのか、寝ぼけ眼が一気に開かれた。明らかに焦っている。

 

「す、すみません! ええと、ありがとうございます」

「いや、気にしなくていいよ。それより急いだ方がいいんじゃないか」

「は、はい」

 

 テーブルに置いてあった眼鏡をかけ直し、うなずく彼女。

 続いてどんぶりの容器が乗ったお盆を手に持ち、

 

「失礼します」

 

 小さく礼をしてから足早に去って行った。

 彼女が食堂を出たところで、時計を確認。

 

「あと3分。まあ、間に合うだろ」

 

 結局、不良じゃなかったな。顔見たら普通におとなしそうな子だったし。

 長くない黒髪が、よく似合っていた。

 

「俺もぼちぼち行くか」

 

 俺はそんなに急ぐ必要はない。次の授業は古典だが、あの先生は毎度数分遅れて教室にやって来るからだ。

 何事も、手を抜けるところで抜くのが賢いやり方である。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 学校が終わって帰宅した俺は、そのまま2階の自分の部屋へ直行。

 鞄を置いて部屋着に着替え、ベッドに置きっぱなしにしていたアミュスフィアを手に取った。

 

「今日はALOにするか」

 

 VRMMO。まるで自分が本当にゲームの中の世界にいるかのように感じられるという、まさに画期的な技術の結晶。これが一般人の手の届く値段で普通に利用できるなんて、10年前とかじゃ到底考えられないことだった。

 とある事件の影響で人気は下火になりかけたのだが、最近はぐんぐんとVRゲームをプレイする層が増えてきているらしい。その人気回復の理由は、なんかすごいデータが無償で配布されたからだと聞いた。やる気があれば誰でも仮想世界を作れるとか、そういうレベルですごいのである。

 そして、そのVRMMOゲームの世界に入るために必要なのが、このアミュスフィア。これにやりたいゲームのROMカードを挿し込んで、頭につけてリンクスタートと言えばいい。

 

「1時間半か。何しようかな」

 

 ベッドに寝転んで、暖房を微風設定でスイッチオン。

 現在時刻は5時半を少しまわったあたり。とりあえず、夕飯ができるであろう7時までのプレイだ。

 何をするかは、向こうに行ってから考えるとしよう。

 

「リンク・スタート」

 

 

 

 

 

 

 アルヴヘイム・オンライン。

 妖精やモンスターが暮らす世界、という設定で作られたこのゲームは、VRMMO-RPGの中でも特に人気を誇る作品のひとつだ。

 プレイヤーは妖精となって、自由に空を飛べるというのが最大の売りで、俺もそこに惹かれて小遣いはたいて購入したわけである。

 

「さて」

 

 ほどなくしてケットシー領地の首都≪フリーリア≫に降り立った俺は、夕飯までになすべき目標を決めることにした。

 

「お、レイじゃん。今日もまたのんびりふわふわプレイしに来たの?」

 

 ぶらぶら歩きながら思案に暮れていると、見知った顔に出くわした。

 俺と同じケットシーの女性プレイヤー≪エンジュ≫だ。誰にでも気さくに話しかけるタイプで、俺も数回一緒にクエストに出かけたことがある。

 で、≪レイ≫というのは俺のALOでのキャラクターネームである。由来は、名字の光原の『光』→『光線』→『Ray』。まあたいして捻ってもいない。

 

「いや、今日は他のことやろうかと思って。そうだ、たまには領地のために働くのもありかな」

「え、マジで? ニートのレイが働くの? 何かの災厄の前兆かしら。突然浮遊城が落ちてくるとか」

「なんだよその言い方。やっとリアルの方が暇になったから、これからはまた前みたいにいろいろやってみようってだけなのに」

「ふーん、そういうこと。なら、今度仲間とクエスト行くから付き合いなさいよ。結構レアなアイテムが手に入るらしいから」

 

 この辺のフットワークの軽さはさすがと言った感じか。俺としても、誘ってもらえるのはありがたい。

 

「今度っていつ?」

「4日後の夜ね。どうかしら」

 

 今日が12月17日の水曜日だから、4日後は日曜日か。

 

「ああ、大丈夫だ。参加させてもらうよ」

「よしきた」

 

 ぐっと親指を立てて喜びを表すエンジュ。ちょうどもうひとりくらいメンバーが必要だったとのことだ。

 その後詳しい予定を聞いて、彼女と手を振って別れた。

 

「日曜にやることは埋まったけど、肝心の今はどうしよう」

 

 働くといっても、すぐに仕事が転がり込んでくるわけでもないし。

 あと1時間半じゃ、ちょっと中途半端だ。

 ……とりあえず、気分転換に空を飛びながら考えるか。

 

「うん」

 

 ひとりうなずき、街の外に出る。ちょっと離れたあたりに何もない草原があり、気軽に飛行するにはもってこいのスポットなのだ。

 

「ふいー」

 

 背中の羽根を広げて、ふわりと空中に浮かび上がる。そのまま横になって、俺はぷかぷかと浮きながら風を感じるだけの作業に入った。

 こうしてその場に留まってリラックスするのが、ここ最近の俺のマイブーム。目を閉じて心を落ち着け、仮想世界のものとはいえ精巧に作り上げられた自然をめいっぱい味わうのが、なんとなく好きなのだ。

 

「7時までずっとこうしてようかなー」

 

 なんて気分になってしまうが、それだといつもと同じである。

 でも、別に無理して違うことをする必要もないような。

 

「うーん」

 

 まとまらない考えを頭の中でぐるぐるさせていた、ちょうどその時だった。

 

「あっ――!」

 

 どこかから女の人の声が聞こえたので、反射的に目を開く。

 ……だが、すでに遅かった。

 

「いっ……!?」

 

 こちらに向かって、猛スピードで飛んでくる女性プレイヤー。

 回避する余裕は、ない。

 俺にできたのは、声にならない叫びをあげることのみ。

 

「へぶっ!」

 

 正面衝突した俺達は、そのまま地面へまっさかさま。

 低空飛行だったのが、不幸中の幸いか。

 

「痛っ……ご、ごめんなさい。飛行の練習をしていたら、速度の調整を間違えてしまって」

 

 上半身を起こした彼女の姿を、改めて観察する。

 水色の髪と、頭の上から生えた猫耳。加えて、お尻から伸びたしっぽの一部が見え隠れしている。

 

「いや、ミスは誰にでもあるから気にしなくていいよ」

「……ありがとう。なかなか感覚がつかめなくて」

 

 本日2人目となる、ケットシーの女性との会話だった。

 




アニメ1期をリアルタイムで見る→原作を読む→シノンかわええやん→アニメ登場おめでとう

というわけでシノンヒロインの作品に挑戦してみました。15話くらいで完結の予定です。
他の原作キャラもちょいちょい出てくると思います。

目標はシノンを魅力的に描くことですので、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。