『いやーしっかし』
『こう言っては何ですが……』
二人そろって言ったことを、ルビーがさらに続けて形にした。
『いい年こいて恥ずかしいかっこへぶぅ⁉』「お前がッ! 着させてるんッ! だろーがぁッ!!!!」
「昔のほうがもっと恥ずかしかったけどね……」
今のはましであるとは宝の談。昔、ルビーがエッチな要素の多い魔法少女ものにはまったときは、もーっと変な衣装が多かった。宝はその衣装を全部着させられた。大体ルビーに。そのルビーも、ついでに趣味を押し付けられたサファイアも、今は落ち着いてはいるのだが……あれ。
そうすると、美遊さんのあの格好はどーなんのさ?
『別に、あれしか合うのがなかっただけです。私としたことが抜かりました、和装を用意しておけば……』
「和装? それもよいですわね。やはり恥ずかしくとも衣装は衣装。着こなすのがレディというものですわ」
「うっわばかだばかがいる」
『ですが、私のセレクトを着こなしていただけるのは素直にうれしいです』
『まあそれはともかーくですねー。お相手さん、がっつり攻撃準備整えてるみたいですよ』
「あらそう。ならがっちがちにやりあいましょうか? イリヤ、美遊!」
その言葉は、「カードを自分たちに託せ」の意味。美遊は素早く、イリヤは少し遅れてカードを投げ、二人がキャッチし。
それが開戦の合図となった。
強圧的斬撃を、背後に守る者のいる相手に向けて、横薙ぎに払う。二人のカレイドライナーはそれを受けきるが、敵はそこに素早く突っ込む。
技能において、それは魔力放出と呼ばれるもの。発動することで魔力を瞬時に爆発させ、ミサイルのように敵に突撃、一気に間合いを詰め切る。先のイリヤ、美遊、そして宝を相手には使わなかった、剣士の基本戦闘技能だ。
弾丸となったそれは地面をえぐり着地、凛たちをまとめて薙ぎ払おうと、剣を再び横に薙ぐ。しかし、凛がステッキで身を守り、そこにルヴィアが攻撃を放った。
「
弾速を最大に、フルスピードで放たれたそれは、いまだ魔力の霧を構築しきっていない剣士を吹き飛ばした。
今が最大の攻め時だ、うまく着地できなかった敵目掛け、凛たちもまた高速で接近。凛はステッキを、こん棒のように振り下ろした。
「ほんと、蛮族じみた戦い方ですわね」
「うっさいわね……」
ステッキは、敵の鎧に傷をつけていた。深々と刺さった実体剣に、血が滴る。剣士はそれを無理やり引き抜くや、咆哮を上げ、剣を盾に振った。即座に回避、刃先をシュート。敵に突き立て、無理矢理に引っ張りぬく。鎖剣による投合で、敵の体は宙を舞い。
そこに、ルヴィアの鉄槌が下った!
敵は地面にたたきつけられ、呻きを上げる。
「……あんたも大概野蛮じゃない? ソレ」
「チャンスはものにすべきですわ」
『なにはともあれ、私はこういう泥臭いの好きじゃないんですがね~』
しかし、その泥臭い戦いで敵を追い詰めている。先に三人の連携で、魔力の霧を消し去っていたことも、戦いに大きな影響を及ぼしているのだろうが。少なくとも先の、イリヤたちだけでは、ここまで敵を追い詰めることはできなかったはずだ。
「すごい……こんな戦い方があるなんて」
「やっぱり、凛さんたち、強かったんだ……」
美遊とイリヤがそれぞれ口にする間も、凛とルヴィアは果敢に敵を責め立てる。
次第に剣士の周囲には、魔力の霧がまとわれていき、攻撃も通りづらくなってきた。やはり厄介だと舌を打ちつつ、さて、どうしたものか……
「よし。ルヴィア」
「ええ、わかりましたわ!」
ルヴィアが下がり、凛は変わらず前へと出る。先ほどの剣を実体化させ、再び攻撃を繰り出す。敵の傷はすでに治癒されており、凛と打ち合えるだけの体力を取り戻してもいた。鋼鉄のはじける音が響き、両者の間が大きく分かたれる。
必要な時間は三秒強、なら、ここで手札を切る!
「限定展開!」
ルビーを赤き死棘の槍へと変換。無理矢理に敵の魔力の霧へとたたきつける。ゲイボルクは敵の魔力の霧を切り裂き、突破口を切り開いた。そのまま、手に持ち、敵の心臓へ一直線に!
ガインッ
「んなっ」
敵は剣をもって、その槍を打ちはじいていた。軌道をそらされた槍は、すぐさま元の軌道に乗ろうとするが、たどり着く前に剣でそらされる。そして、すぐに三秒が経った。槍は元の姿に戻り、敵の命を刈り取ることはなく。
逆に敵の黒剣が、横薙ぎに凛の胴を狙い「物理保護全開!」
剣は、凛の体を貫くことはなかった。むしろその肌の前で完全に動きを止め、それ以上に進めていない。
「捕まえたわよ……!」
『至近距離で行きますよー!』
轟音、ついで剣士は宙を舞った。至近距離からの砲撃は、さしもの剣士もよけられなかったようだ。凛は一旦引き、ルヴィアの隣に並び立つ。
「時間稼いだわよ」
「結構ですわ。おかげで、最大火力は整いました」
その背後に並ぶのは、巨大な砲撃用魔法陣。
『姉さん、凛様。砲撃チャージ六門分。すでに終えています』
「オッケー」
計六門、色の異なるそれぞれに、イリヤ達の渡したケミーの力が宿っている。ライデンジ、バレットバーン、グレイトンボ、スチームライナー、カマンティス、そしてホークスター。そのどれもが高レベル、通常貯められる威力を凌駕した、最大以上の破壊力を砲撃に宿す。相手がいくら強かろうと、その守りが堅牢であろうと。
まとめて吹き飛ばせば、そんなものは無いも同じ……!
「行くわよルヴィア。魔力の霧だろうが何だろうが……!」
「ええ。まとめて吹っ飛ばして差し上げますわ!」
構えたステッキに力が宿る。ギラリと光を伴い、閃いたそれを。
「「
同時に振りぬく。イナズマがひらめき、六つの砲門は一斉にその口を開け、紅蓮の焔を伴い敵に到来した。業火に身を焼き、敵の体を赤光が包み込んでゆく。
目を焼く光が遂に止まった時。地は抉れ水は消え、その剣士もまた虚空へと、姿を消していた。
つまりそれは、光によって剣士が討ち果たされたという証明であり。二人のカレイドライナーによって、それがなされたという事実であった。
「や、やったの……?」
呆然と戦いを見ていた三人のうち、イリヤがそう口を開いた。宝と美遊はイリヤを見て、それから先ほどの爆心地を見て。ああ、倒したのだと納得する。
「ふふ、ふふふ……」
なんか、高笑いの前兆みたいなのが聞こえた。
「おーほっほっほっ! 楽勝! 快勝! まさしく常勝、ですわー!!!!」
「ハー、よーやくスカッとしたわ。でも、ちょっとやりすぎたかしら」
凛は目の前の惨状を視野に入れ、ぼやく。舗装された地面はえぐれ、川の水は一部蒸発、そこにすさまじい破壊が起きたことを、物語る跡がある。カードの気配はどこにもなかった。
「まさかまとめて吹っ飛ばしたとかないわよね?」
そう本人が疑うほどに、本領を発揮したカレイドの力は絶大だった。文字通りの、想像を絶する破壊力。美遊でさえ、「格が違う……」とうめくほどの、それ。
ともかく、カードの回収を。そう使ったケミーたちにせかされ、凛たちは動き始める。
そこで。
すぐに思い知らされることになった。
「……⁉ 凛さん! ルヴィアさん!」
宝は、”その気配”を感じ取って、すぐに叫んだ。凛とルヴィアは、どうしたのかと彼のほうを見る。少年はただ、目の前に感じた違和感を伝えようとして。
「っ……⁉」
言葉に詰まった。その頬を冷や汗が伝う。
同時に。川にあぶくが生まれ。
瞬時にあふれた。
「え」「な⁉」
「まさか……」
そこにいたのは、黒色の。より深い漆黒をたたえた、騎士の姿。その身に傷一つなく、バイザーの奥からこちらをまっすぐと見据える。それは紛れもない、確かに光にのまれたはずの「だったら!」
もう一度とばかりに、凛がケミーカードを構える。ライデンジのカード、強烈な電撃をまとった砲射を放つ。
その動きよりもはるかに、早く。
「
その名を叫び。漆黒の光が全てを満たし。
「
放たれた。
♦
宝が覚えていたのはそこまで。凛たちが闇にのまれ、そしてその光が鏡面界を砕きながら、自分たちに襲い掛かる。その一つのシーンまで。
ただ、その命の危機が。かつて経験したものと同じ、その恐怖が。自分のタガを外れさせたのだと、彼はその後に理解する。そして自らにその時宿った、力も理解した。
それが誰の力で、自分にとってどんな意味を持つのか、ということも。
それは。
魔力を喰らい、光を喰らい、あらゆる世界を踏破する。
かつて、人類が生まれるよりも以前に、世界を支配していた種族の王。
それを模した、赤き狂王。
恐ろしく、神秘でありながら神秘を食らうそれは。
かつての、宝の友達だった。
♦
イリヤは最初、何が起きたのかがわからなかった。自分たちに迫っていた、黒い闇を。
宝が飲み込んだという映像があって。しかしそれが、脳が理解を拒んでいて。瞬間に、彼が変じた白い獣は、敵にめがけて飛び込んで行っていた。
「OOOOOHGAAAAAAAA!!!!」
耳をつんざく咆哮のさなか。
「一ノ瀬⁉」
美遊が叫んだ。ああ、さっきのはやっぱり宝君なんだと、思って。そこで我に返る。
白い獣が、黒い剣士に、牙を剝いていた。あまりに早く動くそれの姿はよく見えないが、かろうじて、目だけが見える。
青い矢印のようなその目は、ガッチャードの目だ。じゃあ、あれはガッチャードの姿の一つなんだろうか。獣のように咆哮し、牙を光らせ、大地を砕きながら戦うあれが……ガッチャード……?
「ああいうのって……」
今まで見てきた、アニメや特撮などの物語の中で、ああして暴れ狂う姿に、ヒーローが変わることがある。俗にそれは、暴走形態とも呼ばれるもの。それを今、イリヤは現実に目にしている。
友達が、その姿に変わって、そして、友達を飲み込んだ敵に……
「っ、宝君!」
叫んだ。そこで、白いガッチャードの動きが止まる。
その隙を付き、横腹に目掛け聖剣が炸裂。ガッチャードの体を大きく吹っ飛ばした。
しかし獣のようにうなる宝は、素早く地面へと着地。虎のように四足で地を駆け、爪を無理やりに押し込んだ。鎧が粉々に砕け、肌が露出。その先から、血のしぶきが舞い散り、ガッチャードを濡らす。
「OOOOHHHGAAAAA……!」
敵は再び剣を振りぬく。それを受け止め、地に伏せて。体を回し、尾をたたきつけ。先ほどの意趣返しとばかりに、吹き飛ばす。体制が崩れ、剣も取り落とした敵に接敵、その首筋に牙を叩き込んだ。
再び、鮮血があふれ、舞う。
「あっ……」
そのとたん、喉から熱いものがこみ上げた。だめだ、見ていられないとばかりに目をそらし、イリヤはうつむく。
人と人との戦いから、獣同士の殺し合いへと移行した目の前のそれは、イリヤにはあまりに、刺激が強すぎたのだった。それを察知したのか、美遊は前に出て、彼女が戦いを見ないように仕向ける。
その本人は、目の前の戦いを見て、大丈夫なのか。私みたいに、ならないのだろうか、と。イリヤは思い、彼女を見る。
「……」
瞳はまっすぐと、目の前で起こる惨劇に向けられていた。その瞳には、戦いを見届けるという強い意志のようなものが感じられる。その意志と強さは、今の自分よりも、ずっと強くて……
「! イリヤスフィール、伏せて!」
そう彼女が叫び、イリヤの頭をつかむ。無理やり下げられた途端、巨大な何かが真上を通過していくのを感じた。先ほど転身していた時に受けた剣の圧、それと同じもの。見れば、騎士は剣を取り戻し、ガッチャードを切り伏せていた。胸から立ち上る赤い霧に、今度は敵のほうが赤く染まっている。
「っ、あ、ああ……」
「OHGaaaa……」
力の無い叫び。ガッチャードがついに片膝をつく。黒剣が、その体に再び傷を刻む。そして。
「あ……」
胸に剣が突き立てられた。ひときわ熱い血が噴き出し、地面に血だまりを作っていく。
なんで。なんでそこまでするんだと。あの敵は、なんであそこまで、人を傷つけられるのかと。いろいろな思いが渦巻いて消え、心の中を圧迫していく。
思わず駆けだそうとして、しかし美遊がそれを制止する。なんでと、叫びたくなった。
彼女が目で、あれを見ろと、促すまでは。
「え……?」
「OHGA……AAAAAAA!!!!!!」
傷が治っている。その全身の傷が、瞬く間に治癒しているのだ。それどころか、先ほど以上に元気に動き回り、敵の体に爪を突き立てている。
騎士もまた反撃しようとするが、ガッチャードは素早くそれを受け止め、逆に攻撃。敵の体に、癒えることのない傷を刻み込んでいく。
そして、三度尾の一撃で、敵の体を吹き飛ばし。
「OHGAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」
跳躍。膨大な魔力を伴ったまま、突進した。しかし敵はそれよりも早く。
「
先、凛たちを飲み込んだ極光を放った。まただ、また、飲み込まれる。
だが、飲み込まれたのは、光のほうだった。
その神秘を、紅に染まった牙がことごとく飲み込んでゆく。
ガッチャードの力へと変えられ、ただの棒切れ同然となった、それ。
もはや打つ手の無くなった敵目掛け、腕にまとった焔を掲げ。
心臓に向けて、突き刺した。
ごうと、炎が燃え上がる。
あの日、ほんの生まれたての時に見た、赤い炎。
友達が遊んでいた、真っ赤な輝き。
友達と同じ。その炎に、敵が飲まれゆく。
食われ、汚され、踏みにじられ。
あらゆる形にその体をゆがめながら……黒衣の剣士は、消し飛んだ。
後にはただ一枚、カードが残るのみ。
「OHGA……」
どさりと、宝の体が横倒しになった。次いで変身が途切れ、思い出したかのように全身から、赤い血があふれる。
『あ、っつぅ……な、んや? 今の、記憶がとんどる……「ガッチャ!」ン、イリヤちゃん? どうし、た……うえ、宝ぁ⁉』
ぼろぼろになった宝に気づき、ガッチャは悲鳴を上げた。
「早く治癒を!」
『わーっとる! 急かすな! つってもワイだけじゃあかん! ワイだけじゃ、これは治しきれへん! 姉さんたちがおらな……』
「そんな! どうしよう、ルビーは……」
ルビーたちはあの光にのまれた。その後姿が見えないということは、消し去られたのだろう。頼みの綱はすでにない。
なら、どうする、どうすれ『イリヤ様! 美遊様!』
「へぅっ⁉」『あ、すみません!』
ごちーんっ、と、頭にぶつかってきたのは、地面から飛び出たサファイアだった。
サファイア……? いや、確か彼女も、光に飲み込まれていたはずでは?
『間一髪、地面に逃れていたのです。姉さんも、凛様とルヴィア様も、全員無事です。ですが……これは?』
「サファイア! 説明はあと。今は、一ノ瀬の」
『……わかりました。治癒を行いましょう』
サファイアは宝の手に触れる。その後、すぐに宝の傷はふさがり、彼は息を吹き返した。
先ほどのあれが何だったのか、イリヤと美遊はまだ知らない。
サファイアは治癒の最中、何が起きたのかを理解した。
そうして理解できた理由は。
彼の負った深い傷が、かつて自らが治したものと、同じものであったから、だった。