Fate/Gotcha liner   作:アカハナさん

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第十話 白炎の暴走レックス

『いやーしっかし』

『こう言っては何ですが……』

 

 二人そろって言ったことを、ルビーがさらに続けて形にした。

 

『いい年こいて恥ずかしいかっこへぶぅ⁉』「お前がッ! 着させてるんッ! だろーがぁッ!!!!」

「昔のほうがもっと恥ずかしかったけどね……」

 

 今のはましであるとは宝の談。昔、ルビーがエッチな要素の多い魔法少女ものにはまったときは、もーっと変な衣装が多かった。宝はその衣装を全部着させられた。大体ルビーに。そのルビーも、ついでに趣味を押し付けられたサファイアも、今は落ち着いてはいるのだが……あれ。

 そうすると、美遊さんのあの格好はどーなんのさ?

 

『別に、あれしか合うのがなかっただけです。私としたことが抜かりました、和装を用意しておけば……』

「和装? それもよいですわね。やはり恥ずかしくとも衣装は衣装。着こなすのがレディというものですわ」

「うっわばかだばかがいる」

『ですが、私のセレクトを着こなしていただけるのは素直にうれしいです』

『まあそれはともかーくですねー。お相手さん、がっつり攻撃準備整えてるみたいですよ』

「あらそう。ならがっちがちにやりあいましょうか? イリヤ、美遊!」

 

 その言葉は、「カードを自分たちに託せ」の意味。美遊は素早く、イリヤは少し遅れてカードを投げ、二人がキャッチし。

 それが開戦の合図となった。

 強圧的斬撃を、背後に守る者のいる相手に向けて、横薙ぎに払う。二人のカレイドライナーはそれを受けきるが、敵はそこに素早く突っ込む。

 技能において、それは魔力放出と呼ばれるもの。発動することで魔力を瞬時に爆発させ、ミサイルのように敵に突撃、一気に間合いを詰め切る。先のイリヤ、美遊、そして宝を相手には使わなかった、剣士の基本戦闘技能だ。

 弾丸となったそれは地面をえぐり着地、凛たちをまとめて薙ぎ払おうと、剣を再び横に薙ぐ。しかし、凛がステッキで身を守り、そこにルヴィアが攻撃を放った。

 

速射(シュート)!」

 

 弾速を最大に、フルスピードで放たれたそれは、いまだ魔力の霧を構築しきっていない剣士を吹き飛ばした。

 今が最大の攻め時だ、うまく着地できなかった敵目掛け、凛たちもまた高速で接近。凛はステッキを、こん棒のように振り下ろした。

 

「ほんと、蛮族じみた戦い方ですわね」

「うっさいわね……」

 

 ステッキは、敵の鎧に傷をつけていた。深々と刺さった実体剣に、血が滴る。剣士はそれを無理やり引き抜くや、咆哮を上げ、剣を盾に振った。即座に回避、刃先をシュート。敵に突き立て、無理矢理に引っ張りぬく。鎖剣による投合で、敵の体は宙を舞い。

 そこに、ルヴィアの鉄槌が下った!

 敵は地面にたたきつけられ、呻きを上げる。

 

「……あんたも大概野蛮じゃない? ソレ」

「チャンスはものにすべきですわ」

『なにはともあれ、私はこういう泥臭いの好きじゃないんですがね~』

 

 しかし、その泥臭い戦いで敵を追い詰めている。先に三人の連携で、魔力の霧を消し去っていたことも、戦いに大きな影響を及ぼしているのだろうが。少なくとも先の、イリヤたちだけでは、ここまで敵を追い詰めることはできなかったはずだ。

 

「すごい……こんな戦い方があるなんて」

「やっぱり、凛さんたち、強かったんだ……」

 

 美遊とイリヤがそれぞれ口にする間も、凛とルヴィアは果敢に敵を責め立てる。

 次第に剣士の周囲には、魔力の霧がまとわれていき、攻撃も通りづらくなってきた。やはり厄介だと舌を打ちつつ、さて、どうしたものか……

 

「よし。ルヴィア」

「ええ、わかりましたわ!」

 

 ルヴィアが下がり、凛は変わらず前へと出る。先ほどの剣を実体化させ、再び攻撃を繰り出す。敵の傷はすでに治癒されており、凛と打ち合えるだけの体力を取り戻してもいた。鋼鉄のはじける音が響き、両者の間が大きく分かたれる。

 必要な時間は三秒強、なら、ここで手札を切る!

 

「限定展開!」

 

 ルビーを赤き死棘の槍へと変換。無理矢理に敵の魔力の霧へとたたきつける。ゲイボルクは敵の魔力の霧を切り裂き、突破口を切り開いた。そのまま、手に持ち、敵の心臓へ一直線に!

 

 ガインッ

 

「んなっ」

 

 敵は剣をもって、その槍を打ちはじいていた。軌道をそらされた槍は、すぐさま元の軌道に乗ろうとするが、たどり着く前に剣でそらされる。そして、すぐに三秒が経った。槍は元の姿に戻り、敵の命を刈り取ることはなく。

 逆に敵の黒剣が、横薙ぎに凛の胴を狙い「物理保護全開!」

 

 剣は、凛の体を貫くことはなかった。むしろその肌の前で完全に動きを止め、それ以上に進めていない。

 

「捕まえたわよ……!」

『至近距離で行きますよー!』

 

 轟音、ついで剣士は宙を舞った。至近距離からの砲撃は、さしもの剣士もよけられなかったようだ。凛は一旦引き、ルヴィアの隣に並び立つ。

 

「時間稼いだわよ」

「結構ですわ。おかげで、最大火力は整いました」

 

 その背後に並ぶのは、巨大な砲撃用魔法陣。

 

『姉さん、凛様。砲撃チャージ六門分。すでに終えています』

「オッケー」

 

 計六門、色の異なるそれぞれに、イリヤ達の渡したケミーの力が宿っている。ライデンジ、バレットバーン、グレイトンボ、スチームライナー、カマンティス、そしてホークスター。そのどれもが高レベル、通常貯められる威力を凌駕した、最大以上の破壊力を砲撃に宿す。相手がいくら強かろうと、その守りが堅牢であろうと。

 まとめて吹き飛ばせば、そんなものは無いも同じ……!

 

「行くわよルヴィア。魔力の霧だろうが何だろうが……!」

「ええ。まとめて吹っ飛ばして差し上げますわ!」

 

 構えたステッキに力が宿る。ギラリと光を伴い、閃いたそれを。

 

「「斉射(シュート/フォイア)!!!」」

 

 同時に振りぬく。イナズマがひらめき、六つの砲門は一斉にその口を開け、紅蓮の焔を伴い敵に到来した。業火に身を焼き、敵の体を赤光が包み込んでゆく。

 目を焼く光が遂に止まった時。地は抉れ水は消え、その剣士もまた虚空へと、姿を消していた。

 つまりそれは、光によって剣士が討ち果たされたという証明であり。二人のカレイドライナーによって、それがなされたという事実であった。

 

「や、やったの……?」

 

 呆然と戦いを見ていた三人のうち、イリヤがそう口を開いた。宝と美遊はイリヤを見て、それから先ほどの爆心地を見て。ああ、倒したのだと納得する。

 

「ふふ、ふふふ……」

 

 なんか、高笑いの前兆みたいなのが聞こえた。

 

「おーほっほっほっ! 楽勝! 快勝! まさしく常勝、ですわー!!!!」

「ハー、よーやくスカッとしたわ。でも、ちょっとやりすぎたかしら」

 

 凛は目の前の惨状を視野に入れ、ぼやく。舗装された地面はえぐれ、川の水は一部蒸発、そこにすさまじい破壊が起きたことを、物語る跡がある。カードの気配はどこにもなかった。

 

「まさかまとめて吹っ飛ばしたとかないわよね?」

 

 そう本人が疑うほどに、本領を発揮したカレイドの力は絶大だった。文字通りの、想像を絶する破壊力。美遊でさえ、「格が違う……」とうめくほどの、それ。

 ともかく、カードの回収を。そう使ったケミーたちにせかされ、凛たちは動き始める。

 

 そこで。

 

 すぐに思い知らされることになった。

 

「……⁉ 凛さん! ルヴィアさん!」

 

 宝は、”その気配”を感じ取って、すぐに叫んだ。凛とルヴィアは、どうしたのかと彼のほうを見る。少年はただ、目の前に感じた違和感を伝えようとして。

 

「っ……⁉」

 

 言葉に詰まった。その頬を冷や汗が伝う。

 同時に。川にあぶくが生まれ。

 

 瞬時にあふれた。

 

「え」「な⁉」

「まさか……」

 

 そこにいたのは、黒色の。より深い漆黒をたたえた、騎士の姿。その身に傷一つなく、バイザーの奥からこちらをまっすぐと見据える。それは紛れもない、確かに光にのまれたはずの「だったら!」

 

 もう一度とばかりに、凛がケミーカードを構える。ライデンジのカード、強烈な電撃をまとった砲射を放つ。

 その動きよりもはるかに、早く。

 

約束された(エ、クス)……」

 

 その名を叫び。漆黒の光が全てを満たし。

 

勝利の剣(カリバー)!!!!!!」

 放たれた。

 

 

 

 ♦

 

 

 

 宝が覚えていたのはそこまで。凛たちが闇にのまれ、そしてその光が鏡面界を砕きながら、自分たちに襲い掛かる。その一つのシーンまで。

 

 ただ、その命の危機が。かつて経験したものと同じ、その恐怖が。自分のタガを外れさせたのだと、彼はその後に理解する。そして自らにその時宿った、力も理解した。

 それが誰の力で、自分にとってどんな意味を持つのか、ということも。

 

 

 

 それは。

 魔力を喰らい、光を喰らい、あらゆる世界を踏破する。

 かつて、人類が生まれるよりも以前に、世界を支配していた種族の王。

 それを模した、赤き狂王。

 恐ろしく、神秘でありながら神秘を食らうそれは。

 

 

 

 かつての、宝の友達だった。

 

 

 

 ♦

 

 

 

 イリヤは最初、何が起きたのかがわからなかった。自分たちに迫っていた、黒い闇を。

 宝が飲み込んだという映像があって。しかしそれが、脳が理解を拒んでいて。瞬間に、彼が変じた白い獣は、敵にめがけて飛び込んで行っていた。

 

「OOOOOHGAAAAAAAA!!!!」

 

 耳をつんざく咆哮のさなか。

 

「一ノ瀬⁉」

 

 美遊が叫んだ。ああ、さっきのはやっぱり宝君なんだと、思って。そこで我に返る。

 

 白い獣が、黒い剣士に、牙を剝いていた。あまりに早く動くそれの姿はよく見えないが、かろうじて、目だけが見える。

 青い矢印のようなその目は、ガッチャードの目だ。じゃあ、あれはガッチャードの姿の一つなんだろうか。獣のように咆哮し、牙を光らせ、大地を砕きながら戦うあれが……ガッチャード……?

 

「ああいうのって……」

 

 今まで見てきた、アニメや特撮などの物語の中で、ああして暴れ狂う姿に、ヒーローが変わることがある。俗にそれは、暴走形態とも呼ばれるもの。それを今、イリヤは現実に目にしている。

 友達が、その姿に変わって、そして、友達を飲み込んだ敵に……

 

「っ、宝君!」

 

 叫んだ。そこで、白いガッチャードの動きが止まる。

 その隙を付き、横腹に目掛け聖剣が炸裂。ガッチャードの体を大きく吹っ飛ばした。

 しかし獣のようにうなる宝は、素早く地面へと着地。虎のように四足で地を駆け、爪を無理やりに押し込んだ。鎧が粉々に砕け、肌が露出。その先から、血のしぶきが舞い散り、ガッチャードを濡らす。

 

「OOOOHHHGAAAAA……!」

 

 敵は再び剣を振りぬく。それを受け止め、地に伏せて。体を回し、尾をたたきつけ。先ほどの意趣返しとばかりに、吹き飛ばす。体制が崩れ、剣も取り落とした敵に接敵、その首筋に牙を叩き込んだ。

 再び、鮮血があふれ、舞う。

 

「あっ……」

 

 そのとたん、喉から熱いものがこみ上げた。だめだ、見ていられないとばかりに目をそらし、イリヤはうつむく。

 人と人との戦いから、獣同士の殺し合いへと移行した目の前のそれは、イリヤにはあまりに、刺激が強すぎたのだった。それを察知したのか、美遊は前に出て、彼女が戦いを見ないように仕向ける。

 その本人は、目の前の戦いを見て、大丈夫なのか。私みたいに、ならないのだろうか、と。イリヤは思い、彼女を見る。

 

「……」

 

 瞳はまっすぐと、目の前で起こる惨劇に向けられていた。その瞳には、戦いを見届けるという強い意志のようなものが感じられる。その意志と強さは、今の自分よりも、ずっと強くて……

 

「! イリヤスフィール、伏せて!」

 

 そう彼女が叫び、イリヤの頭をつかむ。無理やり下げられた途端、巨大な何かが真上を通過していくのを感じた。先ほど転身していた時に受けた剣の圧、それと同じもの。見れば、騎士は剣を取り戻し、ガッチャードを切り伏せていた。胸から立ち上る赤い霧に、今度は敵のほうが赤く染まっている。

 

「っ、あ、ああ……」

 

「OHGaaaa……」

 

 力の無い叫び。ガッチャードがついに片膝をつく。黒剣が、その体に再び傷を刻む。そして。

 

「あ……」

 

 胸に剣が突き立てられた。ひときわ熱い血が噴き出し、地面に血だまりを作っていく。

 なんで。なんでそこまでするんだと。あの敵は、なんであそこまで、人を傷つけられるのかと。いろいろな思いが渦巻いて消え、心の中を圧迫していく。

 

 思わず駆けだそうとして、しかし美遊がそれを制止する。なんでと、叫びたくなった。

 彼女が目で、あれを見ろと、促すまでは。

 

「え……?」

 

「OHGA……AAAAAAA!!!!!!」

 

 傷が治っている。その全身の傷が、瞬く間に治癒しているのだ。それどころか、先ほど以上に元気に動き回り、敵の体に爪を突き立てている。

 騎士もまた反撃しようとするが、ガッチャードは素早くそれを受け止め、逆に攻撃。敵の体に、癒えることのない傷を刻み込んでいく。

 

 そして、三度尾の一撃で、敵の体を吹き飛ばし。

 

「OHGAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」

 

 跳躍。膨大な魔力を伴ったまま、突進した。しかし敵はそれよりも早く。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)……!!」

 

 先、凛たちを飲み込んだ極光を放った。まただ、また、飲み込まれる。

 だが、飲み込まれたのは、光のほうだった。

 その神秘を、紅に染まった牙がことごとく飲み込んでゆく。

 ガッチャードの力へと変えられ、ただの棒切れ同然となった、それ。

 もはや打つ手の無くなった敵目掛け、腕にまとった焔を掲げ。

 

 心臓に向けて、突き刺した。

 

 ごうと、炎が燃え上がる。

 あの日、ほんの生まれたての時に見た、赤い炎。

 友達が遊んでいた、真っ赤な輝き。

 友達と同じ。その炎に、敵が飲まれゆく。

 

 食われ、汚され、踏みにじられ。

 あらゆる形にその体をゆがめながら……黒衣の剣士は、消し飛んだ。

 

 後にはただ一枚、カードが残るのみ。

 

「OHGA……」

 

 どさりと、宝の体が横倒しになった。次いで変身が途切れ、思い出したかのように全身から、赤い血があふれる。

 

『あ、っつぅ……な、んや? 今の、記憶がとんどる……「ガッチャ!」ン、イリヤちゃん? どうし、た……うえ、宝ぁ⁉』

 

 ぼろぼろになった宝に気づき、ガッチャは悲鳴を上げた。

 

「早く治癒を!」

『わーっとる! 急かすな! つってもワイだけじゃあかん! ワイだけじゃ、これは治しきれへん! 姉さんたちがおらな……』

「そんな! どうしよう、ルビーは……」

 

 ルビーたちはあの光にのまれた。その後姿が見えないということは、消し去られたのだろう。頼みの綱はすでにない。

 なら、どうする、どうすれ『イリヤ様! 美遊様!』

 

「へぅっ⁉」『あ、すみません!』

 

 ごちーんっ、と、頭にぶつかってきたのは、地面から飛び出たサファイアだった。

 サファイア……? いや、確か彼女も、光に飲み込まれていたはずでは?

 

『間一髪、地面に逃れていたのです。姉さんも、凛様とルヴィア様も、全員無事です。ですが……これは?』

「サファイア! 説明はあと。今は、一ノ瀬の」

『……わかりました。治癒を行いましょう』

 

 サファイアは宝の手に触れる。その後、すぐに宝の傷はふさがり、彼は息を吹き返した。

 

 先ほどのあれが何だったのか、イリヤと美遊はまだ知らない。

 サファイアは治癒の最中、何が起きたのかを理解した。

 そうして理解できた理由は。

 彼の負った深い傷が、かつて自らが治したものと、同じものであったから、だった。

 

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