前略、爺さんはいかがお過ごしでしょうか?
「いいよいいよぉ! キラメイてるよぉ二人ともぉ!」
僕らは今、友達に被写体にされてます。はっっっっっずかしい衣装を着せられて……
姉さんが僕の部屋のクローゼットに入れていた女装用の衣装を見られて、結果美遊ちゃんと一緒に写真撮られてます。てかなんで美遊ちゃんはメイド服着てるのさ。
「あとなんでよりにもよって雀花があの衣装見つけるのさぁ!」
という宝の嘆きに対するガールズの言い訳はこちら。
まずイリヤ。
「いやぁ、私は止めたんだよ? でもほら、思ったよりかわいい服が出てきたからさ……」
そんな言い訳していいわけ……?
はい次、那奈亀。
「普段、クールぶった奴らの皮を壊してやりたかった」
普通に自供しやがったなこいつな。
次龍子。
「次脱がさせろ!」
帰れ。
ミミ。
「わ、私何もしてないよ! クローゼットの中も見てないし!」
ミミはずっと普通に話してただけだからなぁ……
えーでは、今回の筆頭容疑者、栗原雀花氏。
「え? あんな可愛いのクローゼットに突っ込んでるほうが悪くない?」
「こんのクソ女そこになおれぇーーー!!!」
ジャンプで突っ込んで避けられてびたーんってなった。カエルか。
宝は全身打ってめっちゃ痛がった。
いやそんなこといいんだよ。宝の服に関しては宝の自業自得も強いから。だが美遊嬢のあのメイド服は一体何なんだ!
「姉さんも着てたけどさ……なに、もしや今日はメイドデー?」
「こ、これ制服……ほんとは着替えていこうとしたんだけど、サファ、友達が……」
『ごーにょにょにょ(サファイアちゃんもやりますねぇ)』
『ごにょにょ(……美遊様、これも思い出になりますから。我慢してください)』
「サファイアってSなの……?」
さっき雀花と一緒にご主人様って言えとかお嬢様っぽい口調で話せとか言ってたお嬢さんのセリフとは思えませんぜなぁイリヤさんなぁ?
ちきしょう、ちきしょう! けがされたぁ……
「でも千秋さんにいつも女装させられてるんだろ? じゃあいいじゃん」
「うおおおおい言うなぁぁぁ!?」
個々のメンツでそれしてるのは色々あって知った雀花とイリヤぐらいのものである。
「お、お姉さんに……!?」
「なんでミミがいの一番に食いつくの!?」
いや今日めっちゃ怪我してたから着せてもらってただけだからね!?
普段そんな感じってわけではないのだ。「いや着せ替え人形にされてるらしいじゃん」
だーまれだまれだまれだまれだまれー!
「ていうか写真消せー! 動画も消せー!」
「いやぁこんな百合の造花をもみつぶすわけにはいかないね。うちで姉貴と一緒に永久保存させてもらうぜっ!」
サムズアップがすさまじくムカつく。
「というか僕はいいんだよ、もう汚されつくしてるようなもんだし……美遊ちゃんはだめでしょ!」
「え? え……と。別に、いいけど?」
「え、いいの?」
「思い出に残るならそれでも、うん」
ちょっとはにかんだ笑顔がすごくかわいいなぁじゃないちょっと待った。
あのう。あのーサファイア?
『ごにょにょごにょにょごーにょにょ(やらかしましたねこれは……)』
『ごにょんにょ(やらかしたってレベルかぁ……?)』
あれ、案外美遊ちゃんってそういうの受け入れちゃうタイプなの?
いやもっと心の底では嫌がってるかなぁなんて思ってたんだけど……
「……はずかしいけど。とても。でも、サファイアが言うなら」『ごにょにょー!?(い、いえ私の言うとおりにばかりする必要はないんですよ!?)』
「ミユさん案外なすがままなんだね……」
「そういうレベルか? これ」
もっとレベル高いと思うと宝。そうだよなと那奈亀。
クールであたりも強いからこっちがSかと思いきや、まさか……
「なぁなぁなぁ! 思い出作りっていえば何でもしてくれんじゃね?」
「そうか。よし、二人とも服を交換しろ」
「ふざけんなお腐れ!」
この腐れ外道(文字通り)め、これ以上汚されてなるものか!
「いったん着替えるから出てけー! こらそこのチビ龍子! 勝手に人のタンスをあさるなしまうぞ!」
「いいじゃねーか別に減るもんじゃないし!「僕の精神がすり減るんだよう」お、なんだこれ水着か? 紐みてーな」「出てけこらー!!!!!」
そんなわけで全員放り出した。
おいてかこの紐水着姉さんのだろあとで捨てておかねば……
『大変でしたね宝様、お疲れ様です』
「うん、そだね……サファイアも女の子でしょ、ちょっと出てて……あとルビーも」
『えー? 別に減るものではありませんしいいではないですかぁ~?』
「よくない! 昔とは違って、こっちは恥ずかしいんだからね!」
『そうなのですか?』
「そうなの! ……姉さんもそうだけど、みんなそういうとこわかってないんだから……」
ちょっとは考えてよ、なんて愚痴を漏らす。なんだか珍しく、あんなに声を荒げてしまった。たく、みんなといると調子が狂うな……なんて思いつつ、宝は服を取り出して、着替えた。もうルビー達には出ていく気配がないので、収納棚のドアに体を隠してパパパーっと着替えた。
部屋着代わりにしている、小さい紳士服。動きやすく作られたそれは、爺ちゃんこと宝石翁が作り上げた自慢の一品だ。こんなものをわざわざ作って渡すあたり、とてつもない孫煩悩だなぁ、とルビーは思ったりする。少しくらい私たちにもむけてほしいものです。
『それで宝様。もうお怪我は大丈夫なのですか?』
サファイアの問いかけに、宝はうなづく。
「朝まではヴァルにも治癒をかけてもらってたから何とかね。まだちょっときついかなって感じ」
『今日の夜はさすがにお休みだって凛さんもおっしゃっていましたから、ゆっくり休んでくださいねー』
「うん、そうするつもりなんだけどさっきめっちゃくちゃ疲れたんだよね」
『友達のお見舞いやで~? しっかり受け取らんとあかんで~?』
ガッチャは意地の悪い笑みを浮かべてそんなことを言った。鋳溶かしてやりたい。
『宝様は明日の回収には参加されるのですか?』
「うん、そのつもり。さすがに明日には、学校にも行くつもりだよ」
もういいかなと包帯も取る。すでに傷はふさがりきっており、体も問題なく動いた。
「残りのカードの位置はわかってるの?」
『はい~。もう判明してるので、回復したらぱぱぱっと退治しちゃいましょうって話ですよ』
「そっか。了解。今度のケミーたちも見繕っておくよ」
宝は部屋から出た。多分みんな応接間にいるはずだ。さっき扉の向こうからそんな会話が聞こえたから、多分あってるはず。
宝の後ろを、携帯化したルビー達もついていく。
『あれ、お庭のほう、ミミさんたちがいらっしゃいません?』
と、ルビー。宝は廊下の窓からそちらをうかがった。龍子をミミたちが追いかけていた。またなんかやったらしい。
「無視無視。行くよ~」
『……扱いざっつやなぁ』
そんなもんじゃなかろうか。宝は主に龍子を無視して応接間のほうへ向かった。
♦
応接間に行って休憩&着替え待ち中。龍子たちが外に行ってしまったので、二人でお話し中のイリヤと美遊。
「そういえばミユさん、今日休んでたけどどうしたの?」
「ルヴィアさんが昨日は色々大変だったから休みなさいって。それでも仕事を一応してたんだけど、オーギュストさんから仕事を全部取られちゃって」
「お仕事……」
ここまで話した感じ、ミユさんには行くところがなかったらしく、それでイリヤがルビーと出会ったあの晩、サファイアと出会い、ルヴィアさんのもとへと連れられたらしい。現在は侍女扱いで働いているという。
なんとなく今は、突っ込まないほうがよさそうな話題だと判断して、「そ~なんだ~」くらいの相槌を打っておいた。
「イリヤスフィールは、今日はどうだった? なにも変わりはなかった?」
「うーん、ちょっと昨日のことでいっぱいになっちゃてたかなぁ……」
「そう。宝には色々あったみたいだけど……」
「あれ? 名前呼び……」
「? 昨日一ノ瀬が私を呼び捨てにしたから……だったら私も、と思ったんだけど」
「あーなるほど。それならさ、わたしも……イリヤって呼んでくれない? 本名で呼ばれるの、ちょっと恥ずかしくて……友達はみんなそう呼ぶから、どうかな?」
その提案に、美遊は渋るように顔をうつ向かせ。それから「それなら」
「それなら私のことも、その……呼び捨てでいい」
「____! じゃあ、よろしくね、ミユ!」
そう言って、手を伸ばす。
「うん、よろしく。イリヤ」
彼女はその手を、言葉の手で受け取った。
「……お邪魔かなーこれ」
「え? わ、一ノ瀬⁉」
「あ、名字呼び」
咄嗟に呼ぶと名字呼びになっちゃうんだなぁ、なんて思う。でもミユは、一ノ瀬って呼んでるほうが似合うなぁ、とも思うイリヤでした。
そんなイリヤは宝を見て、おお、と声を上げた。なんかよさそうな生地の服を着てらっしゃる。ミユの着てるメイド服もなんだけど、みんなちゃんとしたコスプ(ゲフンゲフン)洋装を持ってるんだなぁ。
「というか、ちゃんと男の子な部屋着持ってたんだね……」
「その母親が子供の成長を喜んでるみたいな目やめて……」
「あの、体は大丈夫なの? さっきもかなり動いていたけど」
「うん、ぜーんぜんだいじょうぶ! 心配無用だよ」
腕をぐるぐる動かして、大丈夫だとアピール。それを見てか、ミユはホッと息を吐いた。
「よかった」
「いやぁ、ミユさんも僕のこと心配してくれるんだ。あんまりしてくれないと思ってたからうれしいねぇ」
『お前なぁ……』
「? 仲間の怪我を心配するのは、普通じゃないの?」
あら。
「……面と向かって仲間って言われるとちょっと恥ずかしいなぁ。友達のほうが、ちょっと」
「あ、本気で照れてる」
『いい反撃や美遊ちゃん。宝はこういう唐突な本音に弱いからどんどん使ってけな』
「なんのレクチャーしてるの……」
いや事実というか実際そういうのにはおちょくり返せないのだけどね……
「……でも、そういえば僕、呼び捨てにしたんだっけ。でもあれって、ニードルホークになってたからだし……」
「でもノーカンはダメだよ。もうミユは、宝君のこと呼び捨てにしようとしてるんだし」
「……まあ。別に僕が嫌っていう理由もないし……」
なんというか、単に恥ずかしいから呼び捨てにしてなかったんだけど。そっちが名前呼びするなら、合わせないとなぁ、なんて思って。
カリカリと頭をかいて、それからミユを見て。宝は仄かに笑って、語り掛けた。
「じゃあ僕も……よろしくね、ミユ」
「……うん、よろしく、宝」
そう言いあう二人を切り取れば、貴族の子息と侍女の、初対面のようにも見える。でもそれをまとう二人は、東洋風で、不思議な風情を感じさせた。なんというか、自分がいるのが場違いだなぁー、なんて感覚になるくらいには。イリヤはちょっとだけ気おされて、こっそりルビー達に話しかけた。
「明後日……だよね」
『? ああ、次のカードですね。そうですねぇ、残り二枚のうちの片っぽです。頑張りましょうね、イリヤさん』
「うん。ちょっとだけ、自信満々でいこっか」
少しだけ、ほんの少しだけ。より近くなれて、より相手のことを知れたというか。
あの黒髪の女の子との距離が、埋まって。
宝は少しだけ、自分のあの力に、礼を言いたくなった。
♦
そんな彼らを、遠くからじっと見つめるものが一人。黄色い体の、円盤のような姿のそれの体には、大きな矢印が刻まれていた。
彼は懐かしい、その家屋の中の顔ぶれに目を向けつつ、ふわりと浮いて、どこかへと飛んで行った。