Fate/Gotcha liner   作:アカハナさん

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第十四話 縁起無しの落ち込み三人組

 朝が来た。何の変哲もない普通の朝、いつもの朝、平和な朝。

 そんな朝が、すごく重いもののように感じる。

 

「イリヤさん。そろそろ時間ですよ」

「はーい。あれ、お兄ちゃんは?」

「今日は弓道部の朝練だそうです」

「先行っちゃたかぁ……」

 

 会話も、何の変哲もない、普通のもの。でも、どこかぎこちなくて。

 

「イリヤさんその……一人で大丈夫ですか?」

「なに言ってるのセラ。大丈夫だよ」

 

 イリヤはそう答えて、逃げるように戸を開けていった。

 

「いってきまーす」

 

 その背中に、セラは声をかけることができず、ただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

 ♦

 

 

 

「よーうイリヤー! 本日はご機嫌ハウアーユー⁉」

「おはよタツコ。雲がきれいだね」(オーウソーバッード?)

「んだよ朝からそんなんじゃ放課後まで持たな」「うるさい龍子、静かにして」

「ごめん今そんな気分良くないんだよ……」

 

 イリヤ美遊宝による総攻撃の前に龍子は崩れ去った。

 イリヤも美遊も宝も、なんだかとっても気落ちした様子である。その中に龍子も加わった。

 

「だれか優しくしてくれ……」「はっはっはっ、この蛆虫め」

「優しくしてない……と、ともかく。なんか空気悪いね」

 

 ミミの言葉に、雀花がうなづく。

 

「なんかあったのか? 昨日……」

 

 昨日は割と普通に仲良さそうに、ともすればいつもよりも距離が縮まった風に思えたのだが、今度は前通りというか、前以上に距離が開いているように感じる。

 でも、これは別に何かがあったとかいうわけではなく(いや、あるにはあったんだけど。人に言えない事件が)単純に昨日の今日で、顔を合わせずらいというだけであった。

 

「ごにょにょ(どうやら体調は大丈夫なようですね。イリヤ様も、宝様も)」

「……(あれだけの魔力を放出しておいて無傷、か……宝のほうも、今回は大丈夫そう、だけど……)」

「ごにょのにょ(問題は心のほう、ですね)」

 

 

 

 ♦

 

 

 

 昨夜、一時過ぎ。イリヤとセラは夜間外出の件(と、セラは思っている)で話をしていた。

 心が弱っているのを感じたセラによって、セラとだけ、ほかの家族にこのことは伝えずに、二人だけで話していた。

 ……いや、話してはいなかったかもしれない。イリヤは何があったのかを伝えられなかったから。なにせ、凛やルビーとの約束がある。それに話したところで、きっとわかってもらえない。イリヤが普通の子供であったのと同じように、お手伝いで母親代わりのセラもまた、普通の人間。魔術を信じることは、きっとない。

 イリヤは、何も話してくれないのですかと尋ねるセラに、ただ「ごめんなさい」とだけ言っていた。

 

「……責めるつもりはありません。ですが、イリヤさん。わたしは奥方様から、この家の留守を預かる身です。理由も話してもらえないなら、このような夜遊びを容認するわけには」「行かない……」

 

「もう……しない、から……今日で、終わりにする、から……」

 

 イリヤの声は泣いていた。きっとそこに、様々な葛藤があったのだろう。しかしそれは、セラも、そしてルビーも知らないところだった。

 

『いやぁしっかし、親バレはまずかったですねぇ。魔法少女ならぬ非行少女だと思われちゃいましたかねぇ。いやぁ、実際空は飛ぶんですけどね』

 

 授業中、ルビーはこっそり、イリヤを元気づけようとそう声を発する。でもイリヤから、突っ込みは帰ってこず、代わりに普通の返答が来た。

 

「魔法少女のことも、魔術のことも秘密なんでしょ。どうせ信じてくれないから、もういいよ……」

『も、もちろん! 魔法少女は正体不明がスタンダードですからね、今後ともそこは隠し通していかないといけません!』

「今後とも……でも、わたし、カード回収する気は、もう……」

『別にいいんじゃないですかー?』「え?」

 

 ルビーはあっけらかんと、そう言い放った。一瞬呆けたイリヤに、彼女は追撃する。

 

『もともとカード回収任務は凛さんとルヴィアさん、それと宝さんに任せられていたものです。もちろん私がイリヤさんをマスターにしたというハプニングこそありましたが……私たちはあくまで貸し出されただけ。本当は一般人の力を借りず、凛さんたちだけで回収任務を行うべきだったんですよ』

「……そういう、ものなの? それに、止めないんだ」

『私的にはカードなんてどうでもいいですしねぇ。私とサファイアちゃんがいなくても、ガッチャがいますし。油断さえしなければ、今までのカードは全部、ガッチャード単独でも倒せていた可能性はありますから。それにですねぇ……あんな血生臭いこと、魔法少女の仕事じゃありませんよ』

「血生臭い、か……たしかに、そうかもね。どんなに取り繕っても、あれは命のやり取りだったんだ」

 

 宝が白い姿になって、セイバーの英霊に殺害されそうになった瞬間は、今でも覚えている。そしてその白いガッチャードは、昨日、自分を……

 

「タカラ君は、さ。そんな世界に、ずっといたの?」

『宝さんですか? まあそうとも言えますが……でも、実戦をったのは、今回が初めてですよ。戦った回数は、イリヤさんと同じなんです』

「え? でも、魔術師の世界に生きてたって」

『魔術師の世界をそんな地獄みたいに言わないでください。あってますけど。大正解ですけど。宝さんは、お父さんやお姉さんたちに守ってもらっていたので。普通だったんです、確かに普通の子だったんですよ』

「……そっか。じゃあ、タカラ君も」

『きっと、昨日の自分が怖いと思っているのでしょうね、あの意気消沈ぶりを見るに。それは当たり前のことです。自分の中の不思議な力にも、殺し合いにも。どれにも怖いと思うのは、人間として当たり前のこと。とても普通のことなんですよ』

 

 ルビーは諭しながら、またはっちゃけて。

 

『むしろ凛さんたちに、ここまでよくつきあったもんです。ほめてあげたいくらいですよ!』

「あはは、ありがとルビー。でも、これからどうすればいいのかな……」

『ふむ、そうですね。やっぱりもともと責任があることではないとは言っても、何も言わないでバックレるのはまた違いますし……まあ、一応』

 

 

 

 ♦

 

 

 

『凛さんに、ぶっちゃけちゃいましょうか』

 

 放課後、ルビーのその言葉通りのことをすることになった。凛を呼び出して(一応作った)辞表をおずおずと渡す。それに対して凛は。

 

「昨日はあのまま帰ってこなかったわね……大丈夫かって心配していたのだけど、これは……そういうこと、よね」

 

 受け取りつつ「ま、こうなるとは思ってたわ」と言って。

 

「……何か言いたいことがあるなら、聞くわ」

 

 そう、促した。

 

「………………最初は、正直……面白半分と、興味本位が半分で。でも……」

 

 言葉はいくらメルヘンでも。ファンタジーのように、見えても。

 

「考えが甘かったって、思い知って……」

 

 そう、どう取り繕っても覆せないものがある。

 彼女はもう、二回も。死にかけていたのだから。

 

「だから……」

 

 今頃になって、ミユの言葉が深く突き刺さったような気がした。

 タカラ君もミユも、戦う理由があるのに。

 私には、そんなものはなかったんだ、って……

 

「もう、戦うのは……イヤです」

 

 そう言うと、凛さんは呆れたような、でも少しだけ優しい顔をして。

 

「そう、わかったわ」

 

 そう言ってくれた。

 

「一つ、確認したいのだけど」

「っ」

「昨日のあれは、自分の意志で引き起こしたこと?」

 

 それは、ちが「違う! わたし、あんなの、一度もやったことない……」

 

「でも、ルビーにあれほど大出力の爆発は起こせないわ」

「っ……それは」

『凛さん、一回ストップです。これからイリヤさんは、カード回収が終わったら、魔術との接点はなくなります。ですから、もう聞く必要はないと思いますよ』

 

 それ以上に踏み込もうとした凛を、ルビーが止める。

 そうね、と一息、彼女は。

 

「本当に怖かったのは、そのことなのね……わかったわ」

 

 凛は辞表を受理。ルビーを取ろうとして、掴んだ。

 

「協力を要請していたのはこっちだし、辞表を受け取らない理由はないわ。いくら戦力が足りなかったとはいえ、小学生の女の子に代わりに戦ってもらうなんて……判断が甘かったと言わざる負えないわね」

『ところでなんかつかまれてますけど私戻る気なんてないですよ?』

「は? いやあんたもいないと最後のカード倒せないんだけど⁉ サファイア達だけじゃたぶん無理よあれ⁉ だからマスター登録を元に戻しなさい!」

『やーなこってす! 私のマスターは私が決めまーす!』

 

 凛はルビーをめっちゃ引っ張った。丸いところがめっちゃ引き延ばされた。でもルビーはおれなかった。

 

 べしっ

 

「……いいわ、どうせカードは残り一枚だし。回収がすんだら私もルビーも、ロンドンに戻るし。それで全部終わり、もうイリヤには関係ないことになる」

「そう、ですね……」

「……うん、今までよくやってくれたわ。本当にお疲れ様。もうあなたは私の命令を聞かなくていい」

 

 優しい声音で、彼女は言う。

 

「今日までのことは忘れて。魔術の世界なんて、結局首を突っ込んでもいいことはないの。全部、夢だと思って……忘れてくれていいわ」

 

 それは、確かに存在したつながりを、二人の間の契約を消す言葉だった。

 それは、自分で望んだことのはずだった。

 

 でも、なぜか。

 

 なぜか、心が痛い。

 

「日常に戻って。宝も、きっともう魔術のことは何も話さないから。……それでいい?」

 

 そうして凛が声をかけたのは。

 

「美遊、宝」

 

 一人は、真剣な面持ちで、今夜の戦いに臨む少女と。

 対照的に、意気消沈といった様子の少年だった。

 

「はい」「……大丈夫です」

「ミユ、タカラ君……」

「あの、イリヤちゃん。昨日は」

 

 思わず話しかけた宝の声に、イリヤの顔がこわばる。

 襲い掛かってきた彼に対する、トラウマにも近いある種の恐怖。思ったわけでもないのに、体が反応して、一歩下がってしまった。

 

「あ……」

「宝。イリヤには、あのことも含めて忘れてもらう。だから、いつも通り……ってわけには、いかないわよね」

「……そう、ですね」

「……今日で終わり。この関係も、全部。最初に言ったとおりには、ならなかったけど」

 

 美遊が言う。

 

「貴女は、もう戦わなくていい。あとは全部、私たちが終わらせるから」

 

 その言葉はあの時と同じ。でも、響きに含まれたものは。

 ……いや、今はいいだろう。

 

 

 

 次が最後の戦い。

 冬木の廃ビルの、最上階。そこに集った面々は今日、最後のカードと相対する。

 これが、正真正銘の。

 

「ラストバトル……始めるわよ!」

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