「スーパー、ガッチャード……!」
高らかに告げられたその字を、イリヤは小さな声で反芻する。
黄金輝く粒子放つ、キラメキのガッチャード。立ち上がり、その力のありようを理解し警戒している狂戦士へと、ガッチャードは歩みを進め『ガーッチャー!』
『な、なんやぁ⁉』『ガチャー! ガーッチャ!』
「おっとっと、とぉ……」
ガッチャリバーが、勝手に動いた。かわいらしい声で、ガチャガチャと叫ぶ(文字通り)その様は、なんというか子供というか幼児というか赤ん坊というか。
『ガチャー!』
「ちょ、ストップ! これじゃ戦えなってこっち来てるー⁉」
こちらがてんやわんやしてるのを見てチャンスだと悟ったのだろう。巨漢の英霊はすぐさま地を蹴って前進、ガッチャードたちに切りかかった。
それを見たイリヤが、せめて盾になろうとルビーを構え『ガッチャー!』
と、その瞬間。その場にいた全員の姿が掻き消えた。敵が地面をえぐっても、そこには血も肉もありはしない。まとめてすべて、その後ろに移動していたのだ。
その現象は魔術において、上位に当たる高等術式。
転移に、他ならない。
「はあああああ⁉ ちょっ、今普通に転移して……」
「転移魔術のバーゲンセールですわね……しかしどうやったのです?」
ルヴィアの問いに、宝は頭を掻きながら答えた。
「いやぁ……ユーフォーなら、転移くらいできますしねぇ?」
「……あ、わたし理論だ」
「ほんと、無茶苦茶……」
そうは言いつつ、美遊の口元は笑っていた。ちょうど彼女の傷も、サファイアによる治癒が完了しているところ。ならばと、彼女は素早く、転身の言の葉を紡ぎだす。
「多元転身!」
『OK、マイマスター……!』
その則に応え、サファイアもまた、気合を入れて言葉を紡ぐ。
『コンパクトフルオープン! 境界回廊最大展開!』
機能のすべてを解放し、多元空間より彼女のための衣服を招来、続けざまに現在の衣服と混じり合わせていく。自身の機能を、能力をマスターがフルで発動するために。また、自分がマスターのサポートを最大限できるように、生み出す、魔法少女の装い。
青い衣服は蝶のように。それも、冷たく、しかし鮮やかな輝きを放つ、モルフォ蝶のごとき姿に。しなやかで、小学生にしてはよい彼女のスタイルを、十全に引き出すタイト・スーツ。
戦闘用と考えれば、恥ずかしくとも慣れるものだとは美遊の談。そんな彼女は、いつにもましてくるりと回り、鮮やかに転じて、イリヤの隣に並んで見せる。
ようやく、そうして、魔法少女らしい姿で描かれた彼女は。最後のカレイドライナーとして、二人の隣に並び立ったのだ。
『新生カレイドライナー・プリズマ☆ミユ……参上、です』
「よし……行くよ!」
ミユの掛け声とともに皆が駆け出す。
宝はガッチャージガンを複数生成。両腕の円盤、クロスレコーダに合体させ、飛ばす。
クロスレコーダはガッチャードの指令念波によって自在に動く遠隔装備なのだ。さらにこちらにも、物体をテレポートさせる能力が備わっている。
魔術的にはチートもいいとこであるが、味方もチート、敵もチートな中では、ようやく足並みがそろった気がする。
「もちろん悪いほうにだけど!」
ガッチャージガンで牽制しつつ、ガッチャリバーを振るい攻撃。それも受け止められるが、さらにアッパレブシドーの力を乗せ威力を強化、ダメージを加速させていく。しかし、狂った敵に痛みで動きが止まるということはなし。その剛腕で振るった破壊剣が、ガッチャードを木の葉のように吹き飛ばす……
その寸前で、ガッチャードの体は虚空に消えた。剣の当たらない、一歩下がった位置へと転移したのだ。剣は地面に突き刺さり、勢いを止めるが……その数秒は大きな隙となった。
「
ハンマー状の魔力の塊、そして牙のごとく鋭き魔力の塊。それぞれを伴ったルビーとサファイアが、狂戦士の体を上空へと吹き飛ばした。
筋力強化に全振りし、敵を吹き飛ばし肉も骨も砕く、暴力だけの一撃を、同時に見舞ったのだ。飛んだ敵は、そのまま途中で地面に落下する。落ちたのは、廃ビルの屋上。
ガッチャードたちも、転移を用いて追いかける。
吠える獣は、その身に被った甚大な被害に、目をむいていた。
それらは、英霊の皮をかぶった怪物であり、しかし宝具を利用できるという、かなりの特異性を持った存在。カードによって生み出される黒化英霊たちは、そういう生き物なのだ。
ゆえに、本来の、かの大英霊ではけしてしないような思考、行動を行う。
獣はその身に宿す宝具による残機を数えるのだ。生きるために、目の前の敵を食らうという目的のために。
残る命は六。あの子供らに、青と円盤のに三回ずつ殺されて、そこまで減った。しかしてそのすべてを消費しきることはないだろう。なぜなら、彼らの手札は残るところ、あの黄金の姿が最後のよう。それで殺すことができなければ、相手はこちらを倒す手段を完全に失うのだ。
それが、この宝具、十二の試練の力……!
「っ! フルパワーで行くよ!」
『ガッチャー!』『いくでガッチャリバー!』
ドライバーを操作、トリニティアルケミキサにエネルギーを充填していく。その力で、胸のクロスアストラに光を宿し、オーマイガッチャ粒子を生成。パッションアタノールと結合したこの部位により、オーマイガッチャ粒子の起こす超運動能力が、一気に高められていく。
その力を全身にためてゆき。そして一気に、解き放つ!
『スチームホッパー!』『ユーフォーエックス!』
『『シャイニング・フィーバー!!!』』
黄金にきらめいたスーパーガッチャードの姿が突如として消える。無尽蔵の転移能力。その力によるかく乱。
敵は縦横に剣を振り、ガッチャードをとらえようとするが。僅か数ミリ、敵の鼻先に現れたガッチャードは、その顔面を一気に貫いた。
しかし、首を飛ばされるのは敵も経験済み、もう首が落とされることはない。だが、それ以上の攻撃をガッチャードは解き放つ。
「え……増えた⁉」
イリヤが驚き、声を上げる。
スーパーガッチャードが二人に増えたのだ。それどころか、四人、八人とどんどん分裂していく。そしてそのすべてが、四方八方から英霊の全身を切り裂いてゆく。英霊の筋力ランクにその一撃を当てはめれば、威力そのものはD相当。耐久Aを誇る狂戦士の体には、傷をつけられるほどの威力ではない、が。
百に上る、ライダーキックの連続攻撃。ライダーキックを何度も受け、耐性を得たからと言って……これには、耐えられない。瞬間的にも、その破壊力はAをもはるかに超えるのだから。
「ライダァァァーー!」
そしてとどめの一撃が。
「百段キィィッーク!!!」
英霊の体を、完全に吹き飛ばして見せた。クラスカードも露出する……が、掴むことはできなかった。
ばらばらになった体はまたも繋ぎ止められ、狂戦士が復活する。
ガッチャードはまたも攻撃に移ろうとするが、その瞬間、宝の全身に紫電がほとばしった。膝をつき、ガッチャードは倒れる。
「っ、動けない……」
『い、いっぱつで魔力めっちゃ持ってかれる……』
なんとか転移で攻撃を避け、距離を置いた。
また殺害したが、またよみがえった。
「うわ、ほんとに不死身……」
「どうしよっか……さすがにさっきの、もう一発ってわけにはいかないし……」
「……そうだ。セイバーのカードは使えない?」
美遊がそう提案する。攻撃能力の高いカードの中で、ランサー以外で使っていないのは、そのカードだけだ。
それで、撃破しきれるだろうか。そも、クラスカードはガッチャードライバーとは規格が合わないから、協力したくともできないのだが……
「……僕も使えたらよかったんだけどね」
「さっき頑張ってくれたから、いいよ。あとはわたしたちがやるから!」
イリヤは一歩前に出る。そして、セイバーのカードを限定展開。
ルビーが黄金の宝剣、エクスカリバーとなった……その時だった。
「ユーフォー……!」
ユーフォーエックスが鳴いた。その瞬間、エクスカリバーにオーマイガッチャ粒子がまとわりつく。「な、なにしてるの⁉」
「せ、制御できない! ユーフォーエックス、何やってんの⁉」
宝がユーフォーエックスに叫ぶが、彼は聞く耳を持たず、エクスカリバーに粒子を宿らせていく。というか、やられているルビーが悲鳴を上げてないんだけれど、どうしたんだろうか。
『はいはいはいはい……ふむふむふむ。なるほど! できましたー!』
「で、できたって……わ!」
「ユーフォー!」
ユーフォーエックスの高らかな声とともに、エクスカリバーからカードが飛び出た。クラスカードではなく、ケミーカードと同じトレカ状のカード。描かれているのは、端正な顔立ちの金髪の剣士と、聖剣エクスカリバー……っぽいカラーリングのガッチャリバーだ。
カードには、「X GOTCHALIBUR」とある。そのレベルは、10。最強を表す二桁の数字。
「エクス・ガッチャリバー……レベル10の、カード⁉」
「ユーフォ」
「使えって、こと?」「ユーフォー!」
「……うん、わかった。ありがと、ユーフォーエックス!」
宝はスーパーガッチャードライバーから、ユーフォーエックスのカードを引き抜いた。次いで、エクスガッチャリバーのカードを装填。ガッチャリバーに、青い光がともり、いつもとは異なるくぐもった音声が響き渡る。ガッチャリバーは、装填された自分のカードに喜んで、声を上げた。
『ラスト・ファンタズム! ガッチャー!』
『ほほ、喜んどるなぁ! 自分のカードか、そうかー!』
「行くよ!」
『OK!』
腕を掲げ、全身でXの字を表し「大・変・身!」
『ガッチャーンコ!』『エーックス!』
現れるは黄金の剣。
その形をバラバラに分解して、スチームホッパーのアーマーと結合。伸びる青いマントや、銀の装甲がガッチャードを彩る。
その姿は、かつてブリテンに存在したとされる王国の大いなる王の力。強大なる剣を引き抜き、王に選ばれた少女の姿。
……宝自身は、その王を選ぶ側。おとぎ話の魔法使い。だが、今この時だけは、友とともに剣を取り戦う、黄金の剣士が力を貸す。
両腕のホッパリングプレッシャー・ガウェインには、太陽のごとき黄金の力が。ホッパリングクラッシャー・ヴェティーズには聖剣を模倣せし煌めく雄姿が。
聖剣、合体。自らを聖剣となす、その姿こそ。
『エクス・カリバー!』『スーパー!』
スーパーガッチャードの第二形態。スーパーガッチャード・クロスエクスカリバー。
強大なパワーをその身に宿したガッチャードは手を強く握りしめるも、構えをとることはない。魔力の消費が大きすぎて、単独で動くことさえできないのだ。だからこそ、この形態の使い方を理解したというべきか。
「ミユ!」
「え、うん!」
「僕を使って!」
「へ?」
スーパーガッチャードはワイルドモードへとその身を転じる。スーパーライダケミドールごと、黄金をまとう聖剣へと変わるのだ。
イリヤの手にしたエクスカリバーとほぼ同等の、しかし別の姿の聖剣には、さらにサファイアが合体し魔力を無限に供給、蓄積していく。ミユと、イリヤ。二人の幼き女王は、両脇に立ちてすべてを見据える。
狂戦士はその威圧に気おされ、後ずさった。
「これなら、いける!」
『いくでー! 姉さん! ガッチャリバー!』
『ええ!』『いっきましょー!』『ガーチャー!』
その、力に。カードのまま、さらなる力を与える。
ユーフォーエックスの宇宙の力はその時、確かに宇宙と世界をつなぎ。
鏡面界に、太陽の輝きをもたらした。二つのステッキは共鳴し、ユーフォーエックスの開いた異空より。
宝具たちを呼び寄せる。
それは巨大な天馬である。それはあらゆる魔道を破する短剣である。
それは全ての心臓を貫く死槍である。それは悪心をえぐり取る呪腕である。
そしてそれは……正義をなす彼の、心の世界、そのものである____!
「
少女たちの声は、世界のすべてを引き裂いた。
すべては終わって。
そうして、本当に……朝がやって来るのだった。