Fate/Gotcha liner   作:アカハナさん

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第二十一話 Kがほほ笑む/トリプルライナーズ

 ガッチャードと美遊が、二人に先駆け先行する。

 錬成したガッチャートルネードと、光の刃を纏ったサファイアを敵にたたきつける。

 二体の偽ライダーは、しかしそれぞれの技と能力によって、攻撃をさばいて見せた。

 

『シールド・オン』

 

 フォーゼの左腕に現れたNo.18シールドモジュール。攻撃を防ぎ受け流すのに特化した、フォーゼの武装の一つだ。

 サファイアによる斬撃を弾き返した偽フォーゼは、素早く更なるスイッチの力を発動する。

 

『ペン・オン』

 

 フォーゼの右足が巨大な毛筆に変化。次いで回し蹴りが放たれ、美遊とガッチャードの顔面に炸裂した。

 ベチャリ、と水を含んだ泥のような音が響き、二人は思いっきり顔をしかめた。

 

「め、目に入った……⁉」

「うわーしみるー⁉」

『乙女の顔に墨を塗りたくるとは卑劣な!』

 

 怒るところそこじゃないよサファイア。

 二人はすぐに目を擦って汚れを落とそうとするが……しかしインクは落ちなかった。

 そうこうしている間に、今度は『チェーンソー・オン』

 

「今何かやばい音聞こえたきたでござるが⁉」

『とんでもないの出してきおったわ! 避けろー!』

 

 ガッチャに言われ、宝も美遊もすぐに後ろに引いた。途端、彼らのいた箇所に「ギュイイイイン」と金属の擦れ破れる音が響く。

 ガキンッ、と途中で響いた音は「いたぁ⁉」というガッチャの声と同時に聞こえた。多分ぶつかったのだろうと宝は思った、見えないけど。

 

『痛い痛いめっちゃいたーい⁉』

『だ、大丈夫ですか⁉』

「うう、なにこの目隠し……」

 

 何度も袖で目のあたりをこする美遊『あああ私の衣装が……』

 服には汚れが付くだけで、やはり墨そのものは取れなかった。

 イリヤもよってきて、ハンカチで拭いてあげるのだが、やはり取れない。

 

「そいつは墨じゃないからな、それじゃ取れないぞ」

 

 そう告げる声とともに響く打撃音。仮面ライダー二号のライダーパンチが炸裂したのだ。

 

「墨じゃ、ない?」

「ああ。そいつはコズミックエナジーが固まったものだ。フォーゼを倒さないと、固まったまま一生落ちないぞ!」

「とんでもないテロ行為だよこれ⁉」

 

 恐るべしペンモジュール。

 しかし、美遊も宝も前が見えない以上、どうすることもできない。

 

「こーなったら……エクスガッチャリバー!」

 

 宝は天に向かって叫んだ。二大偽ライダーを相手にする二号も、イリヤと美遊も、ついでに偽ライダー達も、その声につられて空を見る。

 空には、白い光と青い光が輝いていて。その間に強く、きらりと輝いたものがあった。

 

『ガーーーーッチャーーーーーー!!!』

 

 そんな声をあげながら、その青い剣は地面へと落下し、でかいクレーターを開けた。

 それは見事に二号と偽ライダーズの間に割って入り、彼らを瞬く間に吹き飛ばして。

 

「あ、あぶねぇ……」

 

 さしもの二号もこの一言である。

 ガッチャードは「すいません……」と謝りつつ、剣を手に取った。エクスガッチャリバーもといエクスは、甘えるような『ガチャー』という声をあげて、宝やガッチャにペタペタ触る。

 

「危ないでしょ、エクス。もうちょっとゆっくり降りてくるように」

『ガチャ? ガチャー』

 

 首をかしげるようなしぐさをするエクスだったが、すぐにぺこりと頭を下げて。

 それから彼は再び、宝の手の中に納まった。

 

「よし、行くよ」

 

 エクスガッチャリバーはガッチャードの手の中で変形。そこからガッチャードライバーに、覆いかぶさるような形で接続する『クロス・オン!』

 続いて、ドローホルダーから取り出した、ユーフォーエックスのカードをエクスの読み込み口に装填。ユーフォーエックスの力が、スーパーガッチャードライバー全体に満ち満ちた。

 

『マーベラス・オカルト! ガッチャー!』

「じゃあ三度目の……変身!」

『ガッチャーンコ!』『エーックス!』

 

 ガッチャとエクスそれぞれの声がまじりあい、ガッチャードライバーからユーフォーエックスの幻影が現れる。

 それとともに、ガッチャードのライダケミドールはスーパーライダケミドールへと変化。エナジーマルの装甲もユーフォーエックスと交錯し、三対の巨大なユーフォーとなった。それらをガッチャンコケミー達同様装備して、そして完成するのはガッチャードの強化形態。

 

『エナジーマル! クロスユーフォーエックス!』『スーパー!』

 

 宇宙の神秘をその身に宿した黄金の姿、スーパーガッチャード・クロスユーフォーエックスが誕生した。

 

「って、変身してどうするの?」

 

 イリヤが問う。

 クロスユーフォーエックスになっても、スーパーガッチャードの目は真っ黒に塗りつぶされたままだ。その上からさらに、ユーフォーエックスの装甲が装備されていて、余計見ずらいと思うのだが……

 

「そこで。ユーフォーエックス、代わりに頼むよ」

「ユーフォー」

 

 ユーフォーエックスに宝が語り掛けると、ちょうどマスクの部分にユーフォーエックスの目が浮かび上がった。黄金に輝く吊り目には、二体の偽ライダーの顔がくっきりと映されている。

 なるほど、とルビーが言った。

 

『ユーフォーエックスに、視界を肩代わりしてもらうのですね』

「そーゆーこと!」

 

 言うが早いか、ガッチャードは素早く駆け出し、二体のライダーとぶつかった。

 二号はその様子を見ながらひゅうと口笛を吹き。

 

「頭が回るな、ガッチャード。俺たちも行くぜお嬢ちゃん!」

「はい!」

『美遊様、私がサポートさせていただきます』

「うん、お願いサファイア」

 

 四人と、二体の怪人がぶつかる。

 

 スーパーガッチャードの相手をするのは、同じくスーパーの名を持つもの、仮面ライダースーパー1の偽物だ。趣味の悪いくらいに金色の敵は、腕を通常のスーパーハンドに戻すや、ガッチャードの連続攻撃を捌いていく。

 徒手空拳では分が悪い、そう判断したガッチャードは、腰のスーパーガッチャードライバーからガッチャリバーを分離。カードを装填しつつ、攻撃を放った。

 

『ホッパー1! ストラーッシュ!』

 

 軽快な音声とともに放たれる緑色の閃光、斬撃。

 アスファルトの地面をえぐり取り、爆発するその緑光に身を焼きながらも、スーパー1は一歩も引かず攻撃を繰り出す。腕が赤く輝き、形状の違う金色の色に変わった。

 

「パワー・ハンド」

 

 パンチ一発五〇〇tもの破壊力を有する恐るべき科学の結晶パワーハンド。

 正拳突きを放つたび、風圧が空気を裂き、ガッチャードに傷をつける。

 

「なんて威力……!」

 

 パワーハンドはその威力に似合わず、素早く宝を狙い撃つ。

 咄嗟に防御の構えをとるが、触れただけで粉砕されかねない。判断を誤ったと理解した瞬間、ガッチャードの体を剛力のパンチが吹き飛ばしていた。

 

「っが……⁉」

 

 両腕の装甲が、ばらばらと砕けて黄金の粒子をまき散らす。ユーフォーエックスが苦悶の表情を浮かべた。

 

「ごめん、ユーフォーエックス……」

「ゆ、ユーフォー」

『なんちゅう火力や、あいつ……』

 

 すさまじい攻撃力に、もともとの設計思想による俊敏性が合わさり、強化形態になっても苦戦必至だ。

 再び、スーパー1は拳を握り、無作為に襲い掛かってくる。ガッチャードは今度は避けようとするが、一瞬腕に痛みが走り、動きが鈍った。

 

「ぐあっ⁉」

『っ、骨が折れとる⁉ あ、アカン!』

 

 スーパー1は、今度は真芯をとらえんと鉄拳を繰り出した。

 ガッチャードの装甲が、その一撃によって砕かれる……しかし、スーパー1の腕はガッチャードには届かなかった。赤い腕が、その攻撃を受け止めていたのだ。

 

『二号ライダー!』

「世話焼かせんなよ、ガッチャード」

 

 笑ってそう言いつつ、スーパー1の腕を払い、パンチを顔面に叩き込む。顔のパーツが宙を舞い、バラバラと地面に落ちた。

 

「すみません……」

「気にすんな! あと、そこは感謝が先だ、ガッチャード!」

「は、はい! ありがとうございます!」

「よし、行くぞ!」

 

 二号はガッチャードの横に並び立ち、構えをとる。敵はその腕を青く輝かせ、今度は稲妻を放ってきた。エレキハンドのエレキ光線だ。

 極力攻撃を回避しながら、ガッチャードは次の手を考えた。

 

「よし、キャッチュラ!」「キャッチー!」

 

 ホルダーからキャッチュラを呼び出し、錬成したガッチャージガンに装填。パワーハンドの猛攻から逃れつつ、ガッチャージバスターを放つ!

 キャッチュラの粘糸弾が連続してはなたれ、スーパー1の体を拘束した。

 

「キャッチャー!」

 

 喜ぶキャッチュラにありがとうと礼を告げつつ、ガッチャードは剣を構える。

 再びガッチャードライバーと接続し、ドローホルダーからカードを取り出し。そのカードを、ユーフォーエックスと変わる形で装填した。瞬間、ガッチャードの全身を紫電が駆け抜け、それは青と黄の色を混ぜながら右足に集中していく。

 

「トドメ、行きましょう!」

「おう!」

 

 ライダー二号が全身に力をためる。その横で、ガッチャードはドライバーを操作した。

 

『ウッシ! エナジーマル!』

『ユーフォーエックス! アンド・ライデンジ!』

 

「……ライダァァー! パワァー!!!」

 

 二号の体が淡い輝きに包まれるや、跳躍。ガッチャードもまた跳躍し、その隣に並び立つ。

 

『『スーパー・シャイニングフィーバー!』』

 

 空中で体を折り曲げながら、力をため。対する二号は体をひねり、足を前に突き出す。

 

「ライダァァー! キィーックッ!!」

「ストロンガー! (でぇーん)・キーック!」

 

 二つの仮面の戦士は、電光となって偽スーパー1を貫いた!

 偽物のエレキハンドがバラバラに砕け散り、黄金上のその体は火花を散らし、どろりと溶けて散る。

 背後の偽スーパー1は、そしてついに、前のめりに倒れ果てるのだった。

 

 

 

「やった!」

 

 その戦いの様子を見て歓声を上げつつ、イリヤもまたフォーゼを相手に立ち回る。

 宝とは異なり、多段変身を持たず視界不良から逃れる術のない美遊をサポートしつつ、彼女の前に立ち、魔力の刃を伸ばして槍となったルビーを振りかざし、敵のチェーンソーとぶつけ合う。

 その背後から、美遊はサファイアの声でサポートされつつ、魔力砲を放っていた。いつもとは異なり、スピードを乗せた射撃は不可能だが……

 

『イリヤ様のホーミング砲をお借りできて、助かりました』

 

 イリヤが得意とするホーミング攻撃をイメージして攻撃に乗せることで、狙い撃たずともダメージを負わせることができていた。

 しかし、フォーゼの腕は落とされようが即座に再生し、それどころか新たなモジュールを展開し攻撃を繰り出してくる。

 

『マジックハンド・オン』

 

 右腕から展開された桃色の円筒がつながった巨大なアーム、マジックハンドモジュールが振り回され、イリヤは咄嗟に避けるが。

 

「っ、美遊!」

「あうっ⁉」

 

 マジックハンドの円筒部がぶつかり美遊の体が吹き飛ばされる。

 イリヤはすぐさま飛び出し、壁にたたきつけられる寸前だった彼女を、身を挺して救った。

 

「あ、危ない……」

「イリヤ……」

 

 そのまま、美遊を抱きしめたまま空中に逃れる。

 

「大丈夫?」

「う、うん。いいから、離して」

 

 顔を赤くして、イリヤから離れる美遊。あれ、避けられてる……?

 一瞬イリヤはそんなことを思ったが、気のせいだよねと思うことにした。

 

『……ほうほうほうこれはこれはこれは! まさかまさかそういう!『えー、行きましょうか。美遊様、イリヤ様』ちょサファイアちゃん⁉』

 

 イリヤが苦笑いしながら「うん」と答える。

 と、そんな二人の横を何かが飛んで行った。見れば、黄金色のロケットを右腕に装備した偽フォーゼが、空を自在に飛んでいた。

 

『ランチャー・レーダー・オン』

 

 再び右足にランチャーモジュールを召喚し、更に左腕に搭載した電波受信用のレーダーモジュールによって、イリヤたちを正確に捕捉。そして、いくつものミサイルを解き放った。

 

「イリヤ、どいて!」

「え、うん!」

 

 美遊は素早くイリヤの前に出て、複数のホーミング弾を撃ち放つ。

 ミサイルと相殺され、爆発が起こる中……美遊はイリヤに向けて叫んだ。

 

「狙い撃って、イリヤ」

「……そっか! ようし!」

 

 宝から渡されていたケミーたちを、右足のカードホルダーから取り出し、ルビーにかざす。

 計三枚。グレイトンボ、バレットバーン、さらにゲンゲンチョウチョの力がルビーに宿った。

 

『フッフー! ケミーライズ、ミーックス・スリー!』

 

 射撃の威力、さらに複数に増加した槍撃(ランツェ)を、弓矢のごとく一気に解き放つ!

 

三点・槍撃(ドライスター・ランツェ)ー!!!」

 

 三発の槍撃(ランツェ)が、無数の幻影とともに偽フォーゼへと迫る。

 偽フォーゼはその攻撃を難なくかわし、ペンモジュールとシールドモジュールで攻撃を防ぎ切った。

 だが、巻き起こった煙に視界を防がれてしまう。

 レーダーモジュールが輝き、周囲に光の波動を張り巡らせる。敵を探るためのレーダーを可視化したのだ。

 

「ふっふっふー……でも、そういうの、実は効果なかったり!」

 

 そんな声が、四方から聞こえてきた。

 見れば、レーダーモジュールがいくつもの影をとらえている。

 その影はすべて、イリヤだった。レーダーモジュールは彼女たちが、すべて本物であると示している。

 敵がうろたえているすきに、イリヤズはルビーの先端に魔力をため。そして一気に解き放った!

 

全方位砲射(オールレンジ・フォイア)!」

 

 あらゆる方向から放たれた砲撃の波。さしもの偽フォーゼも、ペン、シールド両モジュールだけでは受けきれない。

 全身に爆撃を受け、吹き飛ばされる。それでもなお、実体は保っているが……「美遊!」

 

「ええ!」

 

 空中に青い光が輝き、流星となって降り注いだ。

 瞬間、空中でもがくだけだった偽フォーゼの体が、地面にたたきつけられる。

 地面に穿たれたクレーター。その中央には、フォーゼの胸を踏みつけた、美遊が立っていた。彼女は、トン、と地を蹴って敵から離れ。

 同時に、偽フォーゼは跡形もなく爆発四散した。

 

流星蹴射(ライナーズシュート)……」

『電王風、ですね』

 

 撃破と同時につぶやいて。

 ふと目を開けると、駆け寄ってくるガッチャードが、目に映った。

 

 

 

 ♦

 

 

 

 イリヤのそばを、赤紫色のチョウチョがパタパタと飛んでいる。

 矢印のような模様が入った羽根を印象的にはためかせるそのケミーは、レベル3のインセクトケミー・ゲンゲンチョウチョだ。

 

「なるほど、さっきのイリヤちゃんが分身してたのは」

「そう! チョウチョちゃんに力を借りてたの!」

「ゲーンゲン」

 

 ヒラヒラと舞いながら、笑うように鳴くゲンゲンチョウチョ。

 ゲンゲンチョウチョの能力は、他者に幻覚を見せること。イリヤを無数に分身させたように見せかけた幻覚や、レーダーモジュールの表示を変えて分身を本物と誤認させたりと、この能力を活かして、相手をかく乱したのだった。

 ご丁寧に、砲撃だけはすべて本物だったのだが。これはバレットバーンの能力によるものだった。

 宝がイリヤにゲンゲンチョウチョを託したのは、今日が最初。だが、二人はバレットバーンも交えて、息ぴったりのコンビネーションを披露してくれた。

 

「グレイトンボの力もうまく使えてたし、イリヤちゃんはケミーと相性がいいのかもね」

 

 さすがだね、と宝は彼女を誉める。

 と、右腕の傷が痛んで、思わず顔がゆがんだ。

 

「っ、うあ……」

「あ、大丈夫?」

「うん、なんとか……キャッチュラにギプスをつけてもらったし、たぶん大丈夫」

『わいもリジェネフル稼働中や。バスに戻るころには、なおっとーはずやで』

 

 ガッチャがそう告げる。それなら、いいのだけど。

 

「それで、この怪人……というか、偽物軍団はいったい何だったんだろ?」

 

 宝が敵の残骸と、そのあとから手に入れたカードを見ながらそうつぶやく。

 その言葉に、二号ライダーが驚いたように声を上げ。

 

「知らないのか?」

「はい。僕たちもカードを使いますけど、こんなカードは見たことないです」

 

 宝が掲げるカードは、仮面ライダーとそれを模したモンスターが描かれたものだった。

 ケミーカードに似ているが、大きさはクラスカード……一般的なタロットカードと同サイズ。だいぶ大きく、ガッチャードライバーには入らない。

 サファイアやルビーでも読み込んでみたが、何も効果は発動しなかった。

 

「クラスカードにも、ケミーカードにも似ているけど……」

『どちらの反応もありません。強いて言えばケミーカードに近いようですが』

「ふうん、悪い奴がそのケミーカード? をまねたって線はないのか?」

 

 と、二号。もとい変身を解除した一文字隼人。

 あるかと言われれば、ある、かもしれない。

 

「でも、この二体……このフォーゼのケミーと、スーパー1のケミーは、ちゃんとケミーの反応がするんです。おそらく、ただ真似ただけではなく、ケミーに仮面ライダーの力を写した存在というべきかもしれません」

「ケミーに写すって、そんなことができるの?」

 

 イリヤが問いかける。宝はうなづく。

 

「ホッパー1とか、昔の錬金術師が作ったオリジナルのケミーには無理だけど……ちょっと待ってて」

 

 宝は左手の薬指に指輪をはめる。青い宝石の装飾が施された、矢印のマークの付いた指輪だ。

 彼は手ごろな岩に、その指輪をかざし、告げた。

 

「……万物は、これなる一者(ひとつもの)の改造として生まれうく」

 

 そう告げるや、言霊に乗せて岩が変形。ホッパー1の、1/1サイズの石人形が生まれた。

 

「っ……なにをしたの?」

「おー! 魔法だー!」

 

 驚きと喜びが入り混じった声を上げるイリヤと、少し警戒の色を見せる美遊。

 宝は「置換魔術だよ」と言いつつ。

 

「……ホッパー1、力借りるね」

「ホパ!」

 

 魔術によって物体の形状を置換。そこにホッパー1の宿ったカードをかざし、更に詠唱を重ねる。

 

「下にあるものは、上にあるものの如く。上にあるものは下にあるものの如く。ただ、一つたる軌跡をなさん」

 

 瞬間、ホッパー1のカードが輝き、そこからあふれた光が石のホッパー1に宿る。

 光が止み、石のホッパー1をおもむろに持つ宝。

 

「ホ……」

 

 すると、彼の手の中で石のホッパー1が動き出した。

 赤い光を目に宿しながら、そのホッパー1は彼の腕の中でもがもがと動く。

 美遊は、何をしたのかと宝に問いかけた。

 

「それは……?」

「レプリケミーっていうんだ。ケミーの術式自体は、案外簡単にコピーできるの。で、ケミーたちの中にある術式をコピーして動かしやすいよう、同じ形の体を与えるのがレプリケミー生成の術!」

「ホパ……」

 

 まるで肯定するかのように、レプリホッパー1はうなづく。

 でも、と宝は続ける。

 

「生き物を作るには、体と精神と、魂が必要。これは、ケミーの体しか持ってないのと、ホッパー1の術式に残ってる残滓が、精神の代わりになってるだけだから……本質的には、さっきの怪人に近いんだよ。ただ、こっちのカードのケミーたちは……」

 

 二枚のカード、フォーゼのカードに描かれた白いロケットのケミーと、スーパー1のカードに描かれた、色とりどりの腕を持つハチのケミーを見る。

 

「たぶん、仮面ライダーのデータをさらに入れ込んでる。レプリケミーは魂が宿っていない分、いろんな情報を入れるのには最適な入れ物になるんだ。だから、仮面ライダーのデータをケミーに宿してるんだと思う」

「ふうむ。じゃあよ、こいつらが眠ったまんまなのはなんでかわかるか?」

「それは……」

 

 眠ったように目を閉ざし、鳴き声の一つも発さないケミーたちを見て、宝は言った。

 

「能力を勝手に発動されないよう保険をかけているんだと思います。これを作った誰かが」

「……なるほど、やっぱり黒幕がいるのか。しかも久々に、でかい組織で動いてるらしいな」

「え?」

 

 黒幕って……ああ、そういえば二号ライダーや、この風都の仮面ライダーは、謎の黄金のライダーや黄金の怪人と戦っていたのだっけ。

 

「ひとまず、ありがとなガッチャード、カレイドルビーにサファイア。おかげで助かった!」

「は、はい。でも、確か後怪人が一体残ってたはずなんですけど」

 

 イリヤが言うと、それなら大丈夫と隼人は笑い。

 

「君たちを逃がした赤い奴……アクセルがすぐに倒したからな。もちろん、お友達も無事だぜ」

「あ……美々も大丈夫だったんだ……よかったぁ」

 

 安どのため息を漏らすイリヤ。そこに、ルビーが突っ込んだ。

 

『あの……イリヤさん、もしかしたらなんですが』

「どうしたの?」

『もしかしなくても、この人、私たちの正体に感づいてません?』

「感づいてるどころか、もう知ってるぜ? イリヤちゃんに、美遊ちゃんに、宝くんだろ?」

 

 え。

 

「え?」

「……ああ」

「あ」

 

 そういえば何度か、普通に名前呼んじゃってたなー

 

「そりゃ気づく! ハハハハ!」

 

 一文字隼人はそうやって笑って見せたが。

 ああ、やらかした。

 

 三人はそろって、ため息をつくほかなかった。

 

 

 

 ♦

 

 

 

「あ、みんなぁ!」

 

 戻ってきた宝たちを見て、美々が歓声を上げる。

 ボロボロの警察署の中での再開だった。

 

「ど、どこ行ってたの! って、ケガしてる?」

「う、あー……これは」

 

 宝の腕の怪我を見て、美々はハッと気づいて、言った。

 

「もしかして、逃げてる途中で怪人につかまっちゃってたの?」

「そ、そんなとこ。隼人さんに助けてもらったんだー……なんて」

「そうだったんだ……無事でよかったよ。イリヤちゃんも、美遊ちゃんも」

 

 そう、二人にも笑いかける美々。だましているのが申し訳なくなるくらいの優しい笑みだった。

 フィリップは「そういうことだったのか」とつぶやきつつ、三人に告げる。

 

「怖くはなかったかい? すまないね、僕がしっかり見張っていれば……」

「あー……だ、大丈夫、です」

 

 美遊さえも、罪悪感で頭をぐるぐるさせている。

 宝はこっそり隼人に目線をやるが、隼人はにししと笑っているだけだった。

 

「隼人さん?」

「おお、油井。どこ行ってたんだ?」

「どこにも、行ってないですけど……いえ、さっきから何笑ってるんです?」

「ん~? いや、なんでもねえさ」

 

 と、警察署の門がバタンと開かれ、駆け込んでくる女性がひと「イリヤちゃん美遊ちゃん美々ちゃん宝く~ん!!!!」

 その人は宝たちをまとめて抱きしめ、ずざーと砂煙を巻き上げた。

 

「大丈夫、大丈夫、大丈夫ー!?!? 怖かったでしょもう大丈夫先生が来たから!」

「ちょっ、先生苦しい……」

「苦しいです、先生……」

「ああ、ごめんねー」

 

 先生はパッと手を放す。

 

 警察署でのことは、すぐにニュースになって、先生たちの間にもどんなことが起きていたのか伝わっていたようだ。

 大河先生は率先して、守ってくれていた大人の人たちに挨拶をしている。

 宝はそれを一瞥しつつ、ふと時計のほうを見た。すでに時間は、午後の三時を回っていた。

 確かそろそろ、バスに戻る時間じゃなかっただろうか?

 

「あ、そうそう! だから迎えに来たのよ!」

 

 ……なぜそんな簡単に心を読むんだ。

 

「結局、フィールドワークもできなかったし、それどころか危ない目に合わせてしまったね」

 

 と、フィリップが言う。彼は頭を下げつつ、微かに笑って。

 

「もし、またこちらに来ることがあれば、今度は風都のよいところを相棒と一緒に紹介しよう。そうだ、相棒とも、まだ会っていなかったよね」

「そうですね……じゃあまた、いずれ……お邪魔させてもらいます」

 

 宝はそう言って、「ありがとうございました」と頭を下げる。

 イリヤたちも、それぞれ頭を下げてお礼を言って。

 

「それじゃ、行きましょうか!」

 

 という先生の一声で、解散となった。

 宝は最後、警察署から出る前に、一文字隼人と照井竜を見つけ、ペコリと頭を下げ、それから署を後にした。

 

「宝」

 

 歩く途中、美遊が宝に問う。どうしたの? と聞き返すと。

 

「レプリカのホッパー1、預けてよかったの?」

「ああ」

 

 そのことか。

 実は、レプリホッパー1は、一文字隼人に託したのだった。単純にケミーのことを知ってもらうためと、彼らの敵が魔術を使っているのなら、それに対する対抗策を練れるだろうと思ってのことだった。

 

「ホッパー1はバッタのケミーだし、たぶん大丈夫だよ。それに、隼人さんなら殺しちゃうようなこともないだろうし」

「そう……あの、宝。もう一つ聞きたいんだけど」

「うん?」

「……レプリホッパー1を作ったときに使ったあの魔術は」

「あれ、ルヴィアさんに習ってなかった? 置換魔術だよ。投影と同じで、術式に必要なものが足りない時に、その代用品を用意したりするのに使うんだ」

 

 宝は「うまく説明できないんだけど」として、つづけた。

 

「フォークからスプーンを作るとしてさ。まず、フォークを鋳溶かして、型にはめて、それから冷やして、スプーンにするじゃない? そういう面倒くさい工程を省けるのが利点なんだよね。下位の基礎魔術だけど、それなりに精度はいるし、結構高難易度かなぁ。僕は、レプリケミー作るくらいにしか使ってないから、腕は下の下なんだけどね」

 

 そう、笑いながら宝は語る。しかし、美遊は「そう」とか「へえ」とか、どこか上の空にその言葉を聞くだけだった。どうしたのだろうと思って、途中から冗談を交えたりしたのだが、それでも美遊の顔は明るくならない。

 宝は、少し彼女のことが心配になった。

 

「……どうかしたの?」

「え? いや、何でもない……置換魔術のことを考えてて、少し、上の空になっちゃってただけで」

 

 そう、沈んだ表情で彼女は言う。

 

「……もしかして、あんまりうまく行ってないの? 魔術の修練……」

「う……あ、まあ、そう、うん」

 

 曖昧な返事。

 容量のいい美遊のことだし、ルヴィアさんに魔術を習っていても、すぐ習得するんだろうと思っていたが……どうやら見当違いだったようだ。

 

「美遊にも、苦手なことがあるんだね」

「言わないで……」

 

 美遊は頬を赤く染めて、顔をそむけた。

 イジリ甲斐のある顔である。すこーし嗜虐心が刺激され「タカラ君?」

 

「うぇ、な、なに」

「もう、イジるの禁止! ほら、美遊困ってる!」

「え、あ、うん」

「ちょっと、まだイジってないんだけど……」

 

 まあ、イジりそうだったのは認めるけれど。

 

「……でも、別に宝にならいいのだけど」

「え、いいの?」

 

 じゃあもっとイジっていいのかしら……

 

「ミユもそういうこと言わない! ほら、早くいこ!」

「わかったよう。美遊」

 

 クスクスと笑いながら、宝は美遊に手を差し伸べる。

 美遊はうなづいて、その手を取って。

 それから、三人は走り始めた。

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