Fate/Gotcha liner   作:アカハナさん

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第二十二話 Kがほほ笑む/魔女のライダー

 深夜、今なお活気づいている風都の町。

 その街並みを、一文字隼人は走っていた。手にした携帯に連絡をかけつつ、一文字は周囲を見渡し、大きなため息をつく。

 

「……どこ行ったんだ、油井のやつ」

 

 小山油井がいなくなったのだ。

 昼前までは、彼の近くにいたのだが、鳴海探偵事務所に戻った際「少し用があるので、行ってきますね」とだけ告げて、それっきり音信不通となってしまった。

 先ほど、二十三時を過ぎたばかりなのだが、いなくなってからは五時間ほど過ぎている。

 探し始めてからは二時間ほどで……その間に、彼女の足取りは、まったくつかめていなかった。

 

「先輩!」

 

 と、繁華街を走る隼人の背後から声がかかる。翔太郎だ。

 彼はすぐに彼に駆け寄り、油井が見つかったかどうかを尋ねるが、隼人は首を横に振る。

 

「まだ、全然だ。いったいどこに行ったんだ……」

「先輩、確か今日の午後。あいつ、先輩から一度離れてたんですよね。その時に何かあったりは」

「何かって……」

 

 隼人は思い出してみる。

 今日の午後の、風都市警察署で起こった襲撃事件。その時、隼人は油井と知らず知らずのうちにはぐれていた。

 彼女が戻ってきたのは事件が終息し、現場検証を行っている時で。その時彼女は、どこに行っていたのかという問いにすこし言葉を詰まらせていた。「どこにも行っていなかった」とは言っていたが……

 

「多分嘘だろうな……しっかし、襲撃の時にいなくなってたとしたら……誰かと会ってたのか? それこそ、事件の犯人と……」

 

 おそらく、黄金の怪人や仮面ライダーの偽物を操る犯人と、吸血鬼事件の犯人は同一人物だろうと、翔太郎も隼人も確信している。しかし、犯人像が浮かび上がってこない状況だった。

 事件の被害者は全員直接の関係がある人間というわけではなかったし、偽ライダーや偽怪人の出現頻度もランダムに近い。常に無作為で、いったいだれが何の目的で行動しているのかつかみにくいのだ。

 

「……ホパ」

 

 と、二人が悩んでいると。

 隼人の懐から、一枚カードが飛び出た。灰色だったケミー、レプリホッパー1だ。

 しかし今は、真っ赤な目に黒っぽい緑の体色の、ライダー二号に近い姿をしている。カードには丁寧な文字で「HOPPER2GOU」の文字がある。

 

「先輩、そいつは?」

「うん? ああ、こいつは」

 

 隼人は、かいつまんでこのケミーのことと、今まで戦った黄金の偽物が、この生き物と似た存在だということを説明した。

 ガッチャードやカレイドルビーについても明かしたが、彼らの正体までは伝えなかった。

 

「……ケミー、か。それで、そいつは」

「ああ。俺の能力をコピーしてしまったみたいでな。俺が預かることになったんだ」

 

 ホッパー2号。そう、名をつけた、元レプリホッパー1。

 そのホッパー2号は、何かに反応するように、しきりに「ホパ、ホパ」と鳴いている。

 

「どうしたんだ?」

 

 ホッパーは隼人の胸ポケットから抜け出すと、どこかへ導くように、二人のほうを向いてぴょんぴょんと跳ねる。

 

「来いって、言ってんのか?」

「ホパ」

 

 渋い声で告げるホッパー2号。

 隼人と翔太郎は顔を見合わせ、ひとまず、彼の後を追うことにした。

 

 

 

 ♦

 

 

 

 小山油井がいたのは、風花町の小さな教会だった。

 今では人がおらず、半ば廃墟と化したその施設には、月の光が鋭く差して輝いている。

 彼女は、その手に携えた一つのホイッスルを握りしめながら、奥へと歩みを進めた。

 

 途端、パっと光がともり、何者かの姿が宵闇より浮かび上がる。

 

 油井と同様の体躯に、黒いボブカット。金の装飾が施された漆黒のドレスを纏う彼女の周囲を、機械の蝙蝠が一匹、パタパタと飛び回っている。

 顔を隠すように垂らされた黒いヴェールを手で払いながら、彼女は油井に語り掛ける。

 

「やほー、ゆいちゃん。いやぁ、誰にも言わないで来てくれたみたいね!」

 

 ……妖艶な雰囲気とは裏腹な、非常に陽気な声で。

 彼女はカラカラと笑っているが、対する油井は静かに彼女を見据えながら、手の中のホイッスルをより強く握った。瞬間、その手の中に赤いレイピアが実体化する。

 黒い少女は「わお」と、それを見て笑って見せた。

 

「ジャコーダーは持ってきちゃったんだ……もう、いけない子だなぁ」

「……サガークを返して、木乃美」

「いやだなぁ、直球な女の子は嫌われちゃうよ? 登()ちゃん」

 

 若干、名前のニュアンスを変えて、彼女は続ける。

 

「サガークを返すのは難しいよ。だって返したら、結ちゃんすぐ攻撃してくるもん」

「……当たり前でしょう。この町で起こした事件の数々、忘れたとは言わせません」

「……仇を取りたいって必死だったのに、随分怖い詰め方するねぇ、結ちゃん。わざわざ偽名まで使って、お父さんの知り合いのおじさんの力も借りたっていうのに」

 

 小山油井。

 結、と名乗って少女が、鳴海探偵事務所を利用するために使用した偽名だ。

 登という苗字では、自分がとある人物の関係者だとばれる可能性があったため、結はこの偽名を使用したのだ。

 

「ね~? サガの鎧を受け継いだ……二代目のファンガイアの王様さん?」

「違います。私は、サガの鎧の管理者です!」

「でも、あの王様の養子なんでしょ? いいよね~、つまりお姫様だよ! しかも剣士で凛々しくて! 私の好きな、壊したい美しさだよねぇ♡」

 

 恍惚とした表情で、彼女はそう告げる。

 結は木乃美と大学で出会い、そしてお互いが「魔術に関係する人間」であることを知ってから。彼女がかつて時計塔において、どういう立場にいたのかを聞かされていた。

 曰く、創造科(バリュエ)の神童、とも謡われた女性。空属性という特異性と、類稀な感性によってさまざまな芸術品を作り上げ、芸術を元とする魔術によってその地位を盤石なものとした彼女であったが……

 

 ただ一つ、欠点があった。

 あらゆる美しいものは、破壊を得てこそ最上の美しさを確立する。それが彼女の掲げる基本理念で。

 彼女はその自分の欲望に則って行動し、時計塔内部で様々な事件を起こし、結果。

 

「時計塔の人もひどいよねぇ。何も退学処分にしなくたっていいのに。ロードもロードだよ。少しくらい弁護してくれたっていいじゃん」

「……自業自得です」

 

 彼女は「そうかもね」と笑い、空を飛ぶ蝙蝠を手に収めながら、結に近づく。

 

「それで……サガーク、返してほしいんだよね。結」

「……ええ」

 

 結はジャコーダーを掌に収め、真っすぐに木乃美を見据える。

 

「いいんだけどさぁ……交換条件があるの」

「なんですか?」

「私の組織に入ってくれない?」

 

 結の表情が、一気に険しくなった。

 木乃美はカラカラと笑う。

 

「別に私の組織じゃないんだけどね。私さ、黄金郷っていう組織の幹部待遇受けててさ。その気になれば、好きな子を部下にできちゃうんだ。それくらい地位があるんだよ」

「それで、私を引き入れたいと?」

「うん。だって友達じゃない? 私的には殺しあいたくないし、あとサガの鎧に適合したファンガイアとか探すのめっちゃくちゃだるいし。あ、知ってる? サガ使える人探すの、私の役目なんだよ? 首領もひどいんだよねぇ、いるわけないじゃんそんなの」

 

 言いつつ、結に指をさす。「……結ちゃん以外にはね」

 

「……それで、どうする? 入ってくれる? そしたらサガークにも、痛いことしないで返してあげる」

「……謹んで、お断りさせていただきます」

 

 結はジャコーダーを構えた。いつでも敵を貫けるという、必殺の構えをとる。

 その様子を見て、大きなため息をつく木乃美。

 仕方ないなーと、独り言ちつつ、彼女は手の中の、蝙蝠に向かって言った。

 

「じゃ。死体だけ回収させてもらおっか? ねー、レイズ」

『……木乃美よ、少々悪趣味が過ぎるぞ』

「いいじゃん? あっちがこっちの善意を、踏みにじるのが悪いんだしぃ」

 

 木乃美は、懐から取り出したカードを一枚、機械の蝙蝠……レイズキバットにかざす。

 レイズキバットの体が銀色に輝き、ベルトの姿を形作る。

 ロストドライバー、そう呼ばれる、赤いベルトを腰に据え。彼女は、ガイアメモリを取り出した。

 「W」の文字が刻まれたそのメモリのスイッチを押せば、メモリは自らの名を告げる。

 

『ウィッチ』

「変身」

 

 ウィッチのメモリをベルトに装填。ベルトを倒し、その姿を変化させる。

 身にまとうのは、現れた無数の魔方陣からあふれるいくつものルーン文字。そして、彼女を象徴する地の属性と火の属性。二つが輝き、彼女の新たな肉体を形作るや、黒い外套がはためき、彼女を彩った。

 仮面ライダージョーカーにも似るが、しかしそれとは異なる妖艶な姿。

 

「私の字はぁ……仮面ライダークロトー・ドーパント。じゃ、お相手しよっか♡」

 

 クロトー、運命の三女神を名乗る彼女は、その手にもう一匹、機械蝙蝠を持つ。レイズキバットと異なり言葉を発しない、十三魔族をモデルに作り上げられたメカニカル・モンスター。

 その一機体の体を媒介に、カードを用いてさらなる武器を作り上げるのだ。

 

限定展開(インクルード)

 

 使用したのは、仮面ライダーアクセルの力を宿すカード。

 瞬間、メカニカルモンスターから実体化するのは一本の大剣、エンジンブレード。重厚なその剣を構え……彼女は突進した。

 

 が……

 

「あら?」

 

 その攻撃が、横にそらされた。

 見れば結の手の中のレイピアが鞭のようにしなり、エンジンブレードに巻き付いている。

 

「……踊れ、ジャコーダービュート!」

 

 ジャコーダーが震え、赤い鞭がすべてを切り裂く。

 エンジンブレードを抱きしめながら、何とかその攻撃を避けるクロトー。

 結は素早く敵の位置を補足するや、ジャコーダーをしならせ、突き刺した。

 

「む、それはちょっと甘い」

 

 が、ジャコーダーロッドによる一撃はエンジンブレードが阻み、はじかれる。

 続く攻撃を繰り出そうとするが、それよりも早く、結の胴をエンジンブレードの峰が叩き割った。

 

「ガッ……」

「仮面ライダー相手に、怪人とはいえ生身で挑むのは……ちょっと無謀過ぎない?」

 

 吹き飛ばされた結を、ゆっくり見下ろして笑うクロトー。

 ジャコーダーロッドを杖に結は立ち上がるが、しかしすぐに体を揺らし、うずくまる。赤いエネルギーが、結の体からしたたり、気化していった。

 

「怪人じゃない……ファンガイアです!」

「知ってるよ。でもみんな怪人でしょ? あ、それとも死徒って言ったほうがいい?」

 

 その言葉に、より強く吠える結。

 

「誰が、そんな蔑称で呼べと……!」

「あはは、ごめんごめん。でも、私好きだけどなー、死徒って呼び名」

 

 笑いながら、木乃美は続ける。

 

「死の使徒。死を乗り越えたもの。素晴らしいと思わない? 本来終わりであるはずの死の先に、より強く美しい生命としての世界が待ってるんだよ? その象徴だよね、死徒! 私もなれるんだったら、ファンガイアとかになりたかったなー」

「っ、口を閉じなさい!」

 

 ジャコーダーが唸る。

 木乃美は、それを手で逸らす。

 

「……まあ、個人的にはこっちのほうも好きなんだけどね。死を乗り越えたのに、いずれ必ず死する者。オルフェノクのほうが」

 

 一瞬、仮面ライダークロトーのマスクに、何者かの顔が映る。蜘蛛のような八つの目を持つ、灰色の怪人、スパイダーオルフェノクの顔だ。それはすぐさま消え去って。

 

「ま、余談はいいか。だって今から宗旨替えできるわけじゃないし……それにこの体も、気に入ってるからね~」

 

 仮面ライダークロトーはカラカラと笑い。

 それから大きなため息をついて、告げた。

 

「……ま、殺したほうが美しいんだけど……でも、友達は殺しちゃったらねぇ。ねえ、ジャコーダーだけ渡してくれない?」

 

 勝ちを確信しているのか、彼女は笑ったままそう告げる。

 結の表情は変わらず、鋭い目線をクロトーに向け続ける。まるで、言わずともわかるだろうと、訴えかけるように。

 

「……めんどいなぁ、結ちゃんは。仕方ない、じゃ、半死くらいにするか」

 

 瞬間、クロトーの体が消えた。驚愕に目を見開いた結の首を、クロトーの腕がつかみ上げる。

 そのまま、力を込めていけば、結の首の骨が鈍い音を立ててゆがみ始めた。

 結の体から、一気に力が抜けていく。ファンガイアといえ、能力は一般の彼らよりも低い結には、仮面ライダーによる攻撃は全く耐えることができない。

 少しずつ、体から力が抜けていく。

 

「……この、みぃ……」

 

 それでも、もがき、呼びかけ。

 木乃美の手の力が……一瞬、緩んだ。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「っ⁉」

 

 カアッ! と、太陽の光が教会を埋め尽くした。木乃美は無造作に、そちらを見る。

 赤い線の入った白いバイク。そしてその上に、黒いヘルメットをかぶった青年が座っている。メットをとって、素顔をさらす。

 そこにいたのは、結と行動を共にしていた男……一文字隼人だった。

 

「はや、と……さん……」

「よお、油井。遅くなったな」

 

 ヘルメットを投げつけ、クロトーの手から結を離す。改造人間の投擲力によって砲丸ともなったヘルメットは、見事クロトーの細腕を弾いた。隼人は素早く、離された結のもとへと駆け寄り、彼女を抱いて教会の檀上に立った。

 

「たくっ……腕づくたぁ、やってることがスマートじゃねえな、嬢ちゃん」

「……ああ、あなた」

 

 月に照らされるその男に、クロトーは冷たい目線を向ける。

 

「花嫁の略奪は重罪だよ?」

「無理やり添い遂げようとしてたやつが、よく言うもんだな」

 

 隼人は結を下ろしつつ、そう語る。結は彼の肩を借りながら、彼に疑問を出した。

 

「隼人さん……なんで、ここが?」

「ああ、そういえばー……私結構、痕跡消してたと思ったんだけどなぁ」

「まあ、しっかり消せてたな。こいつがいなかったら危なかったぜ」

 

 言いつつ、ホッパー2号を隼人は見せる。

 そのバッタのケミーの姿を見た瞬間、クロトーの表情がゆがんだ。

 

「ホッパー1……? なんで一ノ瀬家のケミーを、あなたが持ってるの?」

「さあな、自分で考えな」

 

 隼人は答えない。「ふうん」と口を吹かせ、彼女は言う。

 

「じゃ、腕づくで教えてもらおっか……仮面ライダー二号」

「……下がってな、油井」

 

 隼人が腕を水平に構える。腰に出現した銀のベルトの風車が開き、赤い風車ダイナモに、風のエネルギーが巻き起こった。

 

「ライダァー……」

 

 巻き起こる風を浴びながら、腕を構えて力をため。その瞬間、隼人の瞳が真っ赤に輝いた!

 

「変身ッ!」

 

 瞬間、彼の顔が黒い仮面に代わり、次いでその肉体に白い一本の線がかかる。この場に現れたのは、仮面ライダー第二号。

 彼はその全身に「ライダーパワー!」と力を籠めると、敢然と仮面ライダークロトーに立ち向かった。

 クロトーもまた、エンジンブレードを構え攻撃を受ける。

 炸裂するライダーパンチ、エンジンブレードは一撃でひび割れ、バラバラに砕け散った。

 

「わお。置換した偽物とはいえグランチタニウムを砕くなんて!」

「力の二号をなめるなよってんだ!」

 

 エンジンブレードを投げ捨て、合気道の要領で攻撃を受け流す。捨てられたブレードはメカニカル・モンスターの姿となって、再び砕けて潰えた。

 

「てめえ! こいつは」

「そう。サガークをモデルに量産したメカニカル達だよ」

 

 攻撃をかわしつつ、魔法陣を展開。そのすべてに指先から呪いを放ち、高威力の矢として解き放つ。ライダー二号はそれらを回避しながらも、結に向かったものは、すべてその手で叩き落とした。

 

「マジカルルビー、マジカルサファイア。かの二体の魔術礼装のように、カードを使っての限定展開を可能にするためにね? 本当はその子たちが欲しかったんだけど、あの子たち、ガードが固くって」

 

 クロトーはどこからともなく、身の丈ほどの杖を取り出しながら、続ける。

 どうやらその杖こそが、ウィッチメモリにより生じる、クロトーの専用武器のようだ。

 

「この間も、女の子から離れようとしなかったし。仕方ないから、その子のお母さんを人質に取ろうと思ったんだけどね~……いやー、失敗しちゃったし。あのヴァルバラド、すごく強かったなぁ……」

『ボルテック・サンダー』

 

 二号は、杖から生じる雷を避けながら、考える。

 こうもペラペラと自分たちの事情を話すということは、相手にはこちらを出し抜けるだけの、切り札があるということだ。

 

「ライダー放電!」

 

 二号はボルテック・サンダーをその身に受けながら、さらに自身の体から電撃を放つ。

 返しの一撃は、クロトーの身を焼き、その周囲にも雷光の火を走らせた。

 

『フリーレン・ブリザード』

「今度は氷かよ……!」

 

 続く攻撃には、風車ダイナモを全回転させ、さらに自らも丸まり回転、防御技ライダー車輪で対抗する。

 吹雪の嵐をかいくぐり、クロトーの体を吹っ飛ばした。

 

「うわっ⁉」

「っととぉ……どうだい!」

 

 空中で弧を描き着地。ふらふらと頽れるクロトーめがけ啖呵を切る。

 しかし彼女は笑いながら、立ち上がった。

 

「まあ、自分じゃなくて、その子が狙われてるって思ってくれたから、動きやすかったけど……イリヤちゃん、だっけ」

「っ! 貴様、その名前どこで……」

「……知ってるにきまってるじゃない? だって、魔術の世界じゃ有名な名前だもの。アインツベルンの、イリヤちゃんは」

 

 笑って、笑って、彼女は笑う。

 高らかなその姿には、さしもの二号といえども、気持ち悪さを覚えるほどだ。

 

「本当は、カレイドの力で作るつもりだったんだけど、予定変更しちゃうよねぇ。あの子さえ、あの子さえ手に入れば……フフ、フフフ……」

「っ! 隼人さん、これで!」

「お、おう!」

 

 隼人はジャコーダーを受け取り、ジャンプ。そのままジャコーダーロッドを天に掲げ、一気に振り下ろした!

 

「ライダァー! 脳天割りぃッ!」

 

 赤い斬撃が、敵の脳天で炸裂する。

 しかし、仮面ライダー二号の目には、信じられないものの姿が映っていた。

 

「消え、た……⁉」

 

 そう、彼の目の前で、クロトーは消え去ったのだ。

 斬撃は空気を割き、地に伏せるが、その刃が断った者は何もない。

 

『フフフ……それじゃ、私はさよならさせてもらうよ。じゃあね……二人のライダーさん』

 

 そう、声だけが、その場に残った。

 まんまとしてやられた。相手の切り札は、これだった。

 挑発に挑発を重ね、そのうえで逃走できるルート取りをしていたのだ。

 ひとまず、隼人は結のほうに駆け寄り、彼女を介抱した。

 

「大丈夫か?」

「……はい。それより、隼人さん。イリヤちゃんって」

「ああ。今日会ったあの、白い髪の子だ。変身したり、普通の子じゃあないって思ってたが……何か、事件と関係があるのか?」

「……クロトーは。木乃美は、自分たちは組織の重役だと言っていました。黄金郷、という組織の」

「黄金郷、か。また悪趣味な名前だな」

 

 隼人は電話を取り出し、翔太郎たちに連絡を取った。万が一のために、彼らには別行動をとってもらっていたのだ。

 

「しかし、どこに逃げたのかわからねえんじゃな……」

「私、わかります」

 

 と、油井は言った。

 なに? と声を上げ、隼人は彼女を見る。

 

「彼女はキバットのメカニカル・モンスターを使っていた……そこに、付け入ってあげましょう」

 

 ニコリと笑う、油井。

 その笑みはどこか、怖い面持ちの上にあった。

 

 

 

 ♦

 

 

 

「ホパ!」

 

 一ノ瀬邸、宝の研究室。

 スマホーンとじゃれあっていたホッパー1が、突然触角を逆立てた。彼はそのままスマホーンを乗せ、眠そうに眼をこすり机に向かっていた、宝の顔にぶつかる。

 

「ホパー!」

「うわ⁉」『な、なんや、どうした⁉』

 

 寝ぼけていた宝とガッチャが同時に起きる。ホッパー1は緊急事態を伝えようと、しきりに鳴いた。

 

「ホパパー! ホピピ、ホプパー!」

「な、なに? どうしたのホッパー1?」

『なんや……イリヤちゃんが危ない? どーゆーことや?』

 

 ホッパー1の言葉を、ガッチャが翻訳していく。

 

「ホパ、ホパピーパ」

『ふむ……二号ライダーに預けてた、レプリホッパー1……あいや、ホッパー2号か。あいつから連絡が来たらしい。二号が、とんでもない敵と戦っとーって。そいつが、イリヤちゃんを狙ってるらしいんや!』

「は……? な、何それ⁉」

 

 宝の眠気は、イリヤが狙われているの一言で吹っ飛んだ。

 すぐさま寝間着から着替え、ドローホルダーをひっつかむ。その中で眠っていた一部のケミーたちが、衝撃で目を覚ました。

 

「スケボー⁉」「え、エナジ……」

「わ、ごめんみんな! でも、時間ないんだ、行かないと!」

「ケボ? スッケボーズ!」

 

 行かないと、と告げた宝に反応して、スケボーズがホルダーから出現。宝の足に引っ付いた。

 

「え、ちょ、あ、ガッチャ、ホッパー1にスマホーン!」

『お、おう!』「ホパ!」「スマホ!」

 

 三体をキャッチした途端、スケボーズはすさまじい速度で館から飛び出した。

 何とか体制を安定させつつ、宝は小さくため息をつく。

 

「ゴルドダッシュに乗ろうと思ったんだけど……」

『乗せてってくれるなら、感謝せな! それで、説明の続きや』

 

 ガッチャはかいつまんで、ホッパー1からの言葉を翻訳した。

 曰く、あの時出会った油井という人が、謎の敵クロトーと戦っていたということ。そのクロトーは、以前ルビーやサファイアを狙ったとほのめかしながら、イリヤの中に眠る()()()()を狙うつもりだということ。

 そして、その言葉と同時に消えた、ということ。

 

「消えた……転移を使ったってこと?」

『それはわからんらしい。でも、見たところダブルっぽいドライバーで変身してたっていうからな』

「……メモリはわからないんだよね」

『そや。それに、確か宝。前に父さんが、言ってへんかったか?』

 

 宝は、父の言葉を思い出す。

 

〈ジョーカーのロストドライバー。おそらく、これはもう世界に二つとない、ベルトなんだ〉

 

「あくまで、あの言葉は父さんの推測だよね。もしかして、ロストドライバーはもう一つあったってこと? なら……ミュージアムの関係者?」

『父さんが集めてたライダーの情報には抜けが多かった。そうとも限らんで……』

「じゃあ、仕方ない。その顔拝んで、無理やりにでも正体を暴いてやる! スマホーン、緊急用コールお願い。ガッチャはルビーとサファイアに連絡!」

「スマホ!」『任しいや!』

 

 あらかじめスマホーンに登録しておいた、緊急時用の連絡をつなげる。

 スマホーンはそのコールを、()()()()()()に飛ばし始めた__

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

「ここがあの女のハウスね~」

 

 衛宮邸、すぐ近くの電柱の上で。

 すでに夢の世界に行ってしまった、イリヤとルビーを、黒い仮面ライダーが見つめていた。

 ゴシックロリータ調のその容貌からは全く予測できないほどの、不吉な視線を送っている。

 

 と。

 

 槍のような魔力の一撃が、静寂に包まれた住宅街に轟音を響かせた。

 しかし、人々を眠らせる結界が働いたこの場で、その音に気付くものは誰もいない。

 

「誰?」

 

 クロトーは後ろを振り替えり、そしてうんざりした様子で、杖を構えた少女を見た。

 青いレオタードを纏う、オレンジの瞳の彼女は、しかしその目を赤くたぎらせ、杖より伸ばした刃を、敵の眼前にたたきつける。

 

「イリヤに……『姉さんに……! 手出しはさせないッ!」』

 

 美遊・エーデルフェルトと、そのパートナー(サファイア)が吠える。

 クロトーは周囲を満たす結界の魔力を確認しつつ、武器を構え。

 二人の突進をあえて受け止める。

 

「ふふ、いいよ。素人さんとも、遊んであげる♪」

 

 お姉さんだから、とでも言いそうな笑み。

 彼女はその手に携えた、ウィッチステッキを構え、そして蠱惑的につぶやく。

 

「『アグレッシブ・ファイヤー』」

 

 放たれる轟炎。カレイドサファイアはその攻撃を、一刀のもとに断ち切り、次いで魔力槌を振るう。

 牙状の魔力の一撃が、クロトーの体を吹き飛ばす。

 横倒しになりながら、住宅街の道路を転がるクロトーは、すぐさま立ち直りさらに攻撃を放つ。

 

「魔力反射平面形成……ガンド!」

 

 ウィッチステッキより生じた複数の魔法陣に、指先を合わせ呪いを放つ。

 魔力を呪いとともに射出、作り上げた反射平面に乗せることでより鋭くとがらせ、それこそ、槍のごとき一撃と変える。

 地面を幾度もさし穿つその攻撃を、紙一重でかわし続ける美遊。

 かわしつつ、敵へ向かって足を速める。

 

「へぇ、避ける時でも前へ、前へか。いいね、勇ましい! 好きな美しさだよ、美遊ちゃん!」

「っ……私の名前を知ってる⁉ サファイア、この人いったい……」

『……わかりません。このような黒い仮面ライダーは、宝様の家のデータにもなかったものですから……!』

 

 再びガンド、今度はより一層の魔力を込めた、強烈な一撃。

 さしものカレイドライナーといえど、その一撃を破ることは「限定展開(インクルード)!」

 

「おお?」

 

 魔力を帯びた呪いそのものが、消え去った。まるで、弾け飛んだかのように。

 それを成したのは一本の短剣。あらゆる魔術を打ち滅ぼす、対魔最強の切り札!

 

「キャスターカード……破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)!」

「へえーそれが元ネタかぁ……でも、これなら?」

 

 一気に指に、ガンドの魔力をため。

 さらには展開した魔術陣に、さらに三枚を重ねる。

 続いて放たれるのは計十の、高圧縮されたガンドの渦。まるで竜のごとく首を放ったその一撃は、美遊を一瞬のうちに飲み込む……が。

 

「キャスター、展開解除(アンインクルード)

「あら?」

 

 聞こえたのは、カードによる展開を止める言霊。

 まさか、諦めたのか?

 

「キャスター、低位限定展開(ロウインクルード)!」

 

 瞬間、ガンドに込めたすべての魔力が破られたのを、クロトーは知った。

 そして、黒い本流より現れた彼女の手に宿る、礼装を見て思い知る。

 

「そんな使い方、できるんだ……」

 

 ヘカテの霊杖。

 境界記録帯(ゴーストライナー)であるキャスターのデータより、サファイアが変身した「魔女の杖」である。

 大地母神ヘカテと同名のこの杖は、キャスター「魔女メディア」の通常戦闘用魔術兵装。列閃(エレ・ヘカテ)に始まるいくつもの神代の魔術を操るための、現代にあってはならない、最強の礼装である。

 

 低位限定展開__通常、必殺の武器のみを限定的に展開するクラスカードのシステムを、意志ある魔術礼装が解析し、その奥にある通常戦闘用武装を、一時的に呼び出すという術法である。

 出力や能力は、本来の宝具より劣ることがままあれど、継戦能力には、秀でている。特にキャスターカードのような……宝具が特殊な物品である場合には、うまく働いてくれるようだ。

 

「……っ(でも……!)」

『(魔力の消費が、思った以上に大きい……やはり、夢幻召喚(インストール)とやらで使うことが前提、ですか……!)』

 

 拘束から逃れるために使用した魔術だけで、かなりの魔力を持っていかれた。

 あと一、二撃が限界か……!

 

「でも、それ使っていいの?」

「……何?」

 

 クロトーが、歌うように問いかける。

 美遊は杖を構えたまま、彼女をにらみ、問い返す。

 

「どういうこと……?」

「こんな住宅街で、そんなすごい兵器出しちゃっていいの? あなたの家も、あの子の家も、まとめて吹き飛ぶと思うけど?」

「ッ⁉」

 

 美遊の表情に動揺が走った。そのことに気づいたサファイアは『美遊様! 揺さぶりをかけてきているだけです! 攻撃を!』

 

「いやー、させないけどー?」

 

 クロトーは即座に接近し、ウィッチステッキで美遊の腹を殴りつけた。

 声も出せずに、美遊は後方へと吹き飛ばされる。何とか杖を地面に突き立て、何とか立ち上がるが、そこにクロトーの攻撃が迫る。

 氷の竜巻、フリーレンブリザード。美遊は杖より飛翔(ケライノー)を発動させ、空中へと逃れた。

 

「……相手はお構いなし、か。サファイア、被害を出さずに使えるものは何かない?」

『竜牙兵を作り出すことくらいでしょうか。おそらく、アレ相手には無力化と』

「そっか……」

 

 ならば。

 美遊はカードの展開を解除する。その瞬間、飛翔(ケライノー)の効力が霧散し、美遊の体が空中から落下を始めた。そのまま、地面へとぶつかる__その瞬間に。

 

「サファイア!」

『はい!』

 

 サファイアが不可視の魔力塊を形成、それを足場に、美遊は超速で敵に接近する。

 次いで展開するのは……

 

「力を貸して、アッパレブシドー……」

『ケミーライズ・ジョブ!』

 

 サファイアの形状が大振りの刀に変わる。純粋な質量を伴う大剣の一撃は、音速にも迫る速度とともにクロトーの体を、真一文字に切り裂いた。

 

「おっ……とぉ?」

 

 驚きの表情を顔ににじませたのもつかの間。

 彼女は切り離された上半身をぐるりと動かして、美遊を見て……笑った。

 

「強い、いいね、いいねぇ! そうだよ私をすぐ殺せるくらいの力がなくっちゃあねぇ!」

「っ、まだ、生きてる⁉」

『……この、声は?』

 

 クロトーの声はノイズがかかり、変声が外れていた。

 サファイアはその、彼女の声を聴いたことがあった。

 

『……まさか、清原木乃美? いえ、しかし……』

「……うぇ、バレたし。うーわ、変声はずれてるんだけど⁉」

「サファイア、あの人のこと知ってたの?」

 

 サファイアは『今の声で思い出しました』と肯定し、続ける。

 

『数週間ほど前。この冬木でカードが発見されてから、しばらくした後のことです。アーチャーとランサーのクラスカードの盗難事件が、時計塔で起きました。時期を同じく、私たちの奪取を図って宝石翁の工房に侵入したのが……彼女です。そういえばあの時は、メカニカルモンスターを操っていたはずですが』

『私のことか、カレイドの魔術礼装』

「ベルトがしゃべった?」

「フフフ、私の相棒メカニカル、レイズキバットだよー! いや、あの時はどうもねーサファイアちゃん」

 

 笑うクロトー、改め木乃美。別れた半身同士を無理やりくっつけ、再生。そして復活したその体で杖を持ち、再び構える。

 

『……なるほど。どうやら、偽ライダーを構築していたケミーカードを作っていたのは、彼女たちだったようですね』

「どういう……まさか!」

 

 美遊はしゃべるベルト……ロストドライバーと。そして先ほど、自分が行った技を見て、その考えに至った。

 

「あの人は、クラスカードを量産しているの⁉」

『おそらく。ですが、境界記録帯(ゴーストライナー)そのものの力を、複製したカードに宿すことまではできなかったのでしょう。このカードの解析は、宝石翁ですらてこずっていましたから……ですから、この世界に残存している仮面ライダーの力をコピーし、レプリケミーにその力を映したのでしょう。原理としては、ケミーライズと限定展開(インクルード)の並列展開といったところでしょうか』

 

 そこまで、サファイアが分析を述べたところで。

 クロトーはおなかを抱えて、笑い始めた。

 

「あはは、あははっはは……! ええ、すごくない? さあっすが、魔法使いの礼装!」

『笑うな木乃美。そもそも、お前が軽率な行動をとりすぎるからここまで分析されたのだぞ?』

「なーに言ってんの! 私の名前忘れたのー?」

 

 クロトーは杖を持ったまま、くるくる回り。

 

「クロトー、クロートー。運命を紡ぐ女神さまだよ? 自由に紡いだ運命が、いったいどんな風になるかなんて、わかったもんじゃないしぃ。そこはラケシスの専門でしょー?」

『……ただ楽しみたいだけ、か。わがマスターながら、本当に愚か者だな、お前は。だから死徒にもなったのだろうが』

『っ、死徒に! やはりそうでしたか!』

「死徒って、確か……ルヴィアさんが言っていた」

 

 美遊はルヴィアの言葉を思い出す。

 死を乗り越えた吸血種、それが死の使徒、死徒である、と。存在そのものが人間から人間ではない存在に入れ替わってしまったものを指す言葉でもあり、現代ではオルフェノクなど一部の進化した人類も該当するとされている。

 

「私はねぇ、本当はスパイダーのオルフェノクなの。タランチュラ・オルフェノク! それで、私以外の三女神はね~『……そこまでだ、木乃美。我々の情報を、これ以上暴露するな』えー、レイズはいっつも固いよね」

 

 怒りながら「まあしょうがないか」と、杖をくるくる回し。

 

「じゃ、そろそろ死合おうか」

 

 杖をかざして、『アグレッシブファイヤー』を撃ち放つ!

 アッパレブシドーの力がいまだに残るサファイアが炎を両断し、美遊はクロト-に接近。クロトーはサファイアを受け止めつつ、ボルテックサンダーにより攻撃。美遊の全身を稲妻が駆け巡った。

 

「ガッ……⁉」

「そいっと」

 

 美遊を蹴りつけ、吹き飛ばし。離れたところで、ベルトからメモリを抜き取る。

 確か、その動きは……「っ、マキシマムドライブの、構え……!」

 

「よく知ってるね。じゃ」

『ウィッチ! マキシマムドライブ!』

 

 響き渡るはマキシマムドライブを告げる声。

 マキシマムスロットにメモリが装填された瞬間に、クロトーの体が空中に浮きあがり、周囲に散った魔力がその足に蓄積されていく。そして、強い輝きが足を満たした瞬間。

 

「ウィッチーズストライク……!」

 

 音速を優に超える速度で、解き放たれる必殺の一撃。

 美遊はサファイアを構え、物理保護にすべての魔力を回すが。

 サファイアとぶつかりあい、彼女をきしませるほどの蹴撃は、物理保護だけでは耐えきることができない……!

 

『あぐっ……だ、ダメです、美遊様!』

 

 サファイアの柄に、ヒビが入り始める。

 美遊の体も後退をはじめ、アスファルトの地面にひびが入り始め。

 

「これ、以上は……!」

 

 耐えられない。

 その時だった。

 

「私の! 「……僕の、友達に、何してるんですかー!!!!」」

 

 その叫びが、クロトーの横腹を貫き、次いで放たれた攻撃が彼女を吹き飛ばした。

 ふと、体にかかっていた圧が抜けて、よろける美遊を支えたのは、誰かの細い腕。顔の前でふわりと揺れたのは長い金髪で。

 

「る、ルヴィアさん?」

「……ようやく目が覚めたのですわ。遅れてしまいましたわね」

 

 そこにいて美遊を抱きとめたのは、金髪でドリルがまぶしい彼女の義姉、ルヴィアだった。

 と、彼女を確認すると同時に、ガコン! と音を立てて何かが隣に着地する。赤いスケボーのケミー、スケボーズ。そしてそれに乗った宝だった。

 

「スケボー!」

「大丈夫? 美遊」

「っ、宝!」

 

 すでにスチームホッパーとなった宝、ガッチャード。

 そしてその隣に並び立つのはルヴィア。美遊は彼女から離れ、宝の隣に並び立つ。

 

「宝、あのライダーは……」

「こっそり聞いてた。ガッチャが中継してくれてたから。それにたぶん」

 

 宝は空を見上げる。

 と、衛宮家二階の窓が開け放たれ、桃色の少女が舞い降りた。

 「遅れてごめん!」と告げるイリヤ。

 

「ほんとはすぐ出たかったんだけど、ルビーから止められてて……」

『お相手さんの隙を伺っていましたからねー! ナイス指示です、サファイアちゃん!』

 

 美遊はその言葉を聞いて、ハッと気づいた。

 

「……そっか、あんなに大仰に推理を披露していたのも」

『はい。相手を油断させるためでした。すみません、美遊様。勝手な判断で、一人で戦わせてしまって……』

「……ううん。大丈夫」

 

 そのおかげで助かっている。美遊はそれ以上は何も言わず、サファイアを構えて。

 たじろいだ様子のクロトーを見る。

 

「むう……標的が向こうから来てくれたのはうれしいけど……ちょっと多勢に無勢じゃない?」

『……ならば、逃げるか? あと一回使えるだろう?』

「そうしよっか……じゃあ」

 

 言うが早いか。

 クロトーの体が空気に溶けて消えた。驚く四人をよそに、クロトーは煽るように言葉を投げつける。

 

「フフフー。じゃ、また逃げさせてもらうね!」

『分が悪いのでな。また会おう』

 

 消え去った後には、戦いの痕跡以外には何も残っていない。

 ルヴィアは突然消失した敵に驚きつつも、小さくつぶやく。

 

「転移ではない……ですわね」

「え、転移じゃないの⁉」

 

 イリヤが驚いたように言うと。

 

「転移をあんな、まるで突然消えるようにする使い方はできませんわ。魔法陣を敷いた様子もないですし……」

「清原さんて、僕も名前聞いたことあるけど……有名な創造科の人ですよね。宝石魔術とかは使えたんです?」

「いえ、芸術と魔術を混ぜること以外にはとんと無関心で技術もなかったと聞きますわ。となれば」

『あれはクロトーのやつの専用能力ってことか?』

「ええ、おそら「いたぁ⁉」……え、なんですの?」

 

 どこからか声が聞こえた。しかも今のは、先ほどのクロトーの声だ。

 

「え? もしかして近くにいるの?」

「……いや、これは。ルビー」

『はいー!』「ライデンジ、力貸してね」

『では! ケミーライズ・アーティファクト!』

 

 そう言った途端、バチン! と音が響いたかと思うと「ギャッ!」

 

「あら、何か落ちましたわ」

 

 空から落ちてきたのは、一体の機械の蝙蝠だった。

 ルヴィアはそれを拾い上げ、神妙な面持ちで触れて。

 

「これは……メカニカルモンスターですわ」

「メカニカルモンスター?」

 

 またもやイリヤが問いかける。

 なんというか、手慰みに魔術を習ってる美遊と違って、魔術には全く詳しくないイリヤちゃんなので、ルヴィアさんも解説しやすそうだ。

 

「キバット族という魔族を機械によって再現した、いわばロボットですわ。3WAという組織がかつて作り上げていたという記録が残っています。とはいえ、ここ十年で失われた技術だと、思われていたのですが……」

「そういえばあいつ、ロストドライバーのことをレイズキバットって言ってましたね。じゃあそいつが?」

「いえ、これはあくまで、キバットを模しただけのスピーカーのようですわ。……ということはおそらく。宝、スマホーンにこのキバットが受信していた電波を追わせなさい! 私は遠坂を呼びますわ!」

「え? あ、はい!」

 

 宝はスマホーンを呼び出し、彼の体から延ばしたプラグをメカキバットに接続。

 そして、電波の発信源を追いかけ始めた。

 

「頼むよ、スマホーン!」




・仮面ライダークロトー“ドーパント”
 清原木乃美が変身する魔女のライダー。ウィッチメモリと、「スカル」カードを限定展開したレイズキバットを用い変身する。ウィッチのメモリにより、彼女の魔術回路はより強靭に拡張されており、かつてイリヤたちが戦ったキャスターと、同等の戦法を苦も無くとることができる。
 木乃美は何者かの手によって何らかの死徒となっているため、基礎スペックの段階でほかの仮面ライダーを凌駕しているため、現状のガッチャード、美遊では、分の悪い勝負になっている。

・レイズキバット
 3WAの人工キバの鎧作成システム、通称「レイシステム」とサガーク、サガの鎧をモデルに生み出された三体のメカニカルモンスターの一体。
 尊大な性格だが、たまにずれた発言をする。現在は「スカル」カードを限定展開し、ロストドライバーに変身している。彼単体を使用しての変身も、実は
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