Fate/Gotcha liner   作:アカハナさん

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第二十四話 Wは目覚める/眠る竜

 戦いは終わって。

 合わせるように、事件も終わりを告げた。

 

 あの後、結局あの仮面ライダーは何者だったのだろうかという疑問が残ったものの……

 最終的には、機能を停止したレイズキバットを凛たちが回収して、そしてライダーたちとある協定を結んだことで、事なきを得た。

 

 場面は、これから遠坂邸のほうへと移る。

 

「凛さん、その子治るんですか?」

 

 イリヤが問いかける。

 研究室の机の前に陣取り、装甲と回路を修復したレイズキバットに術式を書き込む凛。彼女はいったん作業をやめて、イリヤのほうを向いて、首を横に振った。

 

「少なくとも、前のようにはいきそうにないわ。だいぶ特殊な術式が使われてるみたいで、なかなか治せなくて……」

『今は見たことある術式に置き換えてる最中というわけですね~』

「そういうこと。できるだけ記憶とかそのままにして、喋れるようにしないといけないから、だいぶ根詰めないと……」

 

 なぜそうまでして、破壊されたレイズキバットを直そうとしているのか。

 その理由を、イリヤは思い出す。

 

 レイズキバットを修復し、捕虜として話を聞き出す。そしてクロトーが、登結に語ったとされる「黄金郷」という組織について聞き出すのだ。

 

 黄金郷、かつてアマゾンの奥地にあるとされた、黄金の都のこと。文字通り黄金でできた都やお城が立ち並ぶ、夢のような場所だったとされる。が、もちろんそんなものは現実に存在せず、アマゾン奥地というところはただの深い森。そこには動物学者が喜ぶ奇怪な生物しか住んでいない、一般人にも征服者にも、魔術師にだってなかなか面白くはない場所だ。

 

 ただ、黄金郷という言葉そのものは魔術師の中で、とりわけ錬金術師の中では、意味の大きな言葉であるらしい。

 錬金術とは、つまり金を錬成する術だ。その彼らの行き着く果てが、黄金郷であったとしても不思議ではない。

 ただ、凛いわく「魔術はあくまで見立てが大事。本当に、黄金で満たされた宮殿を作って黄金郷とする……ってことは少ないわ」とのことで。

 

 イリヤは頭をこんがらがせて、もうなんというか理解しづらいので。

 凛の家にお邪魔になりながら、ぶらぶらと作業を見ていたのだった。

 ちなみにイリヤがここにいるのは、昨日の夜はあまりに遅かったので、凛の家にお邪魔になったからだった。今の時刻は午前の七時前である。

 

「そういえば凛さん、宝石どうするの?」

「うっ」

 

 作業を再開していた凛の手がまた止まった。

 

「こ、こんどまでに調達しておくわ……」

『いや、家計危ないんですからさすがにやめておきません?』

 

 ルビーが非常に現実的な提案を下す。

 その通りで、遠坂家の家計は非常に切迫していた。その理由の大半が、宝石魔術に必要な宝石の調達に由来していた。つまり、宝石があまりに高すぎて、家計を圧迫しまくっているのである。

 宝石魔術って、お金かかるんだなー、なんてイリヤは思った。正直小学生に理解できる範囲の話ではなかった。

 

「……一応、仮の武器はあるのよ」

「武器?」

 

 凛がため息をつきながら、机から一丁の銃を取り出す。

 バイクのような装飾が光る、金と黒の入り混じった銃だった。

 

「これは……」

『おおー、ライドマグナムですか』

「ライドマグナム?」

『エクスガッチャリバーと一緒に、玉木博士に研究されていた銃型の変身武装です。正式名称はレジェンドライドマグナム。カレイドライナーレジェンドという、ガッチャードと並行して作られていたカレイドライナーへの変身が可能です』

「カレイドライナーになれるの⁉ だ、だったらこないだも、これ使ったらよかったんじゃ……」

 

 イリヤがそう言うと、凛は首を横に振った。

 

「これ、ロックがかかっててね。私もルヴィアも、なんでか変身ができないのよ。玉木博士から私のお父さんに渡されて、巡り巡って私の手元に来たんだけど……ま、宝の持ち腐れ状態ね」

『おそらく、その筐体ではレジェンドの装甲を呼び出せないのではないしょうかね~。より精密に動く、ドライバーを作るのが一番かと思いますが』

「それができたら苦労しないわよ」

 

 笑う凛。だよね、とイリヤもつられて笑う。

 ルビーもまた『まあそうですよね』と同調した。

 

「ひとまず、今度行くところがあるから、その時に持っていくわ」

「え? 凛さん、どこか行くの?」

「ええ。あの仮面ライダーに、会って来いって言われた人がいてね。その人に会いに行くのよ。協力を結ぶ感じかしら」

「おおー……コミュがドンドン増えてくね!」

 

 やっぱりゲーム的な知識で理解するイリヤ。そうねと笑い、凛は改めてレイズキバットに意識を戻そうとして……ふと、気づいた。

 

「イリヤ。そういえば、家には戻らないの? そろそろ七時よ」

「え? あ! ご、ごめん凛さん、忘れてたかも」

 

 イリヤはそそくさと立ち上がり、ルビーも彼女の髪の中に納まった。

 バッグを手に取って、それから部屋の戸を開ける。

 

「凛さん、それじゃあ、頑張ってね!」

「ええ。いい報告ができるようにしておくわ」

 

 パタンと扉が閉じて、部屋に静寂が訪れる。

 さあ、今度こそと、凛はレイズキバットに目を落とした。

 

 

 

 ♦

 

 

 

 一ノ瀬邸の庭で、二つの拳がぶつかり合っている。

 強化魔術によって極限まで強化された細い腕が、少年の小柄な体を吹き飛ばし。少年は、何とか体勢を立て直すものの、地面に降りたとたんに膝をついた。

 

「っ、うう……」

「どうしましたの宝。まだ序盤ですわ、立ちなさい!」

「は、はい!」

 

 宝は立ち上がり、なけなしの魔力で体を強化。再びルヴィアに向かっていた。

 その様子を、美遊はホッパー1たちと共に、ハラハラとしながら見守っていた。

 

「宝、大丈夫なの?」

『どうやろなぁ……こないだの腕の傷も、結局治ったんかどうかわからんくてな……』

「え……そ、それダメなんじゃ⁉」

 

 美遊は宝の方とガッチャの方を交互に見てから、心配そうに言った。

 当の宝は、問題なく腕を動かしているように見える。だが、ルヴィアの掌底を受けたとたん「うあ」と小さくうめいて、膝を折った。

 

「どうしましたの?」

「い、いや、なんでも……」

「……なんでもないことはないでしょう? ほら、腕を見せなさい」

 

 言いながら、ルヴィアは美遊たちの方を見て、彼女らを手招き。美遊は救急箱をもって、そちらに走った。

 ルヴィアは宝の腕をさすってやる。宝は痛みを感じて、顔をゆがめた。

 怪我がひどいのは明白だった。

 サファイアが、痛みを感じさせない程度に腕に巻き付き、分析を行う。

 

『……どうやら、治りかかっていた傷が、先ほどの掌底で再び折れたようです』

「ッ! ……少し、やりすぎてしまいましたわね。サファイア、治せるかしら?」

『すぐには無理ですが、やってみます。それと、ルヴィア様。骨の傷は、どうやら折れた後も戦闘を繰り返したことによって、治癒が遅れたせいで、治りずらくなっていたようです。おそらく先ほどの掌底がなくても、この特訓中には、折れていたかと』

 

 サファイアは付け加える。治癒されている宝は、少々ばつの悪い表情。

 それもそうで、この特訓も、宝がやりたいと言い出したことだった。傷についても、宝は治っていると言っていたのだが。

 

「……宝、無理をして、ルヴィアさんと戦ってたの?」

「無理は、してない、けど……」

 

 美遊の問いかけにも顔をそらしながら答える。

 あまり、答えたくないらしい。ルヴィアはその様子にため息をつき「宝」

 

「はい」

「……怪我を隠すのは、いけませんわ。昔にも、言ったことがあると思いますが?」

「はい……で、でも、僕は」

「必死になるのはわかりますが、自分をないがしろにしてはいけません。体は一生のもの、死徒のように体を変えても、あなたの体はあなたのものだけ。このように怪我を押して、修行するなど言語道断。今日の学校も休みなさい、話は、つけておきますから」

「む、う……わかり、ました……」

 

 治癒はある程度終わったらしい。

 二人が話し終わったところで、サファイアが『骨の修復はできませんでしたが、傷をつなげることはできました』と伝えた。

 骨については、あとは宝が安静にしなければ治らないそうだ。

 ルヴィアが電話で使用人を呼んでいる間に、美遊は宝に問いかけた。

 

「宝」

「うん?」

「その……さっきの怪我って」

「ほら、昨日のスーパー1の偽物と戦った時さ。その時、折られちゃって……ユーフォーエックスも怪我しちゃったんだ。だから、ガッチャには、ユーフォーエックスを治してもらってたんだよ」

「それで自分の怪我は、治せていなかったんだ」

 

 ケミーを優先して、自分の怪我を直さずに放置していたということか。

 いや、治りかかっていたとサファイアが言ったので、おそらくある程度動かせるくらいには、怪我を直しておいたのだろう。

 それで大丈夫なように、見せかけていたのか。

 

「……昨日の夜くらいには大丈夫だったんだけどねぇ。まあ、ゆっくり治すよ」

「うん。それがいいかもね……宝」

「うん?」

「どんな理由があっても、怪我を隠すのだけは、やめて。お願い」

「……う、うん」

 

 初めて会った時のような、真面目な面持ちで、宝に告げる美遊。宝は少し面喰らいながら、こくりとうなづいて答えるのだった。

 

 

 

 ♦

 

 

 

 美遊とルヴィアを乗せたリムジンは、まず穂群原学園高等部の校舎前で止まり、それから初等部の方で止まった。

 道ゆく同級生たちが「美遊だ」「美遊の長車だ」と、口々に言っている声が聞こえる。

 このリムジンが自分の代名詞になっているらしいなぁと、美遊は車の前で頭を下げながら、そう思った。

 

「では、美遊様、行ってらっしゃいませ」

「行ってきます、オーギュストさん」

 

 柔和な笑みで彼女を見送る老人は、オーギュストさん。美遊の上司で祖父のような立場の人だった。

 彼は車を走らせて校門前から去り、それから美遊は学校に入った。

 

 教室について、自分の席まで行って。それからふと、友人の席を見回して、まだ何人かいないことに気が付いた。

 

『ごにょ(宝様は、お休みですね)』

「うん。言ってたからね。……ただ、あっちの席」

 

 イリヤはいつも少し遅いのでともかくとして。

 美々がいない。

 優等生な彼女は、自分よりも早く来るはずなのに……と、美遊はいぶかしむ。

 

「どうしたんだろう?」

『にょにょん(昨日の今日、ですからね。少し遅れるのも、無理はないかもしれませんよ)』

 

 サファイアが言う。

 確かに、美々も昨日は、怪人の襲撃に巻き込まれていたし。その諸々で、中々来る気になれない、とか。

 そういうことはあるかもしれない。どうして来れないのかという理由までは、正直わからないのだが。

 

「まあ、いずれ来るだろうし。今日は静かに待って「おーっすミユ吉ー! 今日も元気かー⁉」……龍子」

 

 龍子(うるさいの)が来た。

 美遊の顔が露骨にいやそーなものに変わる。表情をあまり見せない美遊もこの表情、いろいろ相当である。

 

「……おはよう。今日も元気だね。元気すぎるぐらい。少しくらい元気をなくしてもいいんじゃない?」

「だいぶ辛辣な発言だな美遊……」

「まー、龍子はウザいからね、いろいろ」

 

 美遊と那奈亀による連続攻撃がヒットした。

 さしもの龍子もつぶれたように意気消沈した。

 

「そ、そこまでいうかお前ら……」

「うん、まあ、言いたくなる」

 

 雀花のトドメの一撃が傷口をえぐり取る。ついに龍子は動かなくなった。龍なのに弱いぞ。

 

「まあ四神で一番強いのは()だしね、仕方ないね」

「仕方ないのか? 脈絡がなくないか? まあともかくおはよう、美遊」

「おはよー」

「うん、おはよう、二人とも……そうだ、美々のこと何か知らない? 今日、いないみたいなんだけど」

「ああ、それなら知ってるぞ!」

 

 龍子が飛び上がった。ほんとにしってるんだろーか。

 

「も、もちろんだ、もちろん! なんかなー、休むって言ってたぞ!」

「休む? あー、やっぱりそうなんだ……」

「そういえば昨日、美遊たちの班が行ったところって、怪人騒ぎが起きたんだってな。それでか、休むの。美々結構、怖い目にあった次の日って休みがちだからなぁ」

 

 実感のこもった言葉で、うんうんとうなづく雀花。

 なんというか、知らなかった一面がたくさんあるな、と美遊は一人思うのであった。

 そうしていると「あ、そうだ」と雀花が言った。

 

「そーいや今日、また転校生が来るらしいぞ。しかも二人」

「え? また?」

 

 転校生なんて、そう何度も来るもんじゃないだろう。しかも今度は二人とか。

 

「なに、どっかの小学校が爆発でもしたの?」

「どんな大事件だよ、美遊にしては珍しい冗談だな……いや、なんかな? 最近まで遠くの外国で暮らしてて、今度こっちに帰省したとかで……前々から来ることになってたらしいぞ?」

「そうなの? ……帰国子女、っていう感じなんだ」

「そうそれだ。しかもなんか、金髪だったぞ。もう片方は紫色だった。帰国子女どころか、イリヤと同じでハーフかもな!」

「イリヤのあいでんててーがついに崩壊する時が!」

 

 そのアイデンティティ(ドイツ人とのハーフ)あってないようなものでは?

 

「え、なに、何の話?」

 

 とかやってると本人が来た。

 

「おう、えらく遅かったなハーフ1号」

「おはよう、ハーフ1号」

「……な、なにそのハーフ1号って……私がいない間にいったい何が?」

 

 というわけで、イリヤに説明を、した。

 

「はぁー……きこくしじょ……なんか、またすごい属性の人が来るんだね」

「そーだなー」

「どこのクラスになるんだろうね? うちってことはないだろうし」

 

 先日美遊が来たばかりである。

 

「まあ、どうなるかは今日のホームルームで……と、鳴ったな」

 

 チャイムが鳴った。

 みんなは「また後で」と言って席に戻り、美遊とイリヤもまた自分の席に戻る。

 大河先生が教室に入ってきて、それから昨日のことについて触れた。とはいえ少しだけ。宝と美々がお休みだという話もした。

 それから、パン! と手をたたき。

 

「実は! 今日もまた、新しいお友達を迎えることになりましたー!」

 

 え。

 

 イリヤと美遊は内心驚いて、小さな声を上げていた。

 まさか、昨日の今日でまた転校生が……⁉

 

「はーい、それじゃ、入ってきてー!」

 

 呼ばれて、二人の生徒が教室に入ってくる。その姿を見て、男子から「おおー」と声が上がった。

 

 一人は、ブロンドの髪を鮮やかになびかせる、碧眼の少女。まるで人形のような、瀟洒な美しさを醸し出している。

 もう一人は、紫がかった黒のボブが特徴的な、背の高い少女だった。やはりこちらも、青い目をしている。こちらは髪にかかったかんざしも併せて、和の静かな美しさを魅せていた。

 

「それじゃあ、自己紹介をお願い」

 

 先生に促されて、ブロンドの少女のほうが「はい」と答えて、一歩出る。

 

「鳳凰院輝夜(カグヤ)です」

「霧原紫です。よろしくお願いします」

 

 それぞれが挨拶をして先生もまた「それじゃ、みんな仲良くしてあげてねー!」と言った。

 男子が沸く。女子もまた沸いた。

 その騒ぎの渦中で、イリヤと美遊はそろって、大きなため息をついていた。

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