「え、え、えぇーーー⁉」
変身した! というかなんか、私と全然違う! なにあれ!
『なんですかイリヤさん。もしかして彼も魔法少女になると思っていたのですか?』
「え、え、うん。ち、違うの?」
『そ~んな芸のないことではいけません。見ての通り彼はメタルでクールなヒーローです! 男の娘が魔法少女になるというのもよいものだとは思いますがしかし気弱な子が正義にあふれたヒーローになるというのもまたそそるものが「うん、ちょっと後にしてルビー」えーせっかくの語り気分ですのに』
とかやってるうちに、宝__ガッチャードは敵に突進する。敵の女性は紫色の髪を振りかざす。その髪はまとまるや巨大な蛇に代わり、ガッチャードに襲い掛かった。
「うわ、ストップ!」
『なんやあの攻撃! 髪が蛇て、メドゥーサかいな!』
スチームホッパーの脚力を活かし、横に飛んで避け。虚空から生み出した銃を敵に向ける。
まるで喋るような慣れた手際で、錬成したのはガッチャージガン。その中に、カードを一枚装填し、髪にめがけて攻撃する。さて、使ったカード、ケミーの力は。
『ガッチャージバスター! 行け、カマンティス!』
レベル9インセクトケミーカマンティス。その刃は、あらゆる物体を切り裂く。ガッチャージガンのカード弾はその効力を宿し、敵の黒髪を……引き裂かなかった。
弾かれた刃弾が地面に突き刺さり爆発を起こす。
「効果なし⁉」「カマー⁉」
『ガッチャージガンはダメか! しゃあない。イリヤちゃん、姉さん、出番や!』
「ええっ! えーっと、凛さん、どうすれば」
その凛はすでに学校のほうまで逃げていた。
「いつのまにー⁉」
『逃げ足速いですねー。イリヤさん! 前に凛さんにやったみたいに、このやろーってしてください!』
「え、うん! わかった!」
敵から離れつつ、ステッキを構え「このやろー!」
その瞬間、ルビーから光の波動があふれ、それが刃となって英霊にたたきつけられた。吹き飛んだ彼女は、奇妙な声を上げてうめく。
「ナニコレ⁉」
『いきなり大斬撃とはやりますねー!』
英霊が立ち上がる。攻撃をはじききれなかったのか、その左腕には赤黒い血の跡が見えた。
「効いてるわよ! 宝!」
「ぽいですね! つっても」
それでも仕留め切れているわけではない。彼女は巨大な髪の蛇を振り、イリヤを狙う。
「うわ⁉」
『距離をとってください! 定位置から魔力砲を撃ち込むのが定石ってやつです!』
「う、うん!」
軽々と攻撃をよけ、舞った砂塵の合間から魔力弾を打ち放つ。放たれた攻撃は弾道を曲げながら英霊を狙う。イリヤがイメージしているのはホーミング弾のようだ。
さしもの敵も、本体にばかり攻撃されてはたまらないと、回避に行動を移し始めた。
今がチャンスだ。宝は手中のカマンティスと、相性の良いもう一体のケミーのカードを掲げる。
『カマンティス!』「カマー!」
『ほんで、オドリッパー!』「リーパ!」
『ガッチャーンコ!』
スチームホッパーの装甲が瞬時にはがれ、その代わりに風と透明な衣服が、ライダケミドールを覆う。赤色の複眼状パンクライダゴーグルを上げつつ、変身したのは。
『オドリマンティ~ス♪』
ぴぴっぴぴ~! と、軽快な口笛とともに参上! 風を纏いて踊り舞う、オドリマンティスだ。
宝は両腕のオドリマンティスサイズに力を込め、髪蛇めがけて振り下ろす!
ザンッ! と空気が割かれ、次いで髪の蛇も、悲鳴を上げて吹き飛んだ。しかし、切り裂かれたところから再び口が開き、宝を狙う。
「っ、切ってもダメか!」
『再生やのうて、トカゲの尻尾切りみたいな感じやな。あっちの切ったほう、もう動いとらへん』
「切れば少しでも動きは止まるし、無駄じゃなさそうか……なら。イリヤちゃん!」
宝は叫ぶや、魔力弾を放っていたイリヤにカードを投げつけた。
イリヤは慌てたが、それを受け取る。「なにこれ……あれ? この子って」
そのカードに描かれていたのは、先ほど自分を助けてくれた巨大トンボ。
その名はレベル6インセクトケミー、グレイトンボだ。
宝が髪蛇を切り裂きながら、イリヤに向けて声を飛ばす。
「ルビーなら、ケミーの力が使えるから! それで本体を狙い打って!」
「よくわかんないけど……わかった!」
グレイトンボのカードを構え、相手を見据える。「ルビー、お願い。それと、トンボ君も!」
『は~い、お任せください! では』
カードをルビーの五芒星に合わせ『ケミーラ~イズ! イ~ンセクト!』
グレイトンボの力が、マジカルルビーに宿った。次に放つ弾には、より強固な、貫通弾のイメージが伴われる。
それこそがケミーカードとカレイドステッキを組み合わせて起こる力。カレイドステッキ所持者の想像力を、ケミーの特徴により補強するのだ。イリヤは先ほどまでのホーミング弾に、グレイトンボのイメージを重ねる。
矢のようにすっ飛んで、イリヤを助けてくれた。あのスピードを、今一度。
「
放たれた。
その音速の一撃が、瞬時に曲がって英霊の胸を打ち貫く。彼女の口から、黒化した血液が漏れ出た。致命傷となったようだ。
「っ! いけるわ! 一気にとどめ刺しなさい!」
凛が叫ぶ。
言われるが早いか、宝はオドリマンティスからスチームホッパーへと再変身。
「行くよ!」
『おうとも!』
ガッチャを操作、二つのカードを一度引き離す。その瞬間、パッションアタノールの炎が紅蓮に輝き、さらに青い輝きへと変わっていく。
全身を使い、周囲に散らばった魔力の残滓を吸収しているのだ。ガッチャードのその身が蒼炎に輝いた。足を一歩踏み出し、跳躍。それだけでトラックを、瞬時に横断する。
「ホップ!」
しかしそれでも、影英霊にはまだ届かない。
ガッチャードはそれを理解するや、ライダケミドールを分解し装甲だけの姿、ワイルドモードへと変態。この鋼鉄のバッタの姿でさらに、跳躍。
先ほどの二倍以上の距離を突き進む。
『ステェップ!』
再びの変態、ライダーモード。疾風となったその姿に、白い軌跡が舞い散る。
音をも越え空気をも切り裂くその蹴撃が紫色の敵影を打ち貫く。
『「ライダーキック!」』
イリヤの槍を押し出し、敵の心臓ごと貫通した。一瞬、音をも超えたガッチャードは、敵にキックが達し、その体を吹き飛ばしたと同時に、鮮やかに舞って地に降り立つ。フェンスのほうまで吹き飛ばされた英霊の体は、槍を中心にして起こった大爆発に消え、見えなくなった。
「や、った?」
静寂の中、イリヤがつぶやく。小さく緊張の息を吐き、彼女のほうを向いたガッチャードは、こくんとうなづいた。
「撃破、成功。あとはカードを回収するだけだよ」
「い、やったーーーーー!」
イリヤは喜んだ。全身を使って、くるくる回りながらその喜びを表現する。
勝った、初めてで勝ったんだ! 私、不安だったけど、やっぱりやれるかもしれない!
そう舞い上がっていると、こつんとこづかれた。
「あた」
「まだよ。カードを回収して、鏡面界から脱出しないと。宝、回収お願い!」
「はーい!」
そっか、もともとあの英霊? は、カードなんだっけ。宝は爆心地のほうに、カードを回収しに行った。
その間、イリヤは先ほど力を借りた、グレイトンボのカードを見た。そういえば、これもカードだ。前に凛さんから見せてもらった「アーチャー」のカードとは違って、なんだかこっちはゲームができそうな感じだ『知識の偏りがすごいですねー』うるさいなぁ。
レベル6? らしい。確か宝君は、グレイトンボと呼んでいた。それで、ケミーという生き物らしい。
こっちのカードは、いったい何なのだろうか。
「それはケミーカードよ。ケミーっていう生き物の家、みたいなものね。ケミーっていうのは何百年も前、とある錬金術師が当時の技術の粋を集めて作り上げた、簡単に言えば人工生命体ね」
「錬金術! 鋼の錬金術師みたいな?」
「あー……それとは似てるけどちょっと違うっていうか。さっきルビーとガッチャが展開した魔法陣があったでしょ? ああいう魔方陣を、ぷろぐらむ? っていうのかしら。それみたいにたくさんの魔法陣をくっつけて脳にして、そこに色んな道具や生き物のガワを与えたもの。それがケミーよ」
なんかちょっと曖昧な言葉が聞こえたけどなんかわかった気がする。
ケミーは人工生命体。錬金術によって生み出された……生き物。なら、こうして喋っているルビーたちも?
『それは違いますね~。ケミーとされるのは彼らを作りし造物主によって生み出された百一体だけ。ケミーと私たちは、作成に錬金術の技術が使われてこそいますが、根本的には違うものなんです。携帯電話とパソコンのようなものでしょうか』
「うーん……?」
『イリヤさんわかってますかー⁉』
「う、うん、多分。六、五割くらいわかってる、はず、たぶん」
あたまからけむりがでるぞ、ぞ。あ、でもたぶんなんとなくわかってはいる……
「ひ、ひとまず、この子たちとルビーたちは違うってことなんだね」
『はい! そういうことです!』
「それだけわかれば十分ね。……にしても宝、遅いわね」
凛は宝の向かったほうを見る。既に煙が晴れていて、そこにガッチャードの姿はない。
……ん?
「え? 宝⁉」
「あれ、いない?」
宝の姿がどこにもない。先ほどカードを取りにいったばかりだ。どこに消えた?
宝に限って、カードを盗むなんてことはないはずだ。
「ルビー! ガッチャの位置は⁉」
『はいはい調べますよー。えーっと……あれ、これ……』
「どうしたの?」
『いえ、このガッチャたちの位置……私たちの、真上⁉』
その言葉の後。
ドカンッ!
「うわひゃあっ⁉」
「なにっ……⁉ って、宝⁉」
轟音とともに落ちてきたのは、ガッチャードだった。全身を覆うスチームホッパーの装甲がひしゃげ、胸に大きなくぼみができた、無残な姿。彼は立ち上がろうとするも、倒れ、変身状態を解除してしまった。
「っ、うぅ……」
『ゆ、油断した……そや、凛! 姉さん、あとイリヤちゃん! あいつまだ生きとる! 宝具を使いおった!』
ガッチャがそう、危険を叫ぶ。イリヤはその宝具とやらがなんなのかわからず、パッと危険だと思わなかった。
だが凛が、その言葉を聞いて青ざめたのを見て、今が危険な状況であることを認識した。
「最悪だわ、致命傷を与えたはずだったのに……!」
『仕方ありません、一時撤退を! って、うわ、来ました⁉』
ルビーが叫んだ。その声に合わせるように、突風が吹き、凛とイリヤと、宝を四方に吹き飛ばす。
「うわああああ⁉」
イリヤは吹き飛ばされながら、自分を襲ったその影をとらえた。それは人でも、蛇でもない。
翼を伴い天を駆ける、神馬。ギリシア神話においても非常に有名な天馬、ペガサス。紫髪の黒い女英霊は、その神馬を自在に駆り、突進攻撃を繰り出したのだ。先ほどガッチャードの胸に刻まれていたへこみも、それによるものか。
その天馬は再び、イリヤ達めがけて突進を繰り出そうとしている。攻撃そのものは短調なものだが、あれを今一度、もろに食らおうものなら。
『今度こそお肉屋に出荷されちゃいます! イリヤさん、回避を!』
「う……」
『イリヤさん⁉』
イリヤは動けなかった。先ほどの攻撃の痛みがまだ残っていたのもあるが、何よりまともに攻撃を食らえば、先ほどのガッチャードのようになってしまうという事実を知ってしまった。頭の中で、あの彼の惨状が反響して、イリヤを縛ってしまったのだ。
騎馬を得た敵は、その動けぬ獲物を見据える。そして、手綱を打ち、馬が動き出し。
イリヤに、光子となったそれが襲い掛かる。
と、その時だった。
「
小さな声がイリヤの耳に届いた。そして次の瞬間。
「
赤い槍が、騎手の胸を貫いていた。驚愕の声を上げ、瞬間的に消滅する黒化英霊。
カードが一枚、残された。
イリヤは何が起こったかわからず、ただ茫然とその光景を見ていた。手の中のルビーだけが、驚きと歓喜を要り交ぜた声で『あれは、ゲイボルク……ということは!』と言った。
落ちてくるカードを手に取る人影が見えた。それはイリヤ達のほうを一瞥する。
ステッキを持った少女だった。黒い髪に、赤っぽい目。落ち着いた表情。イリヤはその様子に、見とれ「おーほっほっほっほっほっほ!」
なんか、うるさい高笑いが聞こえた。
「まずは一枚……わたくし達がいただきましたわ、遠坂凛!」