ミユさんを観察して分かったこと。その①
「この図より外接半径と線分OBの比はcos(π/n)内接半径は線分OBに等しいこのことから外接半径と内接半径の比はcos(π/n)となり面積比はcos²(π/n)よってこの場合の面積比は「いや、あのね美遊ちゃん」なにか?」
「この問題はそんな難しく考える必要はなくてね、cosとかnとか使わなくてよくてね「?」そんな不思議そうな顔する⁉」
なんか。
「もっとゆとりを、心にゆとりを持ちなさい! 円周率はおよそ3よ文句あっかコラー!」
学力はすごい、らしい。
その➁
「ねえなにあれ……ピカソ?」
『キュビズムや……』
「キュビズムは小学校の範囲外よぉぉぉぉ!!!」
「自由に描けとのことでしたので……問題がありましたか?」「いやそんな顔されてもそんなこと言われてもー!!」
芸術力も、すごいらしい。
さらにその③
「な、なにこの大量の料理は……どこから出てきたのよ⁉」
「美遊さんが一人で……」
「今日使うのフライパンだけなのにぃ⁉ うわぁしかもうまいんだけどなんてものくわせてくれんじゃああああ!!!!!!」「先生うるさいです」
料理もすごい、らしい。というか、すごい。お兄ちゃんよりすごいのでは……とはイリヤの談。
さてここまでの総評。
「うーん、完璧超人……」
「い、いやでもまだ体育が! 体育が残ってるから!」
「かけっこ一番の座を取られたら悲惨そのものだね」
「くぅ、見ててよみんな! 私絶対勝ってくるから!」
ではその④
「6秒、9……⁉」
「い、イリヤが負けたー⁉」
いつだったか雀花が言ってた、即堕ち二コマってこういうことを言うんだなぁ、って宝は思った。つよい、あまりにも強い。
美遊はたった一日で、学校中のすべての最強を塗り替えたのだ。
放課後、その覇道の被害者になったイリヤは、電柱の下で泣いていた。
「いつまでいじけてるの……」
『ほーら、男子に情けない姿を見せるものではありません! 早く帰りましょー』
「べつにいじけてないし……才能の壁を感じたっていうか、なんていうか……」
ほんとにすごかった。
勉強はできる、語学に明るい、絵はうまい。さらに料理は何でも作れて運動は誰よりも得意。完璧超人、お姫様どころか王子様。
そのクールで人を寄せ付けない性格はちょっと問題な気もするけれど、それを補って余りある高スペックぶり。男子連中はもちろん、女子にも彼女に恋慕を寄せるものまでいる始末だ。
一瞬にしてここ数か月のホムショー五年クラスの雰囲気を粉砕していった恐るべきデストロイヤーであった。
『サファイア姉さんが選んだだけはあるなぁ』
「そう、だね。うーん、でも気になることが多いんだよね、あの子」
「へ? 何かある?」
イリヤがそう問おうとして、言葉を止めた。イリヤをじぃと見ている美遊がいたのだ。どうやら先ほどまでのいじいじイリヤを観察していたらしい。
「何してたの?」
先ほどの奇妙な風体について聞いてきた。いや別に、何をしてたというわけではないんだよね。
「こ、これはどうもお恥ずかしいところを……ミユさんにあらせましては今お帰りで?」「なんでへりくだってるの?」
『卑屈になっちゃいましたねイリヤさん』
美遊のその存在感に気おされてるらしい。宝は言った。
「美遊さんは同じカード回収仲間じゃない。だから、学校の成績で気負う必要なんてないと思うけど」
「そ、そだね。えーっと」
といっても、何を話せばいいのか……
「ひとつ、聞きたいのだけど」
そう思っていたら、美遊が訪ねてきた。イリヤはピンと背筋を張る。
「あなたたちは、どうして戦ってるの?」
「え……」
どうして、とは。突然の重い話題に、イリヤは言葉を失った。それは宝たちも同じく。
彼女は続ける。
「まず、イリヤスフィール。昨日の話を聞く限り、あなたはルビーに巻き込まれたんでしょ? なら、あなたに戦う責任はないはず」
「それはルビーが勝手に」「ルビーでも、本気で拒否すればあきらめる……と、思うけど」
宝はルビーを見る。『まあ私も悪魔ではないですからねぇ』
「それと、一ノ瀬。あなたのことも気になる。自分から戦いに赴いた理由は、何? 見ている限り、あなたは普通の小学生には見えない。他とは違う雰囲気を感じる」
「雰囲気? 気のせいだったりしない?」
あくまでとぼけて、宝は言う。美遊はしずかに首を振る。
「答えて」
「ええ、っと……ほんとのこと、いうとね」
そう、イリヤは切り出した。
「ちょっとだけ、こういうのにあこがれてたんだ。ステッキと一緒に悪い、悪い? 怪物と戦うヒーローみたいでさ。漫画とかアニメとか、ゲームみたいで……」
「ゲームみたい……」
「うん。魔法とか英霊とか、冗談みたいな話だけど、なんだかわくわくしちゃうって、いうか。せっかくならこのカード回収も、楽し「もういい」……え?」
イリヤの言葉を切って、美遊は宝をにらむ。怒気の込められたその目線に気おされつつ、こくんとうなづき、宝は言った。
「イリヤちゃんと大体同じ。ちょっと楽しいかなーって」
カバンの中から『おい!』と小さな声が聞こえたが、宝は無視した。
美遊は静かなその表情に、確かに怒りの色をにじませる。そして。
「その程度、なの? そんな理由で戦うの? 遊び半分の気持ちで、英霊を打倒できるとでも思っているの?」
「え、ちょ、ミユさん?」
「それなら」
美遊は静かに、二人を見た。
「あなたたちは戦わなくていい。カードの回収は全部私がやる。せめて、邪魔だけはしないで」
それだけ告げて、彼女は歩み去っていった。残された二人の心象は、穏やかなものではなかった。
「なんで怒っちゃったんだろう……?」
「地雷ふんじゃったポイね……」
カバンの中から今度は『お前今嬉々として踏み抜かんかったか……?』とかなんとか言ってる声が聞こえた。宝は無視した。
♦
『おまえなあ! なんであんなこと……』
帰り道、ガッチャは怒っていた。宝はその言に「ごめんごめん」と空返事を繰り返していた。
「ねえ、宝君」
「なに? イリヤちゃん」
「さっき、なんで私に合わせたの……?」
おやばれていた。でもそうか、わざとらしかったよね。
でもどう、言おうものか。イリヤちゃんに真実を話してもいいのだろうか。悩んだ末に、宝は口を開いた。
「明らかに何か隠してる風だったし……だから僕も嘘ついた。それだけ。悪いことしちゃったとは、思ってるけど」
『悪いことしたっておもっとーやつは空返事なんてせえへんぞ!』
「それは悪かったって」
「……でも、ミユさんが隠し事?」
「ん、まぁ……いろいろあるみたいだし、詮索する気はないんだけど」
そう言う宝は、なんなのだろうか。
ルビーとも、サファイアとも、なんなら凛さんともルヴィアさんとも親しい、君は。
「君は、なんなの? 宝君、最近おかしいよ……?」
「……そういうと思ってたよ。おかしい理由は簡単だよ。僕が魔術師なの、知ってるよね。凛さんと同じ」
「魔術師なんだよね。……あ、そっか。じゃあ、ルビーたちと仲がいいのも」
「昔、小さいころによく遊んでたから。そのころに色々あってね。両親がいなくなったりして、イギリスのお爺さんのところにいたんだよ」
「いろいろ……」
宝はところどころぼかしながら、自分の素性をイリヤに伝えていく。
「じゃあ、ガッチャといるのも、そのころから?」
「そんなとこ。ケミーたちともそのころからの仲。サファイアたちともね。だから、サファイアが無理やり、なんてルビーみたいな真似をするとは思えなくて……」
「え?」『ちょっとちょっとー。私も無理やりはしませんよー!』
「いや、ルビー騙してきたじゃん! 無理やりじゃないけど騙してきたじゃん!」
ルビーは『そうでしたかね~』とすっとぼける。
「まともかく。あの子は巻き込まれたんじゃないかもね、ってね」
「そうなのかなぁ……」
さて、それから並んで歩いて。
イリヤの家の前まで来ると、イリヤの家のお手伝いさんが立っていた。セラさんだ。
「ただいまー。セラ、どうしたの? なんで外に?」
「あ、おかえりなさいイリヤさん。宝さんもお久しぶりですね。……ええとですね」
セラは言いにくそうにしながら前を指さす。そちらを向くと。
巨大なお屋敷が立っていた。いかにもお金持ちの住んでいそうな豪邸である。
「な、なにこれーーーー!!!!!! え、うちの前にこんなの立ってたっけ⁉⁉」
「それが、今朝から工事が始まったと思ったら、あっという間にできたようで……」
「あっという間でこんなお屋敷立ちます……?」
どんな財力の金持ちがこんなとこに家を建てたんだ……
とか思ってたらおや? 見覚えのある人影が……
「え、ミユさん⁉」
「っ⁉」
ぎいいって音がして門が開いて、こそこそと美遊さんはその中に入っていった。
「え、ここ家なの……?」
「…………うん。まあ、そんな感じ」
ついさっきの喧嘩別れですぐの邂逅なので、なんとも間が悪いというか、カッコつかないというか……
「うーん、まあどうせまた夜に会うしねぇ……」
会う時間がちょっと早まっただけだ。
イリヤと宝は、そろって凛からの脅迫状を取り出して、またそろって、小さなため息をつくのだった。
♦
さて。お昼に色々あったけど、カード回収の時は協力が一番大事。
だというのに。
「イリヤ、油断しないようにね。敵はもちろんだけど、ルヴィアが何してくるかわかんないから」
「(なんでこんなにギスギスしてるのかなぁ)」
「けんかに巻き込まないでほしいんだけどなぁ」
「速攻で片を付けるのですわ、美遊。開始と同時に距離を詰め、敵に一気にトドメを刺しなさい」
「わかりました」
「それと、可能なら遠坂凛も葬ってしまいなさい」「それは無理です」『ルヴィア様殺人の許可はご遠慮ください』
ま、ともかく。『やることはきっちりやるで!』「了解! 行こう!」
宝たちの合図に、皆がうなづく。
そしてルビー、サファイア、ガッチャが、声を合わせて世界に告げる。
『『『限定次元反射炉形成、鏡界回廊一部反転!』』』
『『『接界!』』』
その宣言と、ともに。
彼らは世界から消失した。