Fate/Gotcha liner   作:アカハナさん

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第九話 覇を制する刃

 鮮血が舞っていた。あたりに滴る血の匂いに、顔がしかめられる。

 宝は小さく唸っていた。想像してしかるべきだったと。この鏡面界も元は別の、一個の空間だったと考えると、そこを移動できてしまえば、別のカードが、別のカードに創成された空間へ来ることもできてしまうだろう。

 そしてその仮説が今現実に起こっていた。目の前のあれは、剣士。黒衣に黒鎧をまとったそれは、唯一見える口元を微塵も動かさず、こちらを見つめている。その威圧感は、今までのどの敵よりも強いものだった。

 

「り、凛さん!」

「ちょっ!」「イリヤスフィール!」

 

 着地と同時、イリヤが走り出してしまった。それを止めようと、宝と美遊が手を伸ばして足をつかんで「へぶっ⁉」

 

「なにするのー⁉」「あ」「ごめん」

「……でも、不用意に動いちゃダメ」

「で、でも!」

 

 イリヤは倒れた二人を見る。血を流す二人はピクリとも動かず、その様子はまるで死んでいるように。

 

『や、大丈夫や。まだ息はある! 生体反応は弱ってきとーが……!』

「だ、だったらなお「だからこそ!」ひぅ」

 

「っ……だからこそ、冷静に行動すべきなの!」

「そう、だね……でも、どうする?」

 

 宝が問う。それに美遊はすぐに答えた。

 

「ランサーのカードがある」

 

 そう告げ、カードを一枚皆に見せる。先の戦いで使うことのなかった、ランサーのカード。使えば一撃必殺、現状最強の切り札だ。

 

「オッケー、刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)か」

「あれって、一撃で敵の心臓を貫くんだっけ?」

『ええ。ですが、私を媒介に召喚される以上、時間制限が存在します』

『大体三秒くらいですかねー。後で再使用しようにも使用後は数時間使えませんし。三秒間なら相手の心臓を狙ってくれるんですが、その間に英霊の座に返却されたら……』

 

 実質一発限り、それも三秒の隙を作らなければ不発に終わる。やみくもには使えない。

 

『そらあかんなぁ……ほかのカードはどうなんや、姉さん』

『ライダーのカードは美遊様と試したわ。でも、単体では意味をなさなかった。キャスターは不明』

『流石に本番でいきなり使うのは危険か。で、アーチャーは役立たず……』

「となると、とれる策は、二つか」

 

 即座に敵を倒す。または、凛とルヴィアを回収後、即座に脱出。

 まず一人で敵を引き付けておき、残る二人で剣士を撃破。または、そこからさらに分担し、ルヴィアと凛の回収を狙うのもありか。

 敵の撃破はランサーのカードで十分にできるはず。なら、まずとるべき行動は。

 

「私と一ノ瀬であの剣士を足止めする。その間に、イリヤスフィールは木に隠れつつルヴィアさんたちに近づいて、先に空間から脱出して。私たちも撃破できなかったら……」

「すぐに脱出するから」

 

 イリヤは、少しためらいを見せたがうなづいて。

 作戦決行となった。

 

「行くよ」

『おう。スケボーズ、アッパレブシドー!』「ボォズ!」「アッパァレェ!」

「変身」『ガッチャーンコ!』

 

 アッパレブシドー、スケボーズ。二体の赤いケミーが一つになり、深紅の鎧が形成される。それを、ニードルホークワイルドを外したライダケミドールに纏い、変身。

 その姿は紅蓮に燃ゆる、宝の怒りを体現する速攻の形態。

 

『アッパレスケボー!』「よし……ガッチャートルネード!」

 

 ガッチャージガンを媒介に巨大な弓、ガッチャートルネードを形成。オレンジ色のその刀身を敵にたたきつける。が、剣士の周囲を満たす黒霧に阻まれ、弾かれた。

 

「っ⁉」

「一ノ瀬、離れて!」

 

 その声とともに、空中より無数の魔法弾が襲来、剣士を襲った。いや、先ほど近づいてみた姿を見る限り、あれは騎士だろうか『んなこたぁいいやろ宝! 切り裂け!』

 

「ああ!」

 

 カードをリード。選んだのは、カマンティス!

 ガッチャージガンと異なり、物理攻撃を行えるようになったこの武器を、全力をもって振るう!

 

『ケミースラッシュ!』

 

 それが霧を一度は引き裂く。その切れ目を見て、さらに盾に一閃。しかし、敵の剣が……否、剣のようなものがガッチャートルネードを弾き飛ばした。

 

「何今の、剣⁉」

『ぽいが、何かわからん! いったん離れろ!』

 

 いわれた通り、一度離れる。が。

 

「うあぁ⁉」

 

 横薙ぎに放たれた一撃が、ガッチャードの装甲を裂き、吹き飛ばした。

 十メートル強を吹き飛ばされた宝は、うまく着地できず地面に倒れる。

 

「一ノ瀬!」

『先ほどの宝様の攻撃による損害、なし……あの霧は?』

「く、でも、イリヤスフィールがたどり着くまでは! 速射(シュート)!」

 

 再び速射攻撃。

 その攻撃を、草葉の陰から見ながら、イリヤは走っていた。「あれ、さっきの反射平面と同じ……?」

 

『いえ、魔術を使っている様子はありません。もしやあの霧は……』

 

 その時だった。

 

 騎士が、剣を構えた。その刀身にまとわれた風が黒霧に変わるや、その全身が明らかになる。

 一気に力を増すように輝いたそれは、振るわれると同時に。

 

 空気を震わせ、美遊を切り裂いた。

 

「う、ぐぅぅ⁉」

 

 魔術障壁をも超えて、美遊の肌を剣圧が切り裂く。そう、あれは剣圧だ。本来そんなもので、ダメージを与えられるはずはない。どれだけ威力が高かろうとも、カレイドライナーの持つ障壁を超えられるはずがないのだ。

 

「ミユさん!」『だ、だめです! 気づかれちゃいますよ!』

 

 しかしルビーの忠告よりも早く、敵はイリヤの存在に気が付いた。即座に剣を振りぬき『私を盾に!』

 

「きゃあぁ⁉ あうっ、痛っ……」

『大丈夫ですかイリヤさん⁉ 大丈夫です、軽症ですからすぐ回復できますよ!』

 

 先ほどの二度目の攻撃。なるほど。やはり思った通りだ。最悪の想定が事実だった。

 あれは、奴を覆い包むあの霧は。

 

『信じられへんほど高密度の、魔力の霧や!』

 

 その霧の一部を剣に織り交ぜ、風圧を攻撃に変換している。さらにそうせずとも、その霧は敵のあらゆる攻撃から己の身を守る盾となる。まさしく攻防一体、すさまじい戦闘力を誇っている。

 さらに厄介なのはその風圧攻撃が、障壁をたやすく貫通するほどの威力だということだ。

 

「あ、や……」

『イリヤさん、しっかり!』

 

 ルビーの励ましもイリヤには届いていない。先ほどの攻撃で傷をつけられた恐怖が、彼女の心を覆いつくしている。動かなくなったその獲物に、剣士は少しずつ歩みを寄せてゆく。確実にとどめを刺すために。

 

「イリヤスフィール! 逃げて! 早く!」

『いえ、あれでは……!』

 

 その時。赤い炎が舞い散り、爆炎が剣士の全身を覆った。今のは宝石による魔術。

 ということは「宝!」

 

「はい!」

 

 凛が叫ぶ。宝が答える。ガッチャを操作し、カードを離し、アッパレスケボーワイルドとなって突貫。敵の周囲を回転、赤い竜巻を起こし閉じ込める!

 爆煙によって払われた魔力の霧はすべて吸収。たまった力は先ほどの一撃の数倍上。ならば次の一撃にすべてを込めて!

 

「V3ィ! 遠心ぅ!」

 

 遠心力をそのまま、魔力とともにたたきつけるのだ!『アッパレスケボー! フィーバー!』

 

「キィィック!!!」

 

 炸裂した一撃は敵を川のほうにまで後退させた。今がチャンスだ。

 美遊はすぐ様動くや、凛とルヴィアの手をつかんだ。宝もイリヤの手を取って、そのまま安全地帯へと逃れる。

 しかし、逃すかとばかりに敵は剣をふるう。剣圧はすさまじい速度で、イリヤ達を狙うが。

 

「おぉらぁ!」

 

 ガッチャートルネードを振り回し、再びケミースラッシュ! カマンティスの力を宿した必殺剣が、一撃を逸らした。

 しかしそこで、宝は膝をついてしまう。変身が途切れ、元の姿へと戻るや否や、口から赤い塊を吐き出した。

 

「宝君⁉」

「けほっ……ガッチャ、リジェネお願い……」

『このアホ……! くそ、ちぃと待ってろよ!』

 

 宝は普段、カレイドライナーに付属する治癒促進を経って戦闘を行っているのだ。戦闘力に魔力を特化させ、余計な弱体化を防ぐ意図があった。だがこうして、多大なダメージを受ければ、変身が解除されてしまう。すぐに戦線復帰できなくなってしまうのだ。

 ガッチャードライバーの治癒能力などが、カレイドステッキに比べ劣っているのもあり、これではこの戦いでは……『これ以上は戦えないでしょう……』

 

「そんな……!」

「まだだ、まだ戦え……」

『無茶言うなアホ! こないだの傷だって治りきってなかったんやぞ!』

 

 こないだの傷……って、まさか。

 

「ライダーと戦った時の?」

『……そや』

「ちょっ、ガッチャ!」

 

 宝はガッチャが言おうとするのを止めようとするが、ガッチャは聞かずに続ける。

 

『あんときだって変身解けるくらいのダメージを受け取った。その傷は、ワイのリジェネじゃ今日までに治しきれへんかったのや』

「……ケアリーがいてくれたら、よかったんだけどね」

『そんなこと言っとる場合か! ……しかし、どーする。このままじゃワイら全員お陀仏やぞ!』

 

 ガッチャの言葉はもっともだった。敵たるあの剣士は、こちらが何かしかけない限り攻撃はしてこないようだ。だがそれゆえに、逃げ切ることは難しいだろう。完全にこちらを獲物と見定めている。

 どうするべきか。反射炉を形成している暇はなさそうだ。かといってあの魔力の霧を前に、ゲイボルクが通るとも思えない。

 

『こっちのアドをぜーんぶ潰してきてます……』

『間違いなく……最強の敵、です……!』

 

「……なら、選択肢は一つしかないんじゃない?」

 

 そう、言ったのは「凛さん⁉」

 

 凛は、イリヤの手の中のルビーをつかんでいた。ルビーは一瞬呆けていたが、彼女が何をしようとしているのかを、すぐに理解して。

 

『はあぁ……仕方ありません。サファイアちゃん!』『はい!』

 

 ルビー、サファイアそれぞれが、凛とルヴィアの手に収まる。

 そして、一つ、転身のための言葉を叫ぶ!

 

「「多元転身(プリズム・トランス)!」」

 

 その直後、魔力の突風が吹いた。傷だらけだった凛とルヴィアの体が元の形へと戻り、そしてその身に赤と、青の衣がまとわれていく。

 イリヤ、美遊とはまた異なる衣装。しかしそれこそが、本来の形なのだ。本来の形だが、仮認証という形でそれは実現した。カレイドステッキにとっては、家出中なのに親元に戻るようなもの。不本意だろうが。

 

『今は四の五の言っていられませんから』

「流石ですわねサファイア。状況をよく理解していますわ」

『しかしほんとに、世話の焼ける人たちですね~』

「うっさいわね……最初からこうしてりゃよかったでしょ!」

 

 まあ、その通りだ。

 露出を抑え、ゴシック調に。それぞれ社交界のドレスのような装いを、またそれぞれ赤と青の色で彩った、魔法少女の衣装。

 片や黒、片や金とマッチする色合いになっているのは、カレイドライナーを形作るステッキたちの、センスによるものか。まあその色の相性はともかく、どっちも猫耳ついてるのは、なんというか。すごく恥ずかしい格好だ。とはいえ、彼女ら二人が纏うからこそか、不思議な格好良さがにじんでいる。

 それは、イリヤと美遊を新生とするならば。旧来以前の、カレイドライナー本来の姿。

 

『ではでは、カレイドルビー! アーンド?』

『カレイドサファイア。久々に爆誕、です』

 

 そのサファイアの声音は、どこか嬉しそうに聞こえた。

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