自暴自棄になった愛され少女が仲間に自分を売る話 作:暇じゃない暇人
理由はもちろん、情が湧いてしまうから。
「N。どうかしたのかい? 顔色が悪いけど」
「どうもしません、CEO。……それより、今回の任務について改めて説明していただいても構わないでしょうか?」
「え、それは別に構わないけど。……珍しいね。もしかしてあまり寝れてない?」
「いえ。ただ装備を修理に出しているため、代わりに使えるものを探すのに手間取ってしまい、任務の詳細を確認できていなかっただけです」
「なるほど……じゃあ今言うね」
CEOはそう言って、タブレットのようなものを取り出した。
画面には今回の作戦について書かれているのだろうが、こちらから見ることはできない。
「今回の作戦はテロリストの捕縛ならびに情報にあった生物兵器の奪取だ」
画面をスクロールしてから続ける。
「既に敵の基地と生物兵器についての詳細は判明していて、私たちは現在、敵基地から2キロ程離れた地点にいる。ここから徒歩で移動して敵基地を囲み、陽動の役割をこなすA班と生物兵器。通称デビルレッドを確保するB班。計2班に分かれて行動する」
「陽動を行うA班はスレージュ、エストック、シルビア、N.Uの計4名で、B班はリストネア、カイグー、ユカリの3名が担当する。……とまあ、こんな感じだけど。何かまずい点ってないよね?」
真面目な顔で決めていたのに、最後で一気にその顔が崩れた。
せめて最後までピシッと決めてほしい。
「いえ、これといった異論はありませんが強いて言うなら、CEOはどちらに?」
「私はB班についていくけど、指揮についてはインカムを通してA班にも伝える予定だから。安心していいよ」
「そうですか。では私はA班の皆さんのところに移動します」
「うん、行ってらっしゃーい」
今から作戦行動をするとは思えないほど気の抜けた声が背中に掛けられる。
今更心配することはないと思うが、やっぱりどこか不安に思ってしまうな。
そんなことを思っていたらA班に合流。
遅れたことを謝罪し、改めて全員に挨拶する。人付き合いをするならとりあえず挨拶しておけばいい。それは前世でも今世でも変わらない。
「遅れてすみません」
「いや、気にしなくていい。こっちも今装備品の最終点検を済ませたばかりだ」
そう声かけたのは犬耳をはやしている女性。名前はシルビア。
彼女は今回の編成でA班のタンクを引き受けることになるだろう。
「最終点検?」
「そうだ、エンジニアたちからチェックを普段の3倍しておけと口を酸っぱくして言われたものでな」
そう言いながら腰に吊るされた筒のような機械を触る。見慣れない装備だから、あれがエンジニアたちから言われている代物ということか。
ほか二人にも軽く何か言われたが、特に重要なことも言われなかったのでよく聞かず、A班全員の点呼を取ってそのまま目標地点まで移動することとなった。
今いる場所は廃棄された都市の外郭部分に当たる場所で、テロリストが潜む基地はさらに外。
ここよりもさらに外側に近い場所に位置しているらしい。
都市の外(と言っても境界は非常にあいまいだが)から近付いた場合発見されるリスクが高く、市街地方面から移動して、それから仕掛けるという算段になっている。
逆にB班は
天気は曇天で息が詰まりそうになる。
でも俺にはお似合いだろう。
雨も晴れも、俺にとっては居心地悪い。
「見えた。あれが目標の廃ビルだ」
シルビアがそう言って指し示すのは、かつてオフィスビルとして使われていたであろう鉄筋コンクリートの塊。
今となってはサラリーマンも商社マンも近寄らず、代わりに
「全員インカムの調子はどうだ。問題があればすぐに言え」
耳につけたインカムから”ザザ”という音がしてから
『A班の皆。目標地点に着いた?』
どこか気の抜けそうな声が俺たちの耳に届く。もちろんCEOの声だ。
「こちらA班の隊長を務めるシルビア。CEO、こちらは既に目標地点に到着した。次の指示はなんだ?」
腐っても上司に対してするような言葉使いとは言えないものだろうが、CEOは全く気にせず、
『B班の皆も位置に着いたから、スレージュ。初撃をお願いしたいんだけど、強すぎ弱すぎない一発。お願いできるかな』
「うん! 任せてCEO!」
元気よくそう返すのは両の二の腕あたりと両足の太ももに光輪が浮かんでいるピンク髪の少女。名前はスレージュ。
『スレージュの攻撃後シルビアが突入。敵の注意を惹きつけたらエストックがかく乱。シルビアの手助けをして』
「うん。分かった」
口数少なめにそう言うのは、中華や日本神話に出てくるような龍の角が頭についてる小柄な少女。彼女がエストックだ。
『Nは全体の援護をおねがい。特に火力の中心のスレージュに敵を近づけさせないようにして。あと、余裕があったらシルビア、エストックの方にも支援してあげて』
「了解」
最後に言われたのは自分。名前はN.U。
ある程度近接戦闘をこなせる俺なら遊撃としての役割でも問題ない。
問題らしい問題は見当たらない。いつも通りともいえる意外性のない役回り。
『Nたちが攻撃を始めたら裏手側に潜んでいる私たちB班も突入するから、通信は途絶えさせないで。私もドローンやカメラからそっちの状況は見えるから、適宜指揮を執るよ』
「了解したCEO。それでは全員、作戦行動を開始する!」
シルビアが作戦の開始を宣言。間髪入れず『スレージュ。やっちゃって!』というCEOの声が聞こえる。
「オーケー決めちゃうよ!」
そう言い放ち両の腕を天に掲げて、手と手の間に位置する空間に光が出現。野球ボール程の大きさはすぐにサッカーボール程まで大きくなる。
彼女の体に付いている
「吹き、飛べ!」
光の球がビームの如く飛んでいき、廃ビルの出入り口で見張り役をしていたであろう数人を吹き飛ばす。
あれは、……死んでないな。
「行くぞ!」
そう言ってシルビアが飛び出し、間を置くようにエストックが追従する。
「私たちも」
そう言って俺たち二人も後を追う。後方支援型の彼女も前衛から離れすぎるのはいい行動とは言えないから。
アリの巣でも突っついたかのように湧いて出てくる
俺たちの仕事は派手に暴れて注意を惹くことだが、それはそれとして全滅させてしまっても問題はないだろう。あんなヤツら、生かしておいても仕方ないのだし。
手に持つ大楯と大剣で敵を無力化していくシルビア。忍者みたいな身のこなしで敵を翻弄し、時折幻覚を使って同士討ちを誘発させるエストック。
シルビア以上の攻撃力を誇るスレージュに、近中距離と魔法攻撃の支援を行う俺。
はっきり言って余裕すぎた。数はいても雑兵の集まりでしかなかったらしい。
結局、CEOの指示が飛ぶほどの事態にはならず、俺たちは一階を無傷で制圧した。
――――――――――
一階部分の敵をあらかた無力化した俺たち4人は、古ぼけた階段前に陣取っていた。
CEO達B班は既に二階以上に侵入しているらしく、残っていたであろう数人を一瞬で制圧しながら生物兵器。確かデビルレッドだったか? を確保したらしい。
でも量がかなり多いらしく、すべてを持って移動するのに時間がかかるらしい。
てっきりアタッシュケース一つあれば十分な量だと思っていたので、まさか運搬用の車両を新しく要請しなければならないほどだとは思わなかった。
「結局、今回も楽勝だったね~」
「あまりそう言うな。任務中だぞ」
気の抜けてしまったのか、油断しているとしか思えない発言をするスレージュと真面目な面が見えるシルビア。
スレージュを擁護するわけではないが、確かに最近彼女は簡単な任務ばかりこなしているとは聞く。
まあ、仕事はCEOが割り振っているので彼女に落ち度があるわけではない。単なる適性の問題だろう。
「……」
「N、」
「……はい。なんですか?」
反応が遅れてしまったが、何とか返す。俺に声をかけたのはエストックだ。
「大丈夫? 今日ずっと何か変」
心配をのぞかせる声でそう言ってくる。
誤解しそうになるが彼女の心根は優しい。表情は薄いし声を控えめだが、仲間のことをおもんばかって大事にしている。
──俺とは違って。
「そうですか? 特に変わった所はないですが」
「……」
疑念のこもった瞳で俺を見てくるエストック。
おかしなところなんてなかったはず。確かにいつも使っている
むしろ使い慣れていないとはいえ、
「そう、あなたがそう言うなら……納得する」
なんだ? 俺に何か言いたい事でもあるのか?
「……」
気になりはするが、俺が質問することはなかった。彼女が言わないのなら別に聞く必要はないだろう。
今の会話をシルビア、スレージュは聞いていない。エストックの声が小さいこともあるが二人で談笑(言い争い?)をしているのが原因だろう。
壁に寄りかかり、時間が過ぎるのを待つ。
こうしていると、いつも通学で乗っていた電車のことが頭をよぎる。もう、高校にもJRにも縁はないが。
そうしてしばらくが経ち、ギギという音が階段前にいた俺たちのところに響いてきた。
全員が一斉に臨戦態勢を取る。一見すると中学生から大学生に見える彼女たちも、戦闘に関してはプロだ。
ハンドサインでシルビアが言う。”私が様子を見る”と。
全員が頷き、シルビアが一歩踏み出そうとしたときに、俺は…………………
それを無視して攻撃した。
「「「!?」」」
全員が驚いているが、俺は一切に気にも留めなかった。
先程音が聞こえてきたのは俺たちがいる通路から右手に曲がった方だ。距離もそんな離れてない。
短杖型デバイスを使って俺は電気を発生させ、地面を這う蛇のように魔法を放ったのだ。
相手が空中を飛んででもいない限り、地面を這う電気は直撃して相手の体をしびれさせる。
電気系統の魔法は本人の資質にも依るが、比較的操縦性は優秀で今みたいに地面を這わせたり、何もない空気中で突如90度進路を変更したりもできるのだ。ホーミングは無理だが、一回二回くらいの動きならかなりの無茶が効く。速度も優秀で、俺はよく愛用している。
「N!?」
そうシルビアが呼びかけるが、聞いてないふり。
放った二発目は地面を這わせるのではなく、立っていれば腰の位置に当たるように放ったものだ。
バチッではなく、ズババ! といった音が聞こえてきた。二発目が命中したらしい。
俺はダッ! と駆け出した。
タンクであるシルビアを抜き去って。
「「N!」」
慌てて止めようとしたのだろう二人の手は俺に届かない。俺に力はないが身軽さはそこそこある。
……うおっ! あぶね、エストックは普通に届きそうだった。かく乱役をこなせるくらいには動けるのだから当然か。
曲がり角を曲がり、見えたのは鎧みたいな見た目をしている
電気を受けた影響か体勢を崩している。
手の中にある短杖を相手に向け魔法を発射。撃った魔法は風。かまいたちのように皮膚を切り裂くだろう風の刃。
しかし、屑鉄くらいなら切り裂く風も鎧を破壊することは出来なかった。
「ぐあっ! なんだ!?」
今更声を上げて驚く男。
男の近くの地面を見ると、地下収納の扉みたいに廊下の一部が開いていた。
どうやらこの男は地下から出てきたらしい。
風は効果がなかったので、次は火を使うことにした俺は、男に向かってダッシュする。
「うえっ!」
こちらを確認してそう声をこぼす男。でも足を止めずに近付いて、短杖を眼前に突きつけ
「燃えろ」
魔法を発射。ズドンという重い音が響き、熱風が俺の体に照り付けてくる。
そして俺は、
「びっくりしたぜ~」
余裕そうな声が響いてくる。
「いきなり顔焼こうとするとか。トンでもねえ奴だなおい」
煙が晴れる。姿が見えた。どうやら咄嗟に顔を腕で覆って守ったらしい。
「でも残念だったな~。俺が着てる鎧は特別製なんだよ」
煤はついてるし、少しだけ赤くなっているようにも見えるが怪我を負わせられたわけじゃない。
「なんでか知りたいか!? なんてったってこの鎧は遺文明のオーパーツを解析して作られた最強の鎧なんだからなっ!」
ふ~ん。
それで?
「N! 大丈夫か!?」
シルビアたちが追いついてくる。大した距離を稼いでいないから当然か。
「お!? お仲間さんか! いいぜいいぜこの鎧を着ている俺は無敵なんだってこと思い知らせてやるよ。かかってきな!」
「そうですか、では遠慮なく」
俺は一も二もなく飛び込んだ。仲間との連携を一切考えない愚かな行動を取ったのだ。
「おい! N!!」
シルビアが叫ぶが気にする必要はないだろう。さっと敵を黙らせればいいだけだ。
火の発生を4秒後に、電気の発生を3秒後に設定。相手の懐に飛び込んだ。
「って、早!?」
相手が驚くがこれも無視。
一瞬で接近したら体勢を思い切り下げ、相手の右足に足払いをかけて体勢を崩させる。
「うおっ!」
と声を上げる男。
俺は地面についていた右手をバネの様に使って跳躍。
男の首に片足を巻き付ける。
本来ならこのまま両足を首を巻き付け、後ろに引っ張るように倒れ込み、自重を使って相手の首を折るのだが、今の目的はそうじゃないので片足だけ巻き付けるのでいい。
俺が狙うは首元。いや、もっというなら首と鎧の間にある隙間。
俺の細い腕がぎりぎり入らないであろう隙間めがけて、俺は短杖をねじ込んだ。
3秒たった。男の体を電気が奔る。
鎧の守りがなければ肌どころか神経系は簡単に焼き切れるだろう電撃が。
4秒たった。男の着ている鎧が膨らんだ。
熱膨張を起こしたのだろうが、すぐにサイズは元に戻る。
空気の通り道がある箇所から逃げるとはいえ、どうやらあの鎧はかなり優秀なようだ。
ボゥ! と火だるまになった男の身体が力なく倒れる。
分かってはいたことだが、蒸し焼きの逆バージョンみたいなことをして生きていられるような耐久力は持ち合わせていなかったらしい。
ガシャン! と音が聞こえたと思ったら。鎧から何かのパーツが飛び出てきた。
「?」
気になって近付く俺。
もちろん触るようなことはしない。触るとしても冷めるのを待つか冷却を施した後だろう。
観察してみると、それは石のように見える物体だった。何か文字のようなものが掘り込まれているが、判別は出来ない。
察するに、この石のようなものが俺の魔法を防いだ原因なのだろう。
もしかしなくとも持ち帰らないといけないやつだな、これ。
まあいいか。シルビアかCEOに持たせれば。うん。
さ~て、スッキリ……はあんまりしなかったけど、鬱憤は晴れた。ほー。
「……N」
ん? どしたんシルビア?
俺はかけられた声に振り返る。シルビアの表情は前髪がかかってよく見えない。
でも何か不穏な気配がする。どうしたんだろう?
「何か言うことはあるか?」
「──特に何も」
「……そうか」
なんだよ。言いたいことがあんならはよ言えや。
シルビアが一歩近づいてくる。
そのまま俺のすぐ近くまで近づき胸倉をつかまれた。
その段階になってやっと顔が見えた。犬耳はピンと伸び、表情は歪んでいて、まるで怒っているかのようにも見える。
いや、みたいではなく怒っているのか。
シルビアが胸倉をつかんでいない方の腕を振りかぶった。殴られるのか。
「ちょ、待って」「……N」
咄嗟に止めようとしたのか。制止の声を呼びかけるスレージュと、どうするのが良いのか分からずに呆然とした様子で俺の名を呼ぶエストック。
殴られるのは別にいい。はっきり言ってもう慣れてることだから。
でも前衛をこなすシルビアの筋力だとかなり効くか。うまいこと首を振って衝撃を殺せるか。いや露骨にやりすぎると次は腹を狙われるか。
やっぱりギリギリバレないくらいに抑える必要がある。面倒だな。
しかし、予想に反していつまで経っても衝撃は来ない。
? とシルビアの顔を見てみると、まるで苦しいことを我慢するかのような、苦悶の表情というやつに近いものを浮かべていた。
暫くその顔を見ていると、胸倉をつかんでいた手を離した。
「──N。もう、こんなことはするな」
苦しそうな顔でそういうシルビアは「頼む」と、まるで懇願するかのように声をかけてくる。
俺はそれを見て、………………びっくりするほど何も思わなかった。
俺の顔を見てシルビアは何を思ったのかは分からないが、何かを諦めたように見えたのは気のせいだろうか?
ふと、残りの二人。スレージュとエストックを見やる。
スレージュはどことなく悲しそうに表情をゆがませている。なぜだろう?
エストックは何かを考えているような、そんな顔。でも楽しそうではない。なぜか苦しそうに見えた。
──────だからなんだ。
恐れるのではなく、吹っ切れて関係を深めてしまえば一周回って何とかなりはした。しかし、それをするには未練がありすぎた。