FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
別れ/決意 - I
「なん、で…なんで…あんたが……!」
彼女は、呼びかける。
彼女の視線の先には、果てのない、闇。
その一点、彼女がじっと見る先には、一人の、影。
「……」
影は、答えない。
けれど、歩みは止める。
「ここで消えるべきは、私なの!アンタじゃない!!」
必死に声を上げ、訴える女性。
その声は、果たして届いているのか。
「…」
届いている、という事を伝えるかのように、背を向けたまま、僅かに顔を動かし、彼は視線を向ける。
髪のせいか、闇のせいか、表情は全く窺えない。
「……令呪を以て命ず」
「っ!」
男の片手が魔力を帯びて光りだす。
声を上げていた女性は一瞬狼狽える。
――令呪。
サーヴァントを使役するマスターが使用できる力。
使役する相手に対する絶対的な強制力。
それに逆らう術は、サーヴァントにはない。
――彼のサーヴァントである、彼女には。
「カルデアに帰還し、藤丸立香をマスターとして人理修復に尽力せよ」
「いや…やめなさい……!」
一つ。
彼女の足元に、光が発する。
送還の光。
――すなわち、別れの光。
「…俺とのサーヴァント契約を解除せよ」
「っ…やめて…私、は……!」
一つ。
彼の強制執行は続く。
一つずつ、喪われていく。
「……俺に関する一切の記憶を抹消せよ」
一つ。
令呪は、繋がりだけでなく、記憶までも。
彼女の中から、奪っていく。
「こんな…の……!」
少しずつ、喪っていく。
奪われて、いく。
――他でもない、彼に。
「…私は、諦めない。どれだけ突き放されようと…必ず、取り戻すわ」
令呪の強制に逆らえない彼女は、彼女を形作る憎悪に乗せるように、決意するように。
「契約を解除しようと…たとえ私から記憶を奪おうと。貴方は決して放さないわ…マスターちゃん」
「…」
送還の光の中で、闇の中の彼の姿を目に焼き付けんとばかりに睨みつけるように。
「この、竜の魔女たる私と契約して、私と共に在り続けた貴方には、こんな別れ方はできないと思いなさい……私と共に、地獄の業火で焼かれるまでは、決して…!」
闇の中、彼の目に映る彼女…ジャンヌ・オルタの表情は、まるで初めて出会った頃の彼女のような不敵な笑みで。
――光に包まれ、彼女は還る。
「……すまない」
独り、闇の中、呟く。
その呟きを届けたい相手は、もう、いないのだが。
「……」
彼にとって、ずっと共に在ったサーヴァント。
ずっと彼を支え、共に在る中で、育まれた絆の強さは言うまでもない。
ともすれば、その絆は、マスターとサーヴァントという関係を超えるものですらあったのかもしれない。
尤も、彼女…ジャンヌ・オルタはどう思っていたのかは、知る由もない。
たとえ、聞いたところで、素直でない彼女は否定するだろう。
「っ…」
そう思うと、自然に笑みが零れる。
「…ジャンヌの力は、この先必ず必要になる。ここで失うわけにはいかない」
それこそが、彼を突き動かす。
それは、人理を修復するという任を負った、マスターとしての決断。
そして。
「愛する者を守りたかった、といえば…聞こえはいいか」
これは、ジャンヌ・オルタという一人の女性を愛した、男として。
目の前で消えるのをただ見ていることなど、出来なかった。
「…後は、頼んだ」
誰に届くでもない、彼女への依頼。
それが届いたかどうか。
届いた可能性は限りなく低いが、それでも。
――そう、呟かずには、いられなかった。
奏章IIが美しくも悲しい物語だったので、結末を変えたくて書き殴り。
物語は、ハッピーエンドがいいからね。