FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
マスターに従い、炎が燃え盛る街を進む。
途中、何度も敵に遭遇した。
しかし。
「…ふん」
あまりに矮小。
あまりに弱小。
いくら全力が出せない状態とはいえ、この程度で私の前に立つなど、片腹痛い。
「…マスター」
「?…どうした」
「いえ…何でもありません」
訝しげに見られる。
けれど本当に何もないのだから仕方がない。
ただ、彼をまたマスターと呼び、共にいられることが単純に嬉しい、と。
そう、感じられる。
「…」
彼は、私の知るマスターなのか。
それに関しては、そうだと、私には言える。
その理由にはいくつかあるのだが、ほとんどが感覚的なもので誰に言っても理解はきっとされない。
だから、この理由は、私だけが知っていればいい。
だけど、明確な理由が一つ。
私が、彼の召喚に応じたこと。
それがある意味では理由なのだ。
―私は所詮、贋作。
―救国の聖女、ジャンヌ・ダルクの紛い物。
それは私自身が一番よく分かっている。
そんな英霊と契約したい物好きなどいるだろうか。
少なくとも私はいないと、そう思っていた。
…彼以外は。
彼との出会いは特異点フランス。
敵として出会い、私は討たれ、消滅した。
私はその時、自分に立ちはだかってくる彼を、全力で燃やし尽くそうとすらした。
けれど私は勝てず、討たれたのだ。
志半ばであった私を討った彼を、恨んだ。
恨んだ、はずだったのに。
「……」
少しの間を置いて、私は彼に召喚された。
サーヴァントとして。
そこからは、色々なことがあった。
本当に、色々なことが。
それら全てを挙げていけば、一晩では終わらないだろう。
…その中で、私は。
…不覚にも、彼に惹かれてしまった。
色々なことがある中で。
ほとんどが、私をジャンヌ・ダルクと比べてきた。
少なくとも、引き合いには出してきた。
誰も、
…名前の事もあるし、生まれの経緯もある。
仕方のない事だと、思っていた。
仕方のない事だと、諦めていた。
だけど、マスターは。
マスターだけは。
私をそんな色眼鏡で見ることなく、接してくれた。
私を
「クク…」
我ながら、なんとちょろい。
たったそれだけ、と笑うかもしれない。
自分でも笑えてくる。
けれど、それでも復讐の念に捕らわれた、私の冷え切った心に少しだけ温かさを感じた。
その時に、悟ったのだ。
これが、幸せというものなのだろうか、と。
そんな事を悟ってしまったが故に、私は、止められなかった。
自分の心が、少しずつとはいえ、マスターに惹かれていくのを止めることができなかった。
そして、マスターはそれを否定することなく。
私という女の想いを、受け止めてくれた。
その事に、私は、これ以上ない、温かさを感じた。
…そんな感情なんて知らなかった私は、ただ翻弄された。
そのせいで、マスターに思いもしないことを言ってしまったかもしれない。
醜い感情をぶつけたりもしてしまったかもしれない。
いや、多分している。
マスターは否定するだろうが、何となくしている確信がある。
だけど、それでもマスターはずっと、傍にいてくれた。
私はそれが、嬉しかったのだ。
…だから。
…私は、ただ。
…マスターが前に進んでいくためであれば、消えても、よかったのに。
あの時、マスターは私を前に進ませるために、自らを犠牲にした。
それを、止めることができなかった。
前に進むべき人に、あれだけのものを与えてもらっておきながら、私は、何も返せなかった。
マスターのために全てを捧げると決めたはずなのに、何も、出来なかった。
その事実が、私の心に突き刺さる。
失うことが、こんなにも辛いなんて知らなかった。
彼と出会う前に、戻っただけのはずなのに。
私の心はもう、引き返せないところまで来てしまっていたのだ。
「…もう、間違えはしないから」
奇跡だろうがなんだろうが、どうでもいい。
こうして、もう一度彼と出会うことができた。
もう、迷わない。
彼は、絶対に守り通す。
何かを守る、という意味では、あの自称姉には及ばないかもしれない。
けれど、そんな事はどうでもいい。
私は、私のやり方で。
「マスター」
「…」
「貴方は、前に進むことを躊躇う必要はありません。障害を打ち払う炎は、ここにあるのですから」
「あぁ…頼りにさせてもらうぞ、ジャンヌ」
私の言葉に、マスターはそんな風に返してくれる。
傍から見れば、ただの主従関係。
けれど、そんな会話ですら、私の心を満たす。
「…ジャンヌ」
「何か?」
「一応はマスターだからな。何か俺にできることがあれば言ってもらえるか」
その言葉に、私は彼を見返す。
これ以上ないものを与えてくれた貴方にこれ以上、何を求めろというのか。
傍にいて、ただ私に語り掛けてくれるだけで。
ただ、私の名前を呼んでくれるだけで。
それだけで、十分だというのに。
けれど、そんな事を言えるほど素直でない私は。
「…何もありません。貴方は私のマスターとして、私の傍にいてくれればよいのです」
嘘ではない形で、そんな風に言うことしかできないけれど。
いつか。
私が素直になることができたら、きっと。
必ず、言うから、待っていてほしいと、願う。
―ただ一言。
―ありがとう、と。