FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
――ノウム・カルデア。
施設のとある一室。
「……」
ベッドの上で、眠り続ける、一人の男性。
その傍ら、彼の手を握りながら目を閉じる、一人の女性。
闇の中から戻らず、眠り続けるマスターと。
彼が最も信頼を寄せていたであろうサーヴァント、ジャンヌ・オルタ。
「…」
眠り続けるマスターの方は、バイタルチェックを行う装置に繋がれており、彼の心拍を表す機械音が鳴り続けている。
そんな彼の手を握り続けるジャンヌは、そんな彼の手を両手で握りながら、ただ眼を閉じている。
ただ、眠り続けているかのように。
今、二人がいるのは、医務室ではない。
マスターの自室であり、そこに機械を繋いでマスターたる彼は眠り続けている。
事情の報告を受け、目を覚ます可能性が低いことが明らかであると判断され。
医務室を必要とする者をより多く受け入れるため、自室での経過観察の判断が下され、自室に移動していた。
本来であれば、バイタルチェックの装置を持ち込む予定もなかった。
しかし。
――彼は死んだわけじゃない。私がなんとかするから、それまでは…!
と、懇願する彼女に押され、この待遇となっていた。
眠り続けるマスターは、とあるミスを犯していた。
――カルデアに帰還し、藤丸立香をマスターとして人理修復に尽力せよ
――サーヴァント契約を解除せよ
――マスターに関する一切の記憶を抹消せよ
それが、彼の令呪による強制執行。
令呪による強制は、あくまで使役するサーヴァントに対するもの。
すなわち、サーヴァント契約を解除した時点で、強制力は失われ。
――詰めが甘いわよ。マスターちゃん?
彼女の記憶は、抹消されなかった。
すなわち、彼女の想いも、抹消されることはなかった。
少しの時を置いて。
「…どうしました、マスター?出撃ですか?」
部屋の扉が開き、サイドテールの女性…藤丸立香が入室する。
それに振り返ることもなく、ジャンヌ・オルタは返す。
「あ、ううん…そういうわけじゃないけど」
「なら出て行ってもらえますか」
ジャンヌ・オルタは、サーヴァントの中ではそれほど友好的な性格ではない。
普段の素直でない性格も相まって、心を開いた相手とそうでない相手との落差が激しいともいえる。
「少し、話…出来ないかなって」
「話すことはありません」
立香の歩み寄りを遮り、優しく握った彼の手はそのままに、ジャンヌは立香を見やる。
「彼との約束ですから、人理修復には協力します。ですが…それ以上の親交を深めるつもりはありません。その労力は、ほかのサーヴァントに費やしなさいな」
「…う、ん」
はっきりと拒絶され、さすがの立香もそれ以上は食い下がれない。
眠り続ける彼と、立香の二人はマスターとして、サーヴァントとの絆を長い間深めながらここまで来た。
そんな中、違うのは、二人のサーヴァント…否、仲間というものの考え方。
立香は数多のサーヴァントと契約し、絆を結び、まさに仲間達と共に苦境を乗り越えてきた。
一方で、眠り続ける彼は、契約しているサーヴァントはかなり少ない。
ジャンヌ・オルタは彼と契約していたサーヴァントの一基であるが、それでも数は少なく、常に多勢に無勢を強いられながら彼らは戦っていた。
だからこそ、彼と、彼の契約していたサーヴァントの間の絆は一層強いものであった。
立香にとって、心を砕くべきサーヴァントは沢山いる。
ジャンヌ・オルタはそういった者たちを優先しろと言っている。
それは彼女にも分かっている。
とはいえ、今の彼女にとってはジャンヌも大切な仲間だからこそ、絆を深めたいと考えていたのだが。
「…これだけ、聞いてもいいかな」
「……」
立香の確認に、ジャンヌは何も返さない。
立香はそれを自らの問いに対する肯定と解釈し、言葉を続ける。
「彼のことは…どう、思ってるの?」
立香の問いに、ジャンヌは目を伏せる。
「……」
思考を巡らせているのか、これまでの歩みを振り返っているのか。
少しの間を置いて。
「…私は彼のサーヴァントであり、彼の進む道を切り拓き、障害を焼き尽くす炎。それ以上でも、それ以下でもありません」
そう返す彼女の眼には何が映っているのか。
少しだけ寂しさを感じさせるその表情からは、何も見えないが。
「ですが、もし復讐者たる私に許しがあるのなら……この命燃え尽きるまで。いえ…たとえ燃え尽きようとも、彼と共に在りたいとは思います」
まぁ、そんな許しはないでしょうけど。
そう続け、彼女は嘲笑する。
その嘲笑は自らに向けて。
「……愛してるの?彼を」
立香は、そう、問いかける。
その問いにジャンヌは一度息を整える。
「…えぇ、愛しています。彼の為に人理に仇なす覚悟を持てるくらいには」
だから、人理とやらが彼を奪うというなら、私は人理を焼却するでしょうね。
その言葉がどこまで本気かは、ジャンヌ本人にしか分からない。
「ふふ……冗談、冗談ですよ」
「もしそうなったら…私は、貴女を」
「殺しなさいな。マスターたちが守ろうとしている、人理とやらのために、私を。出来るものなら、ね」
「っ…!」
ジャンヌが不敵な笑みを向けると、立香はそれ以上返さず、部屋を後にする。
彼女は自分を討ちに来るだろうか。
仮にそうであったとしても、構わない。
――それで、彼のもとに『逝ける』のなら、それでも。
ジャンヌは握っていた彼の手を離し、布団の中に入れる。
その瞬間。
――彼の命の鼓動を伝えていた電子音は、鼓動をなくしたことを示す連続的な音に変化した。
「…おやすみなさい、また明日」
言いながら、ジャンヌは彼が眠るベッドに入り、彼の身体を抱くようにして眠りにつく。
…サーヴァントは夢を見ない。
けれどもし、一度だけでも夢を見ることができるのなら。
彼と共に過ごす夢を見たい、と。
――そう、彼女は願った。
ジャンヌ・オルタはFGOのメインヒロインだと思う。
異論は認める。