FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
その後、皆で出発する。
サーヴァントの戦いぶりは流石というべきか、安定したもので。
「…いっちょあがりっと」
キャスターが杖を肩に乗せながら言う。
彼の言う通り、辺りに敵は見当たらない。
マシュとジャンヌの二人も敵の気配を感じなくなったからか、構えを解く。
休憩を通して、疲れが取れたのか。
「お疲れ様、マシュ!」
「マスター、ありがとうございます」
あるいは別の理由か。
藤丸とマシュは少しばかり打ち解けているように見える。
変わったのは、彼女らだけではなく。
「こっちも終わったわ」
「あぁ。異常はないか?」
「ん」
構えを解き、こちらに戻るジャンヌ。
休憩を挟んでから、ジャンヌとの距離感が大分変わった気がする。
文字通り、目と鼻の先といえる距離感になっている。
ジャンヌの上目遣いを受け、頭を撫でる。
女性の髪に触れるのは、結構気を遣うものだが、こうしないと微妙に機嫌が悪くなるので、髪を乱さない程度に軽く撫でるようにしている。
「マスターちゃん、怪我は」
「ないな」
「ならいいのよ」
それともう一つ変わったのは、呼び方である。
さっきの話をしてから、マスターちゃんという呼び方をされるようになった。
これに関しては、俺が構わないとした合意の上である。
何にしても。
「全く、ここが特異点だと分かって…」
所長が頭を抱えるのも分からないでもない。
言い方を選ばずに言えば、いちゃついているだけのようなものだ。
少し気を引き締めならなければならないのは事実なのだが。
「やるべきことはやっているつもりですが、何か?」
ジャンヌがやや鋭い視線を向ける。
実際、サーヴァントとして敵性の排除には十分に力を振るってもらっており、その点においては不都合は生じていない。
だからこそ、所長も強くは言えないのだった。
とはいえ。
「っ…何でもありません!」
ジャンヌの問いに、ふんっ、と踵を返して歩いて行ってしまう。
「やれやれだな」
「…キャスター」
くっくっ、と笑いながら話しかけてくるキャスター。
そちらに視線を向けると、面白そうに笑いながら視線は所長の方へ。
「ま、許してやってくれや。いくら仕事とはいえ、目の前でいちゃつかれたらああもならぁ」
「…よく分からないが、そういうものか」
「そういうもんだ。可愛いもんだろ、あれ」
そういうものだろうか。
あまりよくは分からないが。
「っ…!」
キャスターと会話をしていると、反対から軽く引っ張られる。
誰の仕業かはまぁ、考えずとも。
「ジャンヌ」
引っ張られ、腕を抱きしめるようにされる。
呼びかけても離してもらえないし、ジャンヌを見ればキャスターを睨んでいる。
その様子は、さながらお気に入りを取られたくない子供のようで。
「…っと、別に取らねぇから安心してくれや、お嬢ちゃん」
「マスターちゃん」
同じことを思ったのか、キャスターが揶揄うように言う。
するとジャンヌは睨む視線をキャスターに向けたまま。
「あれ、燃やしちゃっていいかしら」
「…ジャンヌが言うと冗談にならんから止めといてもらえるか」
これまでの戦いぶりで、おそらくジャンヌにはそれが出来てしまうことを考えると、笑うに笑えない。
落ち着かせようと、ジャンヌの頭を撫でれば。
「ん…分かったわよ」
「…ならいい」
とりあえずジャンヌの殺意を削ぐことはできたようだ。
尤も、本気ではなかったのかもしれないが、真相はジャンヌの心の内である。
「っ!」
「…っと、おしゃべりはここまでか」
すると、ジャンヌは俺から離れ、キャスターも杖を構える。
二人の視線の先は一致しており、そこには。
「アーチャー…!」
所長が呟くように言う。
それを見て。
「あんたたちは先に行け。この洞窟の先に、セイバーはいる」
キャスターが杖を構え、前に出ながら言う。
その立ち姿に。
「…いいんだな?」
「おう、任せろ」
一言ずつ言葉を交わす。
その言葉を聞いて。
「…ジャンヌ」
「はい」
「所長を護衛しつつ、藤丸たちと合流の上で洞窟の奥、セイバーの居場所を目指す…頼めるか」
「当然」
所長も異存はないのか、頷く。
とはいえ、藤丸とそこまで距離が離れていたわけでもないので。
「みんな!」
藤丸、マシュともすぐに合流する。
どうやら、合流の手間はないようだ。
「あれは…!」
マシュがアーチャーの姿をとらえたか、盾を構える。
「ここはキャスターが引き受ける。俺たちは深部に向かい、セイバーを討つ」
「でも、キャスターが…!」
俺の言葉に藤丸が反論する。
性格的に、心配で動けないといったところだろうか。
そこまで長い付き合いでもないので確証こそないが、そんな風に見える。
とはいえ、ここで言い争っている余裕もない。
「っ藤丸!決断が遅い!」
そんな藤丸に所長が一喝。
「ここで私達が遅れて、アーチャーに殺されでもしたら、キャスターがやろうとしていることが意味を失うっていうことが分からないの!?」
「っでも、マシュがいれば…!」
藤丸はキャスターと仮契約をしたらしい。
自らが契約した手前、気になるのかもしれないが。
「ならここで残ってキャスターと共にアーチャーを相手取るのか」
「でも、そしたらセイバーは…」
俺が言えば、藤丸は更に反論してくる。
キャスターは気になる。
一方で、セイバーの方も早く対処しなければならない。
その板挟みといったところなのだろう。
気持ちはわからないでもないが、両方に対処している余裕があるわけでもない。
どちらかを、選ばなければならないわけなのだが。
「っあぁもう、面倒くさい!」
一番に痺れを切らしたのはジャンヌで。
苛立った感情を隠そうともせず藤丸に近づき、襟元を捩じり上げるように掴みかかり。
「あんたは結局どうしたいのよ!?選びなさい、キャスターと共に戦うのか、セイバーの下に行くのか!」
「ぅ…わ、私は…」
問い詰めるジャンヌから視線を逸らす藤丸。
それがジャンヌの神経を更に逆撫でしたのか、藤丸を突き放すように解放する。
結果として藤丸はその場に尻餅をついてしまう。
「先輩!」
マシュが藤丸に駆け寄り、彼女を抱き起すようにして立ち上がる。
ジャンヌは二人から視線を逸らし、こちらを見て。
「マスターちゃん。私達は進みましょう」
「…あぁ」
ジャンヌの言葉に同意しながら、藤丸とマシュを見る。
マシュは藤丸を気遣うように支えているが、一方の藤丸は俯いてしまっていて、表情は窺えない。
「…そいつらは無理だわ。いざというときに自分がすべき事を決断できないようでは、戦うどころか邪魔にしかならない。精々好きにして、好きに野垂れ死ねばいいわ」
「っそんな言い方!」
「マシュ!……いいの、私が、悪いから」
「ですが…っ!」
ジャンヌの物言いにマシュが反論するが、藤丸は止める。
マシュは納得いかないようだったが、自らのマスターに止められ、それ以上は言えなくなっていた。
「…ジャンヌ、さん」
「何」
「私はキャスターも助けたいし、セイバーを倒してこの特異点を終わらせたいって思ってる。これって…ワガママ、かな」
藤丸がジャンヌに問いかける。
藤丸の意思は、お人好しと呼ばれる人種ならそう考えるだろう、という思想だ。
しかし。
「えぇ、我儘ですね。自らにそれを成すだけの力もないくせに、気持ちだけでそれを成そうとする。頑張れば何とかなるというその甘い思想…私からすれば反吐が出ます」
「っ…」
「…それに、それはあのキャスターすら信用していないということになることすら、分からないのですか?」
ジャンヌの言葉に、藤丸は顔を上げ反論する。
「…っそんなことない!キャスターのことは…!」
「信用していると?ならば何故彼がアーチャーを倒すことが出来ると思わないのですか?」
「っ!」
「あんたは、自分がいなければ、あるいはマシュがいなければキャスターはアーチャーに負けると思っている。だから、助けたい、なんて自分本位な願いが出るのでしょう」
ジャンヌの言葉の棘が、一つ一つ藤丸に突き刺さる。
ジャンヌは構わず、藤丸を鼻で笑いながら。
「あんたのようなタイプが、戦場では簡単に命を落とす。よかったではないですか、死ぬ前に気付けて」
「っ…」
藤丸の事は気にも留めず、ジャンヌは歩き出す。
「いやいや、おっかねぇなあの嬢ちゃん」
おどけるように言うキャスターに対し。
「キャスター」
「…あ?なんだいマスター」
藤丸は問いかける。
きつい物言いで涙を流したのか、僅かに目は赤かったが。
「ここ、任せてもいいかな」
「あ?…あぁ、任せな。俺は負けねぇよ」
「うん…信じる。だから、よろしくね」
キャスターに対し、そう話しかける藤丸の表情は。
「…少しはマスターらしい顔になったな」
「ありがと」
どこか吹っ切れた感じで、藤丸とキャスターは笑顔で。
「さぁ、行け。今のお前を、嬢ちゃんに見せてやんな」
「っうん!行こう、マシュ!」
「はい!」
キャスターに背中を押され、藤丸とマシュは走り出す。
…この地での最終決戦の時は、近い。
キャスター「なんだ、待っててくれたのか。律儀だねぇ」
アーチャー「あの状況では入れないだろ…」
キャスター「違いねぇ」