FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
一息つく間もなく。
「…?」
何かを叩く音。
叩くというよりは、拍手、だろうか。
「……いやいや、まさか君達がここまでやるとは」
聞こえてきた声の方を見やる。
崖の上に人影が見える。
見覚えがないが、どうやら俺とジャンヌ以外は見覚えがあるようで、俺も姿こそ知らないが、声は聴いた。
「…レフ!」
特に所長は、ようやく頼れる人を見つけたといわんばかりに、嬉しそうに人影の名を呼ぶ。
確か、レフというのは、ドクターが言っていたか。
レフ・ライノール。
詳しい素性こそ知らないが、魔術師だということは知っている。
「全くの想定外にして、私の寛容さの許容範囲を超えている…」
「……」
妙な違和感を感じる。
ドクターからの話では味方だと考えていたし、所長の反応からしてもほぼ間違いないだろうが…
「…ジャンヌ」
「えぇ…承知しています」
警戒を崩さないでほしい。
ジャンヌに目配せをすると、ジャンヌは頷き、剣こそ抜かないがいつでも動けるよう待機をする。
「レフ、よかった!生きていたのね!」
「やぁオルガ。君も大変だったようだね」
「えぇ、そうなの!だけど…貴方がいれば、大丈夫よね、レフ!」
所長は駆け寄る。
『レフって…レフ教授がそこにいるのか!?』
通信が繋がっていたのか、ドクターから繋いだのか。
ドクターの驚いたような声。
「…全く、予想外のことばかりで本当に…頭にくる」
崖の上のレフは忌々しさを隠そうともせずに呟くように、けれどはっきりと言う。
「ロマニ。君にはすぐに管制室に来てほしいといったのに…そして、君もだよオルガ」
「…え?」
「爆弾は君の足元に設置したのに、まさか生きているなんてね…」
話しぶりから、おそらく、ドクターと所長をまとめて爆発に巻き込むつもりだったのだろう。
内部犯という推測は、正しかったということは分かった。
とはいえ、ドクターはサボり癖が幸いして爆発に巻き込まれずに済んだ。
俺も同行していたから間違いない。
しかし、所長は。
「…いや、違うな。君はもう
「え…!?」
「君は生前、レイシフト適正はなかっただろ?」
肉体があったままでは転移ができない。
「…枷となっていた肉体を失うことで、適性を手に入れた…ということか」
「その通りだ。なかなか賢しいな…49人目のマスター候補者よ」
「あまり嬉しくはない賛辞だが…それはまぁいい。だがもし所長がカルデアに戻った場合どうなる。肉体がないということは…」
俺の言葉をレフは肯定する。
そこから生じた疑問を聞いて、所長はというと。
「っ…嘘、私……」
何かを察したのか、怯えるように言う。
要はここにいる所長は精神のみ、といったところなのだろう。
だとすれば、所長に訪れる結末は。
「…ふん。だがそれではあまりに憐れだ……生涯をカルデアに捧げた君のために、今のカルデアがどうなっているのかを、見せてあげようじゃないか」
言わずとも分かってしまったからか、それを言わずにレフは続ける。
セイバーと戦った場所に残された光を引き寄せると、突然空に別の光景が映し出される。
そこにあったのは。
「あれは…」
「…何よ、それ。虚像でしょ!?」
まるで、太陽のように燃え盛る球体。
マシュは驚いたように声を上げ、所長は否定したいように叫ぶ。
「本物だとも…君のためにわざわざ時空を繋げてあげたんだ」
聖杯があれば、こんな事も出来る。
レフは実に面白そうに、愉快そうに続ける。
「…さぁ、よく見るがいい、アニムスフィアの末裔よ。これが貴様達の愚行の末路だ!」
「っ!?」
レフが言い切った瞬間、所長の体が浮く。
…否、浮かされる。
浮かされた体は、そのまま映し出された球体に引き寄せられるように浮いていく。
「何を…!」
「…最期に君の望みを叶えてあげよう。君の宝物とやらに触れるといい」
「嘘でしょ、だって、それ…カルデアスでしょ!」
「あぁ。ブラックホール、あるいは太陽……どちらにせよ、人間が触れれば…」
どうなるかなんて、言うまでもない。
必死に所長は抵抗するが、レフの、あるいは聖杯の魔力による拘束が強いのか、全く抵抗できていない。
「オルガマリー所長!」
藤丸が呼びかけ、助けようと駆けだそうとするが。
「っ駄目ですマスター!」
マシュが藤丸の腕を掴み制止する。
女性同士とはいえ、マシュのサーヴァントとしての力が強いのか、藤丸は足を止める。
「……」
おそらくこれは、このまま見送るのが物語の結末。
傍観者であれば、手出しはできない。
ここでもし所長を救えたら、物語は変化する。
しかし。
―お前は、いつまで傍観者でいるつもりだ?
先のセイバーの言葉を思い出す。
おそらく、もうただの傍観者ではいられない。
―傍観者でいられる時は終わった
今、この地に立って、ジャンヌというサーヴァントと共にここに立っている。
それでいて傍観者というのも。
「…片腹痛い、か」
まさか、敵対した相手に教わるとは、といったところか。
思わず、可笑しさに笑みが零れる。
「マスター?」
ジャンヌが心配げに見てくるが、何でもない、と返し。
「…ジャンヌ」
「はい」
「おそらく所長を拘束しているのは崖上の魔術師だ」
ようやく思い通りになる、と愉快そうに宙に浮く所長を見ているレフに視線をやり。
「…いけるか?」
次いで、ジャンヌに視線を向ける。
その言葉に、ジャンヌは不敵な笑みを浮かべ。
「誰に言っているのです?私は貴方の剣。貴方が出来ると信じてくれるのなら……何事もやり遂げて見せましょう!」
その場から跳躍する。
その数秒後には。
「っ!?」
突然背後に現れたジャンヌに、流石に不意を突かれたか魔術が乱れる。
ジャンヌはその隙を逃さない。
「燃え尽きなさいな!」
ジャンヌの放つ魔力がレフの体を炎に包む。
「っ…ちっ……!」
それには流石に対処に魔力を割かなければならなかったのか、自らの力で炎を払う。
しかし、それで所長を拘束する魔力は一時的に減り。
「ひっ…!」
その場から、所長の体が自由落下を始める。
それを見て。
「っマシュ!」
「はいっ!」
藤丸がマシュに呼びかけ、マシュはすぐに駆け出し、所長の体を受け止める。
「…ありがとう、マシュ」
「いえ…ご無事で何よりです、所長」
その様子を見て、ジャンヌもすぐにレフから距離を離し、こちらに戻る。
レフ自身はサーヴァントほどの身体能力がないのか、あるいは隠しているのか。
いずれにしても、崖の上からこちらを睨みつけるように。
「…全く、予想外の連続ばかりで実に忌々しいな」
マシュは二度目の危険を避けるべく、藤丸だけでなく所長をも守るように構える。
「まぁいずれにしても、この特異点が終われば、愚かなアニムスフィアの末裔は消滅することに変わりはない。最後の親切を受け取ってもらえなかったのは実に残念だがねぇ」
この程度の事はどうでもいい、と言わんばかりに、レフが指を鳴らすと、繋げた時空とやらが消滅する。
繋がりを切ったのだろう。
「…しかし、人間というのはどうしてこう、定められた運命からずれたがるんだろうねぇ」
レフは改めてこちらに向き直り。
「改めて自己紹介をしよう。私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様達人類を
そう、自己紹介をした。