FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
レフは更に続ける。
「…聞いているな、ロマニ?」
『レフ教授…!』
かつての学友だったよしみとの事で、いくつかの事が伝えられる。
人理が焼却されたこと。
カルデア以外の場所は全て、この場所のように崩壊していること。
消滅をするのは、レフの主の寵愛を失ったからであること。
「…私の話はこれくらいにしておこう。特異点崩壊まで間もないだろうが…せめて、最後の別れを惜しむがいい」
レフはそれだけを言い残し、その場から去る。
別れというのは、所長とのこと、なのだろう。
そのくらいは想像は容易につく。
「…」
そうして残されたのは、俺、ジャンヌ、藤丸、マシュ、そして所長。
所長は、告げられた真実に少し俯いて。
「…ロマニ、聞こえているんでしょう?」
『はい』
「今すぐレイシフトを開始して。二人とサーヴァントをすぐに戻しなさい」
所長としての判断か、冷静にそう告げる。
「…いいのか?」
流石に不憫に思い、そう問いかけると所長はキッと鋭い視線をこちらに向ける。
「いいわけない!嫌に決まってるでしょう!こんなところで死にたくなんてない!」
突然の感情の吐露に押し黙る。
けれどこちらの驚きなど関係なしに、所長は続ける。
「分かってるわよ、皆が私を嫌ってたことくらい!あんた達だってそうだろうって思ってる、だけど私は、ただ…!」
ただ、認めてほしかった。
ただ、嫌わないでほしかった。
ただ、よくやったと、褒めてほしかった。
傍から聞けば、まるで子供のような願い。
けれど、そんなことすら叶わないほどの環境だったのだろう。
「…でも、仕方ないわ。ここで私は終わるしかない。だけど人理継続のために、貴方達は必要。だったら私は所長として、何としても貴方達を救わなくてはならないわ」
だけど、私にはもうそれはできないから。
そう、告げる所長の顔は、どこか寂しげでこそあるものの、笑顔だった。
この状況でそう気遣える当たり、本当は思いやりのある人なのだろう。
「……?」
ふと、所長の足元で何かが光る。
それは、先程戦ったセイバーの場所にあったもの。
レフが引き寄せた後、ジャンヌの攻撃で落としたのだろうか。
「聖杯ね。これは貴方達が回収なさい」
確か聖杯は、願いを叶えるもの、だった気がする。
どこで聞いたかは忘れたが。
「…」
それを拾い上げ、俺は。
「……所長」
「…?」
所長に渡そうと差し出す。
所長はこちらの行動に疑問符を浮かべ、見返してくる。
「こいつに願ってみるというのは、どうだ」
「…何言ってるの?私なんかの為にこんな貴重なものを使わないで。人理のために使いなさい」
よほどの力を秘めたものなのだろうか。
所長は、こちらの提案を一蹴するが。
「…一つ聞きたいんだが」
「何」
「所長が言う人理の中に、所長自身は含まれていないのか」
上に立つ者としての務めのつもりなのかもしれないが、見送るのはあまり得意ではない。
「……それに、だ」
「何よ…」
その続きを言うのは、俺でも、藤丸でもない。
「ドクター」
『…君が言いたいこと、何となくわかったよ。あぁ…ここには生き残った他のスタッフがいる。音声は届いてるね?』
「あぁ」
ドクターの声に次いで聞こえてきたのは。
『所長!私は嫌ってなんていませんよ!』
『確かにちょっと怖いなって思うこともありましたけど、所長の下で働けて良かったって思ってます!』
『所長がいたからここまでやってこれたんじゃないですか!』
『私なんか、なんて言わないでくださいよぉ!』
聞こえてくる、様々な声。
あの爆発を何とか逃れたスタッフ達だろう。
その声は、到底嫌っている相手にかかるものではない。
所長を賛辞する声は、止むことなく。
「…誰が、嫌われていると?」
「っ…貴方、意地が悪いわ」
『それは僕も思う』
問いかければ、少し上ずった声で悪態をつかれる。
俯いた所長の表情は誰からも見えなかったのかもしれないが、聖杯を手に近くにいたから見えてしまった。
所長の長い髪に隠れた目元に光るもの。
それが何かを言うほど、流石に野暮ではない。
…それはそれとして、ドクターは後で覚えておいてほしい。
「……所長」
「…ん」
呼びかけると、所長は手を伸ばし、聖杯を手に取る。
…かと思いきや。
「…なぜ俺の手を取るので?」
「うっさい。あんたのせいなんだから…ちゃんと責任取りなさい」
聖杯を持った俺の手を取る。
「……お願い、私の願いを…叶えて」
所長の言葉とともに聖杯は輝きだし、同時に。
「っ地震!?」
「違います、これは…!」
突如、地震が襲う。
「マスター!」
ジャンヌがこちらに近づき、警戒する。
敵こそいないが、地震による揺れが酷い。
「ドクター、すぐにレイシフトを!」
『もうやってる!だけど、崩壊のほうが早いかもだ!すまない、何とか耐えて…!』
地面が割れ、体は宙に投げ出される。
…手に感じる、所長の熱。
…自分を抱きかかえる、ジャンヌの腕。
それらを感じながら、俺は意識を手放した。