FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
帰還
ぼんやりと。
「ん…」
意識が覚醒する。
真っ白い天井。
病院のような、無機質な白が目に入る。
漫画とかなら、知らない天井だ、なんて言うのかもしれない。
「…マスターちゃん?」
声がかかり、そちらを見ると、ジャンヌの姿があった。
さっきまでのようなサークレットや甲冑はつけておらず、少しラフな姿だった。
「ジャンヌ、か」
「…心配したわ。なかなか目を覚まさないから」
自分が寝ているベッドの横に椅子を置き、看てくれていたらしい。
「無理に起きなくていい。痛いところは?気分が悪いとかはない?」
「あぁ」
「…よかった」
あからさまにホッとした様子のジャンヌ。
「…ここは?」
「カルデアでしょ」
そういえば自室とか考える間もなくあれだったから、よく見てなかった。
道理で知らない部屋のはずだ。
とはいえ、寝ている理由もないので体を起こそうとするが。
「ぐっ…」
痛った。
ベッドの上のはずなのに、ベッドが固いのだろうか。
「…そりゃそうなるわよ。どれだけ寝てたと思ってるの」
「どのくらいだ?」
溜息交じりのジャンヌに問いかけると。
「…五日よ」
冗談だろうと思ったが、何も言えなかった。
「もう少し、横になっていることにする」
「それがいいわ…無理して何かあったら困りますからね」
そんな感じで静かに時間が流れる。
ふと、思い出し。
「…そういえば、藤丸や所長はどうなった」
ジャンヌに尋ねる。
「藤丸はもう目を覚ましたみたいですね。今何をやってるかは興味ありませんので知りません」
「…そうか」
目を覚ましてるのならいいが、マスターとしての適性は藤丸のほうが上なのだろう、と思う。
だから負荷が少なく、目を覚ますのが早かったと考えるのが自然だ。
「あとは…」
ジャンヌが話を続けようとしたところで、入り口のドアが開く。
入ってきたのは。
「お邪魔するわよ。彼は…」
他でもない、所長。
一か八かのところはあったが、上手くいったらしい。
特異点で見た所長と同じ姿で。
「…目を覚ましたのね!?無事!?記憶の混乱は?体の不調は?それから、えっと…!」
目を覚ましたこちらを視認すると、駆け寄ってきて、混乱したまま色々確認しようとしてくる。
気を遣ってくれるのは有難いのだが、何分距離が近い。
「…そういうことです」
「……」
ジャンヌはやや不機嫌だったが、俺のせいではあるまい。
…少しして。
「…ごめんなさい、取り乱しました」
冷静さを取り戻して我に返ったのか、恥ずかしそうに言う。
「聖杯の方は、上手くいったようで」
「…えぇ。貴方のおかげで、今私はここにいられている」
ありがとう、と、深々と頭を下げられた。
頭を上げてほしいと伝えると、従ってくれた。
その表情は、特異点にいた時より心なしか穏やかなように見える。
「…いい事が、あったようで」
「えぇ」
あの後、カルデアに帰還後、生き残ったスタッフ全員に対し、謝ったのだという。
そして、改めて、人理継続のために、共に戦ってほしいと、今のように頭を下げた、と。
「…皆、受け入れてくれたわ。私のこと」
誰一人、所長を拒絶はしなかった。
所長自身気づいていた、組織からの孤立。
レフしか頼ることができなかった以前の自分からの離別。
それを、成し遂げたのだと。
「私は、自分の居場所があることに気付いていなかった。居場所を自分から突き放してただけ…だったのかもね」
「……」
「…だけど、貴方が気付かせてくれた。ここに居場所があるって…私は、ここにいていいんだって」
なんか物凄い事をしたみたいになってるんですが。
そんなつもりは全くない。
むしろ、気づかせてくれたのは。
「…それは、俺ではなく、ここのスタッフの人達では」
「そうかもしれない。けど、一番に気付かせてくれたのは貴方よ」
これはあれか。
何を言っても無駄とかいう。
「…だから、というわけではないけど、お願いがあるの」
縋るような感じでそんな風に言ってくる。
「ジャンヌより少し離れていたところでいい。だけど…貴方の傍に、私の居場所を貰えないかしら」
「…具体的には」
「所長ではなくて……名前で、呼んでもらいたいの」
名前、ね。
「…オルガマリー所長?」
「所長はいらない」
「いや、要るでしょう。呼び捨てにしたらいろいろと示しがつきませんて」
「なら、所長命令で」
「ぐ…」
それは職権乱用では。
断るにも、所長の視線がそれを許さないとばかりに見つめてくる。
「ほら、呼んでみなさい」
「…オルガ、マリーさん」
「まぁ…さん付けくらいなら許容します。今後は所長と呼んでも答えませんから、そのつもりで」
言い切ったところで、所長は立ち上がり、ジャンヌに向き直る。
「そういうわけなので」
「……えぇ、なるほど。つまりは…敵、ということですか」
所長の言葉に、ジャンヌは不敵な笑みを浮かべる。
魔術師とサーヴァントが敵同士。
サーヴァントの方が強いのは明白な気もするが、色々あるのだろうか。
知らない世界である。
「…精々ちゃんと捕まえておいた方がいいわよ。でないと…私の方が近くに行ってしまうかも」
「上等です。私がここにいるのは何のためか…いずれ思い知らせてあげますから」
なんか一触即発だが、我関せずでいいだろうか。
よくないのかもしれないが、こういうのはよく分からないので。
「……」
寝ることにした。
…ちなみに、後から聞いた話だが、あの後所長は存在としてはサーヴァントと同じ扱いになったらしい。
そうなるとマスターが気になるわけだが、あの時手を握っていたせいか、俺がマスターとしてパスが繋がっていたらしい。
どういうことだよ、と言いたかったが、誰に言っても無駄だろう。
きっかけを作ったのは確かに俺だし…
…もう、傍観者どころの騒ぎではないなと。
そう、思いながらもう一度寝ることにした。