FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
とりあえず、言い争いから目を逸らそうと目を閉じて、いつの間にか眠っていた。
特異点での疲れが溜まっていたのか、別の理由かはさておき、それは確かではあるのだが。
「……」
何故、という疑問が浮かぶ。
視線を少し右にやると。
「ん……」
ジャンヌがひっついて寝ていた。
サーヴァントも寝るのだろうか。
まぁ、寝るのはいいのだが、何故ここに。
「…」
天井を見る。
ちなみに、起こさないように布団、ベッドを出ることも考えたのだが、出来なかった。
それは、離れるのを無意識に嫌がったとかそういうのではなく。
「…」
単純に結構力が強く、動けなかっただけである。
それでも、ジャンヌの体を揺するなりして起こせばいいのかもしれないが、いかんせん相手は女性である。
そうなれば、迂闊に触れるのもどうなのか。
異性に触れるというのは、どうあれ気を遣う。
まして、そこまで女性と仲良くしたことが多くなかったので、余計に行動に移しづらい。
その結果、自分がどうすべきかとなれば。
「……しばらく待つか」
ただ、このまま待つしかなかった。
とはいえ、嫌ではないので、
あえて気になるとするならば、こちらに顔を押し付ける形でくっついているので、跡がつかないかどうかといったところか。
まぁ、こちらからはどうしようもないのだが、少し暇なので、思考に耽る。
考えるのは、ジャンヌの事。
この状況で他の事を考えるのはなかなかに難しいのだが、それはさておき。
「……」
いろいろと、気になることが出てきている。
召喚したときについては、まるでジャンヌは俺のことを知っていたかのようだった。
どういうわけか、俺の名前も知っていた。
召喚の際にそういったことが伝わるものだというのであれば、それはそれで納得はする。
ただ、ジャンヌの振る舞いについては説明がつかない。
俺に対しては普通に接してくれている。
しかし、俺以外に対する
これが、皆に均等に同じような接し方なら疑問は浮かばないのだが、この対応の差はまるで、俺の事を以前から知っていたかのように。
「…」
我ながら、突拍子もないとは思う。
けれど、そう思う理由はジャンヌの振る舞いだけではない。
ジャンヌの宝具を見た時の感覚。
俺自身が、ジャンヌを召喚するずっと前から、共に戦っていたかのような、そんな感覚。
それくらいに、俺自身がジャンヌという存在を受け入れていた。
ジャンヌもまた、やり方はどうあれ、特異点では俺のことを守ってくれていた。
だからだろうか。
会ったばかりとはいえ、ジャンヌのことを信用できているのは。
先の戦い方を見て、凄い力を持っていることが明らかなジャンヌを恐れずにいられるのは。
「ん…ます、たぁ……」
声が聞こえる。
ふと、視線を横にやるが、声の主が起きた様子はない。
夢を見ての寝言だろうか。
というか、熟睡しているのだろうか。
こちらにぐいぐいとくっついてくるジャンヌを受け止めながら、どこか小動物のように考えてしまう。
ジャンヌが小動物なら撫でてやりたいところだが、さすがに女性相手にそこまでできる度胸もなく、できるのは精々動かないことだけだった。
「…おいて、いかないで……」
微笑ましく思っていたが、続く言葉に、その言葉を発する震えた声に、ジャンヌを見る。
表情は窺うことができない。
置いていく、というのが何を意味しているのか、今はよく分からない。
ジャンヌは何に置いて行かれていることを恐れているのか。
少なくとも、俺はここにいる。
であれば、それは恐らく、俺ではない。
ジャンヌが見ているのは、俺ではない。
恐らく、誰かと重ねているのだろう。
「……」
であるならば、俺がすることは。
ジャンヌが求める
その誰かと会うまでは、俺がジャンヌのマスターの代わりをすることになるだろうが、それならそれでいい。
ふと、そこまで考えて、色々と合点がいった。
「…そうか」
俺は、ジャンヌが求めるその誰かと、よく似ているのだろう。
初めに呼ばれた名前も、たまたま同じだった。
だからジャンヌは、俺をその誰かと重ねてしまったのだろう。
その誰かを求めるあまりに、勘違いをしてしまっている。
その勘違いをされたからだろうか、ジャンヌがその誰かをいかに想っていたか、短い間だったがよく分かった。
人と重ねられた、となれば普通は怒るのかもしれない。
けれど、何故かそうは思わない。
ジャンヌがその誰かと再会し、願わくば幸せな未来を掴んでほしいと、そう願う。
きっと、俺は既に、それほどまでに、ジャンヌの事を。
「…」
目を閉じ、思考を打ち切る。
それ以上は、考えてはいけない。
それ以上考えてしまったら、自分がジャンヌから離れたくないと、考えてしまう。
それは、出来ない。
ジャンヌは、その誰かと、幸せになってほしいと、そう思う。
ジャンヌの為にも、ジャンヌが想う、その誰かの為にも。
俺がジャンヌの傍にいられるのは、そこまで。
そこから先は、一人になるだろう。
あるいは、敵対することになるだろうか。
それならそれでも、いい。
―お前は、いつまで傍観者でいるつもりだ?
あの時、セイバーに言われたことを思い出す。
あぁ、確かに。
もうこれ以上、傍観者ではいられない。
俺は、ジャンヌが
ジャンヌが、もう悲しい思いをしなくて済むまでの、仮のマスターとして。
共に、歩んでいこう。
「…必ず」
ジャンヌが想っている相手を見つけ出す。
そして、願わくばもう、ジャンヌがこんな寂しさを見せることがない事を。
その為に俺は、その時まではジャンヌと共に、戦おうと思う。
―いつか来る、別れの時まで。
自分が為すべき事が、分かったなんて、そんな風に思っていると。
「…?」
突然、部屋の入り口のドアが開くと、そこには藤丸とマシュの姿。
「えっと…ごめん、お邪魔…だった?」
「いや。何だ」
「その…所長が話があるから集合って」
「そうか」
その話を聞き、場所などを確認すると、藤丸たちは先に向かうと部屋を後にした。
「…ジャンヌ」
「ん…ぅ」
「起きろ、ジャンヌ…集合だそうだ」
何度か呼びかけると、やや面倒そうに起きるジャンヌ。
おそらく、呼ばれているのは俺だけだとは思うが。
「…何なら俺だけ行ってくるが、寝ているか?」
「いい…私も行くわ」
こちらの気遣いは却下された。
無理する必要はないのだが、こうなってはきっと
「…行きましょう、マスターちゃん」
サークレットやら防具やらをつけ、特異点にいた時と同じ姿に身なりを整えたジャンヌに手を伸ばされる。
その手のひらを見やり。
「……あぁ」
こちらも手を伸ばし、繋ぐ。
こちらの反応に満足げにジャンヌは笑みを浮かべながら、並んで呼ばれた場所に向かうことになった。
―これ以上、ジャンヌに想いを寄せるわけにはいかないのに、こうしていたいと思ってしまう。
「…マスターちゃん」
どうしたの、と顔を覗き込まれる。
その視線を受け、一瞬ジャンヌの顔を見て、すぐに前に向き直り。
「いや…何でもない」
―願わくば、早く本当のマスターが見つかってほしいと思う。
―でなければ、俺の方がジャンヌに想いをぶつけたくなってしまいそうで、