FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
夜。
マスターちゃんの寝室。
明日に呼び出される、という事を考慮し、マスターちゃんはもう寝ている。
彼が眠るベッドに腰かけ、彼の頬を撫でる。
「……」
彼の頬は、温かい。
それが、彼が今ここで、生きてくれているという事を知らせてくれるようで安心する。
彼から手を離し、視線を彼から外す。
外した視線の先は。
「…あんたは、どこまで覚えてるの」
マスターちゃんが召喚したサーヴァント。
私からすればいけ好かない冬の女王。
「我が夫に召喚されてからの事は大体は。何故お前がここにいるのかは確証こそないが、推測は容易ですね」
「そう。だったら…」
私はマスターちゃんを起こさないように小声で話しかけると、その意図を察してか小声で返される。
「…だったら、このカルデアが、やがて私のマスターちゃんを殺すことも、分かってるのよね?」
「無論です」
今、私はどんな表情をしているのだろう。
普通の表情のつもりだが、ひょっとしたら第三者が見たら震えるような表情かもしれない。
何故そう思うかといえば、女王がそういう顔をしているから。
「…あんたは、どうする?このまま黙ってマスターちゃんが奪われるのを見てるつもりなら……」
そうなるというのなら、私は容赦しない。
たとえ、マスターちゃんが召喚したサーヴァントであろうと、私の敵だ。
そう思いながら女王を見れば、クス、と笑っている。
何がおかしいのか。
「…何笑ってんのよ」
「いえ、私がそんな温い女だと思われていたとは思いませんでしたので」
女王は私に向き直る。
その口元からは笑みは消えている。
「…割り込む形とはいえ、我が夫のもとに私が来た理由は言うまでもない」
「へぇ?」
「我が夫を最優先で守る。カルデアが…あるいは、マスターの小娘がそれを妨げるなら、私は容赦はしない。そういう意味では…お前と同じだ、竜の魔女」
なるほど。
同じだというのなら。
「…なら、いざとなれば手を組みましょうか?」
「ほう?」
手を組むというのも、悪くないかもしれない。
「…私は、世界がたとえ滅びようと。人理が崩壊しようとも。マスターちゃんを守るためだけに力を使う…何であろうと、マスターちゃんに仇なすものは全て燃やし尽くす」
「……さすがは復讐者、アヴェンジャーといったところですか」
私の言葉に女王は少し可笑しそうに笑いこそするが。
「だが…悪くない。その時は私も一枚噛ませてもらいましょう」
「…私のことをどうこう言う以前に、あんたも大概バーサーカーね」
「何を今更。それに…我が夫が死する未来という現実を見れば、狂いもしよう」
私の旗と、女王の杖を軽く当てる。
軽い金属音が鳴る。
私達にとっては、盃を交わしたも同じ。
とはいえ。
「…まぁ、マスターちゃんの隣を譲るつもりはこれっぽっちもないけど」
「お前の施しは不要だ竜の魔女。いずれ我が夫から私の隣に来る」
「言うじゃない、冬の女王」
この点においては譲れない。
マスターちゃんは私のものであってほしい。
私が、マスターちゃんの一番であってほしい。
「…それはそうと、だ」
「何よ」
「なかなか面白いことを言う。離れすぎると魔力切れで消滅とは…な。別にこの建物の範囲では壁を隔てていようが問題あるまい」
「う…」
流石に女王とはいえ、魔女の目は誤魔化せなかったようだ。
「…まぁ、否定しなかった時点で貴女も同類でしょう」
「そうだな。お前の虚言のおかげで、我が夫と離れない理由が出来た…その点に関しては、よくやってくれた」
「お褒めに預かり恐悦至極です」
「褒美はないがな」
「ちっ…」
皮肉すら通じないのか、この女王は。
「…とはいえだ。今後呼び方がなくては色々とやり辛かろう。褒美代わりだ…私を名前で呼ぶことを許可する」
「はいはい、ありがとうございますね、モルガン」
「ふ…精々励めよ、ジャンヌ」
当面はモルガンをマスターちゃんから引き離す方法を考えたい気もするけど。
「…ま、そろそろ寝ましょうか。いくら魔力供給を受けたとはいえ、眠ったほうが消費は少ない。無意味に消費する意味はないわ」
「どうでしょうね。魔力を消費すれば魔力供給ということで、我が夫と愛し合う口実になると思いますが」
「……それもそうね」
定期的に必要な件はあの所長も言っていたし、その事自体はマスターちゃんも疑わないでしょうけど。
まぁ、モルガンが言った方法は後で使わせてもらうとしよう。
とりあえず、今は。
「…ま、とりあえず寝ましょう。私はマスターちゃんの右隣で」
「なら私は左隣を。寝具を調達するなら三人分のシングルではなく、ダブルベッドを一つ、もともとのベッドと入れ替えるべきでしたね」
全くだ。
おかげでシングルベッドに三人でいる羽目になったじゃない。
「う…」
魔女とはいえ、二人の女に挟まれて呻くのは贅沢じゃないかしら、マスターちゃん?