FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
『俺はお前も…傷つけてしまったか?』
尋ねられたことを思い出す。
それに対する答えは、決まっている。
「傷つかないはずが…ないでしょう」
聞こえないように、声にする。
少し離れて、小声であれば聞こえはしないだろう。
別に聞こえてもよかったのかもしれない。
そうすれば、きっと私を、見てくれるだろう。
それが、我が夫であり、我がマスターという存在なのだから。
「…」
だからこそ、伝えられなかった。
彼女が、我が夫の傍にいるから。
マスターである我が夫と、竜の魔女である彼女の絆を、見ていたから。
その絆の強さを、間近で見ていたからこそ。
「ふ…」
この在りようで、マスターを我が夫と呼ぶなど、なんと烏滸がましいことか。
思わず、嘲笑が漏れる。
当然のような、自分に対する嘲笑。
それと同時に、それだけ想っておきながら、いざというときに手を差し伸べ、助けることすらできない。
伴侶どころか、サーヴァントとしてすら、我ながら不甲斐ない。
それが、許せない。
私が、私を許せない。
だからこそ。
「……私の大切なものを何度も奪わせるような、愚かな女にはなりません」
懐かしい魔力の流れ。
我が夫であるという確信。
だからこそ、私は黙っていられなかった。
この機会を逃すことはできない。
「…」
我が夫としてではなくとも、サーヴァントとして。
世界の未来を壊してでも、彼の未来を守るために。
ジャンヌも、同じようなことを考えているのだろう。
人理。
カルデア。
彼に仇なす全てを、破壊して見せよう。
それを成すためであれば、私はいくらでも、狂ってみせよう。
多少骨は折れるだろうが、そうするだけの価値は十分にある。
だが、それでもし彼が生きる場所を失ってしまうのであれば。
「…その時は」
いっそ、国を作ってしまえばいい。
私と、我が夫が共に生きるにふさわしい、理想の国を。
ジャンヌも招いてもいいだろう。
彼と、彼を愛する者だけの、静かな世界。
「……」
そんな世界を、目を閉じて想像する。
それを悪くないと思ってしまう私は、世界の敵だろう。
しかし、ふと思う。
―それの、何が悪いのか?
私は、今何のために、ここにいるのか。
我が夫のサーヴァントとして、ここに自ら来たのか。
そのことを考えれば、世界を救うためなど、片腹痛い。
私一人でもやってみせる覚悟だが、世界相手は荷が重いかもしれない。
だが今は、同志がいる。
私と同じように、彼のために世界を相手取る狂った女が。
ならば、世界の一つや二つ壊すことくらい、容易い。
そうして彼を守ることができたなら、私は。
「…私も」
我が夫の傍に。
ジャンヌと同じくらい、彼と近しい距離に行くことができるだろうか。
「我が夫の、傍に」
貴方を我が夫と呼んでも違和感のない距離まで、近くにいても、許してくれるだろうか。
答えをくれる相手は、今ここにはいないが。
それが出来たときは、改めて思い知らせてやろう。
「本当に彼にふさわしいのは、どちらなのかを」
そこまで考えて、ふ、と笑みが零れる。
何故なら。
「言うまでもない…か」
誰が見ても分かるくらいに、強い絆が見えているから。
二人に近づけば近づくほど、いかに強いものかが見えてしまうから。
だから、踏み込み切れない。
だから、二人の仲を助けるようなことをしてしまう。
ジャンヌと我が夫の信頼関係の間に入ることは、きっと出来ないかもしれない。
けれど、それでも。
「それ以上は…私は譲らん」
一番でないのは気に食わない。
隙を見せれば、私はジャンヌから我が夫を奪って見せよう。
だが、この絆の強さを持ち続けるのなら、甘んじて受け入れよう。
そこまで、であれば。
仮に、他にどれだけ我が夫を想う者が現れようと。
「…この二人の傍は、決して譲らない」