FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
光の先で。
「ぅ…」
さっきまでの闇との明るさの差に目を顰める。
「マスター!?」
聞き覚えのある、呼び声。
「……ジャンヌ?」
目を開く。
目の前には、必死に呼びかけてくれた声の主。
数日とはいえ、その中で親しんだ声。
親しんだ声の主の姿は、見慣れたものではあったが。
「…酷い顔だな」
いつもの不敵な笑みやら強気な表情はどこへやら。
頬を涙で濡らし、不安げな表情を向けてくるその姿はいつもと正反対で、そんな表情も出来たのかと少し可笑しくなる。
腕を伸ばし、ジャンヌの頬に手を伸ばす。
手を伸ばせば、ジャンヌは俺の手に両の手を添え、抵抗もせずに頬を寄せる。
頬を伝う涙が、ジャンヌの熱を伝えてくれる。
「……ごめんなさい、マスター」
「?」
なぜ謝られたのか分からず、視線を向ける。
目を閉じたまま、ジャンヌは続ける。
「マスターがこんな目に遭ったのは、私が
「…関係あるのか、それは」
突っ込むように言うが、ジャンヌは余程思い詰めていたのか、止まらない。
聞こえていないのだろうか。
「復讐に身を焦がすことしか出来ない私には、守ることなんて無理だった…!」
「っ…」
それは違う。
「どれだけ私が願っても、この身に刻まれた憎悪のせいで、マスターを危険な目に遭わせてしまう…!」
そんな事はどうでもいい。
「マスターが死ぬのが私のせいだというのなら、私は…私はぁ……!!」
「っ…!」
それ以上聞く必要はない。
というより、ここまで自分を追い詰めるジャンヌの姿を見たくなかった。
だからこそ。
「…聞け、ジャンヌ」
頬に添えていた手を離し、ジャンヌを抱き寄せる。
身に着けた鎧やら何やらが少し痛いが、どうでもよかった。
「マスター…?」
「…お前は冬木で言ったな。俺の剣となり、いかなる道も切り拓く、と」
「……はい」
諭すように言う。
流石にジャンヌも自分で言ったことは覚えていたのか、素直に頷く。
「その言葉通り、冬木でも、そしてこのオルレアンでも、お前はここまで導いてくれただろう」
少なくとも、ジャンヌがいなければ。
召喚に応じてくれなければ、冬木で命を落としていたかもしれない。
このオルレアンでも、ここまで辿り着くこともなく、命を落としていたかもしれない。
オルレアンに至ってはモルガンもいてくれたが、それでもジャンヌなしでは、ここまで来れなかった。
「…これは、お前の所為なのか?」
ジャンヌは何も言わない。
肯定をしたいのだろうが、同時にそれを俺が認めないことも、分かっているのだろう。
「お前の
「ん…」
それが、曲げようのない事実。
ジャンヌも、それを理解はしていたのかもしれないが。
「……さて」
本当なら、もっと上手いことが言えたのかもしれないが、話を打ち切り、ジャンヌを抱き寄せたまま、立ち上がる。
一瞬ふらつきながらも、ジャンヌも合わせて立ち上がる。
抱きしめた腕の力を緩め、ジャンヌの顔を見る。
「…マスター」
「お前なら、分かるだろう……まだ、終わっていない」
俺の視線の先には、聖女ジャンヌ・ダルク。
俺達との間を守ってくれているのはジル。
そして、いつの間にか追いついてくれていたのか、モルガン。
二人とも強力な魔術を操ることもあり、場は均衡を保っていたらしいが。
「…マスター殿!」
「我が夫…!」
二人がこちらに気付く。
それに気づいてか二人は一歩下がり、体制を整える。
「……泣いてる暇はなさそうだが?」
「冗談。誰が泣いてなど…!」
俺が言えば、強がりながら腕で目元の涙を拭い、剣を構えるジャンヌ。
その強がりが何とも微笑ましく、軽く笑ってしまう。
この状況で笑えるというのも妙な話ではあるのだが。
「……一つだけ言っておくぞ、ジャンヌ」
「?」
声をかければ、いつも通りの反応のジャンヌ。
ようやく持ち直したかと安心したところで。
「俺は昔から、物が捨てられない
「?…はぁ」
ジャンヌはいまいち的を射ないのか、少し抜けた返事を返す。
だから、と俺は続ける。
「…一度しか言わない。よく聞け」
少し深呼吸。
「たとえジャンヌのせいで俺が傷つくことになろうと、あるいは死ぬことになろうと…俺は決して、お前を手放しはしない」
恥ずかしいことを言っている気がするが、これは言っておかなければならない。
「死にかけた程度のことで、それは揺らぎはしない……せいぜい俺の召喚に応えたことを、後悔した方がいいかもしれないがな」
最後は冗談げに言う。
そうでもなければ、恥ずかしくてかなわない。
しかし。
「後悔など、あるはずもないでしょう。私はそのために…マスターと共に在るために、今、ここにいるのですから」
むしろ、とジャンヌは続ける。
「…むしろ、マスターが後悔すべきでしょう。私という魔女に魅入られてしまった、マスターの行き着く先は…どうあっても、地獄になるでしょうから」
「そうか」
なんだか、言うことが似ていると、少し思う。
共にいることが、互いに後悔に繋がるというのなら。
「…なら、共に後悔の果ての地獄まで、突き進むしかないな」
「よいのですか?いい所ではないと思いますが」
「お前がいるのなら悪くない…ジャンヌはどうだ」
「…私も、マスターが共にいてくれるのなら、喜んで身を堕としましょう」
俺の、ではない。
俺達の、運命は決まった。
「……行けるか、ジャンヌ」
「誰に言っているのです。私はマスターの剣」
ジャンヌは剣を構える。
「マスターが信じてくれるのならば、私の剣は全てを穿ち、私の炎は全てを焼き払って見せましょう!」
漆黒の鎧を纏い、漆黒の剣を手に、炎を纏うその姿は、傍から見れば悪なのだろう。
そして、そんなジャンヌと共に戦う俺も、悪なのだろう。
その先に待つものが何であったとしても。
「…」
悪として人理を修復する覚悟とともに。
この特異点の、最後の戦いが、始まる。