FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
そんな会話をしていると、マスターはすぐに目を閉じてしまった。
よほど疲れていたのだろう、間近でマスターの寝息を感じる。
「全く…」
起きてしまわないかと思いながらも、マスターの頬に触れる。
マスターの温かさを感じる。
もう、あの時のような冷たさはない。
「…」
マスターは、今ここにいる。
生きている。
だからこそ、私は戦える。
この温かさを、守るために。
今度こそ、失わないために。
今はもう、不安はない。
「……ん」
だからこそ、私は一層、決意をする。
もう二度と、マスターをあんな目には、遭わせない。
もっと、私は、強くならなくては。
まだ、足りない。
マスターがあれだけ頑張っているのに、私が何もしないわけにはいかない。
あとでモルガンにでも手伝わせようか。
マスターのため、とでもいえば手伝ってくれるかもしれない。
「…」
それはそうと、もう少しくっついても大丈夫だろうか。
鎧やらなにやらは外しているから、痛くはない…とは思うのだが。
「ん…」
寝ているマスターに許可をとれるわけもないので、許可なしに身を寄せる。
額が触れ合っており、その気になればキスすら簡単にできると思う。
してもいいだろうか。
…マスターを起こすわけにはいかないし、我慢する。
「っ……」
それでも、マスターの吐息が、私の理性を奪っていく。
踏みとどまるので精一杯なくらいに、危ない。
何とか理性を保つために、私は。
「…」
マスターに密着することで事なきを得る。
密着し、キスができないように顔をマスターの胸に埋めてしまえばいい。
余計に心拍数は上がるが、仕方がない。
けれど同時に感じるのは、安心感。
「ん……」
目を閉じる。
対比的に思い出すのは、冷たくなってしまったマスター。
その事を忘れてしまいそうなくらいに、温かい。
「…」
…あー。
これ、マズったわ。
全然事なきを得てない。
…キスしたい。
…というか、それ以上でもいい。
それくらいに、昂揚してしまっている。
「…」
キスするというのは、無理だとしても。
せめて、抱きしめたりしてくれないだろうかと考えてしまう。
我儘、だろうか。
なんてことを考えていると。
「っ……?」
突然、抱きしめられる。
強く、ではなく、優しく、といったレベルだが、それだけでも包み込まれている感が凄い。
「……もう、寝たか」
マスターの声が、耳に入る。
私が寝ていない事には気付いていないようだ。
実際には寝ていないので、私が自分の意志でここまでくっついたことになる。
間違いではないが、バレると恥ずかしいので寝たふりをすることにする。
「…」
暗い中で、彼の手が私の髪に触れる。
気遣ってくれているのか、あまり強くは触れてこない。
有難くもあり、物足りなくもあり。
我ながらなんと面倒くさいこと。
「…すぅ」
少しだけ。
バレないように祈りながら、少しだけ大きく深呼吸。
マスターの匂いを感じる。
全く不快なんてことはなく、むしろ落ち着く匂い。
目を閉じているせいか、その匂いをより感じ取りやすくも感じる。
布団の温かさと、彼の温かさに包まれ、本当に微睡んでくる。
いつしか、昂揚を感じていた私の感情は、微睡へと形を変えていた。
「…」
ふと、考える。
まさか私という存在が、ここまで誰かに依存するなんて、敵対していた頃は少しでも考えただろうか。
祖国への復讐心にばかり捕らわれていた私が、誰かを守りたいだなんて少しでも、考えていただろうか。
ましてや色恋沙汰に無縁だった私が、ここまで異性に心奪われるなど、考えたことがあっただろうか。
聖女ジャンヌ・ダルクですらない私に、人生なんてものはなかったけれど。
「ん……」
それでも、もし、私に人生なんてものがあるのだとしたら。
こうして、かつて敵対した私が決して持ちえなかった感情を持っている、今こそ。
今こそが、私の人生なのだと、胸を張って言える。
この気持ちは、誰にも否定させない。
…もう二度と、間違えない。
間違えてなるものか。
あんな悲劇を、何度も起こしてなるものか。
私は復讐者。
常に胸の内に復讐の炎を燃やし続ける、哀れな女。
それでもいい。
むしろ、それがいい。
復讐者だからこそ、出来ることがある。
復讐者として、マスターを守る。
守るという意味では、藤丸やシールダーのように振舞うことがいいのだろうけれど。
「…」
考えただけで、虫唾が走る。
私には、無理だ。
あんな偽善者に、成り下がってなるものか。
私は私のやり方で、マスターを守る。
障害からマスターを守るのではなく、障害を焼き尽くす。
その方が余程、私らしい。
マスターは、今後のためと言って魔術の訓練を始めてはいるが。
…私も、今のままでいるわけにはいかない。
まだ、私には足りない。
きっと、このままではまたいずれ、同じ結末を辿ってしまうだろう。
やがて彼の死へと収束する未来を捻じ曲げるには、今の自分で満足するわけにはいかない。
今、彼の傍にいられるという状況に慢心するわけにはいかない。
まだ、何も変わっていない。
変えることができていない。
だからこそ、私は。
ただ、出来ることをひたすらに。
マスターのために、そして、マスターと共に在ることを望む私自身のために。
…ただひたすらに、戦い続けなければならない。
ジャンヌ(←寝たふりで、起きていることに気づかれていないと思っている)
マスター(←起きてることに気づいてはいるが、あえて言わずにそのまま)