FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
気が付けば、見覚えがあるようなないような。
というより、どこもほぼ同じだがどこか違う雰囲気のある天井。
「……?」
ここは、一体。
ふと首を動かせば、そこには。
「…おや、お目覚めかな?」
女性の声。
この声や喋り方は、確か。
「……レオナルド・ダ・ヴィンチ」
「うーん、固いなぁ…ダヴィンチちゃんって呼んでくれって言わなかったかな?」
確認のつもりで名を呼べば、けらけらと笑われる。
調子が狂うというか何というか。
「……これは一体どういう状況だ?」
「ん?キミがベッドに寝ていて、私はそれを見張っている、といったところかな?」
「いや、そうではなく」
どちらかというと経緯を聞いていたのだが。
それを察してか。
「…覚えてないかい?キミはリリスと契約を結んだ後、倒れたんだよ」
なんとなくそのあたりで記憶が切れているので辻褄は合う。
疲れでもあったのだろうか。
休憩はちゃんと摂っていたつもりだったが。
「ぅ…」
とりあえず、起き上がろうとしたがダヴィンチに手で制される。
「まだ寝ていたまえよ。言っただろう?『見張っている』とね」
「……?」
有無を言わさぬ様子に、再びベッドに戻る。
「……」
「……」
僅かな沈黙。
時計もないのか、誰も喋らないと実に静かだった。
「…聞かないのかい?」
ダヴィンチの問いかけ。
それに少し考え。
「心の準備だ……何か、あったのだろう?」
そう、返す。
この状況から、ただ立ち眩みで倒れたなんて楽観視は出来ない性分だった。
「聞いてもいいかい?…何故、何かがあったと?」
ダヴィンチの問いかけ。
天才と称された彼女に試されていると思うと少し面白くもあったが。
「…単純な考えだ。大したことがないのなら見張る必要もない…それに、大方何が問題かのアタリはついているのだろう?」
検査結果待ちという状況には見えないしな。
そう告げると、フ、とダヴィンチは笑う。
「成程、私ほどではないとはいえ…状況を客観的に見る力は多少はあるようだ」
一度目を伏せ、再度こちらを見る。
そんな彼女の表情からは笑みが消え、真剣さが垣間見える。
「……さて、どこから話そうか」
「最初から話してくれ。どうせ時間はあるのだろう」
悩むダヴィンチに、そう返す。
「…ま、それがいいか。まずキミのマスター適性の話からしようか」
「調べたのか?」
「君が眠っている間に、ロマニと一緒にね」
彼はまた爆発犠牲者の治療にあたっているからここにはいないけどね。
そう、付け加える。
「……はっきり言おう。キミのマスターとしての適性はそれほど高くない。藤丸君は一般人にしては異常なほど高いが、キミは…普通、いや、下手したら並以下だ」
「…だろうな」
「気づいていたのかい?」
「あぁ…そうでもなければ、レイシフトから戻る度にあそこまでの疲労感は出まい」
藤丸と比較すれば嫌でも分かる。
そう告げると、ダヴィンチは成程、と続ける。
「……そして、キミの魔術師として、あるいはサーヴァントを従えるマスターとしての適性だが…これも、精々、一般人並だ」
「…」
「そんな君が、魔術師ですら1騎契約すれば十分なところ4騎の契約…ましてや、カルデアの魔力サポートを受けずになんて無茶苦茶だ」
そりゃ倒れもするよ。
そう、続けるダヴィンチに何も返せない。
「それで、ここからが重要なんだが」
「…?」
「サーヴァントを維持するときの魔力っていうのはね、普通は生命活動を維持する限りは多かれ少なかれ回復するはずなんだ…一般人ですらね。だから魔術師は継続してサーヴァントを維持することが出来ている」
RPGでいうところの宿屋で休むみたいなものか。
「……だが、キミの魔力は…回復していない。この部屋に運んでからキミの魔力をモニターしていたんだが、回復はなく、サーヴァントの維持に魔力を消費し、減り続けている。これが意味するところは…分かるかい」
言いたいことなど、すぐに分かる。
「魔力の回復に必要な活動を行っていない、ということだろう。つまり……」
しかし、そんな絵空事のような話、現実にあるのだろうか。
いくら空想上の物語とはいえ、まさか。
「…おそらく、キミという存在は生命活動を停止している。つまり……既に、
そのまさか、をダヴィンチは言葉にする。
「…それなら聞きたいのだが、今ここで会話をしている俺は何なんだ?死人にそんなことが可能なのか?」
「……それについては、キミが契約したサーヴァント達を思い出せば、答えが出るんじゃないかい?」
「成程…分かりやすい答えだ」
リリスは人でない以上何とも言いづらいが、ジャンヌ、モルガン、彦斎はかつて実在した、歴史上の人物。
ダヴィンチも同様だろう。
そんな彼女らも史実ではとうに命を落としているが、今、サーヴァントとして会話は普通に成立しているのだから、納得せざるを得ない。
「……このまま活動を継続すると、どうなる?」
「それを言うことは簡単だが、このままでいいのかい?助かりたいとは…」
心配からだろう。
ダヴィンチにそんな風に問いかけられるが、思わず可笑しくなり吹き出す。
「…聞くが、かつての大天才であれば…人の死を覆せるのか?」
「痛いツッコミだなぁ…そりゃ、神にしか無理かな」
「なら、するだけ無駄な問答だ…そんなことより、今後を考えた方がよほど建設的だ」
死というのは怖いものと思っていたが、既にそうなってしまえば案外達観できるものだな、と他人事のように思う。
「…このままいけば、やがてキミの魔力は枯渇し、体を維持することができなくなる。そうなれば…消滅するだろう」
「それは…いつになる?」
「……それは分からないね。明日かもしれないし、何十年も先かも」
そんな話を聞かされ、少し考える。
一番に考えるのは、ジャンヌのことだった。
あれだけ必死に守ってくれているのに、俺はジャンヌをいずれ、置いて逝くことになるのだろう。
「今はジャンヌ達の魔力をキミが全て賄っているが、カルデアのサポートに切り替えれば消滅までの時間は遅らせられるだろうが…」
「…いや、それはやめておく」
突然そんなことをすれば、変に勘繰られてしまうだろう。
それをダヴィンチも分かっていたのか、強くは食い下がってこなかった。
「…この事は、他のやつには?」
「知っているのはモニターを行ったロマニと私だけだ。伝えるかどうかはキミの判断が必要だと思ってね」
「なら、このまま伏せておいてくれ」
余計な心配をかければ、今後激しくなる戦いについていけなくなる。
それ以上に、単純に心配をかけたくないという意地、我儘もある。
そんなこちらの心情を察してか。
「…分かった。皆には大した異常はなかったと伝えよう」
「ドクターにも伝えておいてくれ」
「了解。話は終わりだ……好きにしてくれていいよ」
それを聞き、寝ていたベッドを立ち上がる。
そのまま部屋の出口に向かい。
「…世話をかける」
「全くだね」
そんな軽口を交わし、俺は部屋を出た。