FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
半自動ドアを開け、外に出た先には。
「…ジャンヌ?」
ジャンヌが、佇むという表現が正しい様子でその場にいた。
やや俯いているせいで、表情が窺えない。
「……今の」
「?」
「どういうこと?…生命活動を、停止しているって……っ」
縋るように尋ねてくるジャンヌに、迂闊だったと少しばかり後悔する。
ここの壁は防音性が低すぎやしないだろうか。
「…ダヴィンチ」
「ん?私はジャンヌに言ったわけじゃないぞ?……運悪く、聞こえてしまったようだがね」
飄々としたダヴィンチに、もはや何を言う気も起きない。
というか、言うだけ言って引っ込むなとだけは言いたいが、もうどうでもいいか。
それよりも。
「っ…」
縋りついてくるジャンヌを宥める方が先決だった。
「…一応言っておくが、隠していたわけではないというのは…分かるか?」
とりあえず、ただ黙ったまま抱き着かれているのも落ち着かないので、話しかけてみる。
「分かってるけど…そうじゃないわよ」
「…」
「もう、どうあっても…助からないの?私には、マスターのために出来ることは…もう……」
そうか。
ジャンヌは召喚したその時から、俺を守ろうとしてくれていた。
自分が何かを守ることに不慣れだと自覚しながらも、ジャンヌなりに。
それが分からないなんて言うほど、無頓着なつもりもない。
「…」
けれどそれはあくまで、俺が
いくら守ろうとしても、死んでしまっては元も子もない。
確かにそうかもしれないが。
「…ジャンヌ」
いつの間にか、絆されてしまったのだろうか。
あるいは、ジャンヌのもともとのマスターの感情であって、俺自身のそれではないのかもしれない。
それでも、今は。
「っ…」
ただ、抱きしめてやることしかできない。
これが最適解なのかどうかは、はっきり言って分からない。
もっといい方法があったのかもしれないが。
「…そんな顔をするな」
今にも泣きそうな、辛そうな表情のジャンヌをこれ以上、見たくなかった。
ジャンヌ自身も顔を見られたくはなかったのだろうか、離れようとはしなかった。
「…言いたいことは、今のうちに全部吐き出せ」
「っ…」
俺の言葉に、ジャンヌは一瞬言葉を詰まらせるが。
「…ごめんなさい」
「あぁ」
「守ってあげられなくて、ごめんなさい」
「あぁ」
「マスターの負担にしかなれなくて、ごめんなさい」
「あぁ」
「何もできなくて、ごめんなさい…!」
「あぁ」
「う、ぅ…っ!」
溢れ出す言葉を、ただ、受け止める。
徐々に涙交じりになっていくその言葉の重さに潰されそうになる。
ただ、抱きしめることしか出来なかったとしても、それが少しでも辛さを和らげるのなら。
そう、信じることしか出来なかった。
………
……
…
そんなこんなで、どれくらい時間が経っただろうか。
「…落ち着いたか?」
「……ん」
こうすることを拒否するわけではないが、いかんせん場所が場所である。
誰が通るとも分からない、通路なわけで。
腕の力を少し緩めると、やや不満げな声を出しながらジャンヌも離れる。
少しだけ頬に涙の跡が残っているような気がする。
ジャンヌの白い肌にはやや目立つ気もするが、よく見ないとわからないレベルだったので、触れないでおくことにする。
「……戻るか」
戻っても流石に藤丸たちも解散しているだろう。
とりあえず部屋に戻るか、と考え、ジャンヌに背を向け歩き出そうとしたが。
「…マスター」
声を掛けられ、振り返る。
そこには、何かを決意した表情のジャンヌ。
表情は、いつものジャンヌだった。
「私は、諦めないわ…たとえ、もうどうにもならないとしても、マスターがここにいる限り、私はマスターのそばで、マスターを守る」
「……そうか」
「…観念なさい。何があっても私は最期まで…いえ、最期があったとしても、その先までずっとマスターを追いかける。絶対に放さないわ」
不敵な笑みすら浮かべるジャンヌはすっかりいつも通りな様子で、こちらも笑みが出る。
「…そうか」
それでこそ、なんて考えながら返事を返す。
「そういえば…モルガン達はどうした?」
共に行動しているとは思っていないが、どこにいるかまでは分からないので尋ねる。
ジャンヌはあぁ、と思い出したように何かを言おうとしたが。
「…ここ」
「っ!?」
背後から突然声がかかり、その声の元から少し離れて振り返ると。
「…彦斎」
「ん」
気配を感じさせずに近づくのはアサシンだからだろうか。
心臓に悪い。
「…これで、貴方の心臓が動き出せば儲け物だけど」
そう上手くはいかないか、なんて呟く彦斎。
見れば、近くにモルガン、リリスも控えていた。
もしやとは思うが。
「そっちも…聞いていたのか?今の話」
尋ねれば。
「…当然です。夫の一大事を妻が知らなくてどうするのです」
「ま、アテシらに隠し事はまぁ…無理ってことで、ね?」
抜け駆けなんてさせないよ?とジャンヌを牽制するように言うリリス。
それにもジャンヌは不敵な笑みを崩さない。
「…諦めたほうがいい。ジャンヌだけじゃない…私達も、貴方を簡単に見送ったりしない」
どう足掻いても、マスターは一人にはなれない。
誰が言ったか、その台詞に、ただ苦笑することしかできなかった。