FGO ~ Loopback Against the Order ~ 作:アルタナ
彦斎に引っ張られて部屋に戻る。
…というと語弊がある。
実際はついていっただけだが。
「…戻った」
戻った、とは言っているが、正しくは俺に割り当てられた部屋である。
まぁ、自分のサーヴァントなのだから、間違いではない、のだろうか。
「おかえりなさいマスター。あれとの会話は疲れたでしょう、少し休むといいわ」
皮肉たっぷりなジャンヌ。
「…全く、あれに気を遣う必要などあるまいに。お前が真に気にかけるべきは誰なのかをよく考えるべきだろう」
皮肉と、呆れを交えたモルガン。
「まぁまぁ、これがアテシらのマスターってもんでしょ。あんなのにも優しくできるって凄いよね」
笑って宥めつつも皮肉は欠かさないリリス。
三人の様子は至って穏やか。
剣呑な雰囲気は全くないのだが、藤丸に対するあたりだけが強く感じる。
まぁ、前途多難である。
「…どうしたの?座らないの?」
彦斎に促され、空いている席に座る。
すると、目の前にふわり、とマグカップが浮いて目の前に着地し、そこにティーポットから紅茶が注がれる。
モルガンの魔術だろう。
以前、ジャンヌとモルガンと俺の三人でお茶をした時に見たものだった。
「…ふぅ」
そうして、俺の隣に座る彦斎。
心なしか、近い。
もう少し椅子は離れていたはずだが、少し寄せたようだ。
「…なんか、近くない?」
同じことを思ったか、ジャンヌが指摘する。
気のせいではなかったようだ。
しかし、彦斎はというと。
「何か問題?」
この反応である。
さも当然のことをしただけ、といわんばかり。
「我が夫に些か近すぎやしないか?誰の許可を得てそこまで距離を詰めているのだ」
モルガンが言うが、別に許可がなければくっついてはならないわけではない。
尤もそれを言い出したらジャンヌやモルガンもそうではないか、とは思うが、それを言うのは野暮だろう。
そう思い、何も反論せずに淹れてもらった紅茶を飲む。
ストレートですっきりしていて、香りもいい。
「問題ない。私達は将来二人で小さな喫茶店を経営するのだから、このくらいの距離感は当然」
「……」
いつそんなことを言ったのだろう。
少し冷酷な性格なのかとも思ったが、案外夢見る乙女、なのだろうか。
「それに、私はまだ召喚されて日が浅い。少しくらいマスターとコミュニケーションをとっても構わないでしょう?」
まぁ、それは確かに。
ある程度の節度を守る分には問題はないだろう。
敢えて問題を挙げるとするなら、性別の問題はあるが。
彦斎は可愛らしい、というよりは美しい女性だと思う。
俺に限らず、世の男性で彼女のような女性にこう想われて平常心を保てる者はいるだろうか。
「ん?そういうことならアテシもくっついていい感じ?」
言いながら、彦斎の反対側からリリスが身を寄せてくる。
確かに、二人はほぼ同時に召喚をしたのだから、論理的に何ら問題はない。
ないのだが、これは俗にいう、両手に花というやつでは。
「……」
言うまでもないが、平常心は保てていない。
カップの紅茶に意識をやることで何とか平静を保とうとしている状態で、その紅茶もなくなりそうになっている。
「…ねぇマスター、ちょいとアテシの方見て?」
「?」
くい、と袖を引かれ、リリスの方を見る。
「んー」
すると、避ける間もなくリリスの顔が目の前に迫り、互いの口元が触れる。
リリスが口に咥えているものがこちらの口にあたる。
反射的に口を開き、それを受け入れる。
お茶請けに用意されていたクッキーらしい。
甘すぎず、美味しい。
「へへー。マスター、美味しい?」
悪戯な笑みを浮かべるリリスに頷くことしかできない。
咀嚼するクッキーはサクっとした感じがするが、ほんのりとリリスが咥えていたからか、湿っていた部分もあった。
少しだけ、味が違った気がする。
「…なんというか」
ふと、言葉を漏らす。
すると4人揃ってこちらを見てくる。
別に大したことを言うつもりは全くないのだが。
「……だいぶ、賑やかになったな」
思わず笑みが零れる。
一口、紅茶を含んでから彼女らを見ると、同じく笑みを浮かべていた。
どうやら彼女達なりにも、この空気は悪いものではないらしい。
それが分かっただけでも十分だった。
「我が夫よ。こういう空気は…苦手か?」
モルガンの問いに、少し考える。
得意とか苦手とかはあまり考えたことがなかった。
カルデアに来る前、学生生活やらなにやらでも、あまり輪の中心になるタイプでもなかったが、嫌いというわけでもない。
どう答えたものか、とも思うが。
「…あまり考えたことはないが、あまり慣れてはいないな。カルデアに来る前も基本的に大人数で集まることはあまりしなかったからな」
考えたところで答えなど出ようはずもなかった。
とはいえ、この答えでは気を遣わせてしまうだろうか。
「まぁ、この空気が嫌というわけではないが」
「…そうか」
付け足した言葉に、モルガンが一言だけ返す。
その一言にどんな感情が乗ったのかは分からないが。
「アテシってばそれ聞いて安心したよ、マスター。もし拒否られたらそれこそ霊核砕いて自害案件だからさ」
「……笑顔で恐ろしいことを言うな、リリス」
霊核っていうのは要はサーヴァントの核にあたるものだろう。
であればそれを砕くというのは、人でいえば心臓を貫いての自殺のようなものと考えるのが自然か。
それをさも当たり前のように言うとは。
「いや、アテシだけじゃないでしょ」
何言ってるの、と言わんばかりに俺と周りを交互に見るリリスに、つられて3人を見れば。
「「「当然(ね/だ)」」」
声を揃えて頷く。
まぁ、何となく分かってた気もする。
これは、思われていることを喜んでいいのか、あるいはその重さを痛感するべきなのか。
…両方か。
「…でもね。マスターがそれを重荷に感じる必要はないわ。私達はただ、マスターの傍にあればいい…その為に私達…私は、貴方の傍で戦っているのだから」
他のやつらがどうかは知らないけどね、とジャンヌ。
「魔女の言う通りだ、我が夫。お前は私たちのマスターとして在れば、それでいい。それこそが私達の望みなのだからな」
その為に、私はここにいる、とモルガン。
「へぇ。貴女達はそれでいいんだ。私は…それじゃ駄目。マスターとしてだけじゃなくて…伴侶として、傍にありたい。全てにおいて…貴方を守る」
喫茶店を開く夢、本気だから、と彦斎。
「みんな情熱的。そんな熱にあてられたら、アテシまで熱くなっちゃうって」
ま、熱いのは最初っからだよ、マスター?とリリス。
「……」
4人の決意表明に一瞬考えるように、彼女らの表情を見る。
すでに死んでいる、なんて言われるような状態で、未来なんてないかもしれない。
ともすれば使い捨てるマスターとしての便利枠に考えられているかもしれないのに。
「…強いな」
軽く笑いながら、視線をカップに落とす。
紅茶の色の中に、微かに表情が映るが、水面が揺れており歪んでいた上に、紅茶の色で表情など分からない。
自分の表情は分かりようがなかったが、それでも彼女らは、真っすぐとした視線を向けてきてくれた。
今の状況を憂う者など、一人もいない。
必ず、やり遂げてみせるといった決意。
あるいは、できないはずがないといった自信。
いずれにせよ、頼もしい限りで、そんな彼女らがサーヴァントとして共に戦ってくれることは、本当に心強い。
そんな状態で、俺が一人、諦観するわけにもいかない、か。
「…ならば、改めて…宜しく頼む」
顔を上げて彼女らの表情を見ながら。
「ジャンヌ」
「任せなさい」
「モルガン」
「…ん」
「彦斎」
「全てを、斬る」
「リリス」
「あい、宜しくー」
改めて彼女らの名前を呼ぶ。
彼女らは皆、応えてくれる。
…この先の事などまだ分からないが、できるだけ抗ってみるのも、よさそうだ。
マスター「ちなみに彦斎が俺を呼びに来たのは、たまたまか?」
彦斎「…戦いに勝った」
マスター「シミュレーター…か」
彦斎「違う」
マスター「…大丈夫なのか」
彦斎「きつい戦いだった。静寂な岩と鋭利な太刀、華麗に舞う葉が一堂に会する決戦で…」
マスター「…壮大に聞こえるが、ジャンケンじゃないのかそれ」
彦斎「そうとも言うらしい」
マスター「……」