Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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21世紀が始まって、しばしして。

世界の混沌は一向に収まる気配もなく、各国では様々な矛盾が噴出して多くの人々も、それ以上に地球そのものも汚染に苦しんでいました。

そんな中、南極にて異変が発生します。

シュバルツバースと呼ばれるその異常空間は、先進国が総出でも対応できない、人類史上初の「世界の危機」でした。


南極に出現せし難局
プロローグ


21世紀。

 

世界は混沌に満ちていた。

 

先進国と呼ばれる国家は何処もかしこも大混乱。経済も駄目なら政治も駄目。何もかもが駄目な時代で、少し前の未来予想図ではとっくに宇宙にいけていた人類は。互いに足を引っ張り合った挙げ句に未だに地上に貼り付いていた。多少実験的に宇宙に出る事もあったが、特別な訓練を受けた特別なものだけしか出られなかった。

 

発展途上国と呼ばれる国々は更に悲惨だ。

 

公害の問題は解決するどころか悪化するばかり。環境は滅茶苦茶になる一方で、人間のエゴがそれを更に加速させた。

 

各地でカルトが幅を利かせ、テロは頻繁に起きる一方。

 

こんな状況の世界では、どうしてもどうにもならない事が多すぎて。

 

人々の顔は明るくなりようが無かった。

 

そんなときに。更に不可思議な現象が発生したのである。

 

現在、地球再建機構と呼ばれている組織が結成されている。

 

米国が主導で作り上げた組織で、活動しているのは二十年ほど前から。各地の紛争を迅速に解決してきたことが有名で、また公害の解決にも力を発揮している。最貧国の経済再建や治安回復にも大きな成果を上げており、無力化した国連を遙かに凌ぐ実績を上げている組織だ。

 

どうしてこのような組織が奇跡的に作られたのかはよく分かっていないが。

 

少なくとも、この地球再建機構のテクノロジーは、各国の一世代上を行っていると言われており。

 

今、もっとも世界的に注目されている組織である。

 

その本部はロサンゼルスに存在していて。

 

現在各国の諜報機関の最優先ターゲットになっている。

 

まあ当然だろう。

 

此処が有している軍は、結成時は兎も角現在は米軍の供与を必要としないほどに強力であり。

 

凶悪なことで知られるテロ組織や麻薬密売組織を、実力で幾つも潰してきているのだから。

 

周囲十数㎞に及ぶ地球再建機構本部施設には、今まで何度かテロが試みられているが。

 

成功例は一度もない。

 

その地球再建機構本部施設中枢で、現在。複数の影が、モニタを見やっていた。

 

その中の一人は。なんと現職の米国大統領である。

 

今回最重要案件の対応に必要として招かれたのだ。他にも主要国のトップは軒並み招かれ、円卓について画像を見やっている。

 

解説をしているのは、目つきの悪い壮年の男性だ。

 

サナダというのが彼の名である。

 

「これが問題の「南極の穴」です」

 

「ふむ。 最初に発見されたときは南極点から天に伸びる一本の光の柱に過ぎず、直径も一メートルにもならなかったというが……」

 

「こんなに大きくなっていたのか」

 

おののきの声が上がる。

 

勿論これはトップシークレット。

 

南極に関する問題は現在注目度が低い。

 

情報が流出していないことだけが幸い、とでもいうべきだろうか。

 

いずれにしても、ここに来ているVIPでさえもボディチェックを受けてから入っている程の場所である。

 

「現在は直径102キロまで拡大。 上空数千メートルまで、接触しただけでプラズマ分解する障壁を展開しながら、更に拡大を続けております」

 

「非常に危険な状態だな」

 

「既に幾つかの基地を粉砕したという話だが……」

 

「その通りです」

 

咳払いをすると、サナダという男は続ける。

 

特殊な高性能ドローンを投入し、この内部の撮影に成功したという。

 

その結果、驚くべき画像が多数届いていた。

 

一つはまるで戦場だ。

 

燃えさかる街。

 

瓦礫だらけ。

 

ないのは人間の死体だけ。

 

武力によって蹂躙された地獄そのもの。そんな場所。

 

一つはショッピングモールだろうか。

 

だが、陳列されているものは極めてちぐはぐなものばかりである。それは醜悪で雑然としていて、文字通り似て非なるものだった。

 

困惑した声が上がる。

 

「これが、あの「穴」に本当にあるのかね」

 

「このドローンによる映像は、我が地球再建機構によるテクノロジーにより回収されたものです。 間違いありません」

 

「信じがたい……」

 

「こちらは……なんだ?」

 

また別の画像が出てくる。

 

それはまるで、廃棄物を垂れ流しにした河のような場所だ。

 

おぞましい色に染まっていてドラム缶まで映っている。

 

そのドラム缶には、どう考えても核廃棄物を示すとしか思えない、例のマークが刻まされていた。

 

困惑するべき状況はまだ続く。

 

一つは荘厳な寺院のような場所だが。

 

サンプルやら何やらと書かれた硝子シリンダが点々と散らばっている。

 

実験場なのだろうか。

 

だがそのすぐ至近に、どぎつい色をした歓楽街が存在してもいる。

 

人影はないが、あまりにもアンマッチ過ぎる光景だ。

 

いずれにしても、おかしな場所だとしか言えない。ありそうでありそうもない、違和感しかないものばかりである。不気味の谷に引っ掛かりそうな映像ばかりだ。

 

やがて、ドローンが拾ってきた映像が最大の違和感を現す。それは生き物のようだが、地球にいる何にも似ていない。強いていうなら、人間が想像する悪魔が近い。

 

その何者か手を伸ばしてきて。画像が途切れた。

 

「ドローンは合計十七機送り込みましたが、自衛能力も備えているドローンが全て同じように画像を途絶えさせております。 ただ、自衛能力を発揮して、この攻撃をして来た何かを撃退した例も」

 

「見せて欲しい」

 

「此方になります」

 

映像が出る。

 

ドローンに据え付けられている重火砲が火を噴き、その何か良く分からないものを滅多打ちにしている。

 

それが粉々になって崩れ落ちる。

 

そして、光のような何かになって消えている。

 

生物の死に様とはとても思えないが。

 

はっきりしているのは、鉛玉は効くと言う事だ。直後にドローンも破壊されたが。

 

「あれは一体何だ」

 

「とてもこの世の生物だとは思えない!」

 

「実は、ドローンは三波に渡って送り込んでいます。 最初の内は、攻撃を受けて破壊されたことが分かりましたが、どこからどのような攻撃を受けたかが全く理解出来ない状態でした。 そのため分析を進めて、解析したのです。 その結果、映像が見えるようにはなりました」

 

「高度な光学迷彩のようなものなのか」

 

皆が顔を見合わせる。

 

光学迷彩は現在開発途中の技術であり、何処の軍でもまだ一線級で活躍させられるところまでは来ていない。

 

仮に実戦投入できるとしても、それは限定的な条件下であり。完全に相手から姿を隠蔽するなんて事は無理だ。

 

だが南極の謎の空間では、それをやる奴がいる。

 

しかも、どう考えても知的生命体であろうことは確実である。

 

困惑しきっている各国VIP。

 

サナダという男は落ち着きすぎている程だった。

 

「現時点で、この謎の空間。 シュバルツバースと名付けられた場所を調査するための部隊の編成を終えています。 後は幾つかの物資と、各国の協力が足りません」

 

「人をこのような場所に送り込むというのか!?」

 

「困難は分かっております。 故に最高のスペシャリストチームを編成。 我が地球再建機構の総力を挙げます」

 

「……」

 

顔を見合わせる各国首脳。

 

サナダ自身も赴くことを明言しているだけでは無い。

 

そもそもこの地球再建機構のトップは、伝説となっているある人物である。

 

他にもあまりにも有名な人物を、サナダが作戦参加の名簿として上げると。

 

各国首脳も、納得したようだった。

 

「このままでは、拡大を続けるこの空間は、南極全てを飲み込み、やがて地球全土に拡がっていくでしょう。 この外縁部の障壁に触れると、何もかもが破壊されることも既におわかりの通りです。 世界のために、力を貸していただきたく」

 

「……分かった、力を貸そう。 金であれば出せるだけ出す」

 

そう最初に言ったのは、先進国首脳として呼ばれている一人だった。

 

決して裕福な国ではないが。

 

この首相は良識的な人物として知られていた。

 

それが決め手となったのだろう。いわゆる鶴の一声である。

 

それぞれが、出せる物資について説明を始める。

 

秘書官を連れていて、耳打ちしながら手配を進めている者もいる。

 

すぐには答えられないと言った者もいた。

 

サナダは静かに笑う。

 

悪人面だから、笑顔には凄みがあった。

 

「少し休憩時間を設けましょう。 ……ですが、これだけは言っておきます。 我等地球再建機構が貴方方にして来たあらゆる意味での支援を忘れて貰っては困ります」

 

「分かっている」

 

少し苛立った様子で、各国の首相達が出ていく。

 

部屋の中で最後まで残っていたサナダは。

 

大きくため息をついた。

 

「私が知る21世紀よりかなり混乱が激しいな。 22世紀末に「彼ら」が攻めてくるまでに対応する準備を整えておけるか不安になってくる。 まあ「この世界」に存在するかも、そもそも攻めてくるかも分からんが」

 

「真田君。 状況はどうかね」

 

「正太郎長官」

 

敬礼をするサナダ。いや、真田。

 

正太郎と呼ばれたのは、豊富な白い口ひげを蓄えた人物だった。

 

この人物こそ、真田の最初の盟友にて。

 

地球再建機構を設立。

 

来るべき時に備え、地球の統一機構を作るべく、邁進する組織を運営してきた第一人者である。

 

古くは第二次大戦後の混乱期から最前線にて戦い続けていた人物であり。

 

既に年齢は80代に達しているが。

 

老人として衰えながらも。

 

まだまだ現役である。

 

なお今回の「探査」に赴く一人でもある。

 

勿論、最悪の事態に備えている。長官職の引き継ぎも既に済んでいる状態だ。

 

「いずれの国々にも、既に根回しは済ませてあると報告が来ております。 後は「調査艇」に積み込む物資の供出を待つばかりです」

 

「人員は揃えたからな。 訓練は大丈夫か」

 

「恐らくは。 専門家が接触を図ってきてくれたのは僥倖でしたね。 何名か先に手を回していた人材だけでは、苦戦は免れなかったでしょう」

 

「うむ……」

 

正太郎長官が、頷く。

 

真田には分かる。

 

正太郎長官は、この「遠征」を人生最後の大仕事にするつもりだ。

 

頭が働くのがこれが最後だろうと以前話していた事がある。

 

誰だって衰える。

 

この人は、十代前半から伝説的な活躍をしてきた存在であり。

 

当時から、子供でありながら大人以上の頭脳と行動力だと言われていた。

 

実際偉業を幾つも達成している。

 

だが、それでも。

 

世界はまだまだ。

 

混乱の中にある。

 

この人ほどの偉人が出ていながら、世界の混乱は今だ収まっておらず。人間は宇宙に出る事さえロクに出来ていない。

 

真田は頭を振る。

 

「それにしても、貴方ほどの傑物がいながら、地球がこれほどまとまるのが遅れているとは……」

 

「やむを得ん。 それに「君の世界」では、もっとずっと早く地球がまとまって宇宙進出を果たしていたようだが。 その代わりに強大な侵略者の前に為す術がなかったのだろう」

 

「はい。 それはそうなのですが」

 

「バタフライ効果という奴だ。 私が幾ら頑張ろうと、小さな事の組み合わせで幾らでも問題は起きてしまう。 問題は相互に作用し合い、誰にもどうにも出来なくなる。 この世界は、そういう世界だと言う事だろう」

 

幾つか、打ち合わせをする真田と正太郎。

 

やがて正太郎が戻っていく。

 

この年で杖も使っていないのは流石だ。頑健と言える。

 

真田は見た目通りの年齢肉体では無い。

 

全身の殆どが生身では無い。

 

やがて、首脳達が戻ってくる。

 

官僚との調整が終わった、と言う事だろう。

 

「支援できる物資について調整がついたよ。 これらを供出しよう」

 

「どれ。 確認します」

 

「分かっているとは思うが……」

 

「……この度の遠征は、「誰かのため」ではありません。 「誰ものため」です。 そしてそもそも、地球がいつまでも外来種の襲撃を受けないとは言えません」

 

真田が顔を上げる。

 

にやりと笑うと。首相達は皆明らかに怯んだ。

 

それはそうだろう。

 

真田が想像を絶する修羅場をくぐってきている事が、すぐに分かったはずだからだ。

 

彼らもろくでもない世界で、ろくでもない事をしてきた者達なのだから。

 

「これは最初の良い機会でしょう。 地球人類は今まで無駄な身内の争いで血を流しすぎたのです。 そろそろ、目を覚まして知的生命体らしくあるべき。 そう思いませんか」

 

「……」

 

「この物資であれば充分です。 これで、どうにかして見せましょう」

 

「物資については、可能な限りの範囲で供出している。 それは疑わないでくれ」

 

米国大統領が言うと。

 

ロシア大統領も頷いていた。

 

真田は頷くと、その場は解散となった。

 

誰も座っていない円卓を、さっと片付けていく人々。

 

「地球再建機構」に所属している面々である。

 

最初、「地球防衛軍」という名称をつける予定だった組織だが。

 

そもそも何から防衛するのか、という事情もあり。

 

結局「防衛軍」ではなく「再建機構」となった。

 

今や各国の紛争の半分を解決していると言われる地球再建機構だが。

 

それでもこの星から。

 

紛争も。

 

差別も。

 

公害も。

 

無くなる気配はない。

 

「真田技術長官」

 

「うむ」

 

「例の方が、話をしたいと」

 

「分かった、すぐに出向く」

 

真田は部下に声を掛けられると忙しく移動し。

 

大きなドーム状のこの地球再建機構本部の中を移動する。

 

各国の首相が、それぞれVIP専用機で。施設内のエアポートから帰還しているのが横目に見えた。

 

テロリズムがまだ世界に蔓延っている今。

 

此処を重武装にしない訳にはいかないのである。

 

地下に出向く。

 

其所には、今回の調査の切り札が。

 

それこそ山のように積まれていた。

 

ドローンの調査の結果、あの光の壁の内側の世界は、とてもではないが人間が生きていける場所では無い事が分かっている。

 

故に、先に準備をしておかなければならない。

 

幸いというべきか。

 

真田はそもそも、人間が生きていけるような場所では無い、他の場所での戦歴を積み重ねてきている人物だ。

 

対策については。

 

専門家中の専門家とも言えた。

 

作業をしていた部下が敬礼をしてきたので、敬礼を返す。

 

視線の先には。

 

あまりにも不釣り合いなものがあった。

 

田んぼ、である。

 

勿論、屋外に作られたものではない。

 

土などは外から運び込まれているが。

 

水や生態系などは、一種のビオトープとして作り上げたものだ。それをコンパクトに、三十メートル四方ほどの空間内にまとめてある。その真ん中に田んぼがある。周囲には敢えて害虫なども放してある。流石に日本住血吸虫のような致命的なものはいないが。

 

その田んぼでは、既に豊かに稲が実っており。

 

誰かが収穫をしていた。

 

それほど大きな田んぼでは無いが。

 

これで充分だそうである。

 

真田と敬礼をかわしたのは。古い時代に「書生」と呼ばれたような姿をしている人物である。

 

ただ軍人よろしく腰には刀をぶら下げ。

 

更にベルトに拳銃も刺していたが。

 

口元には髭がある。

 

年齢は、三十ほどである。

 

運良く接触できた、「専門家」の一人だ。

 

「どうですかな、彼女は」

 

「其方の準備が整うまでには間に合うだろう。 やはり収穫の度に大きく力を増しているのを確認した」

 

「意思疎通は大丈夫ですかな」

 

「問題ない。 最初は本当に苦労したが、今ではごく友好的だ。 そもそも傲慢不遜で人間を支配する事しか考えていない者も多い中、極めて我々に近しくある例外だったのだろう」

 

頷く。

 

そして真田は言う。

 

「葛葉さんには、他にも色々なアドバイスを貰った。 本当に感謝してもしきれない」

 

「これは「俺が直面する今までで最大の危機」だ。 解決できるか分からないし、まだ感謝されるのは早い。 他にも俺同様に様々な者が集っているというのは、つまるところそういう事だろう。 真田さん、貴方も勿論中には含まれる」

 

「そう言われると心苦しいものがあります。 私は「見届ける事が出来なかった」身だ」

 

「それならばなおさらだ。 「今度こそ」だ。 全力を尽くして共に戦おう」

 

数多のスペシャルが、此処には集っている。

 

地球史上最大の危機。

 

正確には、人類史史上、だろうか。

 

故に多数のスペシャルが集った。

 

真田はその中の一人に過ぎない。

 

さあ始めよう。

 

どの道この星は、いずれ何度も試練に晒される可能性が高い。

 

その時に対応する能力を備えるためにも。

 

この最初で最大の試練を。

 

乗り切るのは、必須なのだった。

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