最後の大母の空間で、暴れ狂っていたマンセマット。悪魔を見るや殺し、骨も残さず食い荒らす。
既に鬼相は天使としての面影も残しておらず。
最後の大母の空間を彷徨く凶悪な悪魔達も、マンセマットを見るだけで交戦を避けていた。
そんな中、狂気のまま殺戮を繰り返し。あろうことか迷い込んでいた他の天使を殺して喰らっていたマンセマットは。
顔を上げていた。
どうやら、大母が目覚めたらしい。今までの大母とは比較にもならないと言う事は分かっていたのだが。
それでもその圧倒的な力は、もはや化け物となり果ててしまったマンセマットでさえ、思わず息を呑むほどだった。
動きを止めたマンセマットは。口を拭う。
たくさんの悪魔を殺して喰らった。そして、自身の姿がもはや堕天使になっている事も分かっている。
だからこそ、マンセマットは凄惨な笑みを浮かべていた。
これぞ、好機だ。
ふらふらと、深淵の最深部を目指す。
最後の大母メムアレフは、文字通り地球のルールを決定しうる存在。そんな怪物を御しきれる訳がない。
無理矢理に倒すか、それとも乗っ取るか。
どちらか二択だ。
いつの間にか、深淵のまた最深淵にマンセマットはいた。そこは巨大な空間で、まさに地球の心臓部とでも言うべきか。
周囲にはマグマなどが流れている河があり。発光するマグマにより地底にもかかわらず明るかったが。
その奥は、闇に落ちたマンセマットでさえ。闇が濃いと感じる程だった。
「だれぞ……」
声が聞こえる。
マンセマットは、歓喜に震えた。
どうやら、大母は既に目覚めている。それが分かれば充分だ。それに今のマンセマットは混沌に傾いてしまっている。既に堕天使になっているからだ。
混沌に傾いている大母には攻撃されない。その筈である。
「我が名は堕天使マンセマット。 大母メムアレフよ、お初にお目に掛かる」
「マンセマット? ……ああ、マスティマとも呼ばれる羽虫か。 鬱陶しいから我が前より失せよ。 そなたには何の用も無い」
「幾つも役に立つ情報を持ち合わせておりますが」
「いらぬ。 そなたの情報など、何の役にも立たぬ」
箸にも棒にもかからぬか。
だが、別にどうでも良い。マンセマットは恭しく礼をすると、その場を離れる。確認したかったのは。あれがどれだけの強さを実際に持っているかだ。
くつくつと笑いが零れる。
あれは、どうしようもない。明けの明星ですら、倒す事は不可能だ。人間共が鉄船に乗り込んでここまで来たとしても、どうにもなるまい。それが確認できれば、もはやマンセマットには後がどうなろうと、それこそどうでも良かった。
奇声を上げてマンセマットは跳び上がる。
まだまだ食い足りない。
アレには勝てない事が分かったが。それでも、唯野仁成とかいう人間や、あのゼレーニンとか言う雌豚には思い知らせてやらなければ気が済まない。ましてやあの大天使ガブリエルは絶対に許すことが出来ない。
必ずや殺して、八つ裂きにして、喰らってやる。
完全に頭のネジが外れたマンセマットは、待ち伏せをすることに決める。
唯野仁成は殺す。
いや、他も全部殺す。
そして喰らった頃には、あの明けの明星にも勝てる実力が備わっているはず。そうしたら、明けの明星も殺す。
最後には、大母が初期化した世界に降り立ち。
絶対神の座について、新しい世界に誕生する知的生命体達の支配者になる。
一つ気になる事はある。
デメテルが何を目論んでいるか分からない事だ。
ただ、それもどうでもいい。
大母が地球を初期化してしまえば、それでおしまいなのだから。
狂気の笑いを上げながら、飛び回って餌を探す。もうエサは何でも良い。見かけた相手は全部エサだ。
ふと、気付いて鏡のようになっている切り立った岩を見る。黒曜石だろう。姿が写った。
其所には、もはや大天使だった頃のマンセマットの姿はなく。
巨大な鳥のように羽毛に覆われ。
耳まで裂けた口には牙が並び。
目には煌々と赤い光が宿った、悪魔が写っていた。
それを見ても、もはや今のマンセマットは何も思う事はなく。ぎゃっぎゃっと狂気に笑いながら、飛び回るばかりだった。
(続)
知らされる絶望の未来。
破滅の明日を回避するために、取り合えなかった手がついに握られることとなります。