だからこそ汚れ仕事を厭わなかった。
だからこそだからこそ。
人間の信仰に歪められたことも。
寵愛を受ける他の天使の姿にも我慢ならなかった。
マンセマットは気付く。奴が、来ている。
もはやマンセマットは、完全に獣と同じになっていた。周囲の悪魔を手当たり次第に襲っては喰らい。己の力に変えていく。それは原初の営みであり、神の使徒たる天使のものでもなく。
ましてや、知恵ある存在がするべき事でもなかった。
堕天使となった事についても、別にもうどうでもいい。
ただ復讐を。怒りをぶつける相手を。それだけを求めていた。
既にマンセマットは、堕天使ですらなかったのかも知れない。最低限にまで落ちた、元は大天使だった何者か。
皮肉な事に、それは一神教が時代を経る度に先鋭化させていった、悪の権化としての悪魔の姿にもにていた。
古くは悪魔は別に悪の権化でもなかったのに。
今のマンセマットは、自身が獣以下に墜ちている事を理解していながらも、それを笑ってさえいた。
さあ、来たか。
これだけ力を増したのだから関係無い。此処からは、単純に力勝負に持って行く。そして潰してやる。
下り坂の途中。
下は溶岩の沼地が拡がっている。
其所で、マンセマットは、四つん這いになって敵を待つ。
現れる数人の人間を見ると、喉からもはや言葉では無い何かが漏れていた。純粋な呪詛であり。敵意そのものの唸り声だった。
「あれがマンセマット!? 嘘でしょう……」
「いや、間違いない。 データが一致する。 気を付けろバディ、もはや言葉が通じる相手ではないぞ」
「元々拗らせていた輩だ。 墜ちればあのようにもなる。 わしも墜ちて人ではなくなった者は見た事があるが、哀れなものよな」
「……」
確かアレックスと呼ばれる赤黒。一緒に行動していたのか。それに異国のデーモンサクナヒメ。奴らは口々に言うが。ゼレーニンは黙り込んでいた。
召喚されるガブリエル。
光を見て、敵意を更に強くするマンセマット。
もはや、光は敵だった。
唯一絶対の神は、人格を持っている。一神教では絶対神と言えば法則の塊のように説明をしているが。実際には聖書を見ると様々な発言をしているし、人間を試して家畜かどうか確認するし、気分次第で人間にちょっかいも出す。
勿論その周囲には、寵愛の深い天使を侍らせる。実力など、関係無しに。
ガブリエルは一神教でも特に神の寵愛深き存在で、キリスト教でも四大、イスラム教では最重要の天使に位置している。
だからこそ、今は見るだけで殺意が湧いた。
ゼレーニンは、前に出ると静かに語りかけてくる。
「マンセマット。 貴方は哀れな存在ですね。 今なら分かります。 どれだけ働いても認められず、汚れ仕事をしているからという理由で信仰の中でも貶められ、ガブリエルに嫉妬するその様子では恐らく天界でも肩身が狭かったのでしょう」
「……」
ゼレーニンの言葉を、ガブリエルは静かに聞いている。
サクナヒメはいつでも仕掛ける体勢を崩していない。この戦力でも、勝てる自信はあるが。一つだけ気になるのは、唯野仁成の姿が見えないことだ。
あいつの居場所だけは特定してから襲いかかりたい。
ただ、ゼレーニンの言葉が。
あまりにも正論であり、自身の境遇を示しているからか。耳障りでならなかった。
「おのれ……黙れこの汚らしい雌豚めが……」
初めて言葉らしいものがでた。
ゼレーニンは以前のように、汚い言葉でいちいち傷つくようなこともなかった。前は極上の乙女だったのに。今はすっかり図太くなっている。
もう、歌唱機に仕立て上げることも不可能だろう。
あれは精神が弱かったから出来た事だ。今は、どうあっても、都合の良い道具には仕立て上げられまい。
「愚かな人間が! せっかく私の道具として、世界を統べる存在になり得たというのに!」
「……」
「待ってアレックス」
静かにブチ切れて前に出ようとするアレックスを、ゼレーニンが静かに止める。
そして、此方を見た。
何故だろう。マンセマットは、凄まじい怒りが、更に沸騰していくのが分かった。
だって、その目が。
都合良く人間が脚色し美化した、信仰の果てに作り出された慈愛と哀れみの視線にそっくりだったからだ。
「一度さよならは言いました。 ですが、最後にもう一度だけ貴方に機会を与えようと思います。 地獄にでも魔界にでも好きなところにいきなさいマンセマット。 私は追っていこうとは思いません」
「笑止っ!」
吠え猛るマンセマット。
ついに、完全に怒りが爆発していた。
「人間め! そんなことだから貴様らは間違うのだ! 私はそもそも間違って等いなかった! 唯一絶対の神に従って汚れ仕事をしてきただけだった! それなのに貴様らが間違ったから、我が身はどんどん穢れていき、信仰の中で堕天使に落とされていった! この姿は貴様らのせいなのだ! 最初から神の傀儡として、言う事だけ聞いていれば……!」
「それは違うわマンセマット」
「何だとっ!」
「信仰は時代と共に変遷していくものよ。 一神教の初期、ユダヤ教は復讐と排他の思想に過ぎなかった。 後から産まれたキリスト教は隣人愛の思想を説いたものの、悪い人間達に利用されてすぐに原罪と復讐、絶対服従の思想へと変わっていった。 更に後期に出現したイスラム教も同じよ。 砂漠の過酷な環境で生きるための思想が、どんどん歪められていった。 悪辣な支配者にはそれが都合が良いからよ。 勿論良い方向に変わろうとする自浄作用も働く事がある。 でも、ずっと同じであるものではないの。 一神教は最初から今に至るまで変わり続けているもの。 それは神が例えいるとしても、その存在が絶対などでは無い証拠よ」
驚いたようにガブリエルがゼレーニンを見る。
ふっと鼻を鳴らすサクナヒメ。
アレックスも、なぜだか本当に驚いた様子でゼレーニンを見て。そして視線をバツが悪そうにそらしていた。
ゼレーニンは更に言う。
「確かに影響力においては今や世界でも一神教は最大かも知れない。 だけれども、それは相対的に力が一番強いと言うだけのこと。 宇宙の始まりはまだどうしてかは分かっていないけれども、それが一神教の神によるものではないことだけは確実よ。 宗教として最古の存在ですら無い。 隣人愛と許しの思想をねじ曲げたのは人間達。 それは貴方の言う通り。 だけれども、神が絶対だったら、そのような事で貴方のような犠牲者が出たのかしら?」
「……その通りですゼレーニン。 勘違いされやすいですが、我等が父たる神は、最強の神格であるに過ぎません。 その存在を絶対としたのは、優位性を担保したかった後の人間達です。 天使なら誰もがそれに気付いています。 マンセマット、貴方は主たる父への愛が深すぎて、道を間違えてしまったのです」
ガブリエルの言葉に衝撃を受けたマンセマットは、思わず動きを止めてしまう。
そして、それが致命的だった。
背中に灼熱が走る。
今までの問答の間に、気配を完全に消して近寄ってきていた唯野仁成による一撃だった。
一瞬で翼を全て切りおとされ、悲鳴を上げながらマンセマットは飛び退く。そしてわめき声を上げた。
溶岩の中から、大量のムスペルが姿を見せる。
二十や三十ではない。この数のムスペルに囲まれれば、此奴らだって、ガブリエルだって、防戦一方にならざるを得ない。
ムスペルは勿論マンセマットにも襲いかかってくるが、別にそんな事はどうでもいい。奴らさえ殺せれば。後は逃げてけたけた笑うつもりだった。
坂道を凄まじい勢いで駆け上がってくる大量のムスペル。
マンセマットを完全に無視して、サクナヒメが行く。
威嚇の声を浴びせるが、もはやマンセマットを見る事すらしなかった。興味すら持っていないことに気付いて、マンセマットは絶叫していた。
「お前の相手は此方だ」
「おのれこの」
以降はもはや言葉にならなかった。
全身が更に異形に変じていくのが分かる。悪魔に相応しい姿になっていく。喰らった悪魔の力を完全解放しているからだ。
もはや天使の象徴たる翼すらいらない。無数の手足を生やして、蜘蛛のように這いながら唯野仁成に襲いかかる。
だが、唯野仁成の残像を抉るだけ。
え。
まさか、こんなに。短期間で、此処まで力が上がっているというのか。
召喚された悪魔達。その中には、おお。あの最強の雷神として知られるゼウスまでいるではないか。
ゼウスの雷撃が、文字通りマンセマットを打ち据える。
更に、唯野仁成の悪魔どもが、一斉に魔術を叩きこんでくる。
見苦しい絶叫を迸らせながら、それでも探す。
せめて、ゼレーニンののど頸を食い千切ってやる。痛みが全身を絶え間なく襲い、手足が吹き飛ばされるが。
それでもマンセマットは、最後にやるべき事を果たそうと、必死に狂気に染まった目を動かし続けた。
いた。ゼレーニンだ。
だが、次の瞬間、巨大な蛇に全身が締め上げられていた。それが魔神アモンだと気づき。必死に引きはがそうとして出来ない事に気付いて、マンセマットは絶叫する。もう、言葉など出てこなかった。
「もうゼレーニンへの復讐心しか残っていないのね。 哀れなけだものだわ」
「油断するなバディ。 これでも元高位の大天使だ」
「……マンセマット。 最後に聞きます。 もう、貴方は元に戻ろうとも思わないのですね」
「くどいっ! 貴様ののど笛、食い千切って……」
そこで、意識は途切れていた。
後は、闇の中。
マンセマットは、何処までも墜ちていくのを感じた。肉体を失い、魂が文字通りの深淵に引き込まれていくのだ。
いやだ。誰よりも神を愛した自分が、どうしてこのような目に。ゼレーニンの言葉が思い出される。
神は絶対では無い。相対的に力が一番大きいだけだ。
ああ、そうか。絶対などと言う、そもそも万能のパラドックスを超えられもしない力を持っているという設定の時点で、神の力は破綻していたのだ。
その思考は愛に満ちていたか。違う。特定の天使を寵愛し、汚れ役を嫌っていたではないか。
必死に愛されようとしていたマンセマットに報いたか。
汚れ仕事を押しつけておきながら。それだけで放置していたではないか。
何よりも、人間共の信仰によって歪みはて、赦しの思想も隣人愛の思想も失っていたではないか。
如何に信仰心を集め力に変えるか。それだけしか考えていなかったでは無いか。
闇に溶けながら、マンセマットは己の愚かさに、最後に怒りを向けていた。
これだったら、一部の勘違いした神学者どもがいうように。最初から堕天使になっておけばよかった。
汚れ役がこのような扱いを受けるのだったら。そうすれば良かったのである。
ああ、カマエル。サリエル。同志達よ。
そなた達は、もう堕天してしまった方が良い。どうせ天界にもう席は無い。地獄にも席は無いかも知れないが。
それでも、此処まで墜ちることは無いだろうから。
この時、マンセマットは。自分の手から、信仰を手放していた。そして、もはや堕天使ですらもない。
一つの暗い魂となって。深淵の果てに消えていったのだった。
アモンに押さえ込まれていたマンセマットの首を叩き落とした唯野仁成は、ゼレーニンに声を掛ける。
大量のムスペルを姫様が食い止めてくれている状態だ。恐らく、マンセマットが最後の力を使って、ムスペルの気配を隠蔽していたのだろう。
すぐに姫様に加勢しなければならない。だから、時間はない。
「ゼレーニン、増援を手配してくれ。 アレックス、力を貸してくれるか」
「ええ。 分かっているわ。 任せて」
「言われるまでもないわ」
アレックスは、多数のムスペルをあしらいながら猛然と戦っている姫様に加勢して、当たるを幸いに薙ぎ払い始める。
ゼレーニンはガブリエルに助けられ、少し下がる。状況を連絡し、増援の手配に集中するのだろう。ガブリエルはそのまま、光そのままの姿でありながら、味方を守る光の盾を展開し続ける。そして、他の機動班クルー達も悪魔を展開。
本格的な戦闘を開始した。
坂道の上という有利な条件はあるものの。相手は世界を焼き滅ぼす巨人の群れだ。姫様とアレックスだけでは防衛線は足りない。
アリスに指示を出すと、すぐに最前線に突貫。
アリスが詠唱を開始。ゼウスが雷撃を敵の群れに叩き込んでいるのを横目に、唯野仁成は中距離からアサルトで支援。時々、大きめの術を唱えようとしたり、姫様やアレックスの間合いに入った相手をライサンダーZで撃ち抜く。頭を吹き飛ばされたムスペルがマッカに変わって消えていくが、溶岩が余程心地よいのか、無尽蔵にムスペルがはいあがってくる。
だが、逆に言えば好機。
此処で一気にムスペルを叩いてしまえば、後ろから襲われる事もなくなる。
少しずつ姫様とアレックスが下がってくる。けらけら笑いながら、シャイターンが相手に魔術の雨を降らせているが。何しろタフなムスペルだ。倒し切れるほどの火力は出ていない。
ほどなく、アリスの詠唱が完成。
それに気付いたサクナヒメが、アレックスと共に飛び下がる。
全力で魔力を増幅したアリスが、周囲に死そのものを叩き込んでいた。
「アハハハハハ! 死んじゃえ死んじゃえ!」
文字通りの闇。真の黒。死そのもの。
世界を焼き尽くす巨人ですら、それにはあがなえず、ごっそりと数が減っていた。
ゼウスが感心するほどである。
「おう、童のわりにはやりおるな……!」
「わらべじゃないもーん」
「ははは、そうか。 ならば育った暁には俺の后にしてやろう」
「やだー」
愉快なやりとりをしているゼウスとアリスだが。
ムスペルはごっそり密集しているところを削り取られたが、全てが滅んだわけでは無い。アナーヒターが連続して冷気の魔術を叩き込み。味方機動班クルーの悪魔もそれぞれ得意な炎以外の魔術を叩き混んでいるが、それでもとても足りていない。
其所へ、光が降り注いだ。
文字通りの慈愛の光だ。疲労がとけるように消えていく。見ると、あの聖母マリアが、両手を拡げて崖上に立っていた。
凄まじい回復魔術だ。メイビーが今ヒメネスとこっちに向かっているという話だったが、ということは。
ムスペルの頭を、立て続けに連続で狙撃が撃ち抜く。何処で撃っているのかさえも分からない。いずれにしても、ストーム1による狙撃だ。そして、高笑いしながら姿を見せるのはスルト。
ムスペル達の王だ。更に、インドラジットも、威圧的に多数の腕と頭を揺らしながら、前線に突入する。
「待たせたなヒトナリ!」
「よし、一気に片付けて敵の前線を押し込むぞ!」
「応ッ!」
姿を見せたヒメネスと共に、アサルトを連射しながら崖下に駆け下る。姫様とアレックスに合流すると、更に炎の剣で子分達をゴミのように蹴散らすスルトと、大量の武器を使って文字通りムスペルを寄せ付けないインドラジットと共に防衛線を作る。
唸りながら拳を繰り出してくるムスペルの腕を切り割ると、跳び上がって頭を唐竹に切りおとす。
消えていくムスペルを見て、ムスペル達が流石に怯む様子だが。だが一瞬だけ。すぐにまた襲いかかってくる。
これは恐らくだが、メムアレフに攻撃するように指示されていると見て良いだろう。
ならば、徹底的に叩き潰す。それだけだ。
形勢不利と判断したか、ムスペル達が一箇所に固まる。そして、全火力を展開して、叩き込んでくる。
その一撃を防いだのはガブリエルによる魔術の盾だ。それに、アレックスが召喚した魔女ランダの盾もあった。
戦線を押し込んでいく。
姫様は単独で常時数体のムスペルを相手にして、片っ端から斬り伏せていくが。流石に其所までは他の誰にも出来ない。
だが坂の下、溶岩の池に囲まれた場所に辿りついた頃には。周囲のムスペルは、相当に数を減らしていた。
ストーム1による狙撃で次々倒されていくムスペル。
もはや形勢は確定。一気になだれ込んできた味方機動班クルー達と、更には悪魔達により。数の暴力でムスペルを蹂躙していく。
完全にムスペルが出現しなくなったのは、マンセマットと会敵してから丁度一時間後。
呼吸を整えながら、唯野仁成はトリアージをと叫び。自身は、周囲に対して気配を探った。まだ大物がいるかも知れない。
大物は、いた。
ただ、敵ではなかったが。
いつの間にか、溶岩の上にぽつんと出ている岩に。ちょこんと座っているその姿。
堕天使さいふぁーだ。
呆れた。足を揃えて、スカートに行儀良く手を乗せて座っている様子は、訓練されたメイドそのものだ。
一瞬で、此方に転移してきたさいふぁーは。マンセマットの存在していた跡を示す、マッカの山と情報集積体を見つめていた。
ガブリエルは不愉快なのだろう。自身からゼレーニンのPCに戻ったようだが。勿論それを気にするさいふぁーではない。
「最後まで愚かな人でしたぁ。 結局の所、盲目的な愛は全てを狂わせる。 いや、あのマンセマットの場合は、狂信というべきでしたけれど」
「それでマンセマットを笑うためだけに来たのか?」
「いいや。 ついにマンセマットを打ち砕いた貴方たちを褒めに。 それと……」
小さな手で指さすさいふぁー。
溶岩に浮かぶ島。そこには、妙なものがあった。空中に回転しながら浮かんでいるそれは、何だか卵のように見えた。
「あれは宇宙卵。 世界の力を込めた、小さな宇宙そのものといっていいほどの力の塊だよ。 恐らく、君達の計画の最終段階に必要になってくるはずだ。 持っていくと良いだろう。 あと三つ、存在している」
「……前はなかったようだったが」
「大量のムスペルが倒れたことで、姿を見せたと言う事だ。 ムスペルは世界の滅びを告げる巨人。 その巨人達の死と、存在が連動していたと言う事だよ」
ゼレーニンが来ると、即座に宇宙卵を回収する。頷くと、後はヒメネス達に任せて、宇宙卵を方舟に輸送する。
世界の力を凝縮した小さな卵か。
調査班とすれ違う。記録的な数のムスペルを倒したのだ。膨大なマッカや、それに情報集積体も回収出来る。
マッカはそのまま方舟クルー達の連れている悪魔の強さに直結する。
どれだけあっても、足りないと言う事はないのだ。
方舟に戻ると、真田さんが待っていた。ゼレーニンを見ると、少し同情するように声を落とした。
「やっと、決着を付けることが出来たな」
「はい。 これで、因縁が終わりました」
「うむ……。 それでは、その宇宙卵は此方で解析しよう。 それからゼレーニン君、君は研究室へ。 もう少しで解析が終わる。 シュバルツバースの解析が完全完了すれば、恐らくだが……メムアレフを弱体化させる事が出来る」
「!」
むしろ反応したのは唯野仁成だが。
真田さんは、後はゴア隊長とアーサーに従うようにと言って、そのまま研究室にゼレーニンを連れていった。
いずれにしても、これで懸念事項の一つが消えた。
ただ、気になるのはデメテルだ。何を目論んでいるのが最後まで分からないのである。
ゴア隊長に事態の推移を報告すると、二時間だけ休憩してから、戻って来ていた機動班クルーと共に、またあの溶岩の中に浮かぶ島に戻るようにと指示を受けた。
今、調査班が作業をして、架橋とエレベーター造りを何カ所かでしている。そのうち有力な一箇所が、あの島の一角にあると言う。溶岩を超えた先に、先に進めそうな洞窟があるそうだ。
先はムスペルの大軍との戦闘に必死で、それに気付けていなかった。まあデモニカの映像を艦橋では確認しているのだから、気付けて当然か。
軽く休んでから、すぐに出る。
聖母マリアによるあまりにも強大な回復魔術もあってか、今までの疲れまでが消えているような気がする。
だが、それでも無理は禁物だろう。
機動班クルーを連れて、先ほどの溶岩島に戻る。サクナヒメが周囲に睨みを利かせている中、アレックスは入れ違いで戻ったか、或いは別の場所で救援に応じているのか。もう姿はなかった。
ヒメネスとストーム1も、別の場所に調査に向かったらしい。機動班クルーは、唯野仁成を見てむしろ安心したようだった。
まあ、サクナヒメは頼もしいが、戦力が増えるのに越した事はないから、だろう。
「姫様、休憩は大丈夫ですか?」
「本来ならあのムスペルとかいう奴らめとの戦闘で疲れ切っている所だが、あの強力な回復魔術のおかげでなんともない。 ただ、腹が減るのはどうにもならん。 この工事が終わるのを見届けたら、少し休みたいのう」
「分かりました。 俺が中心になって周囲を警戒しますので」
「そうか。 頼むぞ」
姫様も、唯野仁成に背中を預けるようになって来てくれた。
恐らくだが。アレックスが来た世界の唯野仁成は。ここに来ていた頃には、もう目につく全てを狩りつくす悪魔以上の悪魔になっていたのだろう。
今の唯野仁成は違う。
じっと手を見てから。工事中の調査班が悪魔の攻撃を受けないように、唯野仁成は護衛についたのだった。