デメテルが降り立ったのは、真白き空間である。
其所は嘆きの胎がつながっているといえばつながっていて。更には人間がホロロジウムと名付けたらしい、あの大母のいる最後の空間にもつながっているとは言える。
此処は、もう一つの神性の居場所。
四文字たる絶対神の存在は、メムアレフが力尽くで封じ込んだ。
だが残念ながら。世界でもっとも影響力を持つ絶対神は、それだけで完全封印されるほど甘くは無かったのだ。
此処にいる存在こそ。メムアレフが、封印しきれなかった唯一神の残滓を、自らが重しになる事で押さえ込んだ者。
神殿に神がいる事そのものを示すいにしえの唯一神信仰の形。
シェキナーである。
シェキナーは現時点では、ほぼ力を取り戻している。前は三つの人格に分裂していたシェキナーだが、今は一つの形に戻っていた。巨大な生首のような形にである。それも、三人の人間の頭部を縫い合わせたような。
デメテルが跪く。
「調子はどうですか、神霊シェキナー」
「ようはないな。 四方から我を封印する力に縛られたままよ。 このままでは外に飛翔することもかなわぬ」
「明けの明星は流石でしたわね」
「本来の力があれば、このような事はさせなかったのだが」
悔しげにぼやくシェキナー。生首だが、地面から浮いているそれは。機械的とも言え。神々しいとも言える。
その形状はむしろグロテスクというべき存在であるが。
それは元々、シェキナーというのは人格を持つ神ではなく。唯一神が神殿にいることを示すだけの存在だから。
要するに、己に対する呼び方。一部の要素だけを取りだして、唯一絶対の神は、人格の一部を写したのである。
だが逆に、それがまずかったのだとも言える。
このシュバルツバースに降り立った明けの明星は、最初に最強の精鋭四体をシェキナーの封印に送り込んだ。
それがベリアルらである。
奴らの施した強大な結界は、ただでさえ力が制限されているシェキナーを捕らえ、封じることに成功した。
だからシェキナーは、力の一部を飛ばして方舟を邪魔したり。
方舟の人間達に精神的に揺さぶるような映像を見せて、精神攻撃を仕掛けることしか出来なかったのだ。
「計画はどうなっておるデメテル」
「順調に推移しております」
「そうか。 もしも全てが上手く行った暁には、そなたを大天使に迎えてやろう」
「有り難き幸せ」
礼をすると。デメテルはその場を離れていた。
馬鹿が。
内心で吐き捨てる。
デメテルが、自分より存在の歴史が浅い神格になんで従わなければならないのか。しかも精神の一部はあの絶対神YHVHとはいえ、秩序陣営の大物ではあってもそれ以上の存在ではない。
デメテルはシェキナーを利用している。
シェキナーも勿論デメテルを利用しているだけだろうが。別にそれはどうでもいい。お互い様だからだ。
ただ、シェキナーは主に仰ぐには値しない。
それはデメテルも、結論としては出していた。
何カ所か、この場所。シュバルツバースのもっとも深き所にて、メムアレフが封じ込んだ土地、十天への至を見て回る。四隅にある強大な結界には触らない。今触る意味はないからである。
程なくして、状況の確認終了。
これでいい。
明けの明星は、恐らく今頃全力でメムアレフのいる空間、人間共のいうところのホロロジウムを。部下達と一緒に、時間操作させているはず。
そうすることで、人間達に時間を作る為だ。
可能性を見る為には何でもやる。本来なら、混沌陣営の明けの明星には協力的なはずのメムアレフと手をとらずにだ。
あいつはそういう奴である。
変わり者だが、別に敵対しないのなら、これもまたどうでもいい。
現時点では、全てが上手く行っている。何もかもが上手く行った後には、この十天の至はただの無用の長物と変わる。
そして、オリンポス神族の一角としてではなく。
文字通り最強の。いや最高位の女神として。
デメテルが、この土地に君臨するのだ。
その先の未来は、自由にデメテルが決める。人間にも、明けの明星にも、メムアレフにも。ましてやあんな新興宗教の概念を形にしただけの、唯一神の残りカス等にも決めさせない。
では、後は仕込みを終えていくだけだ。
間もなく鉄船の人間共は、宇宙卵を集め終わるだろう。それは完全に放置でかまわない。
明けの明星が此方のもくろみに気付いた場合が厄介だが。はっきりいって、嘆きの胎を完全に手中にした今のデメテルなら、怖れる事もない。
嘆きの胎の囚人悪魔達。特にマリアはこのデメテルのもくろみに気付いていた節がある。だが、もしもデメテルが勝ったらその時はその時、とも考えているのだろう。
それはそれで結構。
別に手間が増えるわけでもない。
別にデメテルは、人間を苦しめようとか、世界を地獄にしようとか、そんなどうでもいい事は考えていないし。
「その先」も闇の中ではないのだから。
さあ人間よ。
底力を見せてみろ。
ましてや「今回は」英雄達が乗り込んでいる最強の鉄船がきているのだ。
デメテルは声を上げず。表情も変えず。内心だけで笑う。
何もかもが。手を下すまでもなく、デメテルの掌の上にあるのだから。
(続)
原初の世界での過酷な攻防。墜ちるところまで墜ちたマンセマットとの決着。
終焉を司る神格が多数群れる中、灼熱の深淵での戦闘は過酷さを増していきます。