Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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最強の武神対闇の大王。


1、武神対漆黒の者

久々に手応えのある敵だとサクナヒメは思った。ここのところ乱戦で戦う事が多く、ほとんど一騎打ちで勝負を決めることはなかった。あるにはあったが、周囲に常に気を配らなければならなかった。

 

今回は唯野仁成に背中を預けられる。

 

だから全力で、最高に近い相手と一騎打ちが出来ると思ったのだが。

 

これが、想像以上に手強い。

 

一旦剣撃を弾いて離れる。

 

相手は黒い人型。

 

手には何やら剣を持っているが、正体はよく分からない。何だ此奴は。名乗るどころか、人格があるのかさえも分からない。

 

一応、揺さぶりを掛けてはみる。

 

「仲間はもう追い詰められているようだが? このままでは袋だたきになるぞ。 そろそろ本気を出したらどうだ」

 

「……」

 

「黙りか。 少しは反応せい。 ヤナト随一の武神が相手をしておる。 それとも最低限の礼儀もわきまえぬ愚か者か?」

 

「……」

 

やはり黙りだ。

 

ため息をつくが、相手から仕掛けてくる。恐ろしい程滑らかな動きで、剣撃に殆ど迷いもなければ無駄もない。

 

良く腰が入っていないとか脇がしまっていないとか、そういう言葉で剣撃の軽さを評する事があるが。

 

そういう事は一切無く。

 

どこからどう受けても達人の技だ。恐らく中東系の剣術とみた。中東の悪魔は散々戦ったから、それは何となく分かる。

 

それはそれとして、である。

 

此奴の実力は、文字通り最高神クラス。サクナヒメとまともに武技で渡り合ったゼウスと良い勝負ではないのか。

 

激しい一撃がぶつかり合う。

 

サクナヒメの力はほぼすべて既に引き出されているが、まだ隠し札が一つだけ残っている。

 

それについては、まだ使うつもりは無い。

 

それを使うのは最後の最後である。だが、正直な話、此奴を相手に温存していられるかどうか。

 

切り上げる。斬り下げてくる。弾きあう。

 

かなり重い一撃で、両者ともに下がるが、ほんの一歩分である。

 

最高レベルの使い手同士がぶつかり合うと、もはや其所には邪魔が介在する余地が存在しなくなる。

 

サクナヒメも自分は武を極めたなどと言うつもりはない。しかし相手が武を極めているのは確実である。

 

それと戦えていることは光栄に思う。

 

ただ、それはそうとして、今は戦いの本能を抑え、勝つことを優先しなければならない。

 

唯野仁成達を、神として守らなければならないからだ。

 

賭に出る。踏み込むと、一撃を受け流しながら、羽衣で相手を拘束。当然、ゼロ距離から体術で反撃してくるが、それが狙い。急所を外せばそれでいい。一撃は受けるが、同時に当て身を浴びせる。

 

羽衣で固定した状態の一撃だ。互いに、通常状態よりも更に痛烈に入るが。当て身は寄り深く入り、手応えがあった。

 

羽衣を離す。

 

黒の剣士が、少し下がるのが分かった。そのまま踏み込むと、一撃。サクナヒメも痛烈なのを貰ったが、何とかなる。マリアというあの存在の回復魔術もあるし、何より膨大な信仰を今は方舟の者達から受けている。

 

だから、背負う者がある。

 

此奴には恐らくだが、背負う者が存在していない。

 

だったら、正面からねじ伏せてくれるだけだ。

 

数百の斬撃を叩き込む。数百の斬撃で迎え撃ってくる。全てを防ぎ切ってくるのは流石だが。徐々に力の差が現れ始めた。

 

「もう一度聞く。 名乗る気はないのだな!」

 

「……」

 

「そうか、では散れ!」

 

一撃を弾き上げる。剣を振りかぶった体勢の黒い剣士に。テスカトリポカとやらを倒した唯野仁成達の一斉射が突き刺さる。

 

更に、其所にゼウスの雷撃をはじめとする、魔術が連続して炸裂した。飛び下がったサクナヒメでさえ、暑いと感じたほどだ。

 

強烈な熱と破壊の中、黒い影は漸く正体を見せる。

 

背中に黒い翼を持った、悪魔らしい悪魔だ。剣の形状は分かっていたが、どうやら中東でよく使われるシャムシールと呼ばれる曲刀であるらしい。

 

唯野仁成が隣に来る。

 

「遅れました。 申し訳ありません、姫様」

 

「奴をそなた達だけで倒せたならそれで充分。 それより何だあやつは……」

 

「今、分かりました。 データベースによると魔王アーリマン。 あるいはアンリマンユとも呼ばれる、ゾロアスター教における大魔王です」

 

「大魔王、か」

 

魔王の中の魔王。

 

サクナヒメの世界では、邪神はいてもこの世界のおける魔の王と呼ぶような存在はいなかった。

 

森羅万象に神が宿り、邪であっても神であったのだ。

 

だから、どれほど邪悪な神であっても。それが自分より格上の相手であったら、敬意を払った。

 

だが、この魔王は。アーリマンとかいったか。此奴に関しては、何というか人格を感じ取ることが出来ない。

 

「こやつには心のようなものが感じ取れぬが、理由は分かるか」

 

「ゾロアスター教は天使の概念を作り出した古代の宗教ですが……現在ではインドにわずかな信者がいるだけだと聞いています」

 

「なるほどな、それで得心したわ。 こやつはもはや悪の首魁としての憎悪すら受けていないと言う事だ。 空っぽの、殻だけしかない哀れな神格という事よ」

 

原初の神々が獣のように襲いかかってくるように。

 

もはや正体も分からない存在が、とても神とは思えないように。

 

信仰をほぼ失ってしまった神に対する悪魔もまた、その姿をなくしてしまうのだろう。

 

ただこのアーリマンとやら、相当に元は強大な存在であったとみた。

 

ならば、最大限の敬意を払う。

 

相手が例え、もはや言葉を失ってしまっているとしても。

 

「偉大なる闇の王よ。 そなたはもはや言葉すら失っているやもしれぬ。 だが、わしは武の神、豊穣の神として。 偉大なる闇の王神を弑し奉る」

 

「……!」

 

「行くぞ」

 

深く腰を落とすと、剣を鞘に収める。頷くと、唯野仁成は一歩下がった。

 

ゼウス達は干渉してこない。

 

此処は、干渉してはいけない。それくらいは、理解出来ているというわけだ。

 

最後の力を振り絞って、アーリマンが剣を構えるのが見えた。徐々にその姿が、人に似てくる。

 

或いは、アーリマンは元々実在の王か何かがモデルになっているのかも知れない。

 

この世界に来てから聞いたが。神は、実在の人間が元になって生じる事も珍しく無いという。

 

ならば、そうであっても不思議ではないだろう。

 

突貫。最後の抵抗を、アーリマンがしてくる。曲刀で地面を斬り裂きながら、アーリマンも突貫してきた。

 

互いに加速し接敵。

 

地面で更に勢いをつけた切りあげ。まさに絶技。

 

だが、その絶技を、サクナヒメの絶技である超高速居合いが、正面から曲刀ごと叩き斬っていた。

 

そして振り返り様に跳躍。

 

ふらつきながら振り返り、最後の抵抗をしようと試みるアーリマンの首を、サクナヒメは刎ねる。

 

言葉が聞こえた。

 

有難う。

 

信仰を否定され、全てを奪われ。何もかもがねじ曲げられて片隅に追いやられた教えの、更にその悪神である私を認めてくれて。

 

倒れたアーリマンが消えていく。

 

サクナヒメは、目を閉じて弔いの言葉を呟くと。剣を振るって汚れを落とし、鞘に収めていた。

 

「回復が必要だ。 後続に任せて此処は引くぞ」

 

「分かりました。 ただ、これは回収します」

 

唯野仁成が、側に浮いていた宇宙卵を拾い上げる。

 

恐らくだが、これはアーリマンでは無く、あのテスカトリポカが有していたものなのだろう。

 

アーリマンは多分テスカトリポカに呼ばれただけ。

 

この世界にいたのかも知れないが。本人が言う通り、失われた教えの、更にねじ曲げられた神の対立者。

 

そんな存在であれば、確かに歪みに歪みきる。

 

宇宙卵の守護者ですらその存在はありえなかったのだろう。

 

哀れな話である。

 

ヒメネスの機動班が来たので、状況を説明。一度戻る旨を告げる。

 

「遅れてすいやせん、姫様」

 

「この辺りはまだ安全が確保出来ておらぬ。 仕方が無い事だ。 それよりも、マッカなどの回収は頼むぞ。 わしも流石に超大物とやりあって疲れ果てたでな。 次に備えなければならぬ」

 

「超大物?」

 

「ゾロアスター教の大魔王だ。 もう形はなくなっていたが」

 

大魔王と聞いて、ヒメネスも流石に苦労を察したのだろう。

 

そのまま、方舟に戻る。途中からはジープを使った。調査班と途中ですれ違った。護衛にアレックスがついていた。

 

視線を少しだけかわしたが、それだけ。

 

もうアレックスの視線は、以前ほど強い敵意には満ちていなかったし。唯野仁成から視線を背けることもなかった。

 

 

 

風呂に入って食事を取り。メイビーに頼んで回復の魔術を掛けて貰う。もう神格としての力はほぼ回復しているので、これで大体充分だ。特に米の飯を食べることによって、力は大幅に回復出来る。

 

ただ力には上限がある。それはサクナヒメも同じだ。

 

既にヤナト最強の武神としての力は取り戻しているし。これ以上「器」を拡大する事は出来ない。

 

これは人間も同じだ。

 

人間にもそれぞれ「器」と呼べるものがあって、それを超える場所に行ってしまったものは大体不幸になるだけである。

 

幾らでも実例は見て来たし、この世界でも同じ様子だ。

 

そこそもまともだった人間が、祀り上げられた結果愚物に墜ちる例は枚挙に暇がないらしい。

 

まあ残念な話だが。何処の世界にでもある、悲しい話と言う事である。

 

休憩を終えた後、艦橋に出る。

 

ゴアに礼を言われたので、頷いておく。周囲の地図は確実に埋まって言っている様子である。

 

「今のところ、わしがすぐに出向く必要がある場所はなさそうだな」

 

「はい。 ただ、この地点が有望ですので、唯野仁成と共に向かっていただきたく」

 

「うむ。 道を切り開けば良いのだな」

 

「そうなります」

 

頷くと、すぐに出る。最後の切り札は、今回は切らずに済んだが。あのメムアレフとやらと戦う時には、話は分からない。

 

真田が準備を進めてくれていると言うから、それが上手く行けば或いは。

 

いや、真田ならきっとやってくれる。

 

あれほどの賢者、ヤナトにもいなかった。サクナヒメの親友である知恵の神も、単純な頭の回転だけなら兎も角。真田の話を聞けば必ず瞠目するだろう。

 

物資搬入口に出ると、唯野仁成がもう待っていた。アレックスもいる。唯野仁成と積極的に視線を合わせようとはしないが。視線をそらすことはないし、話はきちんとしている。それでいい。いきなり無理に仲良くなろうとする必要はない。

 

アーサーの指示で、移動を開始。

 

この周辺の洞窟はあらかた潰し終わったと言うことで、宇宙卵とやらは恐らくもっと深部にあると判断して良いだろう。

 

当然の事ながら、更に強大な存在がそれを守っている事はほぼ間違いが無い。

 

戦うのが憂鬱か。

 

勿論そんな事はない。

 

武神としては本来なら血がたぎる。

 

だが、正直な話。此処にいる悪魔も神も、皆悲しい者達ばかりのような気がする。

 

秩序も混沌も関係が無い。

 

人間の都合で作り出され、ねじ曲げられ、そして捨てられる。そういう意味では、あのマンセマットでさえ、犠牲者であるのかも知れなかった。

 

坂道に出た。

 

かなり長い坂道だ。そして、ゆっくり曲がるようにして、深く深くへと続いている。

 

プラントでせっせと作っているらしいドローンが、周囲を飛び交っているが。この先でかなりの数が失われていると言うことだ、と言う事は、悪魔がたくさんいると見て良いだろう。

 

だから、サクナヒメが探索を頼まれたのだ。スペシャルを覗くと、エースとして期待されている唯野仁成と共に、である。

 

唯野仁成が通信を受けたようで、話をしている。

 

そして、すぐに話を終えた。

 

「ストーム1が、近くから支援をしてくれると言う事です」

 

「心強い。 この坂の下には、尋常ならざる気配があるな」

 

「メムアレフがいるのでしょうか」

 

「いや……奴の気配はわずかにしか感じないが、少なくとももっと下の方だ。 いずれにしてもこのすぐ近くではない」

 

メムアレフの気配は、この空間。ホロロジウムだったか。ともかく、この空間にきてからずっとずっと弱々しいものの感じる。

 

徐々に気配は強くなっている。

 

だが、それがいるのはまだまだ先だ。位置も特定出来ないくらいに気配がまだ弱い。理由は分からない。ケンシロウが言うように、身を隠すつもりも守るつもりもないだろうに。

 

この周囲にいる悪魔も強いが、メムアレフの足下にも及ばない雑魚ばかりである。そしてそんな雑魚でも油断出来ないレベルで強い。

 

無数の空舞う悪魔が仕掛けてくる。

 

フレスベルグと言ったか。

 

坂を背にするように指示をして、そのまま迎撃に掛かる。ライサンダーという神殺しの槍で射すくめ始めるので、サクナヒメは接近して来るのに対応すれば良い。更に距離が縮まると、悪魔も召喚される。

 

猛烈な対空砲火に、怯むこともなくどんどん突撃してくるフレスベルグ。

 

とにかく巨大なので、爪に掛かったり、坂からおとされたら終わりだ。それを理解しているように、ひたすら数で押してくる。凄まじい数がいるので、此処も長引きそうだなと。羽衣を使って時々至近まで来る奴を放り投げたり、或いは足や翼を切りおとして叩き落としながら、サクナヒメは思う。

 

「姫様、下がりますか」

 

「いや、踏みとどまれ。 此処で下がれば、恐らく相手も下がる。 敵の数は有限だと分かっている。 削り切れ」

 

「い、イエッサ!」

 

唯野仁成以外のクルーは、まだまだ背中を預けられる者が少ない。育って来たのはヒメネスくらいか。

 

ゼレーニンは戦には向いていないし、まあそれもまた、仕方が無いだろう。

 

大きいのが混じっているな。

 

目を細めて、確認する。

 

フレスベルグの群れの中に、大きい鳥がいる。まだ距離があるから目立っていないが、あれに接近されると厄介だ。

 

通信装置は渡されている。だから、ストーム1に連絡を入れる。あまりからくりの操作は上手ではないので、少し手間取ったが。サクナヒメが手間取っている間にやられるほど、流石にクルー達も弱くは無い。

 

「姫様、何か」

 

「大きいのがいる。 気付いたか」

 

「ええ。 これから叩き落とします」

 

「流石だな。 頼むぞ」

 

それなら、心配は無い。ストーム1に対する信頼は、他のスペシャル達と同じ程度にはある。

 

あれほどの戦士がヤナトに来て武神になってくれたら心強いのだが、流石にそこまで求めるのは贅沢だろう。

 

不意に陣形を整えると、文字通り雁行で一気にフレスベルグの大軍が圧力を掛けてきた。

 

慌てて総力戦の体勢を整える唯野仁成達。

 

サクナヒメは相手を引きつけると力を充填し。そして間合いに入ったところで、殴り上げるようにしてぶっ放した。

 

無数の斬撃が、舞い上がるようにしてフレスベルグの群れを襲う。

 

敵の前衛が文字通り消し飛ぶ。

 

そして、其所に続けて、ゼウスが本気でのケラウノスをぶっ放す。流石に最強の雷神。フレスベルグの大軍は、更に抉り取られて消える。

 

更に其所へ、アリスとイシュタル、アナーヒターが連携して魔術をぶっ放す。意図的に氷と炎の魔術を同時に放って爆破した様子だ。

 

空中に浮かぶ者は、基本的に爆発の衝撃にとても弱い。理由としては、翼というものが。形状的にとても繊細で脆い事が上げられる。

 

爆破に巻き込まれたフレスベルグが、殆ど墜ちていく。

 

そして、その爆発を突き破るようにして、ぬっと巨大な鳥が突貫してきた。

 

今までとは桁外れの巨大さだ。

 

あまりの大きさに、唯野仁成以外のクルーの反応が遅れたほどだ。唯野仁成はライサンダーを連続で叩き込んで止めに掛かるが。

 

あまりの巨体故、どうにもならないように見えた。

 

その瞬間、横殴りにストーム1の狙撃が鳥の側頭部を貫く。赤黒い鱗に覆われた巨大な鳥は、軌道を外れ、さらに墜ちていく。

 

とどめとも言えるもう一発が心臓の辺りに叩き込まれ。

 

それで木っ端みじんになった鳥の残骸らしいマッカが、墜ちていった。

 

ひょいと飛び込んだアリスが、情報集積体だけは回収してくる。

 

「な、なんだったんだあのばかでかいのは……」

 

「妖鳥鵬だそうだ。 中華の伝承に残る超巨大な鳥で、糞が村を潰した事があるのだとか」

 

「……」

 

絶句するクルー達。

 

似たような鳥の伝承はヤナトにもあるが、あくまでも伝承だ。そんな神は存在していなかった。

 

唯野仁成が、冷静に分析する。

 

「台風やモンスーンなどを神格化した存在だという説があると言う。 要するに世界を終わらせるほどの破壊的気象の権化として、此処に現れたのだと思う」

 

「二度と会いたくねえ」

 

クルーの一人がぼやいた。

 

サクナヒメは、彼らの会話には加わらず。ストーム1に礼を言うと、余裕があるかどうかを周囲に確認し。

 

更に坂を下りる。

 

出来れば、メムアレフと方舟が戦える地点を探したいのだが。それにはもっともっと、このホロロジウムを潜る必要があるだろう。

 

クルー達の腰が引けているのが気になる。

 

勿論彼らも必死の所で持ち堪えていることも分かる。

 

だから、あまりがみがみいうつもりは無い。

 

坂を下りていく。

 

深淵に向かう坂は、果てしなく続いている。途中で何度か休憩を入れながら、更に先へと進むが。

 

坂の底は、ついぞ見えなかった。

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