恐らくもっとも世界で有名な、終焉を司る存在です。
坂の最深部についた。三日掛けて、何度も敵の襲撃を退けながら、道を開拓したのだ。とにかく、巨大な柱状の構造を中心に、ぐるぐると回転しながら降っていく構造になっていたが。
その柱状の構造は直径一キロはあったこともあり。降るのが非常に難儀だった。
唯野仁成は、ジープで戻って来た後は。言われたまま休む。何とか途中に群れていた鳥の悪魔を片付け終えた。ようやく、底に辿りついた時には、溜息が唯野仁成の口からも漏れたし。
それを姫様も咎める事はなかった。
風呂に入ってから、すぐに寝る。八時間の休憩を確保して貰ったので、ひたすらに眠って、コンディションを整える。
起きだすと、それを察知したらしく、すぐにアーサーが通信を入れてきた。
「唯野仁成隊員。 地下にいるヒメネス班とストーム1班が、強大な悪魔の気配を察知しました」
「メムアレフだろうか」
「いえ、恐らくは違います。 宇宙卵の守護者の可能性が大きいです。 すぐにサクナヒメ班と貴方の班を編制します。 アレックスも近くにいるようなので、手が開いているようなら向かってくれるように要請します。 行動可能ですか?」
「行動可能だ。 すぐに行く」
物資搬入口に出向くと、ジープが用意されていた。それも四台。コレを使って。疲労を抑えて坂の下までいけ、というわけだ。
坂には突貫工事で調査班がガードレールとセントリーガンを備え付けてくれた。周囲にいる悪魔はあらかた掃除したので、余程油断しなければ大丈夫だろう。ジープは武装を外してあるが、これは今回移動するものと割切っているためである。一台で六人を輸送することが出来る。
サクナヒメももうジープに乗っていた。すぐにジープ四台に分乗して、地の底を目指すことにする。
ヒメネスとストーム1のチームが此方の到着を待つと言う事は、余程のとんでも無い奴が待ち受けていると判断して良いだろう。
ジープの操縦はオートでアーサーがやってくれる。
この辺りは既に調査班が突貫工事を終えているため、アーサーの遠隔操作が充分に機能している。
外の世界の下手な道路よりも、むしろ安全かも知れない。
だから、運転はアーサーに任せて、先にヒメネスとストーム1と通信をしておく。
「余程強力な悪魔の気配なのか」
「ああ、バガブーが怯えきってやがる。 ストーム1も、出来れば増援を待つべきだって言っていた」
「分かった。 バガブーの勘は頼りになる。 ヒメネス、言うまでもないが俺と姫様が行くまで下手に動くなよ」
「誰に言ってるんだよ。 当たり前だ」
ヒメネスが冗談めかして返してくる。
元は、捻くれさえしなければ。ヒメネスは陽気な人物だったのかも知れない。スラムでの過酷な生活が、ヒメネスを狂わせてしまった。
未来によってはヒメネスは悪魔以上の凶暴な存在になってしまう。
それもシュバルツバースの過酷な経験だけが理由では無い。
明らかに、外の世界でヒメネスを蝕んだ周囲の愚かな人間達が要因だ。
幸い、此処でヒメネスはバガブーに出会い。皆に支えられることで変わる事が出来た。
だけれども、変わる事が出来る人間なんてごく一部だけだ。
だから、唯野仁成は思うのだ。
恐らくだが、シュバルツバースをどうにかした後。未来の自分がやったような極端な方法は論外としても。
ある程度強引な手段は必要になるのでは無いか、と。
いずれにしても、真田さんに話を聞いて、判断するのはその後だ。
今は、これから先に待ち受けている強大な悪魔との戦闘に、集中しなければならない。
坂の底に到着。
溶岩はますます多くなっているが。とりあえず邪魔な場所にある溶岩は、あらかた氷の魔術が使える悪魔で凍らせて無力化してしまう。
周囲には野戦陣地が構築されていて、調査班が機動班の護衛を受けながら、インフラ班と連携して中間拠点をせっせと作っている様子だ。
内部には休憩所や、簡易の医療施設まで作られている。
また強力な野戦砲も配備されていて、生半可な悪魔では近寄ることも出来ないだろう。これに経験を並行蓄積した機動班と、その悪魔の護衛が加わる。
まあ、現時点では可能な限りできる事を全てやってくれていると見て良い。
この辺りで、アーサーの通信が悪くなるので、手動運転に切り替える。アーサーのナビは届くから、それに従って数キロを移動。
やがて、ヒメネスとストーム1のチームが見えてきた。
合流し、人員を確認。機動班合計二十名ほどと、姫様、ストーム1、それに唯野仁成とヒメネス。
今ライドウ氏は彼方此方走り回って地図を作るのに忙しいし。
ケンシロウも同じように彼方此方走り回って救援や地図造りを頑張ってくれている。
後はアレックスだが。
側に、ひょいと飛び降りてきた。
どうやら、この上辺りを調べていたところに声が掛かったらしい。デモニカの性能もあって、この程度飛び降りたくらいではまるでダメージにもならないようだった。
「よし、これだけの戦力があれば大丈夫だな」
「……」
サクナヒメが腕組みし、じっと見つめている。
この先は特に洞窟になっているわけではない。広い荒野になっているのだが。この荒野に踏みいろうとした途端、バガブーが騒ぎ出したらしい。
ストーム1がいても危ないと判断したのだろう。
いずれにしても、この戦力ならば恐らくは大丈夫だ。勿論油断は禁物だが。
「唯野仁成、油断するな。 どうもこの先からは嫌な予感がする」
「アーリマン以上の相手と言う事ですか?」
「可能性はある」
そうか、それならば気を引き締めないと危ないか。
皆に先に悪魔を展開させる。そして、姫様を先頭に、荒野に踏み込んだ。
そして理解する。
バガブーが、荒野に入るのを止めた理由を。
一瞬で悟った。何かの縄張りに入った、という事を。
それは、いきなり奇襲をしてくる事はなく。むしろ静かに現れた。四騎の騎士達だった。
赤いもの。白いもの。黒いもの。そして青白いもの。それぞれ色に対応した大型の戦馬に乗っている。
ぞくりとした。これは、何となく分かる。一神教の終末思想は調べた。こいつらに該当する存在がいる。
一神教の終末に現れる、審判の四騎士。赤い騎士、白い騎士、黒い騎士、そして青白い騎士だ。
これらの騎士は一神教において語られる世界の終末において現れ、凄まじい大量虐殺をする権利を有している。
文字通り、人間を地上から駆除する事。
人間を殺すこと。
それだけに特化した神格達である。
見ると種族は魔人とある。つまりアリスと同レベルの超イレギュラーという訳か。名前はそれぞれ、レッドライダー、ホワイトライダー、ブラックライダーと続いて、最後だけは何故かブルーライダーではなくペイルライダーである。
この辺りはよく分からないが、とにかく最後だけは色々と特別なのだろう。
いずれにしても、世界で最も影響力を持つ一神教で登場し、なおかつもっとも人間を殺傷する事に特化した存在だ。
弱い訳がない。
また、この階層に入ってから特に目立つが。別に混沌陣営の悪魔ばかりがメムアレフに従っているわけでは無い様子だ。
魔人も種族的には中庸陣営に所属している。
つまりメムアレフは単に混沌に傾いただけであって、別にそんな事に関係無く多数の悪魔を従えられると言う事なのだろう。
それでも面倒くさく逆らった者が嘆きの胎に放り込まれた。
そんなところか。
「どうやら嫌な予感は的中したようだのう」
「それぞれに別れて戦うか、それとも各個撃破するかですが、どうしやす姫様」
「あれは連携戦に特化していると見た。 わしがあの青白いのを相手にする。 それぞれ相手を決めて戦え。 相手を倒した者から、味方の支援。 他のクルーは距離を取り、支援を積極的に行うように」
「イエッサ!」
クルー達が悪魔を召喚する。それを戦闘意思と判断したのだろう。即座に、四騎士は襲いかかってくる。
当然サクナヒメは事前の言葉通り、青白い騎士。ペイルライダーにまっすぐ突貫する。四騎士の長格の相手である。まあ妥当なところだろう。
唯野仁成はブラックライダーに。ヒメネスはホワイトライダーにそれぞれ悪魔を展開して立ち向かう。ストーム1はジャンヌダルクとクーフーリンを召喚すると、バックステップして距離を取る。当然レッドライダーを相手にすると言う事だ。
ブラックライダーは、無言のまま突入してくる。黒い鎧を着た威圧的な巨大な騎士だが、馬も黒づくめ。それだけではない。兜の下には骸骨。首を刎ねても死なないかも知れない。圧殺し粉々にするくらいの覚悟が必要だ。
まずはライサンダーZの弾丸を馬に叩き込む。だが、馬鎧に止められ、叩き落とすには至らない。裸馬に乗ってくる騎士なんていない。大概は馬も鎧を着けているのが普通だが。これは携行用艦砲。艦砲を防ぐとは、悪魔とは言え凄まじい防御である。速度をすぐに上げたブラックライダーは、いずれにしても唯野仁成を敵と見なしたのだろう。ランスを手に出現させると、突貫してくる。
壁を展開するアナーヒターだが。
ブラックライダーは、それを文字通り突貫で蹂躙、粉砕した。
跳び離れる唯野仁成と仲間達だが、ブラックライダーは展開しているクルー達の方に向かおうとする。その背中に、躍りかかったのはイシュタルである。
振り返りもせず、ランスを振るってイシュタルの風を纏った拳を止めてみせるブラックライダー。
だが、その隙に瞬歩で追いついた唯野仁成が、剣を振るって馬の足を切りつける。二度、三度。
馬も鬱陶しくなったか、竿立ちになって踏みつぶしに来るが。
その瞬間、収束したゼウスのケラウノスが、ブラックライダーを直撃していた。
煙を上げながら、五月蠅そうに足を止めて振り返るブラックライダー。
全力ではないにしても、ケラウノスの直撃でその程度のダメージしか入っていないと言う事だ。ランスを振るっていつの間にか鎌に変えている。草刈り鎌ではない。むしろどちらかというと、薙刀に近いポールウェポンだ。
アリスが火焔魔術を叩き込むが、鎌で振るって消し飛ばすブラックライダー。流石は終焉の騎士という所か。魔人というイレギュラーな種族と言う事もある。完全に別格と言う事だ。
いきなりブラックライダーがかき消えると、アナーヒターの目の前に出る。防ぐ暇が無い。
ゼウスが躍り出て、アダマスの鎌で斬撃を防ぐ。
火花が散る中、ゼウスは嘲弄を浴びせる。
「骸骨の騎士よ。 俺や唯野仁成と遊ぼうと思わぬのかな? 後方支援役ばかり狙っているようだが」
「……」
「ゼウス、恐らく其奴は効率最優先で殺しに来ている!」
「つまらぬ輩だな」
勿論ゼウスの言葉は煽りだが、ブラックライダーは気にしている様子も無い。そのまま、激しい乱打を浴びせかける。ゼウスが。少し前のサクナヒメとまともに渡り合ったあのゼウスが、徐々に押されている程だ。
勿論即座に唯野仁成も加勢するが、馬上のブラックライダーは気にする様子さえもない。二人まとめて相手にしながら、ぶつぶつと何か唱えている。
これはまずい。
ゼウスと唯野仁成を同時に相手にしつつ、呪文詠唱までする余裕があるのか此奴は。勿論時々クルー達から支援狙撃や魔術が飛んできているが、効いている様子が無い。もとの防御が高すぎるのだ。
だが、その時。
事態が一気に動いた。
至近距離に出現したアレックスが、無言で馬の左後ろ足を切りおとしたのである。
アレックスは誰かに加勢しているかと思ったのだが、そうせずこの機会を狙っていたのか。
流石に一瞬バランスを崩すブラックライダー。勿論馬の後ろ足は即座に再生するだろうが、その隙を逃す唯野仁成とゼウスでは無い。
ゼウスが踏み込むと、アダマスの鎌でブラックライダーの鎌を跳ね上げ。
更に唯野仁成が突貫すると、ブラックライダーに袈裟の一撃を叩き込む。
揺れたところに、先の仕返しとばかりにアナーヒターが、アリスと息を合わせて巨大な氷塊を叩き込み、馬上からブラックライダーを吹っ飛ばし。
更に上空から、拳を固めたイシュタルが地面にブラックライダーを叩き付けていた。
鋭いいななきと共に、足を再生させたブラックライダーの馬が、唯野仁成を踏みつぶそうとし。更にブラックライダーが、ゆらりと立ち上がる。
やはりちょっと切ったくらいでは駄目か。踏みつぶそうとする一撃を避ける唯野仁成。ゼウスが至近距離からケラウノスを叩き込み、馬を半分ほど消し飛ばす。だが、即座に再生していく。
黒い騎士は、ゆっくりと歩み寄っていく。
側にもうアレックスはいない。恐らく不利になっている皆を、遊撃して支援しているのだろう。
不意に黒い騎士が跳躍。唯野仁成に斬りかかってくる。
一番面倒だと判断したのだろう。弱い者から潰すという行動から、判断を切り替えてきたと言う訳だ。
別にかまわない。
剣撃を応酬する。まずは馬を潰したいところだが、あれは恐らく無限再生する。一方黒い騎士は、切られた部分が再生していない。
つまり、斬撃は通るし。ダメージは入ると言う事だ。
「ゼウス、馬を相手してくれ! 他はこの騎士に集中攻撃!」
「俺が馬如きを相手か! まあ面白いから良い! 来い黒馬よ! 最強の雷神が相手だ!」
「ヒトナリおじさん、任せて!」
アリスがぶっ放す氷の魔術。更に誰か機動班クルーの狙撃。兜を揺らされた黒い騎士に。更に追撃を入れる。唯野仁成は踏み込むと、当て身を浴びせた。
体格差はあるが、デモニカで極限まで身体能力が強化されている。文字通り蹈鞴を踏んで下がる黒い騎士。
西洋騎士の最大の武器である大型馬によるランスチャージを潰された今、黒い騎士の戦力は半減している。半減してなお強いが、それでも何とかするしかない。
降り下ろされる鎌を、剣で受け止める。やはり一対一だとかなり不利だが、背中に回ったアリスが火焔魔術を叩き込む。
火焔魔術を、振り返りもせずに気合いで吹き飛ばすブラックライダー。また呪文詠唱を始める。何をしでかすか分からない。止めるしかない。賭に出る。剣を鞘に収める。ブラックライダーが、上段から斬りかかって来る所を、居合いで脇腹を切り裂く。振り返り様に、ブラックライダーが斬りかかってくるが。その鎌が、丸ごと凍っていた。アナーヒターによるファインプレイだ。即座に氷が砕けるが、その0.1秒がほしかった。
居合いの本命は二太刀目。
文字通り、唐竹に斬り下げる。
更に至近に入っていたイシュタルが、黒い騎士の首を風を纏った蹴りでへし砕く。文字通り首が真っ二つに割られ、更に砕かれた黒い騎士は動きを止め。
唯野仁成は、至近距離からライサンダーの一撃を叩き込んでいた。
流石に吹っ飛んだ黒い騎士。それでも消えない。死んでいないと言う事だ。全員に最大火力の魔術を準備して貰いつつ、唯野仁成はアサルトを乱射しながら接近。他のクルー達も、狙撃と仲間による魔術で飽和攻撃を叩き込んでくれている。
ブラックライダーが跳ね起きる。これだけ滅茶苦茶にやられてもまだ動けるのか。見ると、鎧はずたずただが、中から見えるのは文字通りの骸骨だ。やはり粉々に消し飛ばすしかないか。
深呼吸すると、大上段に剣を構える。
一瞬で間合いを詰めてくるブラックライダー。
大上段からの一撃と、ブラックライダーの踏み込みと同時の一撃がぶつかり合う。
拮抗した。
そう判断した唯野仁成は、無言で剣を引き。ブラックライダーが切り上げてくるのを、押さえ込んだ。
怪訝そうにするブラックライダーの側面を、機動班クルー達が一斉にライサンダーFなどの狙撃で斉射。流石にブラックライダーがよろめく。
跳び離れた其所に。アリスが最大火力の魔術をぶっ放す態勢に入る。
「トリス……」
まずいと判断したか、ブラックライダーが鎌をアリスに投げつけるが、唯野仁成が弾き飛ばした。
くるんと腕を回して、アリスは詠唱を終える。
「アギオン!」
もはや白い、凶悪な熱量を持った炎が、ブラックライダーを焼き尽くす。
それでも、まだわずかに原型を留めていたブラックライダーに、アナーヒターが最大火力の冷気魔術を叩き込む。
恐らく数万度に達する状態から、ほぼ絶対零度までいきなり下げられたのだ。流石に耐えられるわけがない。
しかし、おそるべきことにそれでもまだ人型を残っていたブラックライダーを。イシュタルが無言で木っ端みじんに拳で砕いていた。
流石に消えていくブラックライダー。
これで一騎か。
呼吸を整えながら、周囲を見る。
ジャンヌダルクとクーフーリンがレッドライダーの機動戦術を完全に押さえ込んでいる。ストーム1はアサルトで冷静に相手を削り取りながら、時々接近してきたところを接近戦で相手にせずライサンダーZFの超火力を容赦なく叩き込んでいる。
こちらは負ける気がしない。多分任せてしまって大丈夫だろう。
ホワイトライダーはどうだ。
ヒメネスの召喚したスルトとインドラジットを相手に、互角以上に戦って見せている。
化け物かあいつは。
ヒメネスも大剣を振るって何度も斬りかかっているが、とてもではないがすぐに勝負はつきそうにない。
ただ、ヒメネスがすぐに負けそうにも見えない。
姫様は。
驚いた。姫様が押されている。
ペイルライダーは長柄のハンマーに武器を切り替えると、低い位置から攻撃してくる姫様の絶技を防ぎ抜いている。
それどころか、時々有効打を浴びせて、姫様を吹き飛ばしている有様だ。
ならば加勢するのは彼処しかない。
皆の疲弊も大きいが、即座に声を掛ける。ゼウスはやれやれという様子で立ち上がると、丁度姫様に上段からの一撃を叩き込もうとしたペイルライダーに、ケラウノスを叩き込む。
モロに死角からの攻撃だったからだろう。直撃が入り、ペイルライダーが流石に動きを止める。
姫様が攻勢に出る。だが、収束ケラウノスをモロに喰らったにもかかわらず、ペイルライダーはまだ余裕がある様子だ。ほぼ力が戻ったと言っている姫様を彼処まで圧倒するとは。
恐らくあのペイルライダー。一神教の天使の誰よりも強いのではあるまいか。
突貫。いつの間にか、隣にアレックスがいる。アレックスは先にペイルライダーに躍りかかると、跳躍してプラズマ剣で斬りかかる。
ペイルライダーが動いたのはその時。
不意に側に何か出現すると、アレックスを吹き飛ばした。
いなして威力は殺したようだが、なるほど。あれがペイルライダーの強さの正体か。
見るとペイルライダーの側に、何かが出現する。トランペットを持ち、白い服を着込んだ何か得体が知れないものだ。
魔人トランペッターとデータベースにはある。
これも一神教における終焉の時に現れる存在。トランペットを吹き鳴らすことで、世界の終わりを告げる者。
北欧神話のヘイムダルと似たような役割を持つ存在だ。
原典ではこのトランペッターは七体の天使であるらしいのだが、いずれにしてもこの四騎士よりも更に上位の存在で、トランペットを吹くだけで地上を文字通り壊滅させる事になる。
姿を隠してペイルライダーとともに戦っていたというのなら、苦戦も当然だ。
アレックスに告げる。
「あの笛吹きは俺が相手をする。 姫様の支援を頼めるか」
「あいつを一人で!?」
「一人じゃない」
ゼウスもかなりやる気になっている。アリスも肩を掴んで腕を回している。みな疲れてはいるがやる気だ。
それに、あいつはさっき姿を消していた。勝手に動かれると、姫様でも危ないのは、既に見ての通りである。
ならば、足止めがいる。そういうことだ。
「バディ。 行くぞ。 出来るだけ早く魔人ペイルライダーを仕留める」
「分かった。 それにしても調子が狂うわ!」
突貫するアレックス。唯野仁成は、トランペッターに対して名乗る。
姫様の真似では無いが。相手は恐らく最強ランクの魔人。一神教の終末思想において、もっとも世界を滅茶苦茶にする最強の対人殺傷悪魔。
少しでも気を引く必要がある。
「魔人トランペッター! 七体の天使の力を持つ者! 俺、唯野仁成が相手だ!」
「……」
やはり寡黙に、何も喋らない。恐らくだが、四騎士とトランペッターは単なる殺戮装置に過ぎず、人格が存在しないのだろう。
だが別に良い。これから倒す事には代わりは無い。トランペッターが此方に向き直ると、トランペットに手を掛ける。至近に迫ると、斬り下げる。シールドが展開され、弾き返され。
更に猛烈な斥力で、吹っ飛ばされ掛ける。
あのシールドをどうにかするのが先か。
後ろに回り込んだゼウスが、アダマスの鎌で斬りかかるが、シールドが防ぐ。最高神の力を奪った武器を防ぐというのか。流石に火花が散っているが、ゼウスも冷や汗を流している様子だ。
如何にゼウスが全力モードではないといっても、アダマスの鎌はアダマスの鎌である。此処までの防御を持つ相手と交戦したのは初めてなのだろう。
唯野仁成はライサンダーを叩き込むが。同時の攻撃もトランペッターは防ぎ切ってみせる始末。
これは少しばかりまずいかも知れない。
それどころか、チッと一瞬だけ音がして。
周囲を爆炎が包んでいた。
まさか。今のが呪文詠唱か。それも、火力が生半可ではない。
炎から逃れて飛び退いた唯野仁成の頭上に、トランペッターが。トランペットを吹いて、斥力をぶっ放してくる。
文字通り、地面に叩き付けられる。
まずい。戦力を分散して、勝てる相手では無い。
だが、時間を稼げば、かならず皆が勝ってくれる。むしろ此奴を野放しにする方がまずい。むしろ此方が各個撃破されてしまう。
デモニカのダメージが大きい事がAIに告げられる。
此奴は多分、単独で相手してきた悪魔としては最強の相手だ。今の唯野仁成より二回りは強い。
それでもやるしかない。
再びトランペットに手を掛けようとしているトランペッターに、収束ケラウノスが炸裂する。
ライサンダーZを同時に叩き込む。が。その瞬間、トランペッターはさっきの超収束詠唱で、氷の壁を展開。ライサンダーZの一撃を防いだ。
なるほど、そういう事か。
アリスを手招きして、耳打ち。アリスも今の斥力で地面に叩き付けられて、かなりボロボロだったが。それで余計に頭に来ていたのだろう。あいつをいてこませるならと、頷いた。
そのまま走りつつ、唯野仁成はライサンダーZの弾丸を連続してお見舞いしてやる。トランペッターはそれをシールドで防ぎ続けるが。
やはりケラウノスが飛んでくると、魔術で防ぎに掛かってくる。
3,2,1。カウントをしてから、ライサンダーZの引き金を引いた。
ケラウノスが飛ぶのと同じタイミングで、だ。
鬱陶しそうにトランペッターが防ごうと氷の壁を出すが。その瞬間、アリスの火焔魔術が炸裂。
氷の壁が消し飛び。トランペッターに、ライサンダーZの弾丸が直撃していた。
流石に七体の天使の融合体も、これには動揺したらしい。動きが止まる。その瞬間、上空に出ていたイシュタルが、拳を固めてトランペッターを地面に叩き付けていた。今までの礼という事だろう。更に地面には、アナーヒターが展開した鋭く尖った氷の槍の群れも待っていた。
地面に叩き付けられ、盛大に爆風を噴き上げつつも。
もう立て直したトランペッターが、忌々しげに叫ぶ。骸骨が叫ぶから、凄まじい圧迫感がある。
ゼウスも今のを見て、恐らく仕組みを理解したのだろう。
そう、トランペッターの防御も。魔術と物理攻撃を同時には防げないのだ。
ケラウノスを叩き込むゼウス。同時に唯野仁成も、斥力を受けつつもライサンダーZを叩き込む。
トランペッターが、チッという呪文詠唱を複数回同時に展開。
周囲に氷の壁を展開。更に、火焔の魔術で辺りを薙ぎ払ってくる。続けて雷。更には氷の槍を降らせてくる。
無茶苦茶だが、それだけ此方に対して本気になっていると言う事だ。それにこの鉄壁の守りの分、本体の耐久はブラックライダーほどではないと見た。
必死に魔術による攻撃を回避しながら、アサルトを浴びせ続ける。仲魔はみな限界だが、転機が来る。
アサルトを氷の壁で防ぎ、ケラウノスをシールドで防いだトランペッターの頭上に。姫様が羽衣による空中軌道で出現したのである。
反応は流石にトランペッターも早い。すぐに魔術で対応しようとしたが、氷の壁をアリスが最後の力を叩き込んで粉砕する。
トランペッターにライサンダーZの弾と。アレックスの拳銃の弾が、立て続けに食い込んだのはその瞬間。
まずいと感じたのだろう。トランペッターが、数秒の詠唱をする。周囲全てをまとめて吹っ飛ばすつもりだったのだろうが。一瞬遅かった。
「惜しかったな笛吹き!」
唯野仁成の側に、サクナヒメが現れる。そして、剣を鞘に収めていた。
一瞬で木っ端みじんに切り裂かれるトランペッター。今ので、恐らく数百の斬撃を喰らったのだろう。
消滅し、マッカと情報集積体に変わっていくトランペッター。
唯野仁成が片膝を突く。呼吸を必死に整える。
かなり危ない戦いだった。
「ペイルライダーは」
「あの青白いのなら倒した。 赤いのはもう終わったようだな」
近距離攻撃を完封されたレッドライダーは、ストーム1に文字通りなぶり殺しにされたようだった。
流石である。
そしてそのストーム1が加勢したため、ほぼ互角だったホワイトライダーも、もう一方的な戦いになりつつある。
ほどなく、ヒメネスの大剣が叩き込まれて、ホワイトライダーが武器を取り落とすと。
跳び離れたヒメネスの代わりに、インドラジットが圧倒的な数の矢を一瞬で出現させ、瞬時に叩き込む。
これがヴァナラの軍勢を一方的に蹂躙したというインドラジットの矢か。確かにとんでも無い攻撃密度だ。これをステルスしながら放つというのだから、確かに最強の羅刹というのも納得である。
そこに、更にスルトが炎の剣をたたき込み、ホワイトライダーを燃やし尽くす。
無念の声を上げながら、ホワイトライダーは消滅していった。
全員がボロボロだ。特にブラックライダーは機動班クルーを狙っていたし。誰か一人が騎士や笛吹きを通していたら、機動班クルー達は壊滅していただろう。
流石に凄いのがいるなと思いながら。唯野仁成は後から来た機動班クルーの手当を受ける。
回復の魔術を掛けて貰うが、応急処置にしかならない。メイビーが来て、マリアを召喚して回復魔術を掛けてくれるが。それでも足りていない。
恐らくゴア隊長が手配してくれたらしいジープが来たので、それに乗って戻る事にする。救急車の方が良かったかも知れない程だ。
宇宙卵の出現は唯野仁成自身では確認できなかったが、それはそれ。今までとは段違いの相手だったし、彼処になかったとは思えない。
多分出現している。調査班が見つけてくれる。
方舟に戻ると、医療室に運び込まれる。医療カプセル行きだ。回復まで二日かかると言われて、苦笑する。
悪魔達にマッカを分けてから、休む事にした。
兎も角、恐らくは最強のガーディアンをこれで撃破出来たとは思う。
世界でもっとも信仰されていて、影響力も大きい一神教の終末思想に登場する悪魔達だったのだ。
これ以上の凶悪な終焉の神格は思い当たらない。
唯野仁成は休む事にする。
眠気が強い。カプセルの中では睡眠を促進する効果があるが。それにしても、眠気が回るのが、嫌に速かった。