Sストレンジジャーニー   作:dwwyakata@2024

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奈落の底にて、地球の意思の具現者であるメムアレフが待ち受けます。

そしてその更に影には、世界を思いのままにしようと目論む者もまた。


意思との対決
序、決戦へ


方舟が動き出すのが分かった。唯野仁成は目が醒めて、頭を振る。ぼんやりする頭をはっきりさせると、小さくあくびをしながらベッドを降りた。シャワーを浴びておく。人生最後の睡眠、シャワーかも知れない。ついでなので風呂にも入っておいた。皆緊張しているのか、風呂はガラガラだった。

 

デモニカを着込む。このデモニカも、脱ぐたびにチェンとアーヴィンの所に回されて、毎回バージョンアップを受けていたらしい。基礎的な技術は真田さんにより提供されていたようだが。

 

それを実際に現地で形にしたのは二人だ。

 

アーヴィンはアントリアで救出したときの事を思い出す。

 

陽気で気さくな人物だ。

 

チェンもノリが良い人物で、息が合うのかも知れない。

 

船外に出て戦う事がなかったクルーは半数近くいる。だが、それらのクルーも皆、自分の戦いを続けていた。

 

この方舟も、最初は散々揺れた。

 

それも今では、飛ぶときにはあまりにも滑らかで、揺れもせず音もしない。着地の時も、大変に静かで。飛行機なんぞよりよっぽど穏やかに着地する。

 

これは文字通りの方舟。

 

やがて人類を星の海に連れて行く星の船。狂信者だけを選別した船では無い。

 

誰にとっても希望となる船だ。まあ既得権益を独占している1%には違うかも知れないが。

 

食事にする。食堂もそれほど混んではいなかった。ギリギリまで寝るつもりのクルーも多いのかも知れない。或いは食事が喉を通らないのだろうか。

 

唯野仁成は淡々と食事を続ける。食事は大変においしい。流石にこんな時はムッチーノも寝ているのか、出て来たのは全自動で作られた料理だったが。それでも材料の正体を考えなければ充分に美味しいものだし、栄養も充分だ。

 

ヒメネスが隣に座る。

 

「おうヒトナリ。 もう起きていたか」

 

「ヒメネスも起きたのか」

 

「ああ。 ……ここの飯は美味かったな。 国際再建機構のレーションは俺がいたどこの軍事組織の飯より美味かったが。 この方舟で出る飯は別格だったぜ」

 

「まだ過去形で語るのは早いぞ」

 

その通りだと苦笑すると、ヒメネスも食事を始める。コーヒーメーカーは食堂にもあるので。コーヒーを淹れた。

 

ゼレーニンが来たので、三人で食事にする。

 

流石にお上品にテーブルマナーを守っているゼレーニン。

 

唯野仁成は崩壊家庭の出だったから、テーブルマナーなんてのはロクに分からなかった。今思うと児相の人間が見かねて色々教えてくれたのだろう。それを妹にも教えて、普通に食事が出来るようになった。

 

面倒なテーブルマナーについて覚えたのは成人してからだ。

 

成人した頃には自衛隊に入ることを決めていた。身体能力が非常に高い事が分かっていたからで、児相でも勧められた。自衛隊で幹部候補の面接をして受かった。後は経済的にも余裕が出来た。

 

以降は給金を妹に送る事が出来。また、妹が学者になるための学費も自力で稼ぐ事が出来た。

 

親は人間失格だったが。

 

そんな輩とは関係無く、唯野仁成はいま此処にいる。

 

そして、血統なんてものが如何にゴミかよく分かる。

 

唯野仁成の両親はどっちも人間のカスだった。今でもその考えに代わりは無い。家族の絆が無条件に生じるなんて話は信じていない。

 

ただ、そんな唯野仁成でも守れるものがある。

 

今までは妹を守ってきたし。妹が独立した後は、もっと多くの人間を守れるようになった、と思う。

 

流石に姫様ほどではないが。

 

あの人いや武神は、今後唯野仁成の目標となるだろう。

 

ストーム1がヒメネスの目標であるように、だ。

 

「そっちの方はどうだ、ゼレーニン」

 

「ハードワークも一段落したわ。 既に地質調査は終わってる。 もしもメムアレフと戦いになっても、何をやっても大丈夫よ。 方舟が擱座することもないわ」

 

「溶岩の池に突っ込んでも大丈夫か?」

 

「その程度、今のこのレインボウノアなら何ともないわ」

 

悪魔の魔術を研究して、様々な防御をレインボウノアは施しているという。

 

溶岩くらいなら、突っ込むと判断したら即座に冷凍してしまう装備も既につけているのだとか。

 

まあ方舟はシュバルツバースに入ってからどんどん強化改造されているのだ。

 

それくらいの強化が施されていてもおかしくは無いだろう。

 

「最後の戦い、交渉は唯野仁成、貴方に任されるらしいわ」

 

「俺か」

 

「高位悪魔に一番気に入られる傾向があったのが貴方だったからよ。 可能性の星とか、可能性の子とか、色々言われていたでしょう」

 

「……分かっている」

 

交渉の内容については、デモニカで補助してくれるそうだ。

 

春香が話した方が良いのではないかと思ったが、流石に戦闘力がない彼女にやらせるわけにはいかないか。

 

それにメムアレフは力がある相手の話しか聞かないだろう。

 

ならば唯野仁成が適任というのも分かる。

 

あと、ゼレーニンも前線に立つらしい。まあガブリエルの守りの力が頼りになるのは事実である。

 

「お前もペ天使と縁切ったんだから、大天使でなくて魔王を使えばいいのにな」

 

「マンセマットにはああ言ったけれど、私は信仰を捨てた訳ではないの。 一神教に対して、少し考え方を変えたけれども。 もしも私が信仰を捨てていたら、きっとガブリエルは私に力を貸してはくれていないわ」

 

「そんなもんなのかねえ」

 

「そんなものよ。 ……ヒメネス、最後に戦いになるとしたら、貴方も他のスペシャル達と同じく頼りにしているわよ」

 

恐らくだが。平行世界の未来では、絶対に出無かっただろう言葉だ。

 

ヒメネスも快く頷く。

 

今の二人は、もう戦友と言っていい。平行世界ではどうあっても殺し合いになった二人は、ようやく和解できたのである。

 

アーサーから通信が入った。

 

「間もなくメムアレフの前に到着します。 戦闘可能なクルーは準備を開始してください」

 

「では、行くか」

 

「ああ」

 

「行きましょう」

 

三人で立ち上がる。もう皆デモニカは身につけているから、いつでも戦いに出られる。

 

物資搬入口では、既にサクナヒメとケンシロウが待っていた。

 

すぐに遅れてライドウ氏とストーム1も来る。更に、一線級の機動班クルーもあらかた集まった。アレックスも来る。今回の事は、絶対に見届けなければならないと考えているから、だろう。

 

既にメムアレフそのものは覚醒しているらしいが、動き出すまでは時間が掛かる。それについては、あの堕天使さいふぁーからの情報だ。

 

ならば、当然方舟が来た事も分かっているだろうし。

 

戦いに来たことも理解しているだろう。

 

向こうから仕掛けてこない理由はたった一つだけ。

 

ケンシロウが指摘したとおり、身を守る必要すらもないほど強いからだ。

 

此処まで来るのに、凄まじい凶悪な敵と散々戦って来た。だが、宇宙卵の利用をしなければ。それらの強敵すらも、メムアレフの前には霞んでしまうだろう。

 

宇宙卵を使って、やっと現実的な話をする事が出来る。

 

交渉のテーブルに座らせる事が出来る。

 

それでもだだをこねるようならぶん殴ってでも交渉のテーブルにつかせる。

 

それくらいの覚悟は必要かも知れない。

 

いずれにしても、今まで遭遇してきた大母とメムアレフは根本的に違う。

 

混沌に傾いた、ということだから。人間の醜悪な心を散々吸収して影響は受けているのだろうが。

 

それでも、そもそも力の元が外から流れ込んできた人間の精神だった今までの空間支配者や大母とは、次元が違う相手だ。

 

元々が異次元に強い上に、恐らく倒した所で何度でも再生する。

 

本当に滅ぼしてしまったら、地球がその時には死ぬ。

 

そういう相手と判断して良い。

 

一線級の戦闘要員が全員集まった。アーサーから、改めて通信がある。

 

「唯野仁成隊員。 貴方にメムアレフとの直接対話はお願いいたします」

 

「分かった」

 

「真田技術長官や自分が最大限のサポートをします。 それでもどうしようもない場合だけ、戦闘を開始してください」

 

物資搬入口が開く。

 

そして、すぐに全員が展開。

 

更に遅れて、装甲車が出る。機動班クルーも、全員が展開を開始。その後ろから、戦闘が出来るクルーは全員が出る。

 

まだ悪魔は召喚しない。

 

メムアレフは、凄まじい寝息を立て、涅槃の姿勢をとったままだが。

 

額の目は開いているし。起きているのは確定だ。

 

起きているにもかかわらず、放ったらかしにしている。

 

圧倒的最強存在の自負があるからである。その自負があるから、つけいる隙が生じるのである。

 

ゆっくりスペシャル達と、ヒメネスとアレックスと一緒にメムアレフへと歩み寄る。

 

警戒はしている。

 

デメテルがどう動くか分からないからだ。

 

あの堕天使さいふぁーも、気が変わって何をしでかすか分からない。あいつもこの深淵の最深部で好き勝手に動けるほどの実力者だ。存在そのものが圧倒的な脅威になりうるのである。

 

故に、周囲には最大限の警戒をして貰う。

 

しばし、歩み寄ると。やがて、ようやくという感じで。少し体勢を崩したメムアレフが、大きなあくびをしながら目を開け、涅槃から体勢を崩していた。

 

アレックスがびくりとした。唯野仁成は、一瞬だけ視線を送る。大丈夫だ。真田さんを信じろ。

 

意図は伝わる。頷いたアレックスは、剣に伸ばしかけていた手を止めていた。

 

同時に、真田さん必殺、「かねてから開発していた」ものが発動する。

 

「メムアレフ弱体化装置、発動!」

 

「発動します!」

 

真田さんの声と同時に、オペレーターをしている艦橋のクルー達が一斉に声を張り上げる。その通信はデモニカごしに届く。

 

装置の動作確認には唯野仁成も立ち会った。

 

結合試験まで完璧に行った。真田さんが作った装置だ。更には防衛システムも完備している。

 

簡単にどうにかなる代物では無い。

 

案の定、瞬時に、とんでもない強烈ななにかが来る。

 

それを受けたメムアレフは、一瞬ぽかんとしたが。頭を抱え、絶叫していた。

 

地面で芋虫のようにうねってもがき苦しむメムアレフ。

 

今まで、このスペシャル達と共に戦っても、とても勝てそうにさえないと感じていたメムアレフが、見る間に弱って行くのが分かった。

 

元々は地球の意思の具現化。

 

意思そのものに力があるわけではない。

 

人間の精神力は、もとの力をブーストアップはするが、せいぜい一割程度である。それと同じだ。

 

地球の強大な意思があるとしても、それを物理的に固めた以上、どうしても限界がある。

 

その物理的限界が、急速に弱まっているのが一目で分かった。

 

周囲を警戒してくれるストーム1。

 

唯野仁成は、無言で歩き出していた。

 

メムアレフは、地面で頭を抑えながら身をよじっていた。側に行くと、他の大母と大差ない巨体とは言え。それでも凄まじい大きさだ。顔だけで唯野仁成よりも遙かに大きい。

 

更に言えば髷を思わせる独特の髪型や、金色の肌。大昔の服を思わせる何だかよく分からない布服といい。何もかもが人型でありながらちぐはぐでもある。

 

メムアレフは苦しみながらも、話しかけてくる。

 

「な、何をした人間……! これは一体……!」

 

「話をするには、力がある程度拮抗していることが必須だ。 そして貴方も分かっているとおり、今なら苦も無く貴方を葬ることが出来る」

 

「脅かしているつもりか!」

 

「いいや、違う。 最初に言ったとおり、話をしにきた。 こうしなければ、貴方は話を聞こうとさえせず、それこそ追い払うように我々を排除しに掛かったからだ」

 

図星を指されたからか、メムアレフが苦しみながら黙り込む。

 

さて、こうしている間にも、メムアレフの力が周辺空間に散っている。それが即座に周辺空間の悪魔を強くしているかは分からないが、時間は有限だ。

 

まずは、軽く話を始める。

 

「まずシュバルツバースと我々が呼んでいるこの土地についてだが……」

 

アレックスに視線を送る。

 

頷いたアレックスは前に出ると、ジョージに頼んで映像を出して貰う。

 

これは事前に打ち合わせておいた事だ。メムアレフが、流石に目を見張る。

 

愕然とするのは当然だろう。メムアレフというか地球そのものにしてみれば、地球を食い荒らす人類を屠るために行った行動だったのである。

 

それが、結局もはや意思すら無い、精神生命体に完全管理された世界になったり。

 

あるいは全てが極限まで殺し合ったり。

 

或いは単なる延命治療が行われるだけの、終末医療的な結末になったり。

 

それらが、メムアレフの望みだとはとても思えない。

 

衝撃を受けた様子のメムアレフ。

 

これほどの、神格をも超えた存在だ。だが、それでも未来までは分からないのだ。しかしながら、実際の未来の映像を見ればそれも違ってくる。

 

今のがトリックでもなく、紛れもない平行世界の未来の出来事であることは、即座に理解したのだろう。

 

「まずはシュバルツバースの拡大を止めて欲しい。 このままでは、双方共に願わぬ結末になる」

 

「……この世界は、そもそもとして、新しき力を持つものが誕生し、地上の理を塗り替えるために出現させたものだ。 お前達人間が乗り込んでくることも分かっていた。 その結果、此処までたどり着けず滅びるならそれはそれでよし。 たどり着けたのなら、その様子を見て、新しい地上を任せるか、或いは法則を変えるつもりでいた」

 

意外に流ちょうに喋るものだ。

 

だが、メムアレフは、大きくため息をついていた。凄い息だ。

 

「この様子では、私がこの結末を知ったところで、これから戦って結果が大して変わることはあるまい。 分かった、提案とやらがあるなら言って見るがよい。 お前達がシュバルツバースと呼ぶこの土地の拡大は今停止させた。 お前達の技術でなら確認は出来よう」

 

「真田さん、どうですか」

 

「今確認中だ。 外の国際再建機構本部と連絡中」

 

五分ほど、待つ。

 

この五分が、恐ろしく長く感じた。

 

だが、それでも、結果はきちんと出る。

 

「よし、シュバルツバースの拡大は一旦停止したのを確認できた。 交渉をそのまま継続してほしい」

 

「……大母メムアレフ。 我々人類は、地球を去る」

 

「ほう」

 

「我々人類が、この地球から搾取の限りを尽くしたのは貴方の指摘通りだ。 さんざん地球から警告を受けたのに、既得権益層を中心に資源を貪り尽くしていたのもまったくの事実だと認める。 だからシュバルツバースが出たのは仕方が無いのかも知れない。 だが、たった数万年前にも、貴方は同じようにシュバルツバースを出現させていたのではないのか」

 

ゆっくり頷くメムアレフ。

 

力が拡散しきったからか、頭痛が治まってきたらしい。

 

此方としても、交渉が出来ない程に相手を痛めつけるつもりはない。話をそのまま続けていく。

 

「人間を滅ぼして、外の環境を一旦白紙化しても、また数万年後に知的生命体が出現するだけだろう。 それでは結局対処療法にしかならない」

 

「……そうかも知れないな。 私は生態系を逸脱する生物が出現する度に、シュバルツバースを出現させて、バランスを取ってきた。 それが生物が存在するこの貴重な星に対する義務だと判断していたからだ。 現在までに二十六度のシュバルツバースによる浄化を行ったが、知的生命体を駆除したのは前回の一度だけ。 確かにお前達の言う事に関しても一理はある」

 

「故に我々は一旦地球を出る。 本来人類が地球を出る事は技術的に不可能だったが、見て欲しい。 貴方の能力なら分かるはずだ。 あの方舟の技術を使えば、それは不可能ではなくなる」

 

「ふむ……」

 

メムアレフが、じっと方舟、レインボウノアを見る。

 

おそらくは、その第三の目で、見通しているのだろう。

 

その凄まじい完成度。

 

とうてい、現在の地球では実現できなかった技術力の産物を、である。

 

しばし見つめた後、メムアレフは体勢を変える。

 

涅槃の姿勢から、胡座を掻く体勢にはいった。服がかなりゆったりしているので、殆ど足は見えない。

 

「確かにあの鉄船は、地球の歴史上類を見ないものだ。 今まで使い走りどもの世界を夢うつつに見て来たから、存在は知っていたが。 側で見ていたわけでは無い。 だがすぐ側で見て理解した。 確かにお前達の言葉には現実的なものがある。 しかし宇宙に出て具体的にどうするつもりだ」

 

「計画はこうだ」

 

真田さんが立案し、春香が説明してくれた計画を立体映像で表示する。

 

メムアレフはそれを見て、しばし無言でいた。

 

10年計画で、一旦の目処がつく。

 

真田さんはその後の計画も立てていた。宇宙への移民と、既得権益の押さえ込みを行い。人間の八割を金星、火星、月、地球の衛星軌道上のコロニーに五十年以内に移し。残りの人間は地球の管理要員として残す。

 

この過程で、キャプチャした彗星や小惑星などから資源を抽出し、地球に還元。

 

また、シュバルツバースで培った極限環境での生活のデータが役に立つ。宇宙に出た人間を「棄民」にはさせない。

 

それに既得権益の抵抗も押さえ込む事が出来る。

 

既存の国際組織では不可能だっただろう。現状の無能な国連など論外だ。しかし現在の国際再建機構なら可能だ。

 

しばし、計画を食い入るように見ていたメムアレフは、幾つか細かい質問を返してくる。

 

かなり知能は高い様子で、質問の内容は非常に専門的だった。要するにこの計画を見て即座に問題点等や用語などを理解した、と言うわけである。

 

伊達に地球の意思ではないのだ。

 

それに人類の思念を散々取り込んで、それらを自分なりに組み立て直しもしたのだろう。

 

更に言えば、人類の前の知的生命体。

 

今となってはどういう生物だったのかさえ分からない者達の思念も、同じように取り込んでいたことはほぼ確定である。

 

難しい事では無いのだろう。それくらいは。

 

「分かった。 現実的な計画だと判断した。 そして此処まで到達し、そして私を此処まで追い詰めたお前達の話を聞く価値はある」

 

「……っ!」

 

アレックスが、側で思わず顔をくしゃくしゃにしたのが分かった。

 

それはそうだろう。果てしない絶望を、ずっと見続けてきたのだ。

 

幼い頃からそう。両親は物心がつく頃にはおらず、育ての親である祖母も惨殺され。そして一点物のデモニカを着て、3年も風呂に入る余裕さえない中で戦い続けてきたのである。

 

「だが、最後に示せ。 お前達の事は信頼出来る。 その鉄船の中に乗っている者達も含めてな。 だが、それでもなお、お前達が示した道は困難の道だ。 その道を達成出来る力が見たい」

 

「まだ戦うというのか」

 

「……いや、私は戦うつもりはない。 私では無いさ戦うのは。 ずっと私が押さえ込んでいた愚か者が、悪巧みをしている。 後顧の憂いを断ち、この世界をまた地球の内に戻すには、それを潰す必要がある」

 

何となく分かった。

 

それは恐らくだが。デメテルか、その主か、或いはその両方だろう。

 

「もはや私に戦意はない。 シュバルツバースとそなたらが呼ぶこの深淵もしばらくは拡大を停止しよう。 そして私が押さえ込んでいるこの更に下層にいる存在……秩序の神の心でも、もっとも利己的で排他的なものを排除できれば、人間ではなくそなた達の事は信じてもかまわぬ」

 

「……どうすればそこへ行ける」

 

「今、入り口を開けよう」

 

丁度見て右側。

 

溶岩の池の真ん中に、黒い穴が開いた。なるほど、あれは恐らくだが、空間をスキップドライブするときに使うような空間の穴というわけだ。

 

これだけ弱体化しても、このような事を即座に出来るとは。

 

流石にこの暗闇の空間の長ではない、というわけだ。

 

「どうします真田技術長官」

 

「……猶予時間はあまりないと判断して良い」

 

「どういうこと、でしょうか」

 

「恐らくだが、メムアレフの力が拡散したことによって、活性化した悪魔達が外に無理矢理出ようとする可能性がある。 海を越えて無理矢理、だ。 万を超える世界に拡散したとは言え、何しろもとのメムアレフの力が桁外れだ。 外で展開している国際再建機構の軍も、各国の軍も、紙くずの様に蹴散らされるだろう」

 

メムアレフはにやにやと笑っている。

 

恐らく、約束を違えるようなことはしまい。

 

ただ、自分に屈辱的なダメージを与えたことで、此奴なりに頭に来ているということなのだろう。

 

そして、その一方で、此方の提案を面白いとも思ったというわけだ。

 

だから試すというわけだ。本当に有言実行できるか、という事を。

 

メムアレフは恐らくだが、その悪さをしている何者かをずっと知っていて、監視していたのだ。

 

最終的には排除してしまうつもりだったのだろう。

 

だが、こういう丁度良い機会が出来た。

 

本当に有言実行が出来るか試すため。丁度良い試金石にしようというわけだ。したたかな話である。

 

「分かったメムアレフ。 条件を呑もう」

 

「私を信じて良いのか」

 

「ああかまわない。 なぜなら」

 

真田技術長官は、もう一つ手を打っていたから、である。

 

宇宙卵から抽出出来る力は、それこそ地球の内部エネルギーと同等。これは恐らくだが、長年を掛けて地球が蓄えていたものなのだろう。

 

だったら、その力を一点収束させればどうなるか。

 

文字通りのガンマ線バーストとなって、メムアレフを直撃する事になる。

 

戦闘時には、いの一番にこれを浴びせるつもりだった。

 

だが、今回は、一旦眠らせるためだ。数時間はメムアレフを眠らせることが出来る。

 

メムアレフは、ガンマ線バーストの直撃を受けて、ぐうっと悲鳴を上げると。そのまま、後ろにひっくり返った。

 

数時間は動けないだろう、と言う事だ。

 

この状態でも、簡単に殺しきる事は出来ない。そう判断していたという事だから。とんでもない存在だが。

 

いずれにしても、これでメムアレフが此方が「悪さをしている奴」を退治しに行っている間に、約束を違えて好き勝手をすることは出来ない。

 

銃を突きつけながら交渉するような形になったが。交渉そのものは誠実に行った。地球に対しても利がある話をした。だから、気に病む必要はない。

 

シュバルツバースが再度出現しないようにするためにも、双方納得する結論をだす必要があったのだ。

 

すぐに方舟に戻る。時間は限られている。

 

何がいるかは知らないが、どうせデメテルも噛んでいるのだろう。丁度良い。真意次第では叩き潰す。

 

最後の戦いは回避できた。どうせまともにメムアレフとやりあったら、此処にいるスペシャル達でも無事では済まなかったのだ。これでいい。

 

方舟に戻ると、既に真田さんが、空間の穴への調査を終えてくれていた。

 

「よし、突入はなんら問題がない。 その先は、姫様が指摘していた、ホロロジウムの更に下……謎の空間だ」

 

「真田よ、質問がある」

 

「何でしょうか姫様」

 

「メムアレフの力が拡散した今、その下にいる奴の力も増しているのではないのか」

 

当然の疑念だ。

 

真田さんは、その通りだと、当たり前のように肯定した。

 

「ですが、恐らくあの弱体化したメムアレフよりも更に力は落ちるでしょう。 必ず勝利できると信じています」

 

「ふ、そうか。 まあいい。 何を封じているかは分からぬが、わしと、ストーム1と、ケンシロウと、ライドウ。 それに唯野仁成、ヒメネス、アレックス。 それに機動班の戦士達。 名将ゴア。 みなが前線に立つ。 後方には正太郎も真田も春香もゼレーニンもいる。 それにこの神秘の方舟もある。 必ず勝てる」

 

おおと、声が上がる。

 

サクナヒメの不敵なまでの勝利宣言が、クルーの士気を上げたのが唯野仁成には目に見えて分かった。

 

士気だけでは戦いには勝てない。だが、真田さんの試算では、仮にメムアレフの力が最悪の効率で流れ込んだとしても、封じられし存在のパワーアップは一割程度だろうという事だった。

 

ならば、怖れる事はない。

 

スキップドライブ開始。

 

恐らく、これが。正真正銘最後の世界への、スキップドライブだ。

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